24 ゴブリンキングと冒険者
改めてトールは街道を外れた草原へ狩りに出ていた。その手には長さが一メートルほどの紐が握られている。その紐は二折になっており曲げているところは幅をもたせている。これは投石紐やスリングと呼ばれる武器で、武器で遠距離攻撃をすればいいのではと思いついたトールが朝一に武器屋で見繕ってもらったものだ。
遠方に三角兎を見つけるとトールは道中で集めていた石を袋部分に乗せる。そして、ゆっくりと回して紐がピンと張った状態を維持しながら狙いを定める。
「今だ!」
狙いが定まると紐を思いっきり振りながら、紐の端を手放した。袋部に乗せた石はその勢いに乗ってシュルルルと空気を裂く音を立てながら飛んでいった。空の彼方に……。
あまりのノーコンさにトールたちは無言で石を見送る。兎も一瞬音の方角を気にした素振りを見せたが、危険はなしと判断したのか草を食べ始めた。
「初めてだからしょうがない。練習練習。さっきのは手を離すタイミングが早かったから次は……」
自分に言い聞かせるように二投目の用意をする。二射目からはエメラルダに石を載せてもらった。
二射目は紐を放すタイミングが遅すぎたようで、地面に叩きつけるかたちになった。
続けて三投、五投、十投と回数を重ねるごとに少しづつ兎へと石が近づいていく。そして、二十投目が兎の傍の地面を叩いた。それには流石に兎も身の危険を感じたようで、ぴょんぴょんと草原の奥へ逃げていった。
兎は居なくなったが、先程の手応えを忘れたくないトールはそのまま投石の練習を続けた。
五十投もするとスライムのシューターたちが持っていた『投擲』のスキルも馴染んできているようで、投げた石も狙った位置に集まるようになった。
投石攻撃の手応えを感じてきたトールは、再び狩れそうな魔物を探し始めた。
「トール、このまままっすぐ」
ティアのナビゲート通りに進むと再び兎を発見できた。寝ていたり食事していて一箇所にとどまっている訳ではないので、不規則に動いてはいるが警戒心はまだ高くないようだ。
トールは投石紐を回しながら慎重に狙いを定めていく。投擲術のスキルのおかげか、狙いへの理想的な射線がイメージとして浮き上がっている。
「いけっ!」
渾身の力で投げた石は理想の射線よりは低い弾道だが、理想より勢いよく飛んでいく。そして、兎の後ろ足に命中した。
兎は石が当たった瞬間、跳びはねたものの足が折れたようでバランスを崩したまま上手く動けないようだった。
トールは急いで兎にかけ寄ると手早くソウルイーターと止めをさす。魔物とはいえ無意味に苦痛を長引かせることはやりたくはなかったのですぐにとどめを刺したが、懸命に生きようとする命を一方的に奪うのはまだまだ精神的にクるものがある。
しっかしと仕留めた獲物を急いで袋に入れるトール。この袋は武器屋のおっちゃんに盗賊鷹対策を相談したところ、「襲われないようにしろ」というアドバイスのもと紹介された商品で、防水・防臭・防腐処理がされている。
「よし、もうちょっと狩って行くか」
「ギーギー」
トールの提案にエメラルダが携えたナイフを叩きながらノリノリに返事をする。今回は石拾い程度しかしていないか
ら、もっと活躍したいという意思表示なのだろう。
「次はエメラルダに跳んでもらおうかな」
「ギッギー」
トールがそう伝えると、エメラルダは嬉しそうに鳴いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二体目の狩りも大成功だった。エメラルダの大跳躍の着地地点がトールが投擲のスキルを鍛えたこともあって兎とドンピシャの位置だったので、エメラルダがそのまま兎の頭部に棍棒の強烈な一撃を入れて終わった。
二体目の獲物の処理が終えるとエメラルダがトールの服の裾を何度も引っぱり、遠くを指差しながらギーギーと何かを伝えてくる。
「なにかあるのか?」
エメラルダに案内されて暫く行くと、何かと何かが戦ったいる所についた。爆発音に打撃音や金属音が鳴り響いている。
物陰に隠れながらよくよく観察すると、戦っている片方は巨大な人型の魔物だった。肌の色や鳴き声からおそらくゴブリンの一種だと思われる。そして巨大ゴブリンの周りには大量のゴブリンが取り巻いていた。
それらに対するのは四人組の冒険者パーティーのようで、隙きなく連携が取れているように見えた。特に銀色の鎧を身にまとい大盾を構える前衛の戦い方には眼を見張るものがあった。何かのスキルなのか、魔物の攻撃の殆どはその前衛に集中しており、そのすべてを受け止めていた。いや、受け止めるどころか、相手の攻撃に合わせて別のスキルを発動させているようで、攻撃してきた魔物のほうがダメージを負っている。
弓師が遠くの敵を牽制しつつ盾役が集めた敵を魔術師が爆発魔法で一気に倒したり、ダメージを受けて動きが鈍った魔物を剣士が大剣でとどめを刺す。盾役を中心にパーティーがよく機能していることが分かった。
このままいけば冒険者パーティーが勝ちそうなのだが、ただこのまま見ているだけではもったいないと感じた。大量の魔物に珍しい巨大ゴブリン。これらの魂を吸収できればそれなりに魂が強化できそうだ。
「エメラルダ、一気に行くから着いてきてね」
エメラルダに伝えるとトールは一気に飛び出た。目指すは戦いの中心地。そこで以前考えた範囲式のソウルイーターを発動させれば効率よく魂を吸収できると考えたのだ。ちなみに、範囲式ソウルイーターはまだ構想段階である。
走り込むトールに気がついた取り巻きゴブリンが襲ってきたが、それはエメラルダと共闘して難なく突破する。そして戦いの中心地にたどり着くとスキルを発動させた。
「魔力領域展開!」
ドーム状になるようにイメージしながら魔力を放出させる。するとドーム内の状況が感覚的に把握できた。
「ソウルイーター!」
十分な数が魔力領域の内側にはいるまで魔力を広げると、感じる全ての対象に対してソウルイーターを発動させた。
その瞬間、大量の魂が流れ込んできたことによりトールの意識が混濁してしまった。
「トール!」「ギギッ」
脳内にティアの声が響き、エメラルダが駆け寄ってくる。
トールは意識は失わずにはいたものの、片膝をついて動ける状態ではなかった。
「Guoooo」
戦場に巨大ゴブリンの声が響き渡る。その声にトールの中のゴブリンの魂がざわつき始めた。
(王様に従う)(邪魔者を殺す)
大量のゴブリンの魂の思いがトールの思考を支配していく。
「トール、しっかりしなさい。まず、トールの中の巨大ゴブリンの魂を取り込むの」
薄れる意識をどうにか集中させ自分の内側で暴れる魂を把握する。そして、五つの他とは異なる魂を見つけた。
経験から四つは人間の魂とわかる。残った一つを取り込むように集中した。
動けないトール。巨大ゴブリンはじめ殆どのゴブリンは冒険者の方につきっきりだったが、取り巻きゴブリンの一部がトールに襲いかかってきている。それをエメラルダが一人でいなしながらトールを守っていた。
エメラルダに守ってもらっている間に巨大ゴブリンの魂を取り込めたトールは思いっきり吠えた。
「Gooon」
トールが人とは思えないような声で吠えるとゴブリンたちの動きが止まった。ゴブリンたちは辺りをキョロキョロと見回してどうすればいいのか迷っているようだった。
トールの上げた叫びは取り込んだばかりの巨大ゴブリンが持っていた魔力を帯びた声で同族の魂を従わせるスキル『王命』、まさにゴブリンキングのスキルだ。トールはそのスキルで攻撃をやめる命令を出したのだ。
トールの王命スキルは低レベルで従わせられる時間はほんの一瞬だったが、いきなり別の命令が跳んできたゴブリンたちは混乱していた。
「Guoooo」
ゴブリンキングがすかさず王命スキルの雄叫びをあげることでゴブリンたちの主導権を取り戻したようだ。それと同時にトールへの攻撃を命令を下したようででトールに対する攻撃が激化してていく。
しかし、トールもゴブリンキングの魂を取り込んだことで、大量に取り込んだゴブリンの魂をの平定して動けるようになっていた。エメラルダと協力して襲いかかるゴブリンを撃退していく。
「トール、正面に盾」
ゴブリンの攻撃を剣で受けた直後、ティアが指示してきた。その言葉通りに自分とエメラルダを守る水の盾を作り出した直後に大気を震わすほどの轟音とともに灼熱の衝撃波が駆け抜ける。
「トール!」「ギギ!」
ティアとエメラルダの声で爆発の防御に集中していたトールは自分が影に覆われていることに気がついた。慌てて視線を上げるとそこには全身に火傷を負いながらも巨大な棍棒を振りかぶるゴブリンキングの姿があった。
どうやら王命スキルを使ったことで、キングの立場を簒奪するものとして認識して一番敵意を向けてきたようだ。
冒険者の方もトールに敵意が向いたことを利用して体勢を立て直しているようだ。
(盾で、いやさっき使ったばっかりで水が足りない。残ってる水でピンポイントできるだけ防御を)
考えが空回りするだけで上手く魔力を操作できない。
トールの為すすべのないままゴブリンキングの棍棒が振り抜かれた。




