27 冒険者パーティー『妖精の地図』
「まず、話し始める前に皆さんに知ってもらいたいことがあります。私の魂の名を『シ・イ・ナ・ト・オ・ル』といいます」
トールが魂の名を名乗ったことで会議室がどよめく。
「これから話すことは私の実体験ではありますが、それを証明するような証拠はありません。なので信頼を得る要素として魂の名を名乗りました」
「それを名乗ることの危険性を理解した上でのことなのだな」
「はい」
トールは協会長の問に思いや覚悟が伝わるように真面目に答えた。
「なら、こちらからは何も言うことはない。だが、利用はさせてもらうぞ。『椎名透』よ、この場では真実を話せ」
「わかりました」
魔力を帯びた協会長の言葉がトールの魂を縛る。トールもそれを感じながらもあえて受け入れた。
トールは嘘はつけなくなったが、わざわざスライムを強くしてしまった事など関係のない話は端折りながらも奴らが関係しているはじめの召喚や儀式のこと、森の集落の出来事は詳しく話した。
そうしてトールが妖精の地図と戦うところまで話したところで、聞いていた人たちは面倒な話に頭を抱えたり、トールに同情したりと五者五様の反応をしている。
一通り現状を話し終えたトールはティアの助けを経て協会長の魂の縛りを解く。これからが本番なのである。
「先に話したとおり、私には元の世界に戻る、ティアには強くなるという目的があり、それぞれが関係しあっています。しかし、魔力のない世界から来た私の肉体はティアの力には脆弱なのでティアには魂を極限まで抑え込んでもらっていますが、それでも限界があります」
他の人達も真剣にトールの聞いている。
「限界を迎えたらどうなるの?」
フェリが質問する。
「限界を迎えると抑え込んでいた魔力が暴走して爆発するらしいです。爆発はここで起きたとして隣国の領都は軽く巻き込むようです。ここらへんの知識は私にはないので、ティアの言葉をそのまま伝えてます」
トールの話を聞いて妖精の地図のメンバーは青ざめた。そんな危険な状態のトールが死にそうになったところを目の当たりにしていたし、自分たちも敵認定して殺そうとしていたのだから。
「そして、どんなにティアが魂を抑えてもあと三百日程度で私の体が限界を迎えるそうです」
現状の問題を全部提示した。周りの空気はかなり重い。ここで思わず縋り付きたくなるような解決案を示す。
「魔力の暴走を抑える方法はティアから教えてもらってます」
トールが言葉を発すると注目が一気に集まる。
「ティアが強くなるためには強くなった私の魂と融合する必要があるのですが、その融合する儀式の過程で溜め込んでいた魔力を消費するそうです」
「なら今すぐ……」
協会長から予想していた言葉が飛び出てきたので、トールはすかさずそれに返した。
「今すぐ一つになるつもりは私にもティアにもありません。私の魂が強くならないと融合しようとしても一方的に取り込まれるだけでなので」
「しかしこの街のことを考えると……」
「ここまで言うつもりはありませんでしたが、私は勝手にこの世界に連れてこられた人間です。なので、この世界に対して愛着といった感情はありません。それはティアにとっても同じだそうです。私たちにとっては自分たちの目的がこの世界より大事なんです」
トールの宣言で再び会議室が重たい空気に包まれる。
「私もこの世界に来てツリルさんやウルなど良い人たちと出会えました。なので、期限内には必ず儀式を行うことをお約束します」
トールの言葉で部屋の空気が再び動き出した。それを感じたトールはここで最難関のお願いをすることにした。
「そこで、最良の結果が得られるように禁術にあたるソウルイーターの使用を黙認していただきたいです」
「禁術と言ったが、詳しい話を聞かせてくれ」
「ソウルイーターは相手の魂の欠片を奪って吸収するスキルです。これを使って他の魂を吸収することで私は強くなれるんです。奪う魂はほんの僅かなため相手への影響はほとんど無いと思います」
この場で一番権限のある協会長が悩む。
「影響はないというが一応そのソウルイーターというのを体感しときたい」
「協会長! それなら私達が」
協会長の大胆発言に妖精の地図が反応した。この街の冒険者をまとめる者が危険に身を晒そうというのだから当然だ。しかし、トールは別の意味で困っていた。
「あのぉ、すみませんがここにいる人達の魂を吸収するのは無理です。ソウルイーターでの魂の吸収は一人一回のみで、二回目以降は魂同士が反発してしまうんです」
「それはすでに俺達がそのソウルイーターをすでに受けているということか?」
「はい。協会長はいつしたのかわかりませんが私の中に魂があります、冒険者の方たちはゴブリンキングと一緒に吸収しています」
「……トール、ちょっと来い」
少し考えた協会長はおもむろに席を立ち部屋の扉の所にトールを呼びつけた。
「ここから見てソウルイーターを出来るやつはいるか?」
「えーっと、奥の棚に向かっている方はまだ魂を吸収していません」
「そうか…… おい……」
協会長は近くの職員を呼びつけると、トールは教えた職員に手が空いたら来るようにと言伝を頼んだ。再び席に戻る協会長だがその表情は罪悪感からか苦虫を噛み潰したようだった。
人体実験に自分の部下を差し出すのだからトールにもその気持を察することは出来る。
「ほんと相手にはほとんど影響がないのは確かですから安心してくださ。協会長さんも今まで気が付かないくらいですから」
出来る限りの安心材料を提供する。
「ところで彼が来たとしてどうしますか? ソウルイーターのことを彼に伝えますか?」
「いや、気づかれれないようにやってくれ。秘密を守る上でも知る人数は少ないほうがいい」
「わかりました。彼のそれとなく触れて発動させます」
そんな会話をしているうちに会議室の扉がノックされた。
「入っていいぞ」
協会長が威厳のある声で許可を出すと、「しつれいいたします」とトールが示した職員が礼儀正しく入ってきた。
「あの、何のようでしょうか?」
職員は喚ばれた理由に覚えが無いためかかなり不安そうな様子だ。
「そんな気を詰めなくていい。ちょっと彼を紹介しようという話になっただけだ」
協会長がそっと目配せをしてきた。
「はじめまして、トールといいます。ここの職員さんですよね?」
トールはにこやかに近づくと自然と握手を求める手を出した。それに職員は「あ、はい」と答えながら応じた。
「話の流れで、あなたに会ったこと無いという話になったので、顔通しという形で来ていただいたんです。お仕事の途中で申し訳ありません」
「ちょっと私からもいいかしら?」
トールが職員に説明していると、フェリが席を立ち近づいてきた。
「ちょっと君、いま違和感を感じたり、体長が悪くなったりしてない?」
トールと握手していた手を取るとその手を観察しながら質問していく。唐突な出来事に職員は質問にハイや大丈夫など簡単な答えしか返せないでした。
「そう、魔力の流れも異常ないわね。ありがとう、もういいわ」
一通り調べ終えたフェリは席に戻っていった。
「えーと、彼はもう大丈夫ですよね?」
今度はトールが協会長に目配せをした。
「ああ、もう大丈夫だ。仕事に戻ってくれ」
上司に言われた職員はその言葉に従い、部屋を出ていった。
「で、フェリ、彼はどうだったんだ?」
職員が居なくなったところでオルカが話を切り出した。
「魔力の流れもなんの異常はなかった。本当に禁術を発動したのか疑うくらいに」
「わかった。とりあえずトールの処遇を決めることにする」
協会長が場の雰囲気を締める。
「まずこの話は協会本会長を通して議会にかけることにする。禁術のソウルイーターについても議会に報告する。おそらく許可は降りるだろう。そして、協会として正式に妖精の地図に指名依頼を出す。内容はトールの護衛と監視だ」
協会長の言葉に妖精の地図の面々は頷く。
「トール、私たちとしては融合の儀式を行うのであれば君の行動を制限するつもりはない。ただし、強い魔物や事故などで君が死んで魔力が暴走することを防ぐために今後は妖精の地図と行動をともにしてほしい」
その申し出はトールにとっても利のあるものだ。戦い慣れたものがそばにいればそれだけ安全になるし、戦い方やスキルの特訓も出来る。断る理由もないので、トールはそれを受け入れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
冒険者協会での話を終えたトールは宿屋のベッドで横になってこれからのことを考えていた。
明日からは冒険者パーティー妖精の地図と行動をともにすることになる。冒険に慣れた彼らがいれば多少強引に強い魔物のいる場所にも旅ができそうだ。明日、彼らと旅についての話をしていこう。
こうして考えているうち、トールはいつの間にか眠ってしまっていた。




