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25 完全ソウルイーター

 体が砕けるかと思えるほど衝撃を受け吹き飛ばされるトール。あまりの衝撃に視界が点滅し始める。


「意識をしっかり持って、取り込んだ魂で肉体にしがみつくの」


 体が重たく動かぜず手足の先が冷たくなっていく中、必死に意識を保っていると視界の点滅も体の異変も次第に収まっていく。そして、ようやくはっきりとした視界で捉えたのは息も絶え絶えなエメラルダの姿だった。

 その瞬間、ゴブリンキングの棍棒が直撃する直前の景色が脳裏に浮かんだ。為すすべなく棍棒が直撃する直前、エメラルダが懐からスルッと棍棒とトールの間に飛び出たのだ。エメラルダというクッション越しの攻撃だったためトールは大ダメージを負いながらも致命傷は避けられていたのだ。

 ようよう体が動かせるようにはなってきたが、まだ体を起こす力は出ないトールはズリズリと這うようにエメラルダのそばにいく。しかし、エメラルダのそばに行ったことでエメラルダの絶望的な状況を認識することになった。エメラルダの腹部から下が無くなっていたのだ。それでも、エメラルダはトールの方を見て「ギ、ギ」と消え入る声で鳴いている。


「エメラルダ、今助けるからな」


 トールは必死にエメラルダに手を伸ばした。するとエメラルダの少しずつトールの方に手を動かす。しかしその度にエメラルダは激痛で表情が歪み「ギー」とうめき声が上がる。それでもエメラルダは手を動かし続けて終に二人は触れ合うことができた。


「ギー」


 ひときわ強くエメラルダがなく。


「どうした? 心配するな、絶対助けてやるから」


 トールの言葉にエメラルダは小さく首を振る。そして、もう一度強く鳴いた。


「守ってあげるって約束しただろう。だから心配……」

「トール!」


 脳内にティアの怒号が響く。


「分かってるんでしょ、エメラルダが本当に望んでいること」

「……」


 ティアの言葉にトールは押し黙るしかできななかった。ティアの言う通りはじめに取り込んだエメラルダの魂が訴えきているのだ。「吸収して」と。


「今、こうしていられるのは彼女の強い想いが魂を肉体にしがみつかせているだけ。このままじゃ彼女の魂はすぐにでも魂は世界に溶けていくよ…… その思いと一緒に」

「くっ…… ソウルイーター」


 ティアの言葉でようやくエメラルダの想いに応える覚悟を決めると、エメラルダの手をギュッと握りソウルイーター発動させた。

 いつもなら反発して弾かれるはのだが、今回はスーッと大きな力が握った手から流れ込んできて、ストンと落ち着いた。

 体の底から魔力が溢れ、体が魔力で強化される。ダメージがなくなったわけではないが体が強化されたことにより無理すれば動けるようになった。


 ここまでトール追い込んだゴブリンキングはというと、思いっきりトールを吹き飛ばしたことで勝利を確信したのか再び冒険者と戦っていた。

 しかし、手下ゴブリンの大半を失い、トールを倒すために受けた爆発魔法のダメージを受けたことによってかなり追い込めれていた。


「Guooon」


 そして、ついにゴブリンキングは断末魔を上げて倒れた。

 それを確認したトールはふらつきながらも、敵意がないことを示すため手を上げたまま冒険者に近づいていった。

 冒険者の方もトールの意が伝わったのか武器を構えながらも攻撃はしてこない。


「こちらに攻撃の意思はありません。できれば話を聞いていただけませんか」

「そっちはすでに禁術を用いて私たちを攻撃しているの。信用できません」


 声が届くところまで近づいたトールは冒険者パーティーに話しかけた。そして、それに魔術師の女性が答えた。おそらく彼女が言っている禁術とはソウルイーターのことなのだろう。


「それについてはこちらの力不足で仕方なかったこととはいえ、巻き込んでしまい申し訳ありません」


 トールの謝罪は受け入れてもらえるのか、冒険者パーティーは話し合いを始めた。その間も一人はトールへの警戒は緩めない。そして、結果が出たのか魔術師が話しかけてきた。


「一応話は聞きましょう。ですが、その前にこの封魂の環を着けてもらいます」

「あの、封魂の環とはなんですか?」

「封魂の環は魂の力を一時的に極限まで抑制することで魔力を封じたり身体能力をを弱体化させる魔道具よ。罪人にとかに使うやつね」

「魂の力を封じる……」


 魔術師の説明に一抹の不安を感じるトール。そっとティアと相談した。


「ティア、あの魔道具を身につけたらヤバいんじゃ」

「ええ、おそらく私の魂を押さえつけている私の力も封じられる。私の魂はあんなもので縛られるものじゃないから、私の押さえが外れた途端私の魔力で魔道具は壊れるはずなんだけど……」

「期限が減るかぁ」


 その結論にたどり着いたトールは、環の身につけを拒否することにした。


「すみません。魔道具を身につけるのはかなり都合の悪いです。私の中にはかなり強い存在があって、それを押さえつけている力も抑制されてしまうかもしれないんです」

「何言っているの? そんな特別な痛い妄想は子どもがするものよ。リーダー、話が進まないから強引にでも着けてもらいましょう」


 魔術師がそう言うと、銀の鎧で大盾を背負った男がトールの腕を取った。そして、手が抜けないようにしっかりと脇で抑え込むと、環をトールの腕に通した。

 その瞬間だった。


「うおっ」「なっ」「うわっ」「……」


 腕輪が粉々に砕けると同時に大盾リーダーと剣士、弓師は何かを感じ取ったのか一気にトールから距離をとった。

 一方トールも環を着けられた瞬間、まるで自分の内側を食われるかのような苦痛を味わった。それは現実では一瞬の出来事だったのだろうが、トールには十数秒に引き伸ばされたように長時間の苦しみ経験した。そのせいでトール立てなくなるほど体力を消耗し、呼吸が荒くなった。


「お前、何をやった」


 リーダーと剣士が殺気立ちそれぞれ武器に手をかける。


「フェリ、しっかりして。フェリ」


 弓師の悲痛な声が響き渡る。全員の注意がそちらを向けると、そこには立ったまま体を硬直させる魔術師がいた。

 意識はあるようだが口の端からは泡を吹き、硬直した体は瞬きすらせず、手は細かく痙攣したいた。そして、上手く呼吸ができていないようでみるみる唇が紫に染まり、顔が青白くなっていく。


「まずい。リーダー、フェリをしっかり支えていてくれ」


 剣士はそう言うと、リーダーに支えられた魔術師のみぞおちを殴った。

 殴られた魔術師は「がはっ」と体の中の空気を吐き出すとそのままぐったりと意識を失い項垂れた。

 リーダーがゆっくりと魔術師を座らせ自分により掛からせると、平静を取り戻した弓師がポーチから小瓶を取り出して魔術師の鼻に近づけた。すると、魔術師が軽く咳き込んで目覚めた。


「良かった、これ回復薬だから一応飲んでおいて」


 意識が戻った魔術師に弓師が別の小瓶を渡した。魔術師も落ち着きを取り戻したようで渡された回復薬を飲んでいが、トールの目線が合った途端、「いやぁぁぁ」と手に持っていた回復薬の瓶をトールに投げつけて後ずさろうとし始めた。再びパニックに陥ったのか過呼吸の症状も出始める。


「大丈夫だから。今はもう完全に抑え込んでいるから大丈夫だから。大丈夫だから…… 大丈夫…… 大丈夫」


 トールは魔術師を落ち着かせるために言葉を次第にゆっくりにしていく。

 それが功を奏したのか、魔術師は次第に平静を取り戻していき「ごめんなさい」といって立ち上がれるくらいまで回復した。


「君……」

「トールです」

「トールが話したいことって、その中の存在にも関係していることかな?」

「はい」

「そう…… トール、確認するけど何もしなければさっきみたいに魔力が漏れ出ることはないのよね」

「はい。先程のは環を嵌められたことによって起きた事故のようなものなので、普段はああいったことは起こりません」

「そう。あと、敵対するつもりもないのよね」

「もちろんです」


 トールとのやり取りを経て魔術師は一つの提案をリーダーに提案した。

「トールの処分は冒険者協会に任せたほうがいいかもしれない。さっきの魔力も尋常じゃなくて確実に私たちの手に余る案件だから」


 この提案はリーダーも魔術師の様子を目の当たりにしていたた受け入れた。


「そういうことだから、トールには冒険者協会までついてきてもらう」

「わかりました」

「それじゃあ、身軽なカランは一旦街に戻ってゴブリンキングを運ぶ荷車の用意と協会に話を通しておいてくれ。俺とイーシユは倒したゴブリンキングとゴブリンの処理をする。フェリは負担だと思うがトールの監視を頼む」


 リーダーがテキパキと指示を出すと客員それぞれ行動に移っていった。弓師は街に向かって走り出し、リーダーと剣士はゴブリンキングの死体を盗賊鷹から守りながら、手下ゴブリンから魔石を抜いていく。そして魔術師はトールの横に座った。

 特に指示を受けていないトールだったが、リーダーたちを見てどうしてもやりたいことができた。


「魔術師さん、ちょっとあそこに行きたいのですが、よいでしょうか?」


 トールが指したのはエメラルダの遺体のある場所。魔術師もそれが分かったのか許可を出して付き添ってくれた。


「このゴブリン、あなたの従魔だったのね」


 エメラルダの遺体を前に魔術師が話しかけてきた。


「ええ、期間は短かったでしたがかけがえのない相棒でした…… 私の失敗のツケをエメラルダに支払わせてしまいました」


 己が罪を懺悔するように言葉が次から次へと口をつく。


「慎重に動けば魔術師さんたちと共闘する道も選べたんです。ですが、私は目の前の大量の獲物を前に一番効率が良いだけの道を選んでしまった。その結果、魔術師さんたちと敵対し、ゴブリンたちに囲まれて退けず、ゴブリンキングからも簒奪者として敵視もされてしまいました。その結果が……」

「その話、まだ続くの? あなたとゴブリンのことなんて私に関係ないんだけど。まぁ、それでも助言するならいつまでも自分を責めてウジウジウジウジしているのなら死んだゴブリンの魂も還るに還れないね」


 全くそのとおりで魔術師の言葉にトールは言葉を返せない。トールは心を落ち着かせるとエメラルダの胸を解体用のナイフで開いていく。そして、心臓にひっついたきれいな緑の魔石を回収した。


「話聞いてくれて、ありがとうございました」

「あなたが勝手に話しただけよ。それにしてもきれいな魔石ね。魔石といえば『魔石は魔獣の心が具現化したもの』という話があったわね。まぁ、おとぎ話なんだけど」


 魔術師は冗談のように言った話だったが、トールには不思議と素直に受け入れられた。そして、今、手の中にあるエメラルダの心を大切に抱きしめた。

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