表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/34

28 残り百日

 冒険者協会で話してから時間が経ち、トールに残された時間は残り百日になっている。

 それまでにトールは妖精の地図のメンバーと旅をしながら魂の欠片を集め、訓練を重ねて様々なスキルを身に着けていた。

 その中で一番変わったのは左腕でだ。失った左腕を見事にスライム粘液で再現されており、長袖を着て手袋をしていれば普通の腕と見分けがつかないくらい自然な動きをしている。

 それを可能にしたのは旅の中で訪れた山と火の国マウンテア技国の町の鍛冶屋に作ってもらった腕の骨組みのおかげだ。魔力を骨組みを介して流すことで形状維持をしやすくなり、骨組に関節があるので自然な動かし方が簡単なのだ。まだまだ左手で文字を書いたり手に乗せたコインを指の動きだけで転がしながら移動させるような細かな動きや、はできないが、剣を振ったりは出来るようになったので戦い方の幅が広がった。


 しかし、これほど頑張ったのだがまだまだティアと融合するためのラインには達していないそうだ。それでも冒険者協会での約束を破るわけには行かないトールは、儀式を行うために魔の森と呼ばれる森の手前までやってきていた。もちろん妖精の地図の面々も一緒で、さらに『鈍感牛どんかんうし』という魔物が山積みになった荷車を引いている。


 ちなみに鈍感牛とは人が面倒を見ることで生まれた牛型の魔物でその名の通りかなりマイペースな魔物だ。歩みは遅いものの強敵が現れてもペースを乱さない特性があり、こういった高難易度の場所の荷物運びに重宝されている。


「ほんとに森の中で過ごすのか?」


 妖精の地図のリーダー、牙折りのオルカがトールに尋ねる。

 この魔の森は「巨大な竜が住んでいる」やら、「魔の森で死んだもの不死者として蘇り永遠に癒えぬ乾きに苦しみ続ける」やら、「魔の森に入って帰ってきたものはいない」など恐ろしい話が有名で、それは冒険者なら必ずと言っていいほど耳に入るほどだ。そして、それらの話に真実味をもたせるようかのように魔の森は中心部に進めば進むほど澱んだ魔力が濃くなっているということが観測がされており、魔物は魔力が濃い空間にいるほどそのの魔力を魔石に溜め込みより凶暴に、より凶悪に、より狡猾になるという研究結果も発表されている。

 トールが一緒に行動した印象では、妖精の地図は決して無謀をするようなパーティではなく堅実をを積み重ねれようなパーティーだ。なのでそうした情報でより慎重になっているようだ。


「うん。儀式には大量の魔力が必要だから、この森の魔力も利用するみたい。それにまだまだ魂の強さが足りないからこの森で少しでも魂を強化したい。それに、冒険者は冒険してなんぼじゃないの?」


 トールの言葉に納得をしたのか、オルカは鈍感牛を引いて進み始めた。オルカに続いてトールと他のメンバーが歩いていると、懐かしい場所に出た。

 草が生い茂っている中に何棟もの焼け落ちた家屋、唯一原型を残していた見覚えのあった建物も壁には蔦が這い、窓ガラスも割れた廃墟となっている。

 ここはトールははじめてお世話になった集落だ。悲惨な出来事が起こった場所だがきちんと住人たちを自然の環に返したことがよかったのか、この場の空気は重くはなかった。

 そのためトールはそのまま森の入口まで突っ切ると、振り返って「ここでお世話になったおかげで今の自分がある」という感謝を込めて一礼だけした。




 森の中はあの時と変わらない。しかし、襲いかかる森ゴブリンを躊躇うことなく殺したり、森猪もりいのししを手早く解体したりしているとトールは「自分はだいぶ変わったな」と感じた。

 そんな作業をしながらもトールたちは着実に森の中心部へ足を進めていく。

 しばらく進んでいると森の空気が一変した。今までは湿気の多い青々とした空気だったのだが、この場に足を踏み入れてからはまるで空気に粘性が出てきたかのように肌にまとわりつく。


「ここからが本当の魔の森と言うことか」


 オルカたちも空気が変わった事に気がついたのか辺りを警戒し始める。


「ここは慎重を期して五日くらいをこの辺を拠点にして過ごそうと思う」


 思った以上の空気の変わりっぷりに危機感を覚えたトールは提案した。期限は迫ってはいるが余裕がないわけではない。無理に強行して死んでしまうより、時間をかけてゆっくり進んだほうがよいと判断したのだ。

 妖精の地図の面々もそれに賛同して、拠点を作れそうな場所を探し始めた。


 拠点場所は意外にすぐ見つかった。大木の下なのだが他の木との間が空いており戦いやすい場所だ。


「俺とカラン、フェリが設営するから、イーシユとトールは周りの偵察も兼ねて薪を集めてくれ」


 オルカがテキパキと指示を出す。偵察は普段なら身軽なカランが請け負っているが、森の異質さを考慮して戦闘力に重きを置いた判断をしたようだ。そして、トールにその意図は十分に伝わったので引き受けた。



トールと剣士イーシユは周りを観察しつつ、時折木に目印を刻みながら歩みを進めていく。薪は戻るときにでも拾う予定だ。


「イーシユさん、前方に魔物がいます」


 しばらく歩いていると魂の反応が見えたため、警戒するように伝えた。

 この二百日間の特訓のお陰でトールの目は相手の魂が見えるようにまでなっており、視界内ならティアと同程度の索敵が出来る。

 とりあえず魔物の姿が視認できる位置まで慎重に進んでいく。


「おいトール、魔物ってもしかして、あれか?」


 イーシユが目の前のものを指差してトールに尋ねた。

 イーシユの指差した先には一本の青々とした木が一本立っている。しかし、その木があまりに違和感の感じるものだった。樹高は三メートルほどで周りの木々よりも明らかに低く、他の木の枝葉で日が遮られているのにも関わらず葉が青々としている。


「木に擬態する系の魔物かな。初めて見るね」

「とりあえず戦ってみるか」


 イーシユが飛び出すと背負っている大剣を構えた。木の魔物の方も擬態が意味を成さないことを察したのか「Kieeee」とどうやってあげているのかわからない不気味な声を上げながら動き出した。

 それを確認したトールもイーシユと並ぶと剣を抜く。そして、気がついた。魔物の魔力が地中を移動していることに。


「水盾!」


 トールが大盾を構えると目の前の地面から木の根が三本、槍のように襲いかかってきた。そして、魔物の枝も鞭のようにしなりながらトールを襲う。しかし、どれも大盾で止まると根はスルスルと地中に戻っていき、枝ももとの長さに戻る。

 地中からの全方位奇襲と枝による上方からの鋭い攻撃。厄介な攻撃ではあるが、金級冒険者のイーシユはもとより二百日特訓してきた今のトールなら対処できる。


「後ろから来ます」

「おう」


 トールは地中の魔力の動きから攻撃を予測しイーシユに伝えると、薙ぎ払うように襲いかかる枝の攻撃の対処に向かう。

 盾を斜めに構えて攻撃を頭上の高さまで逸らす。それと同時に「ドゴーン」と爆発のような轟音がイーシユの方からした。どうやら根の攻撃に対して地面ごと攻撃することで対処したようだ。


「トールソウルイーターの方はどうだ?」

「ダメです。枝や根のような末端からは吸収できないみたい。幹に触れてやってみる」

「なら今度はこっちが攻める番だな」


 イーシユの宣言でトールは攻勢に転じる。それに身の危険を感じたのか魔物の攻撃も苛烈になるのだが、魔力が見えるトールはそれらを難なく躱して魔物の幹に触れた。


「ソウルイーター…… できた!」


 自分の中に魔物の魂を取り込む感覚を感じると魂を吸収したことを伝えて、魔物から離れる。イーシユの強力な攻撃に巻き込まれないようにだ。


「よーし、いくぜ」


 意気込んだイーシユが突っ込んでくる。途中、地面からの根っこの奇襲があったものの大剣の重さを利用したローリング回避で躱すと脚力を強化して五メートルほど跳躍した。大剣という重量武器を持っている動きではない。

 しかし、跳んでいるという無防備で動きも読みやすい状態のイーシユを見逃すほど魔物の知能は低くない。地中の魔力、枝葉が迎撃しようと動き始める。


「こっちを見ろ!」


 トールはスキル王命を取り込んだばかりの魔物の魂と関連付けて発動させる。すると、イーシユを迎撃するために準備していた根や枝葉が一気にトールに襲いかかった。

 そして、大盾で攻撃に耐えていると、イーシユによって先程より大きな轟音が響いた。攻撃が止み水で作った大盾を解除すると、そこには唐竹割りを受けて立て二つに切り裂かれた木の魔物の死体があった。


「薪も手に入ったことだし、戻るか」


 軽く言うイーシユ。トールも戦った魔物のことをいち早くパーティーで共有したほうがいいと考えたのでそれに賛成した。


 こうして二人は二つに別れた魔物をそれぞれロープで括ると、ズリズリと引きずりながら拠点に戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ