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紅の鳳凰  作者: 皆麻 兎
第四章 人と吸血鬼の共存
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第12話 闇に生きる一族<後編>

吸血鬼作品っていろいろありますが、今回参考にさせてい戴いたのが映画『クイーン・オブ・ヴァンパイア』ですね(^^

 頭がだるいが、そんなことを気にしている暇はなかった。寝室の扉を開けると、視線の先に背の高い男がいる。男は、左腕で何かを抱えている。人の腕みたいなモノが見えた途端、それがソエルだという事に気がついた。

「あなたは、何者?ソエルを・・・どうするつもり!?」

私の声を聞いたその男は、こちらの方へ振り向く。

振り向いたとたん、すぐに男へ向かって刀を向けた。その身体からは、微かに血の匂いを感じた。

やはり、こいつ・・・

予感はしていたが、この時感じた血の匂いで、目の前にいる人物が何者かを悟る。

「”闇に生きる者”・・・と言えば、わかるかな?」

男の口が開いた。

その直後、何だか空気が変わった気がした。男は数秒程、その場から全く動かず、何もしてこなかった。何がしたいのと不思議に思えたくらいだ。

「くっ・・・!?」

その後、動きだしたと思ったが、男は一瞬で私の目の前に近づいていた。

瞬く間に刀を握った私の左手首を掴んでいたのである。

「痛っ・・・!!離してよ・・・!!!」

腕を振りほどこうとするが、男は力を緩めようともしない。

なんていう力・・・振り切れ…ない!!

「へぇ・・・」

男は私の顔に自分の顔を近づけて見つめていた。

当然、何を考えてこんなことをしているのかはわからない。相当強い力で締め付けられていたので、気がつくと、刀が地面に落ちていた。

まずい、これじゃあ抵抗ができない…!!

そして男が顔を近づけるのをやめると、再び口を開く。

「成程、あんたは目が見えないんだな・・・。だから、この俺の紅い瞳を見ても何も感じなかったわけだ。・・・持っている刀も魔刀みたいだし…本当にあんた、人間なのか?」

その言葉に、私は心臓がえぐられたような感覚がした。

吸血鬼は私たちも知らない未知の能力を持っている奴もいると聞いたことがある。・・・だとすれば、私がただの人間じゃないって事に気がついている・・・!?

自分の表情を鏡で見たことはないが…おそらく、今の私はすごい動揺した表情(かお)をしているだろう。

その後、男は私の左腕を離した。すると、馬鹿力のせいか、私の身体は壁に吹っ飛んで激突した。私は地面に崩れ落ちる。

「う…」

壁に寄りかかるような形で崩れ落ちた私の耳に、こちらへ近づいてくる足音が響く。

自分の視界に、男の靴が見えたくらいに、ソエルを抱えなおすような仕草を見せた。

「・・・いつもだったら、たっぷり可愛がってから喰うだろうけど・・・今日は貴重な女を手に入れたから、見逃してやるぜ・・・」

壁に激突した時に頭をぶつけたためか、次第に私の意識が遠のいてくる。

「ああ、そうだ。それと、タルテ・・・あの野郎に会ったら“カルマ族の女を返してほしいなら、俺・・・オルトのアジトに来い”って伝えてもらおうか・・・」

そう私に告げたオルトという男は、闇に紛れて消えて行った。

開けっ放しの窓から、冷たい風が吹いてくる。頭をぶつけた時の衝撃と、熱で身体が熱くなっていることも上乗せされたことで、私はその場で気を失ってしまうのであった。



 シフトと一緒に買出しから戻り、俺たちが泊っている部屋の前に来た時・・、妙に静かだった。

「2人とも、寝ているのかなぁ?」

「さぁ・・・」

そう言いながら俺たちは部屋の扉を開ける。

部屋の中が少し寒かった事から、窓が開けっ放しである事に気がつく。そして、辺りを見回すと壁際に誰かが倒れている人影を見つけた。寝巻き姿と、近くに刀が落ちていた事で、ミヤであると気がつくのにそう時間はかからなかった。

「ミヤ・・・おい、ミヤ!!!どうしたんだ!?」

「ねぇ・・・、ソエルがいないよ!?」

シフトがそう言ったのとほぼ同時に、ミヤが目を覚ます。

「セ・・・キ・・・?」

「ああ、俺だよ・・・セキだ!・・・ミヤ、大丈夫か!?」

ミヤがつらそうな声音で言った。

「ソエル・・・!!!」

すると、何かに気がついたかのように瞬時に起き上がって叫ぶ。

しかし、貧血のせいなのか…その場でふらついてしまった。


「一体・・・俺たちがいない間に、何があったんだ・・・?」

とりあえず、彼女が眠っていたベッドまで連れて行き、話を聞こうとした。すると、部屋の外から足音が聞こえてくる。その音がかなり近くまで響いてきたと思った瞬間、扉をたたく音と一緒に聞きなれない声が響いてくる。

「すみません!ここ、ソエルさんが宿泊している部屋で間違いないですか??」

その少しハスキーな声が聞に対してシフトが答える。

「はい、そうですけど・・・君は?」

「僕、タルテって言うこの街の者で・・・ソエルさんとは、この街で仲良くなったんです!!・・・今日は、なんだか嫌な予感がして来てみたんですが・・・!」

「・・・タルテ・・・!?」

その名前を聞いたミヤが強い反応を示した。

「セキ・・・その人をここに連れてきてくれない?」

「え・・・?ああ、わかった!」

 

その後、タルテという肌が色白だけど、黒髪の美形な男が中に入ってきた。あまりに綺麗な顔立ちなので、男の俺でも嫉妬してしまいそうなくらいだ。

「あなたが・・・タルテって“人”ね」

ミヤはこの台詞(ことば)を皮切りに、俺とシフトがいない間に起きた出来事をそいつに向かって話し始めた。

オルトという吸血鬼がソエルを攫っていった事、返してほしければタルテを自分の所に来いと言っていたこと等、俺はあまりに唐突な話で呆気に取られていた。それに対してタルテは、自分も吸血鬼だということ。そして、自分が助けたことでソエルと仲良しになり、それが原因でオルトに目をつけられたことを話してくれた。一連の話を聞き終えた後、シフトがタルテに訊く。

「でも、どうしてそのタルテって奴はソエルがカルマ族ってわかったんだろう?それに、“貴重な女”ってのも引っかかるし・・・」

それに対してタルテの回答は―――――――

「人間でも時々、“気を感じる”能力を持っている者もいると思う。・・・吸血鬼は、誰もがその力を持っているから、彼女の種族がわかったんだ。それと、“貴重な女”というのは・・・」

一瞬、言葉を濁す。

「というのは・・・何?」

言葉の真意が気になった俺は、そうやって問いただす。

すると、彼は気まずそうな表情で話し始めた。

「それは・・・僕たち吸血鬼の基準で、カルマ族の女性の血が一番美味しい・・・と、されているからなんだ」

「なっ…!!?」

俺たち3人は目を見張った。

「それじゃあ、一刻も早くソエルを助けなきゃ・・・!」

そう言って起き上がろうとするミヤは、肩に触れた途端、熱による熱さを感じた。

まだ身体が熱い一緒に連れて行くのは危険だ。だからといって、ミヤを一人で残しておくわけにもいかないし・・・

「シフト!!!」

「な、何?」

「ミヤを頼む!!ソエルは・・・俺とこいつで助けに行く!!!」


タルテはあっちの要求通り、連れて行かなくてはいけないので、はずすわけにはいかない。シフトをミヤの側に残した俺たちは、オルトのアジトがある廃屋へ向かって走り出した。

「本当に・・・すみません。僕のせいで、彼女をまきこんでしまった・・・」

「本当だよ!!あんたがソエルと仲良くするのは別にいいと思うけど、自分の厄介事に彼女を巻き込むなんて・・・。お前ら吸血鬼は人間(おれら)よりも頭も冴えているはずなんだから、その辺配慮しろよ!!!」

「・・・すみません」

一方的に責めてしまったが、俺にも責任がないわけではない。

だから、今回はこの男がソエルに謝罪をして彼女がそれで許してくれるのなら、それで良しとしてやるかと考えていた。

「ところで、あんたを戦力の一人として考えてもいいんだよな?」

タルテは真剣な表情で言う。

「僕も力とスピードには自信あります!だから・・・オルトは僕に任せてください!」

今現在、俺としては全力疾走をしているつもりだがだが、この男は息切れや疲労を感じた表情(かお)すらしていない。「吸血鬼のスピード」なんて見たことないからわからないが、「やっぱり、親玉を相手にするのは同族が一番」という考えが頭をよぎる。そして、最後の質問として、少し緊張感を漂わせながら、恐る恐る訊いた。

「あのさぁ・・・もし、他の連中が俺に襲い掛かってきてそれを殺してしまった時・・・どうなっちゃうんだ?」

奴らは人間じゃないから、剣を向けることに対しては全くためらっていない・・・が、タルテを見てわかるように、見た目は俺達人間と変わりはない・・・。殺してしまっていいものなんだろうか?

「・・・大丈夫です!この街の住人は僕らを倒すと捕まりますが・・・旅人の場合、状況にもよりますが、大半は正当防衛として認められてますよ。」

そうなんだ・・・と、思った。

「・・・あなたは、優しい人なんですね・・・。」

「べ、別にそんなんじゃねぇよ!!」

俺は顔を少し赤らめながら、あいつのアジトに向かって走って行った。



 身体が重い・・・。私は一体、どうなったの?あの後、ミヤに水を飲ませてあげようとコップに注いでいたら背後に誰かいたような気がして…。そしたら、周りが真っ暗になって・・・?

心の中で呟きながら、私は目を覚ました。

ここは一体、どこなのか。部屋全体が薄暗いため、自分がいた宿屋ではない事がわかる。そして、身体と密着している物の感触から、どうやらこの部屋のベッドで寝かされているようだ。

「やっと目が覚めたか」

気がつくと、私の目の前に背の高い男がいた。

髪は黒くて地味な印象だが、その瞳が金色で異様に輝いている。その光景はまるで、獲物を見つけた肉食動物みたいな表情だったので、全身に鳥肌が立った。

しかも・・・口の中から、微かに犬歯が見え隠れしている。・・・まさか、新手の吸血鬼?

「・・・ここはどこ!?っていうか、あんた誰!?」

私が声を張り上げると、男はものすごく低い声で己の正体を告げる。

「俺様はオルトっていう・・・吸血鬼だ」

「あ、そう。やっぱりね。・・・それで、ここはどこ?」

瞬時に切り替えしてきた私に対して瞳を数回瞬きしたかと思うと、突然笑い出した。

「ハッハッハ!!!吸血鬼だって聞いて怖がらないとは、肝が座っているじゃねぇか!・・・流石、タルテの野郎が目をつけた女だけあるぜ!!」

「・・・タルテを知っているの!?」

そう言った直後、オルトとかいうこの男は私の側に座り、少し苛立ったような声で言う。

「ああ、嫌なくらいな・・・。あの野郎、吸血鬼のくせに「人間と上手く共存していきたい」とかほざく、腑抜け野郎さ」

今の台詞(ことば)を聞いて憤りを感じた私は、声を張り上げる。

「共存の何がいけないのよ!!?」

「…俺達吸血鬼にしてみれば、お前ら人間はただの餌だ。餌と一緒に生きるなんて、馬鹿らしいし、虫唾が走るということさ」

「まるで、自分たちが至高の存在だって言っているみたい。・・・すごい傲慢だよね、あんた」

「・・・口数が減らない女だ。そんなことより、自分の状況をまるで理解していないみたいだな・・・?」

「きゃっ!?」

口を動かしながらオルトは、私をベッドの上に押し倒す。

そして、私の上に覆いかぶさり、見下ろしながら言葉を紡ぐ。

「知ってるか?お前らカルマ族の血が、人間の中でも格別に美味いってことを…」

「え・・・!?」

何の話をし始めたのかと思った瞬間、こいつの瞳が真っ赤に染まっていた。

「!!!」

同じ紅い瞳だが、私を襲おうとした奴らやタルテとはどこか異なる。気がつくと、私の身体が硬直して動かなくなっている上に、声も出ない。

「ふん。この俺様の瞳を見て、自らすり寄ってくるのではなく、身体を硬直させるなんてな・・・。つくづく、変わった女だよ・・・」

そうつぶやいたオルトはゆっくりと身を倒し、自分の唇を私の首筋に近づける。

こいつを張り倒して逃げたいのに・・・身体が動かない!!

この男の舌が私に触れた時―――――――-死を覚悟した。


 この時の私は、魂が抜けたような表情をしていたのかもしれない。そして、ひたすら怖いとしか感じられなかったのだろう。牙で皮膚を食いちぎられ、がっつくように私の血を貪るオルト。相当痛いはずだが、恐怖の余り、痛みすら感じていなかったのだろう。

私は・・・ここで死んでしまうのかな?

遠のいていく意識の中で、私はそんな事を思っていた。

「ソエル!!!!」

すると、聞き慣れた声が響く。

その声に気がついたオルトは顔を上げ、辺りを見回す。扉が開き、一人の人物が入ってくる。それは、あちこちにかすり傷ができていたタルテだった。

「よう、タルテ・・・。人が食事中だというのに、何の用だ?」

この男の台詞を聞いた時、タルテは私の方に顔を向けた。

状況を理解した彼は、その表情が次第に青ざめていく。

「ソエルを・・・喰ったのか・・・?」

ボソッとつぶやいた。

「だから、”食事中”と言っただろう?それに・・・なかなか美味いぜ、この女・・・」

口についた血を拭きながら、オルトは不気味な笑みを浮かべる。

すると、白銀だった彼の瞳が一瞬の内に紅の瞳となり、その目には殺気が宿り始めていた。いつもは笑顔なタルテが、あんな顔をするなんて・・・!

オルトに血を吸われたおかげで貧血ぎみになってはいたが、動かない体勢から見てもの時のタルテに一瞬、恐怖を感じた。



 オルトって野郎のアジトは町外れの場所にある、寂れたお屋敷だった。見た目通りに中が広く、しかも奴の手下の吸血鬼が襲い掛かってきた上にその数も結構いたため、戦わざるをえなかった。奴らは素早く、何度か切り刻まれそうになったが・・・タルテもいたおかげで、何とか倒すことができた。というよりも、ほとんどあいつが倒した訳だが―――――

やはり、自分で「自信がある」と言っていたのは伊達じゃないと思った。あいつの爪で引き裂かれ、首を跳ね飛ばされた奴らは灰となって崩れ落ちた。

「吸血鬼は死んだら灰になる」って伝説は本当だったんだ・・・

俺は、吸血鬼に纏わる伝説を目の当たりにしたのだった。その後、何かに感づいたのか、タルテが最初走っていた以上のスピードで走り出す。

「おい、待てよ!!!」

そう言い放って引きとめようとしたが、自分に構う事なく先に行ってしまった。

 

やっとの思いで親玉であるオルトの部屋にたどり着くことができたが―――――その時、俺は目を見張った。その場には2人の吸血鬼が、残像が映るか否かぐらいの高速。否、光速ともいえるスピードでぶつかり合っていた。

一体、何が起こっている・・・?

今の現状に戸惑う俺が辺りを見回すと、・部屋の隅にあるベッドにソエルがいた。

「ソエル…!!!」

「セ…キ・・・?・・・そっか、あなたも来てくれたのね・・・」

ベッドに横たわっていたソエルは弱弱しい声で言う。

その首筋には、ソエルの血と何かに噛まれたような痕がある。

「・・・まさか・・・奴に噛まれたのか!?」

「うん・・・。それより・・・それよりも、タルテを止めて・・・!」

彼女の服には、大量の血痕があった。

これだけ出血するくらい思いっきり吸われたというのに、ソエルは自分よりタルテの心配をしている。

なんでそこまで・・・?

知り合ってそんなに日にちが経っていないにも関わらず、そんな相手の身を案じるのが不思議でたまらなかった。

「どうして君は・・・人間をそんな風にしか見れないんだ!?」

2人の攻防が止まったかと思うと、全身傷だらけなタルテが言う。

「は!てめぇこそ、この女がカルマ族だってわかっていてつるんでいたんじゃねぇのか?あぁ!?」

オルトの右腕が思いっきり振り下ろされたかと思うと、2人は腕を合わせ、取っ組み合い状態になった。

「確かに…ソエルがカルマ族だってことは、初めて会った時から気がついていたさ・・・!けど・・・!!」

今まで息を上げていなかったタルテがゼーゼー言いながら続ける。

「僕は“人間と共存するのが一番良い”・・・という“あの人”の言葉を信じて、仲良くなってみようと思った!そして・・・彼女は、僕が吸血鬼だとわかった上で仲良くなってくれたんだ!!!・・・それ以外に理由はない!!!」

その直後、タルテのわき腹にオルトの蹴りが入る。

一瞬の内に、あいつは壁に吹き飛ばされた。

これは、やばいのでは・・・!?

戦いを間近で見ていた俺は、タルテが不利になっている事に気がつく。

「おい、お前!!!そこでタルテを殺すのなら、俺たちが通報するぞ!!!」

俺は。思わずハッタリをかました。

・・・まずは、奴をタルテから引き離さねば・・・!

そんな事を考えながら、どうやってソエルを逃がそうかと俺は頭を巡らせる。すると、こちらに気がついた敵が口を開く。

「ふん。邪魔な鼠がもう1匹いたか・・・。だがな、小僧。俺はこの街にいる吸血鬼の中で1位2位を争うくらいの実力者だ。人間の役人なんざ、ちょっと脅せばどうにでもなるぜ?」

いかにも、俺達人間を馬鹿にしているような表情(かお)をしていた。

その台詞に憤りを感じた途端、激しい痛みや音と共に、俺の身体が地面に叩きつけられた。

「痛ってぇ・・・」

顔を上げて、起き上がろうとするが、身体が石のように思い。

「くそ!てめぇ、何しやがった!?」

鋭い眼差しで奴を睨みつけると、オルトは血のように赤い眼で言う。

「鼠は少し黙ってな!!」

オルトは少し苛立ちを見せながら、俺に向かって言い放つ。

どうやら、奴の眼力で動けなくなったようだ。そしてオルトは、地面に膝をついているタルテの方に向き直る。

「いつも邪魔だと思っていたが・・・良い機会だ。・・・てめぇを血祭りにしてやるぜぇ!!!」

「タルテ…っ!!」

俺は思わずあいつの名を呼ぶ。

やばい、タルテがやられたら、俺一人でソエルを連れて逃げられねぇ!!!

そう思った瞬間だった。

突如、銃声が部屋中に響く。この銃声はもしや――――――――――

俺のすぐ隣で、少しよろけたソエルがオルトに向かって発砲していた。すると、俺に圧し掛かっていた重力みたいなものが抜けて、起き上がれるようになったのである。

「このアマ・・・!銃を持って・・・いやがった…か!!!」

そう告げるオルトの表情は苦悶に満ちていた。

ソエルが放った弾は、2発とも心臓付近に命中している。オルトはその場に崩れ落ちたかと思うと、灰になって消えてしまった。

「倒したのか・・・?」

呆気に取られていた俺とは裏腹に、ソエルはいつの間にかタルテの元に寄っていた。

「タルテ・・・タルテ、大丈夫なの!?」

そう叫ぶソエルの表情(かお)は、今にも泣きそうな表情だった。

「大丈夫・・・切られた部分も幸い、心臓までは届いていなかったし・・・僕らには自己治癒力があるから・・・なんとかなるよ」

「・・・ごめんなさい。私なんかを助けたばっかりに・・・!」

「いや・・・僕こそ、君を巻き込んでしまって・・・本当にすまなかった・・・」

互いに謝罪しあう二人を、俺は黙って見守る。

「私・・・この間も話したけど、両親を早くに亡くしているから・・・貴方が死んでしまうかと思うと・・・両親の時みたいにすごく怖かった・・・!」

ソエルの目から大粒の涙がこぼれる。

この様子を見ると――――――ソエルはタルテの事、許してあげそうだ。

何より、今は俺よりあいつが側にいてあげた方がいいかもな・・・

そう考えていた俺の目に、カーテンから日が漏れてきる。夜が明け、陽が出てきたのだろう。

長い夜だったなぁ・・・

目をかすめながら、俺は思った。



 ミヤの風邪もすっかり良くなり、俺達4人は次の目的地へと出発していた。あれから、屋敷に残っていた吸血鬼は役所の連中・・・というより、同じ吸血鬼の連中が奴らを連れて行った。タルテはこの街の住人だが、今回は正当防衛が認められて一週間の自宅謹慎だけで済んだ。本当は、血を吸われて貧血ぎみになったソエルのためにもう少しこのトトベムに滞在していたかったが、もうすぐで滞在可能期間が終わってしまうため、俺らに選択の余地はなかった。そして宿屋を出発する時に、ソエルが俺らにタルテが言っていたことを話してくれた。

「タルテは・・・吸血鬼は私たちよりも寿命が長く、彼自身も結構長く生きていた。・・・そんな中で200年前、彼の元に“人間と共存しよう”と考えるきっかけになった女性が現れたんだって・・・」

「きっかけを作った女の人・・・それって、どんな人だったの?」

シフトが不思議そうな表情(かお)でソエルに聞く。

「当時見た時は…甲冑を身にまとい、お供の人間を一人連れた普通の剣士だったって。でも、その人・・・後に聞いた話だと、あのマカボルンがあると言われる“最果ての地”に唯一たどり着いた女性だったんだって・・・」

「それって、まさか・・・」

「そう。魔法大国ミスエファジーナの6代目女王、アクト・ファジーナだったのよ」

「!!!」

俺達3人は目を見張った。

「すごい偶然・・・」

物知りなミヤですら、ものすごく驚いていた。

その隣で首を縦に頷いたソエルが、続けて言葉を紡ぐ。

「タルテが彼女と話をした時、こんな事を言っていたそうよ・・・。“私の目的を果たすには・・・あの魔族の長である黒き鳳凰ダースの居城を抜けなくてはならない”と」

彼女が告げた名前に、俺は思い当たる節があった。

魔族の長ダース――――――文献で読んだ程度だけど、聞いたことがある。第五原子と呼ばれるエレクバンネで出来た翼をその身に持ち、この世界に存在する魔族をまとめている魔族だ。

「つまり・・・“最果ての地”はそこを通らないと行けないってわけだな・・・」

「じゃあ、僕らの目標に一歩近づいたって事だね!!」

「ええ・・・。彼の話を聞いていたのもあるけど、私の先祖が創ったと言われるマカボルン・・・今はどんなものなのか、すっごく興味津々なのよね~♪」

自分がカルマ族って事を隠す必要がなくなったせいか、ものすごく得意げな表情でソエルは言った。

 次の目的地へたどり着くために、俺達はまず、船に乗り始めるために港町ダンヴァイへ向かう。

少しずつ、目的のマカボルンに近づいているな・・・

そう思うと嬉しくて仕方がなかった。しかし、俺の背後でものすごく深刻そうな顔で考え事をしているミヤに全然気がついていなかったのだった――――


ヒロインのミヤは、見てわかるように左利き。

キャラ設定を匂わす文はまだありますので、今後の連載をお読みいただけると、幸いです♪

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