23 遠距離攻撃問題
「よし、三角兎は切り傷が大きいから銅貨七枚、盗賊鷹は綺麗に仕留めているから銀貨三枚で引き取るぞ」
「はい、それでおねがいします」
「よし、それじゃあこの木札を受付の姉ちゃんに渡しな」
解体場のおっちゃんが換金用の木札を雑に投げ渡してきた。どうやらすぐにでも解体を始めるようだ。トールはとりあえず受け取った木札を換金するために隣の冒険者協会に向かった。
「あ、終わりましたか」
トールに気がついた受付嬢が声をかけてきた。実はトールははじめ獲物を持ったまま冒険者協会に入ったのだが、大慌ての受付嬢に受付嬢に隣の解体場を案内してもらったのだ。そしてその後、血などで汚れるため討伐した獲物や討伐証明部位などは解体場に持ち込んで下さいと厳重注意をうけた。
トールとしてはそんな説明はなかったと言いたかったが、言ったところでなんにもならないと思ったので「今後気をつけます」の一言だけでこの話題を終わらせていた。
「これの換金をお願いします」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
トールが受付嬢に木札を渡すと受付嬢は奥へと硬貨を取りに行った。
そんな受付嬢と入れ違うように乱暴に冒険者協会が扉が開けられ、三人の男たちが入ってきた。
あまりに乱暴な入室で大きな音もたったため、トールは思わずそちらを注目してしまった。
「おお、いたいた」
先頭の男がトールの方に見線を向けると、ニヤニヤ笑いながら近づいてくる。
「お前が、盗賊鷹を倒した冒険者だな」
「えーと……」
「別に隠さなくてもいい。ゴブリンを連れた見慣れない冒険者が盗賊鷹と三角兎を担いで冒険者協会に向かったという情報は掴んでいるんだ。お前なんだろ」
どうやら冒険者協会に着くまでにかなり目立っていたようだ。男の相手をするのはかなり面倒臭そうだが、そこまで情報を掴まれているのなら嘘などで下手にごまかすより素直に応対したほうが良さそうだ。
「盗賊鷹を運良く倒せました。今、換金してもらっているところです」
「そうかそうか。喜べ、俺達と徒党を組ませてやるよ」
「はいぃ?」
トールはあまりに予想外の言葉に思わず素で聞き返してしまった。
言語統制魔法の影響か、難しい日本語に訳されてはいるが要はパーティーに入ってほしいということだろうが、それでも彼の思考が理解できない。
「えーと、お断りさせていただきます。どこの誰だかも分からないパーティーに入ろうとは思えないです。それに……」
「そうかそうか、そういえばそうだな。この街の冒険者でないのなら俺達のことを知らなくてもしょうがないな」
トールはまだ言葉を続けるつもりだったが、男が合点がいったという表情で話を遮ってきた。自己中心的で人の話を最後まで聞かない。面倒くささがマックスな人種だ。
「いいか、よく聞けよ。俺達はな……」
「硬貨の用意ができました」
タイミングよく受付嬢が戻ってきた。男は構わず喋ってはいるが、トールは興味も関心もないためそのままほったったまま、硬貨を受け取りエメラルダに仕舞わせた。そして、上手くできたエメラルダの頭を撫でて褒めていると、ようやく喋っていた男が反応した。
「って、聞けよ!」
「すみません、色々することが多くて。それに、私はまだ旅の途中なのでパーティーを組むつもりはないんです」
男の見事なノリツッコミに感心しながらも、トールは丁寧に断りの文言を伝えた。
「それに、ご覧の通り私は隻腕でこの子がいなければ日常生活に支障が出るくらい不便なんです。そんな私があなた方のような一流の冒険者パーティーのお役に立てるとは思えないんです」
ダメ押しとばかりに自分のネガティブキャンペーンをする。こっそりと相手をヨイショする文言も付け加えて。
「それもそうだな。危うく使えないやつを入れた状態で『妖精の地図』と会うところだった。もうお前には用は無いから好きにしていいぞ」
男たちは勝手なことを言いながら冒険者協会を出ていく。トールは身勝手な言葉にカチンと頭にきたもののどうにか文句を飲み込んで男たちを見送った。
「はぁぁぁ、何だったんだあの人達は」
「さぁ、この街の冒険者みたいですが、私も見覚えがないですね」
どうやらあの人達は態度こそ大きかったものの有名なパーティーではなかったようだ。しかし、気になることも言っていた。
「妖精の地図っていうのは?」
トールは受付嬢に尋ねと、かなり有名らしくスラスラと説明し始めた。
「『妖精の地図』は魔銀級冒険者『牙折りのオルカ』が率いてるパーティーよ」
「魔銀って金級より上ですよね」
「ええ、金級は協会の試験を突破すれば基本誰でもなれるけど、その上のいわゆる魔級に上がるためには能力や実績、人間性を協会が把握して認める必要があるからね」
「なぜそんなすごい人がこの街に?」
「流石にそれは教えられませんよ。依頼内容に関係してきますから」
しっかりと守秘義務を果たす受付嬢。とりあえず欲しい情報を得られたトールは少し早いが宿屋に戻ることにした。三角兎や盗賊鷹との戦い方をもっと煮詰める必要を感じたからだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
宿屋の部屋に戻ったトールはベッドに腰掛けてティアと戦闘に対しての意見の交換を行う。エメラルダは窓から外を眺めるのが気に入ったようで、一直線に窓に向かった。
「さてと、周辺の魔物と戦ってみんだけど、やっぱり遠距離の攻撃手段がほしいな」
「やはりそこが問題よね。エメラルダがいなかったら空飛ぶ鷹には手足も出ないし、兎には近づけもしないしね」
「今のところ、遠距離攻撃に使えそうなスキルは水魔術だなんだよね」
「そうね、大量に吸収したスライムの魂が持っていた水魔術が一番完成度が高いね」
「水魔術の遠距離攻撃かぁ」
トールはうーんと頭をひねる。前に物語でよく出る水の球をぶつける「ウォーターボール」や鉄板をも切断する「ウォーターカッター」を試してみたが、現実では再現不可能だった。ウォーターボールは相手を濡らす程度だったし、ウォーターカッターは勢いに水が負けてすぐに霧散していた。
「スライムのようになにか弾を撃ち出してみたら?」
ティアの提案にトールはハッとなった。そして、意識をスライムの魂に集中させる。すると、今まで気にかけていなかった一つのスキルが気がついた。
『魔動粘液』……これはスライムの核の中にある魔動粘液生成器官を扱う技術だ。人間にはない器官を扱う技術だったため、トールはこのスキルを無意識に無視していた。しかし、改めて意識してみると魔動粘液の役割や動かし方などのスライムの本能として魂に刻まれた情報を知ることができた。この情報とトールが今まで触れたり、食べたりして得た魔動粘液の情報を合わせれば、水魔術適性のスキルの応用で粘液の再現ができそうだ。
「ティア、スライムのあの粘液を再現できるかもしれない」
トールはティアにそう報告すると、手のひらに粘液を生成するよう魔力を集中させる。
「くっ……」
まるで初めて水を生成したときのように魔力がどんどん消費されていくが、手のひらに変化はない。
高い集中力を維持するためにかなり体力も消費する。呼吸が荒くなり額に汗が滲んでくる頃、ようやく米粒大の粘液が生成された。そして、そこからもうひと踏ん張りして小豆大の粘液を生成して限界を迎えた。
手のひらにはコロコロとした球形の粘液が転がっている。この粘液は分離型で生成した粘液で内包した魔力で形や性質を維持できるものだ。いわゆるスライムたちが食料としてくれた分体と同じである。
今は効率も何もあったものではないが、魔動粘液のスキルは十分な完成度だ。このまま訓練を続ければ水魔術と同じように練度も上がっていき、将来的には左腕の代わりにもなるだろう。
魔動粘液に将来性を感じて安心したトールは、疲れも相まってそのままベッドに横になった。そして気がついた。
「……遠距離攻撃問題、解決してない」




