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22 兎と鷹

 トールたちがホエールの街を訪れて二十日の時間が経った。その間は予定通り特訓をメインに過ごしたが、そればかりだったわけではない。


 まず冒険者としての仕事をした。鉄級冒険者が受けられる依頼は庭の草むしりから愛玩魔獣の世話、買い出しの荷物持ちやお使いといった無級依頼がほとんどだった。こういった依頼は誰でもできる一方、依頼主の物を預かったり、プライベートの場所にお邪魔することになるため信頼関係が大切になる。トミアのような身なりや言葉遣いをしていたのなら、依頼を断られることは想像に難くない。

 そこでトールはなけなしのお金で身なりを整え、今まで生きてきた経験を活かして丁寧な言葉遣い心がけたところ、エメラルダの存在に驚かれたものの概ね依頼を受けることができた。依頼遂行の際も気になった事柄についても『報告・連絡・相談』を念頭に置いて慎重に行動したおかげで依頼主からの印象も良く、すぐに銅級に昇級する推薦をもらえることができた。


 特訓の成果もかなり出ている。魔力の糸の細さは一ミリ程度、素麺ほどの太さまで細くすることができており、一本ならそこまで意識を割くことなく伸ばすことができ、ソウルイーターの発動もほぼ自動で発動できるようになった。

 ここ数日は出歩くときは魔力の糸を漂わせて、触れた相手の魂の欠片を吸収するようにしているため、吸収した人の魂の欠片の数は百に迫る。そして、魂の欠片を取り込むことでトールの魂の強化され、いくつものスキルを身につけることができた。これで外で魔物に出会っても対処ができる。


 トールの特訓に付き合っていたエメラルダもかなり成長している。

 エメラルダの使う剣術は型などなく剣を振り回すだけの剣術なのだが、体幹がしっかりしてきたのか剣をどんな体勢で振っても隙きが少なく次の振りにスムーズに繋がっいる。トールの剣術の特訓の相手には十分な実力だった。



 トールたちは今、銀級に冒険者の階級を上げるために街の外に魔物を狩りに出ていた。銀級に上がるためには街道周辺に出没する魔物、「草原ゴブリン」「三角兎ミツツノウサギ」「盗賊鷹トウゾクタカ」を倒すことが条件になっている。


「ティア、周囲に魔物は?」

「もう少し奥に行ったところに兎が三体固まっているね。こっちの存在には気がついているみたいだけど、距離があるから気にしていないみたいね」


 街道から外れて草原を探索しながらティアに尋ねた。ティアには魂を感知できる特性で索敵をしてもらっている。


「トールも気をつければ魂を見ることができるはずなんだけどな。前に体を使ったときに相手の魂を読み取ったりしたから」

「……ダメだ、草が倒れているのしか見えない」


 兎がいると思われる場所までは二十メートルほど。ティアが言うように集中して兎がいるという場所を観察してみるが、魂は見えない。


「トールはうまく魂を認識できていないみたいね。ま、これからいろんな魂に触れていけば認識できてくるはずよ。それよりも、そろそろ……」

「ああ、わかってる。エメラルダ、これから兎を狩るから準備をよろしく」

「ギッ!」


 エメラルダが腰のショートソードを叩きながら張り切って返事をする。トールもそっと戦闘準備をする。

 三角兎はその名の通り頭に長い耳と角のような三つの突起を持ち、強靭な後ろ足を持つ体長五十センチメートルから八十センチメートルの四足歩行型の魔物だ。常に長い耳で周囲の音を拾って警戒しており、何かあるとすぐに逃げ出す臆病な魔物だ。しかし、不意な出来事などでパニックに陥ると、その元となったモノに向かって突進するという。そして、強靭な後ろ足は一瞬で体を最高速まで持っていくため、突進を受けた場合はそれなりのダメージを負うことになる。

 それを踏まえ、トールはまず遠くからソウルイーターのための魔力の糸を三本伸ばしていく。すぐ逃げ出す魔物のためソウルイーターをするにはこのタイミングしかないのだ。

 

「トール、右の魔力をもう少し中に入れて…… ああ、全部左に風に流されてる」


 対象を目視できなため、具体的な位置を把握できているティアにナビゲーションをお願いした。


「三本とも真上についたよ。そのまま下ろして」


 ティアの指示通りに魔力の糸を操作しているとスッと魂が入ってくる感覚を感じた。

 トールは魔力の糸を霧散させると、次に水纏・盾を右手に発生させ、盾を上に構えたまま体勢をできるだけ低くとる。そして少し離れて待つエメラルダに合図を出した。

 エメラルダは勢いをつけてトールの盾に飛び乗るとそこから思いっきりジャンプした。トールもそのジャンプに合わせてソウルイーターを発動させる。

 踏み切りとソウルイーターの反発で宙を舞うエメラルダは器用に体勢を整えるてクルリンと一回転して兎たちの真ん前に着地した。


「Gugyaaa」


 抜剣して思いっきり声を上げるエメラルダ。兎たちはいきなり目の前に降ってきた天敵のゴブリンにパニックを起こし、エメラルダに向かって行く。エメラルダはそれら兎を躱すとと同時に一体を切りつけて絶命させる。残った二体はそのままエメラルダを通り抜けて逃げ出した。


「うわぁぁぁ」


 兎を十分に引きつけたところでトールも奇声を上げながら飛び出した。


 いきなり現れた変な生き物に驚く兎たち。ひっくり返るほど急ブレーキをかけると、二、三度足を空回りさせながらも素早く体勢を整えて左右に分かれて逃げていった。


「え?」


 ポツンと一人残されたトール。


「えええ、驚いたらこっちに向かってくるんじゃないの?」

「よくわからないけど、はじめだけなんじゃないの?」

「うわぁ、マジかぁ」


 あまりのがっかり感と恥ずかしさにトールは小さく座り込んでいると、そこへ仕留めた三角兎を手にエメラルダが戻ってきた。その目はランランと輝いておりホメてホメてオーラが全身から迸っている。


「エメラルダ、上手くできたね」

「ギー」


 トールが優しく頭を撫でるとエメラルダは気持ちよさそうに目を細めた。


「トール、上に魔物」


 ティアの声で空を見上げると鳥が一羽、上空を円を描きながら飛んでいた。


「もう、盗賊鷹に目をつけられたか」


 盗賊鷹。中型の鳥の魔物で、獲物や食料の管理が甘いといつの間にか上空に現れ、それらを掠め取っていく。嘴や鉤爪は鋭く、魔術も使ってくる厄介な魔物だ。


 鷹は円軌道を外れると、どんどん速度を上げながら高度を下げてくる。どうやら人間一人とゴブリン一体の組み合わせならどうにかなると踏んだようだ。


「エメラルダ、しゃがんで。水纏い・盾」


 トールは身を覆うほどの大盾を作るとエメラルダをかばうように斜め上に構えた。

 すると鷹は盾を避けてトールたちの頭上を通り過ぎて再び上空で円軌道に戻る。

 被害はなかったものの、改めて盗賊鷹という魔物の大きさを実感させられた。翼を広げたその大きさはゆうに人間の大きさを超えており、エメラルダ位の大きさなら連れ去られそうだ。


「ヒュィィィ」


 再び鷹が鳴き声を上げて襲いかかってくる。

 トールは再び盾を構えて襲撃に備える。しかし、鷹をよくよく観察すれば体中から魔力が放出されていた。そして放出された魔力は空気と同化し、風となってトールたちを襲う。そして、その風に乗って突っ込んでくる。


「くっ」


 魔法の風は強くないが、盾が煽られそうになる。更に周囲を見れば草が異常なほどに風に舞っている

た。


「突風と一緒に風の刃も飛ばしてきている。トール、本体も来るよ。どうやら盾ごとこちらを潰す気みたいね」


 ティアが魔術を解析する。

 向こうから盾に触れに来てくれるなら好都合である。ティアの言葉を聞いて一層盾を構える体勢に力が入る。

 トールはドンという衝撃を感じると同時にソウルイーターを発動させたが、その後も何度もガシガシと衝撃が走る。その度に水の形を固定し維持するための魔力が持っていかれながらも、二回目のソウルイーターで弾き飛ばす機会を伺う。今の状況で弾き飛ばしたとしても、鷹が空中で体勢を立て直すだろうし、その後警戒されて近づかなくなっても面倒くさいからだ。


「エメラルダ、やつに攻撃お願い。追い払うだけでいいから」

「ギッ」


 流石に連続攻撃せいで水纏の魔力消費が激しいので、エメラルダに指示を出した。

 エメラルダはトールの影から飛び出ると、鷹に斬りかかる。しかし、鷹はひらりと上昇して躱した。


「ありがとう、助かったよ」

「ギギ」


 攻撃が途切れて一息つけたトールはある作戦を思いついていた。


「次で決めるよから、エメラルダは左側をお願い」


 戦闘態勢を整えるトールたち。盗賊鷹の方も諦める気は無いようでみたび急降下してこちらを狙ってくる。


「水纏い・盾」


 トールが今度作った盾はタワーシールドのように高さがある盾だ。

 鷹は先程と同じように魔術攻撃仕掛けてくる。流石に危険なためエメラルダを盾の影に避難させる。


「左側はエメラルダが睨みを効かせていることを印象づけたし、上からは攻められにくい形の盾にしてある。さっきので正面から潰すのも難しいと分かったはずだから、来るとすれば右側を抜けて直接獲物を狙ってくるはずだ。だから、ティアにはあいつが横を通過するタイミングをおしえてほしい」

「そこまで考えてたんだね。わかったわ」


 ティアに作戦を伝えながら自分は剣を抜き、それを水纏いで包む。盾は左肩で支えている。


「動き出した!5…4…3…」


 ティアがカウントダウンを始めると、トールは剣を振り上げる。


「2…1…今!」


 そして、その合図とともに思いっきり剣を振り下ろした。


 ゴキッ


 鈍い音とともに鷹が地面に叩き落された。振り下ろした剣にまとわせた水纏いを通して二回目のソウルイーターを発動させたのだ。

 落ちた鷹は必死になってもがくが、地面に叩きつけられたときに痛めた翼が上手く畳めず動けていなかった。


「ごめんよ」


 トールは一言謝りながらトドメの一撃として盗賊鷹の首に剣を突き刺した。


「ヒュィァァァ」


 心に突き刺さるような命の叫びを聞くのはまだしばらくは慣れそうにない。



 トールは仕留めた二体の魔物を手早くロープで縛ると三角兎はエメラルダに、盗賊鷹はトールが背負えるようにした。


「また盗賊鷹に目をつけられないように、一回街に戻ろう」

「ギギ」


 こうしてトールは足早に来た道を戻り、街に戻っていった。

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