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子地蔵さま 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 君は大人になりたい人間だろうか? それとも子供時代がうらやましい人間だろうか?

 何歳になろうと、気持ちの上では人間はいつでも大人に、そして子供になることもできるはず。

 だがこの身体は、いつまでも同じ状態でいることをよしとしてくれない。

 よくも悪くも年をとり続け、その間、山登りのごとく頂上を目指してひた走り、やがてはいつか下りに転じて、地上に足をつけることになる。

 私は早くに大人へなりたい人間だった。

 自分のしたいこと、やってみたいことをする。それが幼いころより心に抱いていた願いだ。

 しかし子供のうち、背の低いうちなどはしばしば制限のかかるものがある。

 選挙、たばこ、お酒にジェットコースターの乗車……安全などをかんがみてのこととはいえ、おおっぴらに「できない」といわれると不満を覚えることもあったさ。


 できない、できないばかりだとどうにも不満が出てくる。

 できる、できる、もしくはお前じゃないとできない、と価値を認める瞬間もまた、必要というわけだな。

 私が昔に聞いた話なんだが、耳に入れてみないかい?


 むかしむかし。

 私の地元では「子地蔵さま」と呼ばれる風習があったといわれている。

 いわく、年の4回の季節の変わり目に、村にあるお地蔵さんと子供たちがその役割を入れ替えるのだという。

 お地蔵さんは村によって神輿や山車に乗せられ、一日をかけて村とその近辺を練り歩く。

その間、村の子供たちはお地蔵さんの立っていたところへ、代わりにたたずむんだ。

場所によって、手に持つ錫杖や身に着ける頭巾なども再現。日の出から日の入りまで、口にできるのはお供えものとしての水のみ。

そしてお地蔵さまが戻ってこられるまで、決められた場所を離れることは許されず、用を足すときもあらかじめ決められた場所で行う。

 

 育ち盛りの子供にとっては動けず、ろくに飯も食べられずとしんどい一日であっただろう。文句を言い出す子も少なくなかった。

 大人たちはそのたび、この役目は子供たちでなくては務まらないのだと返す。

 いわく、村のお地蔵さんには、皆よりも長く生きることなくこの世を去った赤子や水子の霊がつくことがある。

 彼らはついぞ、自分の足をまともに地へつけず、世界を見ることもできないまま別れを告げることになってしまった。

 だから、普段より同じ景色しか見られない彼らに、たまには世界を見せてやる。その気持ちを汲み、その間の代わりを務められるのは子供でなくてはならないと。

 当時、幼い子供はまだ神様の御手の中におり、その生死も神にゆだねられる神の子供である、という考えがあったのも後を押した。

 人の子として成熟してしまった者にはできない、子供だけの役割なのだと、彼らは大人たちに諭されてきたんだ。

 実際、陽が暮れてからは各家で普段はありつけないようなごちそうを、たらふく食べられるから、子供たちはほぼそれを楽しみにしてことに臨んでいたのだとか。


 しかしある年の夏に、事件が起こる。

 その村の子地蔵さまの神輿は、道程の中で一度、お地蔵さんが元居た位置。子供たちに仕事を任せた地点の前を通るようにしている。

 その一か所で、お地蔵さんの代わりを任せた子供たちが指定された位置を外れ、ひとりの女の子を取り巻いていたんだ。

 大人たちが問いただし、子供たちが包んでいた輪を解いてみると、中心にいた女児はその股から血を垂らしていたという。


 月のものだと、大人たちはすぐに悟った。

 しかし、その子はまだ齢七つを迎える直前。これほど早くやってきたのは、村の女たちにも経験のないことだった。

 その血は近辺の草むらのみならず、お地蔵さんの立っていた石の台座も濡らしている。女児が立っていたと思しき場所には、とっぷりと血だまりができていた。

 それらはぬぐおうとすると、たちどころにかさを減らし、台座の中へしみこむように消えていってしまったという。


 すぐにお地蔵さまたちは戻され、子地蔵様も中止と相成ったが、皆の危惧する厄介ごとはあまりにもせっかちにやってきた。

 かの女児を含めた、村の子供たち。その腹が翌日に、一斉に張るようになったんだ。

 厠で用を足そうとするたび、肛門から飛び上がりたくなるほどの痛みが走る。何度もうずくまりかけ、わずか力を入れて、また立ち上がって痛がり……と見ている側でさえ気の毒さを覚えてしまうほどの、苦しみようだったらしい。

 そうやって何度も立っては座ってを繰り返し、ようやく尻から顔をのぞかせるのは、棒でつついてもいささかも揺らぎはしない、石の塊だったという。

 それは肌が裂けてしまうほどの大きさをしばしば見せ、かといって、のぞいた部分をどうにか砕こうとすれば、抱えている子供にも揺れと痛みが伝わるという八方ふさがり。

 結局は子供たちが涙ながらに、何日も石を産み落とし続けるよりほかに、事態をおさめることはかなわなかったとか。


 この一部始終によって、子供たちは子地蔵さまへすっかり怯えてしまった。

 事態を重く見た大人たちは、めいめいで他村に相談し、親戚などを頼りにしてよそへ移り住んでしまったという。

 そうして住人がすっかりいなくなってほどなく、かの村へ洪水が襲い掛かり、お地蔵様を含めた村のすべてが水と泥の下に沈んでしまったのだとか。

 今に至るまで、その村があった場所を掘り返しても何も見つからず。迷信深い人は、彼らが本来いるべき黄泉へと還ったのだろう、とも話しているよ。

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