第11話 闇に生きる一族<前編>
ここから、初の前編後編構成の回です!
魔物との戦いが終わり、一日が過ぎた。普段よりゆっくり休む時間があったので、俺は剣の手入れや、買出しに行ったりした。
それにしても…DVD-ROMを再生できるカルマ族のソエルに会えるなんて、思わなかったな…
そして、俺たちはウィッシュナクルの街を出発した。
丸一日休んだので皆元気になったと思ったが―――――――なんだかミヤとシフトの様子が少しおかしかった。
…魔物退治のとき、何かあったのかな?
でも、俺は本人が語ってくれるまで余計な詮索はしないつもりだ。それは、俺自身も皆に秘密にしていることがあるからだ。最も、ソエルは俺の正体に気がついていたみたいだけど。後日、ちゃんと皆には話そう。
「ミヤ、そういえばあなたが持っているそれって、もしかしてDVD-ROM?」
ソエルがミヤに問う。
「え・・・ええ。3人で古代図書館へ行った時に見つけたの」
「ふうん・・・古代図書館かぁ・・・。あそこはククルの魂が漂っているから、そう簡単には資料探せないところだけどね・・・」
「ククルって??」
きょとんとした目でシフトが言った。
「ああ・・・普通は知らないか。ククルっていうのは古代人の総称で、古代語で“神獣”って意味なのよ」
「“神獣”かぁ・・・。そう呼ばれた理由ってあるのか?」
あまり聞かない言葉に、俺は興味津々だった。
「えっと・・・。確か、ククル達には”守護聖獣“っていう守護霊がいたんですって。で、その守護聖獣の姿形が今でいう召喚獣達だったから・・・って聞いたことがあるわ」
「召喚獣・・・!?」
「彼らは、肉体が滅びた後は召喚獣になるっていう話を聞いたことがある・・・。あたしは魔術師じゃないからよくわからないけど、現代の召喚術は死した彼らを呼び出すって原理らしいわよ。・・・使いたいとは全く思わないけど」
ソエルが複雑そうな表情で語る。
一方で、シフトが召喚獣という単語にすごい食いついていた。しかしその後、シフトは黙り込んでしまい、考え事をし始める。
・・・もしかして、失われた記憶と関係があるのかな・・・?
「まもなく・・・次の街よ・・・」
そう言ったミヤが突然、その場に座り込んでしまった。
「ミヤ、大丈夫か・・・!?」
俺が彼女に駆け寄る。
ミヤのおでこに手を当てると、かなり熱かった。
「風邪…か!?」
「腕に湿疹がある・・・ミヤ、貴女って何かのアレルギーなのでは!?」
ミヤの腕を触って言うソエルに対し、俺やシフトが言葉を紡ぐ。
「・・・昨日戦ったブラックロンドウルフの毛が原因かもしれない・・・」
「・・・でも、アレルギーってだけでこんなに熱くなるものなのか・・・?」
「・・・私達が歩いてきたこの場所にも関係あるかも。ここの砂にも有害な菌が含まれているしね。おそらく、ミヤのようにアレルギー体質は敏感だから、身体に危険信号をかけたのかも・・・」
何はともあれ、ミヤを休ませるために街へ急いだ。
今度俺たちが訪れた街の名前はトトベム。ケステル共和国の首都ゼーリッシュのことを考えると、小さめな街だ。
「そいつはどうせ、アレルギーによる風邪だろう?寝ておけば治るぜ!・・・それに、旅人の治療なんて、死んでも嫌だね!」
街に到着してすぐさま診療所に向かったが、医者から門前払いに近い扱いを受けてしまう。
なんて冷たい医者だ。しかし、旅人の中にはギルドに入って仕事をしている人もいるから、俺らを良く思わない連中がいるのは知っている。でも、こんなにも邪険な扱いを受けたのは初めてだった。
「・・・なんだか、陰気な街だよね」
シフトが俺の側でコソコソと囁く。
仕方がないので、とりあえず宿屋に入って落ち着くことにした。部屋に到着し、おぶっていたミヤをベッドに寝かせる。気がつくと、彼女の顔が真っ赤で、とてもつらそうに見えた。
「ごめん・・・なさい。私の・・・せい・・・だよね?」
息切れしながらミヤは話す。
「気にすることないさ。それに、俺達こそミヤの異変に気がついてやれなくて・・・ごめんな」
その言葉を聞いたミヤは静かに瞳を閉じた。
「・・・あれ?ソエルは?」
部屋を出ると、シフトが一人で座っていた。
「えっと、何か「看病はセキに任せて、滋養の良い食べ物買いに行くついでに、武器屋行ってくるわ~!」って言って出て行ったよ」
「そうか・・・」
やっぱり、ソエルはしっかりした女性だな―――――――
少し前までは俺が3人の中で年長者だったけど、これからはそうではない。ソエルは直接年齢を聞かなかった。女性に年齢を聞くのは失礼だし、聞くとソエルはかなり怒りそうだから-----
けど、ウィッシュナクルで話を聞いていたかんじだと、23歳くらいだと思われるからだ。
「・・・でも、なんで”俺が看病”なんだろう?」
そう言った俺に対して、ソフトが「ブハッ」と、吹き出していた。
「な、何を笑ってるんだよ!?」
突然笑い出したシフトを俺は不思議に思った。
「さて、どうしてでしょうかねぇ~?」
ニヤニヤしながら俺の側に寄ってきた。
「お前、その顔キモいぞ・・・」
そう言ったにも関わらず、シフトはニヤニヤしていた。何を考えているんだか・・・。
※
恋人同士みたい―――――――
セキとミヤを初めて見たときはそんな風に思えた。だから、ミヤにはセキがついていてあげれば治りも早くなるかなと考え、食料調達を自分が買って出た。最も、武器屋で弾丸を補充したかったってのもあるが…。私は今回、待ち合わせ場所で取引先の人に販売物を渡して帰る途中だったが、予想外だった魔物の来襲。・・・そして、コ族の青年との出会い。
セキのあの顔と、剣にあった紋章。やっぱり、“あの人”の―――――――
そんな事を考えながら、先に武器屋へ向かった。
まぁ、買い出し自体はシフトに任せても良かったんだけど、弾丸の種類なんてあの子にはわからないだろうし・・・
武器屋に入った私は、弾丸の入った箱を探す。
「お嬢ちゃん…旅人かい?」
「こんな所に来るのは、旅人しかいないじゃない!」
後ろから声をかけられて振り向いた時、目を丸くした。
50は越えていそうな中年男性だが、その顔はかなり色白く、不気味だった。
こういう危なそうなおっさんは、あまりかまわない方が良さそう!
と、考えた私。
「これ、頂戴」
さっさと用事を済ませてしまおうと、不気味な店員の前に弾丸の入った箱を手早く置いた。
「まいど・・・」
店員は私の顔をジロジロ見ながら金を受けとる。
私は次の目的である、食料調達をするために武器屋を出た。
私がいなくなった後、不気味な店員がボソッと呟く。
「美味そうな客が来たぞ・・・」
滋養の良い食べ物を買った私は、宿屋へ戻ろうとしていた。店に入ったときが夕方だったので、外はすっかり暗くなっていた。
早く帰らなきゃな…
少し急ぎ足で歩き始めた。
人通りが少ない道を通っていると――――――――――――
「こんばんは、お嬢さん」
目の前には茶髪で肌が色白な男が立っていた。
いつの間に・・・?
私が首を傾げていると、男は微笑んだ表情で言葉を口にする。
「こんな時間にウロウロとしちゃ危ないよ?」
「…それはどうも!!」
新手のナンパかと思い、私は引き返そうとする。
「えっ…!?」
すると、今度は色白な男女が目の前にいた。
私を見据えたその二人の内、女の方が言う。
「久しぶりに美味しそうな子が来たわね♪」
その台詞を聞いた途端、心臓の鼓動が強く脈打った。
は・・・?・・・なんのこと?
男の方が、私の首筋に手を当てる。その感触はひどく冷たい。
「脈が激しい・・・。緊張しているんだね?・・・でも、心配はいらないよ」
その瞬間、男の目が真っ赤に染まり、その口には、犬のような牙が見えた。
まさか、こいつら・・・!!!!
怖くて瞳を閉じようとした刹那、何かが動いた気がした。
「ぐっ…!!」
気がつくと、私の目の前にいた男が手の甲を押さえてうめき声をあげていた。
そこからは、血が出ている。そして、男が持つ、血のように紅い瞳―――――――やはり、こいつらは吸血鬼だ。という確信ができた。
「くそっ…誰だ!!?」
「僕だよ」
痛がる男の後ろから、今度は別の男が現れた。
こいつらと同じで肌は色白だが、髪の色が私と同じ黒だった。
「タルテ…てめぇか!!」
「・・・手当たり次第は良くないんじゃない?」
黒髪の男が3人の吸血鬼を睨みつける。
血のように赤い瞳。この人も・・・?
「ちっ・・・」
舌打ちをした茶髪の男は、他の2人と一緒にその場を去って行った。
安心したのか、私はその場に座りこんでいた。
「大丈夫?」
その男は私に手をさしのべてくれた。
「ありがとう・・・」
私は立ち上がる。
何から口にすればいいのか――――――とても迷った。
「あのさ・・・。この街って・・・吸血鬼の…巣?」
それを聞いたとたん、男は複雑そうな表情をした。
「うん・・・。この街には・・・僕を含めて、吸血鬼がたくたん住んでいるんだ」
「・・・じゃあ、私達人間は貴方達の餌って事よね?どうして助けてくれたの・・・?」
「・・・君は僕が怖くないの?」
「…別に、大丈夫よ!」
「もっと怖い目にあったことがあるし!」と言いたかったが、過去の心的外傷が蘇りそうだったので、言わなかった。
すると、男の表情が少し緩くなり、その口には笑みが浮かぶ。
「あはは!君って面白い子だね!・・・僕はタルテ・ケニーっていうんだ。夜は危ないから、宿屋まで送るよ」
「あ・・・私はソエル・カーブジケル。助けてくれてありがとう!」
私とタルテは宿屋へ歩きながら少しおしゃべりをした。
「でも、街の人全員が吸血鬼ってわけではないでしょ?普通の人はさっきみたいに、襲われていても捕まえないわけ・・・?」
「この街では・・・人と僕らの間で協定が結ばれているんだ。共存していくために結ばれたんだけど・・・その中で、”街の人間じゃない旅人は手を出しても何もされない”ってモノがある」
「そっかぁ・・・。旅人は滞在する国や街の法律に守られないって聞いたことがあるし、何より、旅人が死んでも街の連中は知らぬ存ぜぬでいられるしね」
私はタルテとそれとない世間話をしながら、宿屋の近くまで歩いた。
「送ってくれて、ありがとう」
「これからは、夜は出歩かないよう注意した方がいいよ」
「ええ、そうするわ」
彼の顔を正面で見た時、月光により、瞳が白銀だった。初めて見るその瞳に、何だか吸い込まれそうな感覚を覚える。
「あのさぁ!」
私が突然口を開くと、タルテが立ち止まった。
「私・・・いや、私たちはまだこの街に滞在してると思うから・・・また会えないかな?」
「・・・夜になっちゃうけど、いいの?」
「全然、大丈夫!!」
それから宿に戻ると、セキが心配そうにしていた。
「全然、大丈夫!・・・っていうか、私はあんた達よりもお姉さんだし、大人なんだから夜で歩いていたって問題ないの!」
そう告げる私の台詞に対し、
「そうだよね」と言いながら笑っていた。
それからというもの、私達はミヤの風邪が治るまでトトベムに滞在することにした。旅人制度での決まりとして、この街では10日間まで滞在できるという事らしい。その内の2・3日間の夜は一人で出かけ、タルテと一緒に旅のこと、世界のこと等のいろんな事を語っていた。ただし、私がカルマ族だってことは明かさなかったが――――――
タルテと私は多分、少数派の民族ということもあったのか、結構馬があったみたい。それにしても、彼の見た目年齢は20歳らしいけど、実際は100年以上生きているから本、当は私よりも年上。
このかんじが不思議と面白かった。自分が生まれる前の話をこんなに具体的に聞けたのは初めてだったし。しかし、私はその時に何も知らなかった。私の血を吸おうとした連中をタルテが助けたことで、私が別の吸血鬼に目をつけられていたことを――――――――
※
・・・まだ、身体が熱い・・・
トトベムに滞在してもう7日になる。街に入る前に出来た湿疹はなくなったみたいだけれど、熱がまだ下がらなかった。
早く・・・治さないと・・・。滞在可能期間が過ぎてしまったら、皆に迷惑がかかってしまう・・・。そういえば、街でセキが私をおぶってくれた時に「トトベム」って名前が聞こえたが…
確か、その街には300年くらい昔から吸血鬼が人間と共に暮らしていると聞く。
法律に守られない旅人が襲われるって事件は起きたりしてないのかな?
そんな事を考えていると――――――――――――――
「あ、ごめん!・・・起こしちゃった?」
「ソエル・・・さん・・・?」
気がつくと、ベッドの側にソエルがいた。
他の2人の気が感じられない。
「あはは、呼び捨てでいいわよ!・・・お加減いかが?」
「まだ少し・・・だるいかな・・・。・・・セキとシフトは・・・?」
「ああ、セキとシフトは食料の買出しに行っているわ!やっぱり、男手あると便利よね~♪」
それを聞いて、私は少し安堵した。
その後、ソエルが私のおでこにかぶせている冷たい雑巾を違うものに変えてくれた。彼女の手が私の顔に近づいた時…微かに感じたこともない気を感じた。
「ミヤ、何か飲む?」
「ええ・・・。じゃあ、お水もらおうかな・・・」
ソエルは私達がいる寝室を出て、歩いて行った。
私は半身だけ起き上がり、少しの間呆けていた。
アレルギーで体調崩すなんて・・・情けない。
「…っ…!?」
そんな事を考えると、何かを感知したのか、私の身体に鳥肌が走った。
今まで感じたことのない気・・・しかも、この背筋が凍りそうなかんじは――――――それが殺気であるのは、明白だった。それが段々とこの宿屋に近づいてくる。
何・・・何なの!?
周囲を見渡して警戒していると、物音が一瞬だけ耳に響く。
「きゃぁぁっ!!」
扉ごしに悲鳴が聞こえた。
この声は・・・ソエル!!!
ただ事ではないと直感した私は、手探りで自分の刀を探し、身体をよろけながら寝室を出て行ったのであった。
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