20 再会
カランカランと戸を開けるとドアベルがなり、中から「いらっしゃいませ」と明るい店員の声が出迎えてくれた。
ツリルの店は所謂『雑貨店』といったもので食器などの生活小物から陶器製の置物、宝飾品など様々な商品が展示されている。
「すみません」
「はい、なにかお探しでしょうか?」
「いえ、私は客ではなくてツリルさんに会いに来ました」
「店主にですか?」
「はい。トールが来たと伝えていただければわかると思います。一応、これも一緒に見せれば確実かと」
「……わかりました。少々お待ちください」
トールから紹介状を受け取った店員は一礼してから店の奥に入っていった。
「ここはお店だから、気になるものがあってもさわったりしたらダメだからね」
店員が離れて待ち時間になったトールは、目を輝かせて回りを見回しているエメラルダに釘を刺しておく。
しかし、なにかをするまもなくすぐに奥の扉が開き店員が戻ってきた。そして、その後には一緒に旅をしたオキアが控えている。
「……お久しぶりです、トールさん」
オキアは対峙したときに視線が左腕やエメラルダの方に動いたのだが、一瞬で表情を作ると何事もなかったかのように話を進める。
「ツリルは奥にいますので、こちらへどうぞ」
トール達はオキアに案内されるまま店の奥に進んでいく。
「ツリルを呼んできますので、ここで少しお待ちください」
案内されたのは恐らく応接間だろう。華美ではないが絨毯が敷かれ所々に花や置物が飾られており、中央のテーブルと椅子も統一感のあり、安物には見えないものになっていた。
とりあえず椅子に腰かけては見たが、問題があった。エメラルダだ。
エメラルダが持っていた荷物は横に置かせたものの、ゴブリンであるエメラルダを単独で椅子に座らせていいものか。トールは色々考えたあげく、エメラルダを呼んで自分の膝をポンポンと叩いた。
その意味を理解したエメラルダは嬉しそうにトールの膝の上に座った。
「ギッギギ、ギッ」
喜びの表現かリズミカルに鳴きながら足をバタバタと動かす。
「こらこら、大人しくしてなと座りにくいよ」
はしゃぐエメラルダにやんわりと注意を促す。
そんな感じで過ごしているとガチャリと戸が開きツリルが入ってきた。
「おお、トールさんお久しぶりです。ご無事で何よりです」
エメラルダが座ったばかりではあったが、トールは礼儀として立って挨拶をした。
「さきに紹介状の件ですが、すごく助かりました。ありがとうございました」
「いえいえ、使ってもらうために渡したものですからお役にたてて何よりです。それよりも、集落のことは商人の間でも一夜で全滅したと話が出回っていましたが、ご無事で何よりです。それと、君はオーカさんのところの倅だね」
「はい、国境検問所の騎士にも話しましたが実は……」
トールは検問所で話しとことと同じ説明をする。要所要所でウルにも話を振ることで説明に真実味を足していく。
「それで、折り入ってお願いがあるんです。この子、ウルを雇っていただけませんか?」
説明し終わるとすぐさまにウルのことを切り出した。ティアのことを隠しているため、できるだけ早く集落の話を終わらせたかったからだ。
「それは構いませんが、ウル君だけですか? トールさんはこれからの事を決めているのですか?」
「いちおう、冒険者協会に登録して正式な身分証を手にいれた後、旅に出ようと思っています。まだ元の世界に帰る方法を探していきたいので」
「お心は決まっているようですね。では、もし旅に必要なものがあればお越しください。無料でとはいきませんが、特別価格で対応させていただきます」
「ありがとうございます」
ツリルの心遣いに感謝を表す。そして、想定していた言葉がツリルから放たれた。
「それはそうと、今夜の宿はもうお決まりですかな」
「はい、冒険者のこの子にいい宿を紹介してもらいました。それに申し訳ありませんが、ここまで野宿でしたからゆっくりしたいと思っています」
「それは仕方ないですね。では、ウルはどうだ? できるだけ早く従業員と顔合わせをしておきたい。それにともに働くことになるオキアにも色々教わることもあるはずだ」
真剣な表情でウルに尋ねる。恐らくウルを試しているのだろう。
「俺、ぼ、私はここに置いてほしいです。よろしくお願いします」
必死に頭を下げるウルに満足そうな表情を浮かべるツリル。そんな二人のようすから話がまとまったことを察したトールは宿に戻る準備を始めた。
ツリルの店の前でツリル、オキア、ウルが見送りに並んでくれた。
「大変だろうけど頑張りなよ、ウルが立派な商売人になれば森に帰った両親もきっと喜ぶから」
「うん」
「ツリルさん、オキア君、ウルの事をよろしくお願いします」
二人に頭を下げてからトールは店を後にした
「たった数日だったけど、一人いなくなると少し寂しいな」
「ギギ!」
トールが呟くとエメラルダがそっと手を握ってきた。
「そうだな、エメラルダがいるもんな」
そんなやり取りをしていると、先を歩いていたトミアが割って入ってきた。
「このまままっすぐ冒険者協会に戻ってでいいのか?」
「ああ、君の働きがよかったから追加報酬を出そうと思ってね」
「追加報酬!」
「まぁ、依頼内容的に大した額じゃないが冒険者協会を通して渡せば君の評判も上がると思ってね」
「そこまで考えてたのかよ。そういうことなら早く戻ろうぜ」
足取りが軽くなったトミアと共に冒険者協会に戻った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はい、それでは依頼完了の署名と追加報酬の銅貨二枚確かに受けとりました。では、オキア君依頼完了です。お疲れさま。こちらが依頼報酬と、追加の報酬です」
「よし、これでみんなにいいもの食わせられる」
報酬を受け取ったオキアはダッシュで冒険者協会を出ていった。
「あんなに喜んでもらえると追加報酬を支払った甲斐がありますね。さてと、次に私の冒険者登録をお願いしてもよろしいですか?」
トミアを見送ったトールはすぐに受付嬢の方に向き直って訪ねた。
「ええ、身分証か身元保証人がいれば大丈夫ですよ」
「期限付きの身分証なのですが、これでも大丈夫でしょうか?」
「はい、期限内ですので大丈夫ですよ。ただ、冒険者証を作りますと悪用を防ぐために臨時の身分証を回収する決まりになっていますが、よろしいでしょうか?」
「大丈夫です。冒険者登録と冒険者証の作成を願いします」
トールから臨時の身分証を受け取った受付嬢は少し時間がかかることを伝えると、代わりの受付嬢を呼び奥へと引っ込んだ。
手持ち無沙汰になったトールが掲示板に張り出された依頼を見たりして時間を潰していると、代わりに入ってきた受付嬢が話しかけてきた。
「しかし、暇だねぇ。そこの青年、冒険者証を作るのはまだ時間がかかるから、さきに冒険者についての説明を受けるかい?」
「ぜひ、よろしくお願いします」
受付嬢にとっては暇潰しの提案だっただろうが、トールにとってはありがたい提案だったため、速攻で了承した。
「まず、冒険者には硬貨と同じ鉄・銅・銀・金・魔銀・魔金の六つの階級があって、基本的に鉄級から始めてもらうことになるね。そして冒険者になってからは生存報告も兼ねて定期的に協会に来てもらう必要がある。期限を過ぎても現れないまま三十日現れないままだった場合、死亡扱いとなって冒険者証が失効するから気をつけな。基本はこんなところだね。階級の上げ方や期限については冒険者になってから教えてもらった方が分かりやすいさね」
「ありがとうございます」
こうして話しているうちに裏にいった受付嬢がトレイを手に戻ってきた。
「冒険者証の用意が終わりました。」
そう言って差し出された名刺サイズのカードと革紐の付いたドッグタグの金属プレートが乗っている。その両方にトールの名前と登録したホエールの町の名前が記されていた。
トールがそれらを受け取り、エメラルダの持つ荷物に入れようとしたときに受付嬢が慌てて制止してきた。
「すみません。金属板の方はできるだけ身に付けるようにしてください」
「わかりました」
そう答えたトールは多少てこずりながらもドッグタグの革紐に頭を通した。
「これで鉄級冒険者となられましたので、鉄級の依頼までなら受けることができるようになりました。あと、五十日以内に冒険者協会にお越しください」
「生存報告も兼ねてですよね。そちらの方から説明を受けました」
「そうなんですね。昇級についてはご存じですか?」
「いや、それはまだです」
「それでは説明しますね。銅級への昇級には依頼を完遂した際に依頼主からの推薦があれば上がることができます。これで、説明は以上になりますが、ご不明な点はございますか?」
「いや、大丈夫です」
身分証ともなる冒険者証を入手するという目的を達したトールは冒険者協会をあとにし、宿屋に戻った。




