第14話 新たな出会いと事実<後編>
この回で、シフトが失った記憶の一部を思い出します。
そして、物語が進むと、彼の本当の年齢(今の段階では16歳)もわかります!
ちなみに、現段階での最年長はソエル(23歳)です。
「シフト!!!」
ミヤが連れて行かれたシフトを追おうとした時、いきなり魔物に乗った女が彼女の目の前に立ち塞がった。
「あなた、船にいた・・・!!!」
現れた人物が誰かわかったミヤが叫ぶ。
そいつらが現れたのとほぼ同時に、魔物が何匹かフロアの奥から現れる。
「…君が、シオンという魔物使いか?」
俺がそう尋ねると、シオンは言った。
「あの銀髪の少年、サハエル様が預かっている。あの方の用事が済むまで、少年は返さない。そして、先には行かせない」
その口調は、どこかたどたどしい。
ネガティブ思考な女の子か、もしくは慣れない国の言葉を使った訛りのようなかんじが見てとれる。
「こっちはあんたみたいなガキの遊びに付き合ってる暇はないの!」
「あなたを倒して、シフトの所へ案内してもらいます!」
そう言い放ったソエルとミヤは、銃と刀を構えた。
※
掴まれた所が少し痛いな・・・
突然、鷲のような魔物に捕らえられて、今いる場所まで飛んできた。魔物の餌になるのかと思いきや、船でぶつかった不気味なお姉さんが現れる。
「あなた、人間じゃないわよね?・・・少し調べさせてもらうわよ」
意識が朦朧としていた僕は、腕を縛られ拘束されているのも気がつかず、機械みたいなモノの上に乗せられていた。
すると、僕の周囲が光りだす。機械の上というより、魔法陣のど真ん中にいるような感覚がする。
「あんたは一体・・・僕に何を・・・?」
「・・・私、キメラとか魔法生物の研究をするのが好きな魔術師なんだけどー…。それで、貴方のその身体に宿っている魂を肉体から引き剥がしてみようかと思ってるの!・・・最初あなたを見たとき、“これは解剖しなきゃ♪”って研究者精神にすごい駆られたのよねぇ~!」
サハエルは笑顔で言ったが、その笑みには狂気が宿っていた。
人間としての何かが欠落しているのだろう。
それより、僕が人間じゃないって・・・どういう事?
しかし、当の僕はそんなサハエルの人柄なんて考える余裕はなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」
全身に電撃のようなものが走る。
まるで、心臓を抉られているような感覚のようで、相当痛い。
「あまり、余計な抵抗をするともっと痛い思いをすることになるわよ・・・?」
女魔術師による苛立ちの声が響く。
冗談じゃない。あんたのせいでこんな目に遭ってるのに・・・!!
僕は強い憤りを感じていたが、腕を縛られているため反撃ができない。そのため、拳を強く握り締めて怒りと痛みを耐えるしかなかった。
「さあ、早くその正体をこの私に見せなさい!」
電撃のようなモノは更に強くなり、僕はその痛みに苦しむ。
その中で、脳裏には走馬灯のようなものが流れる。どこだかわからない場所で、何か作業をしていたり、見ず知らずなおじさん達と会話しているのがわかる。いろんな人々が視界に飛び込む中、僕は黒髪の女性と手をつなぎあっている。
これは・・・記憶の断片・・・?
恐ろしい早さで駆け抜ける走馬灯に失われた記憶かと考えた途端、激しい頭痛が起きる。
「痛っ!!!」
しかめっ面をしながら、痛みに耐える。
一方、同時に走馬灯のような幻は穏やかな光景から一変する。誰かに追いかけられている僕は、誰かと二人で逃げている所を映していた。
これは…さっき手をつないでいた女の人・・・?
その後、建物の屋上らしき場所に追い詰められていく。
・・・僕達は・・・!!!!
※
「ギャァッッ!!!」
私が斬った魔物の叫び声がフロア中に響く。
「ああ・・・あああっ!」
自分が従えていた魔物達が私達に倒されていったせいか、シオンという女の声が悲痛な声音となってきている。
「よくも・・・よくもシオンの友達を!!!」
この前戦ったブラックロンドウルフをこちらに差し向けてきたが、僅か2秒足らずで斬り捨てる。
あの女は魔物使い・・・。ということは、もしかして・・・!
「ミヤ、危ない!!」
セキの叫び声が前から聞こえた。
私は考え事をしていたせいで、魔物に背後を取られたことに気がついていなかったのである。また、刀を下ろしていたので、動き出しが遅かった。
殺られる…!!
そう思った刹那―――――――――
「ギャァァァァァァァァッ!!!!!」
炎の音がしたかと思うと、その魔物はあっという間に燃えて灰と化す。
すると、背後から聞き覚えのある声が響く。
「君もなかなかやるけど、油断は禁物だよ?」
声の主は、ランサーだった。
「ありがとう!・・・気をつけるわ」
彼に礼を告げた私は、シオンに向かって走り出す。
「こ、来ないでっ!!!」
シオンは自分が乗っている魔物を使って私に襲い掛かってきた。
しかし、私の目的は魔物を倒すことではなく、魔物からシオンを引き離すことだった。私の左腕で彼女の顎をわしづかみし、登ってきた勢いと降りてきた勢いを利用して、魔物からシオンを引き剥がしたのである。
普段はあまりやらない行動だったため、彼女を抱えて着地した時、少しだけ足が痛かった。立ち上がった直後、すぐさまシオンに刀を向ける。
「私達の勝ちよ。・・・さぁ、シフトの居場所をはいてもらうわ」
「まだシオンは負けてないもん!だって、シオンのアグレイシヤちゃんが・・・」
その先を言いかけた直後、2発の銃声が響く。
どうやら、ソエルがアグレイシヤとかいう魔物を倒したようだ。
「あなたが言っていた魔物を倒されたみたいね・・・。これ以上、友達を死なせたくないなら、おとなしく言いなさい」
そう言ったにも関わらず、口を開こうとしない。
仕方ない。少し圧力をかけるか・・・
軽くため息をついた私は、声を小さく低くして、シオンに囁く。
「貴女、“混ざり物”よね?」
その台詞に対し、シオンは身体を震わせる。
「魔物使いというのは、大半は魔物と会話できる能力のある人がなっているのよ。そして、その能力は“混ざり物”・・・いえ、人間と魔族の間に産まれた混血児特有の能力なのよね」
彼女の動揺をよそに、私は小声で話し続ける。
「混ざり物は・・・人間と魔族の間に生まれたということで、ひどい迫害を受けてきた。・・・もし、このまま沈黙を守り続けるのなら、あなたが“混ざり物”だという事実…。主人を含めて、いろんな人に話しちゃうわよ・・・?」
こう言ってどう出るかを待った。
・・・本当はこの脅し文句は使いたくなかった。彼女みたいな存在が迫害を受けてたのは本当だし・・・何より、私もこの子と同じ”混ざり物”だから・・・
「あの少年は・・・ここから3階上の一室で、魔法機械にかけられている・・・」
やっと、彼女の口からシフトの居場所を聞き出すことができた。
やはり、混血児の言葉が効いたのか・・・
自分の胸に抱く複雑な感情を押し殺すかのように、私は皆の方に振り向いた。
「シフトは、ここから3階上の部屋にいるって!!!」
「よし、急ごう!!!」
セキの台詞と同時に、私達は階段を登り始めた。
走っている途中、上の方で爆発のような音がしたかと思うと、そのフロアの一部が燃え始めた。
「ちょっ・・・何なの、あれ?!!」
「あの部屋か!!なんで、燃えているんだ!?」
セキとソエルが驚いてる側で、私は火で何かが燃える匂いと同時に―――――人ならざる者の巨大な気を感じた。
魔物でも吸血鬼でもない、この感覚・・・一体!?
この時に私は気がついていなかったが、自分の隣で、ランサーがものすごい険しい表情をしながら走っていたのである。
※
俺達は閉まりきっていた扉をなんとか開けると、そこは火の海になっていた。
「シフトー!!!どこだーーー!?」
大声で叫びながら、辺りを見回す。
すると、炎の中心にシフトがいた。
「なっ…!?」
しかし、その姿を見て俺は愕然とした。
表情はうずくまっているから見えなかったが、あいつの背中には紅い翼のようなものが生えていた。しかも、片翼だけ――――――――――――
「シフト!!!怖がる必要はないんだ・・・落ち着くんだ!!!」
俺の隣でランサーが叫ぶ。
・・・あの歯の浮いたような台詞を言う奴じゃない・・・全然別人のような表情をしている。こいつは一体・・・・?
俺は魔術師が放った台詞に疑問を感じていた。
「シフトーっ!!!」
ソエルが呼びかけた途端、シフトがわずかに反応した。
「あんた…そのままそこにいたら、死んじゃうわよ!!?」
「消え…た…?」
ミヤの呟きで、俺は我に返る。
ソエルの言葉に反応したのか――――――燃え盛る炎は、あっという間に消えた。消える直後、一瞬だけだったがシフトの目から涙のようなものが見えた。しかし、その場ですぐ気を失ってしまったのである。
「シフト!!!!」
俺達4人はシフトの下にかけつける。
その時、あいつの背中にあった紅い翼は消えていた。
「どうやら・・・気を失っているだけのようね」
シフトに触れたミヤがそう告げる。
「一体、ここで何があったんだろう?」
ソエルは起きた出来事に対して全く不可解だったのか、放心しているような声音で呟いた。
「そういえば、あの女は・・・?」
辺りを見回した俺は、シフトのすぐ側に大ある量の灰を見つけた。
この散りばめられている形・・・もしや・・・!?
灰の散らばり具合が不自然に感じた俺は、一瞬悪寒を感じる。
「アホなことやらかした報いさ・・・」
ランサーが深刻そうな表情をして低い声で呟く。
「・・・その死者に鞭打つような言い方は、よくないんじゃないか?…それとも、あんたはここで何が起きたのか知ってるとでもいうのかよ?」
ランサーの言い方に少し憤りを感じた俺は、そいつに言い返した。
「知っている」
「っ…!?」
あまりの即答に、俺達3人は目を丸くして驚いた。
「ということは・・・あなたは、シフトが何者かっていう事も知っているの?」
ミヤがランサーに問いただす。
「ああ・・・。結論から先に言うと、こいつはただの人間じゃないし、こいつの身体はまがいものだってことだ。ただ・・・ここから先は本人の口から聞いた方がいいと思う。だから・・・余計なことは言わないことにするわ・・・」
ランサーの答えに俺は動揺を隠せなかった。
ランサーはどこまで知っているのだろうか・・・?
俺は不思議で仕方が無かった。
シフトを救出した俺達は、エレベーターを乗り継ぎしながら、最上階へ向かう。
「一つ・・・お前らに謝っておきたいのは、俺が無理やり加わったのは遺跡調査が目的なんかじゃなく、船で・・・シフトを初めて見たとき、俺が探していた存在である事。そして、サハエルが魔法生物と勘違いして、こいつを狙っていたのを知ったからなんだ」
「・・・じゃあ・・・あんたは、シフトが攫われる事もわかっていたというの!!?」
ソエルがランサーに対して食って掛かる。
「ソエル、落ち着いて!!」
そんな彼女をミヤが止めに入った。
「その可能性も少し・・・考えていた。でも、この塔に魔法機械・・・生物の機能を分析し、あるがままの姿に戻すことのできる機械がある事だけは知らなかった。これは、嘘偽りのない、本当の事だぜ」
気を失っているシフトを見つめながら、ランサーは語る。
その憂いを秘めた瞳を見ているかぎり、まんざら嘘でもなさそうだ。
無事に最上階へ到着し、俺達の目の前には空中庭園の花が広がっていた。いろんな色の花がいっぱい咲き乱れてすごく綺麗だった。
・・・女の子はこういうのが好きなのかな?
花を見下ろしながら、一瞬思った。
「あ、あった!ココナットの花!!」
目的の物を見つけたソエルは、その花が咲いてる場所に駆け寄った。
シフトをおぶった俺は、そこまで近くへ寄れなかったけど、遠目から見下ろしていた。ココナットの花は全体が花びらが白く、時々淡いピンク色に光る。確かに、見たこともない珍しい花だった。
「・・・ここは・・・?」
どうやら、シフトが目覚めたようだ。
俺はシフトをゆっくりと下ろしてから口を開いた。
「ここは、空中庭園だ。・・・目的の花も見つかったぞ」
そして、シフトは立ち上がり、辺りを見回す。
「シフト、気分はどうだ?」
俺らの後ろで突ったっていたランサーが、言う。
「うん・・・大丈夫・・・」
声が弱っているように聞こえたが、見たところ外傷はないので、命に別状はなさそうだ。
「穏やかな風・・・あの時、あの女性といた時みたいだなぁ・・・」
シフトがポツリと呟く。
「もしかして、シフト・・・記憶が戻ったの?」
シフトの側で恐る恐るミヤが訊く。
「一部だけだけど・・・。やっぱり、僕は人間じゃないみたいなんだ・・・」
「やっぱりな・・・」
それを聞いたランサーが、腕を組みながら考え事をし始める。
「信じられない話かもしれないけど・・・。僕はソエルの一族よりも古い、俗に言う“古代人”だったんだ。名前は思い出せないけど・・・ある人と一緒に死んでしまったことをきっかけに、召喚獣になったみたい・・・」
「召喚獣!!?」
ソエルがものすごい表情で驚いていた。
「それじゃあ、あの紅い翼って・・・」
「数ある召喚獣の内、紅の翼を持っている者・・・それは・・・“不死鳥フェニックス”」
シフトの台詞に、ランサーが補足した。
「フェニックスって・・・確か、赤き炎の力と、死者を蘇らせる・・・治癒の力を持っているって聞いたことがある。・・・けど、後者の方は?シフトを見る限り、炎の方しか使えないように見えるけど・・・」
「俺もその辺が疑問だったんだ。・・・おそらく、翼が片方しかないのに関係あるのかもしれないが・・・」
ミヤの問いに対して、流石にランサーも答えられないようだ。
そして、目的を達成した俺達は、インナショドナル塔を降りて行くのであった。
いかがでしたか?
ちなみに、この「インナショドナル塔」の語源は「インターナショナル」からきています★
初めて会った段階で、シフトが何者かすぐに気がついていたランサー。
次回はそのランサーが何者かについて触れていきます。
また、引き続きご意見・ご感想もお待ちしております♪