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03 ソウルイーター

「さてと、今トールは二つの事柄で危機的状況になってる。一つ目が強さ。この世界の魂は様々な経験を積んでいくことで磨かれてより強く輝き、強い魔力を産み出す。体を持っているものだったらより体に適した型になり体との繋がりが増して魔力による身体強化の効果が増すの。でも、トールは異世界の人間でしょ。魂の造りから違うもん。トールの魂は脆弱で生み出す魔力も微弱なうえ、体との繋がりも希薄。なのに、魂としてはすでに出来上がっていてこれ以上磨く余地がないの」

「つまりどういうことだ」

「この世界でのトールは最弱で、強くなる見込みがない」


 ティアの話を聞いたトールは今まで見えていた希望の光がフッと消えた。

 元々トールはもとの世界に帰るという目標があり、ためにはこの世界で生き残る必要がある。しかしティアにトールこの世界で生きるのは厳しいと告げられたのだ。


「でも、ティアがいれば強さはどうにかなるんだよな」


 藁にもすがる思いでトールは訪ねた。


「ええ、これから生きていく手段の目星はついているよ。ただしその道もかなり厳しいけどね」


 まだ希望があることに安堵するトール。しかし、ティアの続けた言葉によってその希望がいかに儚いものかをわからされた。


「それに、トールの問題はもうひとつある。本来なら融合した時点で私が格下のトールの魂を取り込んで

消滅させているはずなんだけど、今は私がトールの魂を取り込むのを押さえ込んでいるからトールは意識を保っていられる状態なの。でも、私も完全に取り込みを押さえ込めている訳じゃない。今もわずかずつだけどトールを取り込んでいってるし、私が魔力を使ったりトールの魂に干渉したりするとその分を余計に取り込んでしまうの」

「何でそんなことに…… って、あの儀式か」


 こんな状況になる心当たりなんてそれしか思い浮かばない。


「うん。あの儀式は本来生け贄、つまりトールの魂を呼び出した私のような格上の魂のみで存在できるもの融合させる事で命令を聞かせようとするものだったんだけど、格上過ぎる私が来たことで魔法陣は暴走、術者は肉体も分解されるまで魔力を搾り取られ、融合効果もほんの一瞬しか発動しなかったわけ」

 ティアの説明でトールが部屋で目覚めたときの状況の納得ができた。

「融合の事はわかった。肝心の取り込まれるまでの時間はどのくらいなんだ」

「一巡りくらいかな」

「一年か…… かなり切羽詰まっているな」

「いや、そんなすぐって訳じゃないよ」


「え?」「え?」


 双方で会話が噛み合わない。


「そうか」「そうだ」


 そして二人同時に会話が噛み合わない理由に思い当たった


「肉体には寿命って制限があるんだよね」「もとの世界と時間の基準も単位も違うんだ」


「え?」「え?」


 どこまでも双方食い違う。


「ティアはどういうことをいいたいんだ?」


 トールは食い違い是正のためにまずティアの意見を聞くことにした。


「私のような魂のみでも存在できるものは基本不滅だから時間という感覚に疎いの。深く考えていなかったからつい不滅の私の感覚で答えちゃったの。ちなみに一巡りって人が二千回生き死にを繰り返したくらいかな」


 不滅者ティアの時間感覚は全くもって分からないが、恐らく千年単位でも誤差の範囲なのだろうと理解することができる。


「で、トールは何が言いたかったの?」

「この世界と俺のいた世界では時間の区切り方が違うんじゃないかと思ったんだ。俺のいた世界では地球の自転…… えーっと、昼と夜の繰り返しを基準に時間を区切ったんだ。大地を照らす太陽が沈んで再び昇って同じ位置に来る時間を『一日』としていて、一巡りは『一年』といって一日を三六五回繰り返すことなんだ。だから一日の長さが変わったら俺の感覚とはズレていくし、そもそも『一巡り』が三六五日じゃなかったからね。それで、俺が寿命で死ぬまでの時間は十分にあるっていうことでいいんだよな」


 二つ目の問題について最終的な確認をする。


「このままなにもしなければね」


 トールはティアの言葉に安堵した。ティアのいっていた二つの問題が大したことの無いように思えたからだ。強さに関してはティア頼みにはなるが強くなるすべがあり、時間に関してはティアにとって短いだけで人間としていきるトールには十分な時間がある。


「なぁティア、どうすれば強くなれるんだ」


 希望が見え、そこへの道のりも確認できるようなって気分が高揚するトールは早く不安要素を取り除きたくなり、急かすようにティアに答えを求めた。


「トールの魂はすでに磨く余地はない。でも、なければ外から魂をもってきてそれを磨けばいい。トールの魂は特別で他の魂と共存しようとするの。融合した瞬間それが分かったから私も魂の取り込みを押さえることにしたのよ」

「まてまてまて、外から魂を取り込むってそんな真似俺には出来ないぞ」

「わかってる。トールの魂には有用なスキルが刻まれていなかったから。だから私が」

「まてまて、『スキル』ってなんだよ」


 まるで後だしジャンケンのように重要な単語が出てきて頭痛を覚えるトール。


「『スキル』はスキルよ。トールが意識せずに二本足で立てるのも歩けるのもその『スキル』魂に刻まれているからよ。元から魂に刻まれた『スキル』もあれば、訓練を繰り返し行って技術を身に付けて、それを使い続けることで魂に刻まれる『スキル』もある。立つ、歩くの『スキル』はどっちかわからないけれど、魂に刻まれているわ」


 トールはティアの説明の前者のスキルを『才能』、後者を『努力』というふうに解釈をした。


「『スキル』についてはわかったよ。それで、魂を取り込むスキルはどうやって身に付ければいいんだ?」

「それは私がトールの体を使ってスキルを使うから、トールはその感覚をつかんで自分で使えるようになればいいよ」


 ティアのいっていることが難しいことは理解できた。もとの世界でも新たな技術を身に付けるには並々ならぬ努力が必要だ。その技術の原理や仕組みがわからなければ尚更だ。例えるならスケート初体験の子に、感覚だけを頼りに四回転を跳べるようになれ言っているようなものだ。


「俺の体をティアが使うってことは、ティアが魂の取り込むのも進むんだよな」

「ええ、だから少しでも早くスキル使えるようになってね」


 ティアは軽くいっているが消滅する可能性のあるトールの気分は重かった。しかし、現状のままでは生きていけないのも事実なため、大きなため息のあと覚悟を決めた。


「よし、早速あの丸いのに使いにいくよ。私の見立てじゃあの丸いのは『水魔術』の適正が高い。だからあの丸いのの魂を取り込んでその魂を磨けば……」

「水が飲めるというわけか」


 トールはティアの考えにやっと納得がいった。確かに水が確保できるようになれば現状をいろいろ改善できる。 


「そう、だからさっそく……」

「ちょっとまって、本番前に打ち合わせとかしようよ

 声を弾ません楽しそうなティアを慌てて止める。なにも決まっていない今のまま本番をしても得るものは少ないだろう。少なくともスキルを使うタイミングぐらいは合わせたい。


「スキルは何て名前なんだ?」

「名前? スキルに名前なんて無いよ」


 ティアにとって魂を取り込むスキルはトールにとっての立つや歩くのような出来て当たり前のスキルなのだろう。しかし、そのスキルが当たり前でないトールにとっては名付けはメリットがある。


「ほら、スキルを使う前にスキルの名前を言えば使うタイミングが分かりやすくなるだろ。発動を意識できるようになれば習得もしやすくなると思うんだ」


 懸命に説明をする。そして名付けることが出きれば、例えスキルの発動が頭で理解できなくてもパブロフの犬のようにスキル名とスキル発動が紐付くこともあるかもしれない。


「それもそうね。なら、トールが名前つけてくれるかな? 自分でつけるなんてなんだか生まれたての子が粋がってやることだから恥ずかしいよ」


 ティアの世界にも厨二病はあるらしい。そしてティアの言いたい事も気持ちもわかる。しかし、トールは自己の消滅がかかっているため譲歩はしない。


「『ソウルイーター』はどうかな? もとの世界で『魂を食らうもの』っていみなんだ」

「そウル、いーター…… ソウ、るいーター…… ソウルイーター」


 ティアが繰り返しごとに発音が正しくなっていく。


「ソウルイーターか。なかなかいい名前ね」

「名前が決まったな。次は発動条件とかあるのか?」

「発動条件? そうね出きれば発動するときは相手の体に直接触れてほしいかな。相手が離れていたり、ほかのものが間にあると発動から吸収までの時間がかかるから」

「それじゃ、はじめのうちは相手に触れてからスキル名を言ってからスキル発動した方が分かりやすいし確実だな」


 ティアとトールは話し合いながらどんどんスキルの使い方から戦い方、予想される事態の対応などをきめていった。



「そろそろ実践しよう。このまま話してても仕方ないでしょ」


 ある程度計画が煮詰まってくるとティアが再び楽しそうな声をあげる。


「そうだな、それじゃあ決めた通りに頼むよ」


 特に断る理由もないトールもそれを了承した。身の危険はあるものの、ある程度のティアのサポートが受けられるし、前に戦ったスライムの対処方法も決めた。考えられる手はすべて打っている。

 トールは岩に上ると高所から辺りを見渡す。草の動きから戦うための条件、一体だけ孤立したスライムを探すのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



トールはスライムと対峙していた。本来は背後を取り不意うちするのが理想だったのだが、どうやらスライムは背後の状況も認識できるようで、ある程度近づくとこちらへと近づいてきたのだ。

「いい、トール。スライムの攻撃はまともに受ければ致命傷になるけど、しっかりと防御すれば肉体だけの防御でも十分に耐えられる。使えないナイフなんかに気をとられるくらいなら、素手でもいいからしっかりと守りながら戦うこと」

「わかってる。ティアもスキル発動のタイミングを頼むな」


 トールはティアは互いに決めたことを確認しながら、相手の動きに注意をくばる。そして、ひときわ平たくなるスライムの動きを確認した瞬間、斜め後方へと跳んだ。次の瞬間トールの予想通りスライムが飛びかかってきた。

 スライムはトールのいた場所を通過し、後方へとんだトールの真横に着地した。この瞬間を狙っていたトールはすかさず手を伸ばしてスライムに触れると、叫んだ。


「ソウルイーター」

「離れて!」


 スキル名を叫んでから一拍おいてティアが声をかける。スキル完了の合図だ。トールにはいつスキルが発動したのか全くわからなかった。わかったのは水風船のようにヒンヤリぽよぽよしたスライムの感触だけだった。

 しかし、そんなことはどうでもよかった。問題なのはティアの発した言葉だ。ソウルイーターは本来相手の魂を食らう技なので、基本受けた相手は戦闘不能になる。そのため失敗したりして戦闘不能にできなかったとときは反撃の可能性も考えて『離れて』て言うようにしていたのだ。

 ティアの言葉で状況を判断したトールは一旦スライムと距離をとろうとしたが、スライムはまるで抱っこをせがむ子どものように小さなジャンプ連続で飛びかかってくる。


「ティア、この後は」


 スライムの連続ジャンプを後退でかわしながら、作戦をたてていく。


「待って、もう三、四回挑戦しよう。それで倒せないなら素直に逃げよう」

「えっ、わ、わかった」


 ティアの言葉に動揺したものの、スライムから注意は逸らさない。そして、ひときわ平たく縮んだスライムを確認すると、身構えた。

 スライムは勢いよく飛びかかってくるが、それはトールの予想通りだったため難なくスライムをかわした。そして、ソウルイーターのためにスライムを追いかけ手を伸ばす。


「ソウルイーター」「ソウルイーター」

 

 トールの頭の中で自分の声とティアの声が重なる。

 

バチン

 

 スキル名を叫んだ次の瞬間、強烈な衝撃がスライムに触れていたトールの腕を弾き飛ばした。


「つっ」


 弾かれた腕は多少無理な軌道で体の後ろまでいった。運よく脱臼はしなかったものの痛みで腕を肩より上げることが困難になってしまった。スライムの方は勢いよく地面を転がりながら遠ざかっていく。


「ちょっと肩痛めたからいったん引くな」

「え、ええ、そうね」


 スライムを撃退できたもののトールは肩を負傷したトールは痛めた肩を抑えながら、休憩していた高台に戻っていった。

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