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19 ツリルの店へ

「ここが冒険者協会……」


 がっしりとしたレンガ造りの建物の前でトールが呟く。今まで読んだ物語の影響で粗野で噛ませ犬的な冒険者の溜まり場になっているなどイメージはよくない。

 しかし、そっとウエスタン扉の隙間から中の様子を覗くと、中は意外と静かだった。


「入らないのか?」


 トールの不審な行動にウルが声をかけた。


「えっと、いや、うん、入ろうか」


 ウルの問いかけにうまく答えられなかったトールは、意を決して戸をくぐった。



 冒険者協会内は四人掛けのテーブルが二セット置かれており、その奥のカウンターでは男女の職員が座って業務を行っている。テーブルには四人、十歳位の子どもが座っていた。

 その子どもの横を抜けてトールたちはカウンターへと向かう。


「こんにちは、ご依頼ですか?」


 受付の女性がトールたちがカウンターに着くと笑顔で話しかけてくれた。


「えっと、はい。街案内みたいな依頼も出せると聞いたのですが……」

「はい。そういった依頼を受けることもできますよ」

「それでは、この町でツリルという人が経営している商店まで案内してくれる人を募集します」

「わかりました。その依頼だと手数料で銅貨一枚を頂きます。さらに依頼を受けた冒険者たいする報酬が必要になりますが、よろしいでしょうか?」

「わかりました。報酬はとりあえず鉄貨五枚でお願いします」

「鉄貨五枚ですね。かしこまりました」


 受付嬢はこれらの会話をこなしながら、その内容を紙に書いていく。

 トールはその間エメラルダに硬貨を取り出してもらい、支払いの準備をする。

 書き物が終わった受付嬢は最後にトールから手数料を受けとると冒険者協会の印をドンッと押すと、それをもって、座っていた子どもに話しかける。話しかけられた子どもは席を降りると、一目散に外に駆け出していった。


「えっと、今の子は?」

「冒険者派閥の繋ぎの子達です。指名依頼や各派閥に合った依頼が出たときに派閥に報告したり、今回のように受けてくれそうな冒険者に繋ぎをつけるのがあの子達の役割です」

「派閥ですか」

「ええ、魔物討伐が得意だったり、素材採取に秀でいたり、運送・護衛を主軸に行う派閥など様々な特色の派閥あります。もちろんどの派閥にも属さない冒険者もいます」


 受付嬢から説明を受けている間に出ていった子どもが少し大きな少年をつれて戻ってきた。


「お前が鉄貨五枚か?」

「こらっ」


 失礼な物言いの子に受付嬢の拳骨が落ちる。


「話し方、教えてでしょ」

「おま、あなたが依頼者か、ですか?」


 少年が目の前の依頼者であるトールより、受付嬢の顔色を伺いながら話しているのはあきらかだった。しかし、そんな細かいことはきにせずきちんと対応するトール。


「はい、私が依頼者です。依頼はツリルという方の店に案内してください」

「俺はこの町に詳しいんだ。しっかりと案内してや、ますから、任せとけ、ください」


 言葉遣いは乱暴だが、屈託のない笑顔や態度などから良い子なのは伝わってくる。さらに冒険者協会直々の紹介だ。人柄や能力に問題はないだろう。トールは「よろしく」と依頼を任せる意を示した。




「なぁ、兄ちゃん達はこの街に来たのははじめてなんだよな。そのツリルって人とどういう関係なんだ?」


 先頭でずんずんと案内する冒険者の男の子・トミアが話しかけてきた。冒険者協会を出たからか、口調は自然なものになっている。

 聞かれた内容も困ることではないのでトールは答えることにした。


「隣の国でスライムに襲われていたのを助けたのが縁なんだ。その後は護衛もしたんだけど、入国申請をしていなかったから国境までしか一緒に行けなかったんだ」

「へぇ、じゃあ兄ちゃん達は隣の国から来たんだな。なら、今日泊まる宿屋とかは決まっているのか?」


 トミアに言われてトールはツリルのところに行くことを念頭に置くあまり、その後のことをなにも考えていないことに気がついた。このままツリルのところに行ってしまっては恐らく泊まることを勧められるだろう。しかし、それはウルのことを頼もうとしている手前、気が引ける。

 そこで先に宿屋をとっていれば、そうした気を使われる必要がないのではないのか。


「その様子だとまだみたいだな。今向かっている宿屋が飯がうまていい宿だから、そこに泊まっていきなよ」

「ん、ツリルさんの店に向かっているんじゃないのか?」


 ツリルの店に案内されているばかり思っていたトールはトミアに聞き返した。


「いや、俺はこの街に詳しいけど、すべての店の主人の名前を知っている訳じゃねぇよ。だから顔見知りの商売人に聞いて回るつもりなんだ。まぁ、四、五軒回ってダメなら出費覚悟で商人協会に情報をもらいにいくよ」


 それなら自分で商人協会に情報をもらいに行った方がよかったのでは? と、一瞬考えたが、それで得られるのはツリルの店の場所だけ、今の状況はツリルの店を探すという名目のもとトミアに街を案内してもらえている。多少店の特定まで時間はかかるがこの後街で過ごしやすくなることを踏まえると冒険者協会に依頼したことは悪い手ではなかったと思いなおした。


「トール、大切な話があるから落ち着ける場所を確保しといて」


 宿のことを考えていたトールにティアが話しかけてくる。大切な話しというのは恐らくティアに体を預けたことへの影響だろう。なぜ今になって話すのかはわからないが、とりあえずティアの提言を受け入れることにした。

 改めてトールはトミアに宿屋との仲介をお願いした。



「ここがさっき言っていた宿屋の『海猫亭』だ」


 そうって紹介された建物は大きな木造の宿屋で、年季の感じられるその外観は多少不安を覚えるものだった。入り口にはベッドの絵とナイフとフォークの絵の看板がが並べて掛けられていた。


 外観だけで判断するのは紹介してくれたトミアに悪いと思ったトールはとりあえずなかに入った。


「いらっしゃいませ」


 中には入ると元気で可愛らしい声に出迎えされた。目の前には十歳くらいのエプロン姿の女の子が立っている。


「悪いけど、聞きたいことがあるからおやっさんを呼んできてくれ。あと、客をつれてきた」

「父ちゃん、トミアがお客さんつれてきた!」


 トミアが女の子に話しかけると女の子は勢いよく奥に引っ込んでいった。そして、すぐに男性の背中を押しながら戻ってきた。


「こらこらジア、そんなに押さないでくれ。転んでしまうよ」

「もう、早くしないとお客さんが逃げちゃうよ」


 どうやらジアと呼ばれる少女はしっかり者らしい。


「騒がしくしてしまいすみません、店主のサーヴァルです。宿をお探しとのことですが」

「はい。一応私と従魔のこの子が泊まる部屋と、この子が泊まる部屋をお願いします」

「部屋代は一泊銅貨三枚、食事は別料金になりますがこちらの食堂が利用できます」

「とりあえずこれで一泊分をお願いします」


 トールが角銅貨一枚と銅貨一枚を支払うとサーヴァルはカウンターから番号の書かれた二枚の木札を渡してきた。


「こちらがお部屋の鍵になりますので、お持ちください」

「おっちゃん、そっちの話が終わったなら聞きたいことがあるんだ。ツリルって人の店、知らないか?」


 トミアが話が終わると見るや、早速ツリルの情報収集を始める。


「ツリルか、覚えのない名前だな。名前以外に他に分かることはないのか?」

「それなら、徒歩で隣国に買い付けに行くようです。私が会ったのもその帰りでした。あと、テグスさんという屈強な体格の車夫が一緒でした」

「テグスさんならうちでもお客さんを運んでもらったりとお世話になっています。彼は今も大通りで人を運ぶ仕事をしているはずです」



 トールが街に入ってきた門から延びる大通りの宿屋で教えてもらった場所に行くと数台の馬車が止まっており、そのなかに四人乗りくらいの小型の車を引くテグスの姿を見つけることができた。


「こんにちは、お久しぶりです」

「へい、いらっしゃいって、お前トールさんじゃねぇか。てかその腕…… それにゴブリンに、そこのガキは見たことあるな」

「ツリルさんと別れた集落の商店の子です。かなり色々ありまして……」

「左腕がなくなるような目に遭っても、生きててなによりだ。生きてりゃどうにかなるもんだ。それよりツリルの旦那のところには行ったのか?」


 説明しにくい事情に言葉尻が小さくなっていくトール。そんなトールを気遣ってかテグスは豪快に笑ってから話題を変えた。


「いや、店の場所がわからないから、これからテグスさんに案内してもらおうと」

「そうかそうか、なら車に乗っていきな。特別料金で送ってやるよ」

「助かります。お願いします」


 テグスの心遣いに感謝しつつ四人全員が車に乗り込む。車は人力車のような大型車輪の二輪式で二人掛けの席が二列になっている。大人が四人乗ったのなら狭く感じるが、幸いにもメンバーは大人のトール以外は小柄の体格だ。エメラルダの持っている荷物をいれても大分余裕があった。


「動き出しは少し揺れるので、気を付けてください」


 テグスが乗客に注意を促す台詞を言うと、軽々ハンドルを持ち上げる。ふわりとした感覚とともに視線が少し高くなる。そして、ゆっくりと車輪が回りだし車が動き出した。


 ほっほっほっほっとリズミカルなテグスの息づかいとともに車は進んでいく。スピードは駆け足程度と速くはないものの、テグスの技術のお陰で上下運動がなく乗り心地は良い。さらに小型の車のため馬車が入れない小道にもすんなりと入って行けた。

 馬車がバスならテグスのやっている事はまるでタクシーだとトールは思った。

 小型の利点をいかして車は大通り、小道問わずスムーズに進んでいく。


「着きましたぜ、ここがツリルの旦那の店だ」


 そう言われて下ろされたのは、それなりに大きな店の前だった。立地も大通りや市場のような賑やかさはないものの、閑静な住宅街といった感じで販売するものによってはそれなりの売り上げは見込めそうだ。

 そして、ツリルの店に着いたため、トミアは依頼完了となり冒険者協会に戻るのだが、トールは思うことがありもう少し一緒にいるようにした。


 全員軽く身だしなみを整えると、お店に入っていった。

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