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05 スライム

「今日はもうおしまい」


 日は傾き、スキルを発動させた回数も三桁に差し掛かってくると、負担を押さえていたとはいトールの体は痛みや拾うで限界だった。なので終わりの意思をスライムたちに伝える。すると、スライムたちは三々五々散っていく。残念や満足、感謝など様々な感情が次々とトールの意識に流れ込んでくる。


 スライムたちのほとんどがそれぞれの場所に散っていったなか、五体のスライムだけがトールのそばを離れなかった。


「君たちは帰らなくていいのかい?」


 スライムに話しかけるとその五体から『大丈夫』という感情が送られてきた。


 この意思の疎通方法はスライムたちと遊んだ時間で得たものだ。


 スライムの魂が増え、磨かれたことスライムたちと簡単な感情や思いのやり取りができるようになったのだ。トールはこれを『スライム通信』と名付けた。


 さらにスライムと遊んだことでスライムに対する見識も深まった。スライムの種族としての特性なのか共通する特徴が多いものの個体差や趣味嗜好の違いがないわけではなかった。例えば打ち上げられた後の着地だ。ボールのように弾む者もいれば弾まずに地面を凹ませるもの、びちゃっと体を崩れてもすぐ元に戻るもの、落ちてくるスライムのクッションになろうとするものなどいろいろいた。


 さらに、遊びのなかでソウルイーター発動するときに戦闘する必要がなかったので、より発動の瞬間に集中できるようになった。そして、集中できたことで発動感覚がなんとなくだがわかるようになった。


「そうなんだね。じゃあ先生はこれから野営場所を探したりしなきゃだから、もう行くね」


 そうスライムたちに告げた瞬間、スライムたちが一斉にぴょんとはずんで同じ方向に離れていった。


 スライムたちの意図が読み取れなかったトールはその場でスライムたちを見送っていると、少し進んだところでスライムが振り返るように立ち止まり、悲しみの感情を送ってきた。


「もしかしてついてきてほしいのか?」


 トールが後をついていくと、スライムたちの感情は喜びに変わり、再び進み始めた。


 

 しばらく行くと大きな岩のもとに着いた。その岩は大きく内側が大きくえぐれており、雨風をしのぐには十分な空間があった。


「いいところを教えてくれてありがとう。君たちはこの辺に詳しいんだね。すごいよ」


 トールは一体一体スライムの上部を撫でながら、お礼を言って一言ほめ言葉を付け加える。


 スライムたちは弾んだり転がりまわったり身を震わせたりしている。SNSに頼らなくとも喜びの感情が伝わってきた。


「それじゃ、薪を集めてくるね。えっ、手伝いたいの?」


 スライムに告げると、『楽しそう』や『やりたい』といった感情が送られてくる。


「それじゃあ、こんな茶色くなった草や軽くなった木、このくらいの大きさの石を集めてくれるかな?」


 周りにあった両掌サイズの石や枯れ枝などをサンプルそしてみせ、スライムたちにお手伝いをお願いした。

 

「それじゃあ、お願いね」


 それぞれ探しにいくスライムを見送ると、トール自身も薪集めに出かけた。



「このくらいでいいかな」


 小脇に抱えられるだけ枯れ枝を集めると野営地の大岩に戻ると、スライムたちが出迎えてくれた。ちょっと異様なものが目の端に入ったのだが、スライムたちのワクワクとした気持ちが伝わってきたので、とりあえずそれには気がつかないことにした。


「どのくらい集められたかな?」


 スライムたちに聞いてみると、嬉々として自分たちが集めたもののところに案内された。

 まず山積みになった石のところに案内された。よくよく見れば、見本に見せた石と似たような石ばかりで、その数も二十個ほどあった。


「とても丁寧に集めてくれたんだね、ありがとう。君のおかげでいいかまどが作れそうだよ」


 集めてくれたスライムを撫でながら感謝を伝えると、次のスライムのところへ向かった。

 

 このスライムのところには枯草、枯れ枝、石が一緒くたになった山があった。総合的な量はさっきのスライムより多い。


「こんなにいっぱい集めてくれてありがとう。こんなに集められるなんて君はすごいね」


 頑張って集めたスライムを撫でなかが褒めると、次のスライムのところに向かった。


 このスライムも前のスライムと同じく三種類を集めていた。量は少ないものの、使いやすいようにきっちりと分別して並べられていた。

 

「きちんと分けられていて、きれいに並べているからとても使いやすそう。気遣ってくれたのかな? 嬉しいよ」


 気遣い上手なスライムを撫でながら素直な気持ちを伝えると、次のスライムの持ってきたもののところに向かった。

 

 向かった先は薪拾いから戻ってきた時から気になっていたもののところだ。そこには二体のスライムが待っていた。どうやら二体で協力して持ってきたようだ。スライムたちの後ろには一本の木が横たわっている。


「おもっ」


 木の太さは小脇に抱えられるくらいしかないのだが、水分を含んだ生木はずっしりと重く、端を抱え上げるだけでも一苦労だった。そこにスライムがやってくると体を平べったくして木の下に潜り込むと、元の球体に戻り持ち上げた。


「そうやって運んできたんだね。どのくらい重いのか気になっただけだからもう下ろしても大丈夫だよ」


 そう伝えるとスライムはゆっくりと潰れると木の下から這い出して再び球体に戻った。


「大きな木を持ってきてくれてありがとう。でも、大きすぎて薪にできないな」


 素直に伝えていると二体のスライムの気持ちが凹んでいくのがわかった。こんな結果になったのはおそらスライムの個としての気質と『薪』に対する知識不足が相まっての事だろう。彼らに非があるわけではないのでフォローが必要だ。


「太い所は使えないけれど、末端の枝葉は使えそうだね。これだけあったら一晩もつよ。それに君たちがすごいっていうのが分かったから、今度お願いすることがあるときは、期待してるよ」


 二匹のスライムを撫でながら、未来への期待を伝える。

 一通り見て回るとスライムたちと岩陰にたき火の材料を運んだ。



 パチパチと軽い音を立てながらたき火は燃えている。その火はコの字に組まれた立派なかまどのおかげで安定している。

 そんなたき火を眺めながらトールは物思いにふけっていた。


「このままでいいのかなぁ」

「どうかしたの?」

 

 思わず口をついた言葉は、ティアに届いたようだ。


「いや、俺は強くなって、元の世界に帰りたいんだ。なのに、こんな風にこの世界の住人と交流を持っいいものかと思って」

 

 ティアに語りながら、スライムたちの方に視線をやる。スライムたちは眠っているのか動かず、感情も送られてこない。


「トールは何が言いたいの?」

「こんな風に交流していたら、交流した子たちが気になって元の世界に帰りにくくなりそうだなと」

「うーん、トールはその人たちを自分に依存させたいってこと」

「そうじゃなくて、なんていうか……」


 漠然とした不安のため言葉に詰まる。そんなトールが気に食わないのかティアの言葉がきつくなっていく。


「わけわかんない。そんな先の事を今から気にする意味が分からないし、気にする意味も分かんない。存在している限り出会いがあれば必ず別れもある。肉体があるものは死があるし、私のような魂だけの存在でもいずれは消滅する。永遠に一緒にいるなんてことはできないのだから、一つ一つの出会いを大切にしていくことが重要じゃないの? その人と別れても自分と出会ったことを糧にして、よりその人らしく幸せに過ごしてくれたらそれで良くない」


 ティアの言葉にハッと気づかされる。その通りだと。保育士として勤めて、見送った子どももいる。その子たちとは生きる力を培えかえるような接し方をしたし、それを生かして成長していけると信じている。スライムたちはこの世界で今まで生きてきたのだから、十分に生きる力は備わっているはずだ。なら、自分にできることは信じることだけだ。不安に思うことは信じていない証だし、自分が居なければ生きていけないという依存に落とそうとしている証だ。


「彼らは彼らでこれからも生きていく。彼らにとって俺はたまたま見つけた移動遊園地みたいなものだな。あれば楽しいが、なくても別に困らない」


 考えがまとまってくると、不安も次第に和らいでいく。


「なら、長居は無用。明日は改めて街を目指そう」


 そう心が決まると自然と瞼が落ちてきた。

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