表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/34

13 殺すということ

 特訓を始めて八日が経った。これだけ時間があれば集落の住人全員と接触することは可能だった。一緒に体操をしはじめたお年寄りから、特訓を興味津々に見てくる子どもたちから、偶然出会い挨拶した大人たちから魂を取っていった。彼らには影響はないと分かっていながらも後ろめたさは拭いきれない。それでも自分がこの世界で生き残り、元の世界に帰るため、何より未だ目を覚まさない妹のためにやらなければならい。

 人は様々なスキルを持っているため住人だけでもかなりのスキルを得られた。しかしそれらを鍛えていく時間はないので、当初の予定通り剣術を鍛えていった。今ではかなり剣術のスキル強度が上がっており子どもたちとチャンバラごっこしたときもかなり自然に体を動かせるようになった。


「いよいよ本番だ」


 トールは森の入り口で気合を入れた。剣の代金や食費などでお金が無くなったトールは森で狩りをすることにしたのだ。もちろんこれも予定通りだ。実践を通してスキルを鍛えるのと森の魔物たちにソウルイーターすることが目的だある。

 携えた剣、腰部のナイフ、手首の皮小手、ポシェットに入れた傷薬など装備を一通り確認したトールは森の中へと足を進めた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 森の中はむせ返るほど緑の匂いが強く、薄暗い。しかしまだ森の浅い位置なので人が良く通る場所には道みたいなものができている。さらに迷わないように一定間隔で木に布が巻き付けられていた。トールは時々で合う狩りや野草などの採取目的の住人や冒険者と挨拶しながら人がまだ向かっていなさそうな方角に足を進めていく。

 森は奥に進むほど木の密集度は下がるものの一本一本が太く鬱蒼と生い茂る木の葉で光が遮られ暗くなっている。そして光が届かないため下草は少なく、土がむき出しになっているところも多々ある。

 慎重に進んでいると正面に人影が見えた。


「トール、あれは魔物よ」


 人影だったため冒険者だと思ったトールに魂で判断したティアが警戒を促す。

 トールは慌てて木の影に身を隠しながら近づくと、まず観察した。


 人影は、何をするでもなくプラプラと歩いていた。背丈は一メートルほどにみえるが、がに股で背も丸まっているため実際の背丈は意外と高いだろう。

 肌の色は汚れてくすんだような緑色で耳と鼻は極端に長くとがっている。手には幼児用のプラスチックバットのような形の棍棒を持っているものの、服飾文化は無いようでポッコリお腹も下半身も丸出しだった。


「あれは特徴からして名前が分からなかった魔物か。実際に見るとあれはゴブリンだな」


 元の世界には実在しない存在だったため翻訳できていなかったが、実際に見ることで魔物を定義づけすることができた。

 ゴブリンに対してトールがしなければならないことは二つ。ソウルイーターと討伐である。

 トールはゴブリン進行方向の木の影に移動すると、息を殺して通り過ぎる瞬間を待つ。


「ソウルイーター」


 ゴブリンが通り過ぎた瞬間、トールは叫びながらゴブリンの後頭部に触れた。ゴブリンは叫びに驚きつつも、振り向く勢いで棍棒を振る抜いた。

 トールはそれ上半身をそらすことで回避したが、体勢を戻すころにはゴブリンが跳び退いておりバックアタックの利点はすでに失われていた。


「ったく、無言でも即発動できるようになりなさい」

「うん、わかってるし実感してる」


 ティアから小言が飛んでくる。しかし、まだまだスキルに慣れないトールは発動の意識と実際の発動では若干のラグがあり、無言発動だと更にラグが大きくなる。ラグの是正は喫緊の課題である。

 しかし今はそれどころではない。対峙したゴブリンは鋭い歯をむき出しにして、ギャーギャーと唾をまき散らしながら威嚇してきている。トールは隙を見せないようゴブリンを睨みつけながら剣を抜き中段で構えた。

 しびれを切らしたのかゴブリンがドタドタと近づくと、跳躍で一気に間合いを詰めて棍棒を勢いを載せて振り下ろした。

 トールがそれを躱すと振り下ろされた棍棒はドスッという鈍い音とともに地面をたたいた。棍棒はそれなりの重さと硬さを持っているようで、まともに受ければ頭蓋骨でも粉砕されてしまうだろう。


「トール、大丈夫?」

「大丈夫。落ち着いているし、動きもちゃんと見えてる」

「そう。でも周りにも気を付けるのよ。剣が振れる空間を確保しながら動くのよ」

「ああ」


 ティアと話しながらもゴブリンへの注意は怠らない。ゴブリンは躱されて悔しいのか地団太を踏んでいる。

 隙だらけのゴブリン。だが、トールは攻められずにいた。殺すという行為に対してどうしても忌避感を抱いてしまい、攻撃することを躊躇ってしまっていた。


 殺さなければ殺される…… (そんな事分かっている!)

 今殺さなければ、後々ほかの人が襲われる…… (そのこともを分かっている!)


「トール!」


 攻撃しようとする思いが負荷になったのか、いつの間にかゴブリンに対する注意がおろそかになっていた。ティアの声で気が付けばゴブリンはトールの頭を狙ってフルスイングしようとしているところだった。

 気が付くと同時トールは無意識にしゃがみ回避行動取った。そして、無防備な首を狙って剣を振り抜いた。

 完全に首を落とせるタイミングだったが、目の前には剣がかすめた首の傷を気にするゴブリンがいた。

 剣が首を落とす瞬間、ゴブリンと一緒に特訓していた子どもとが重なってしまい思わず剣を引き、鈍らせてしまった。


「トール……」


 あきれたようなティアの声。


「わかってる」

「とりあえず、ほかの魔物にしましょう。人型に対する抵抗が強いのでしょ」

「すまない」


 体勢を整えると改めてゴブリンと対峙する。ゴブリンはどうやら傷つけられたことに腹を立てているようである。怒りに任せて棍棒を振り回しながら突進してきた。

 トールは棍棒の動きを読んで剣わ片手で切り上げて棍棒を弾くと、そのまま空いた手でゴブリンの額に掌底を打った。


「ソウルイーター」


 スキルが発動した瞬間、バチンと大きな音が響き視界が真っ赤に染まった。気が付けば頭のないゴブリンの体が仰向けに倒れていくのが分かった。そして次第に降りかかったゴブリンの血のぬめりと生臭さが感じられるようになった。するとトールは殺してしまった衝撃と血の生臭さとぬめりの気持ち悪さで吐き気をもよおした。

 吐き気は我慢しようにも一瞬で限界を突破していまし、ゲボッと朝食べたものをまき散らしてしまった。


「トール、大変なのはわかるけど早くここを離れるよ。血の匂いでほかの魔物が寄ってくる」

「あ、ああ。分かった」


 ティアの声にどうにか答えたトールは、ヨタヨタとその場を離れた。



 どうにか気力を振り絞り戦った場所を離れたトールは、水魔術で水を纏うことで血をある程度洗い流すと木にもたれかかる様に座り込んだ。


「トール、大丈夫?」

「ああ、だいぶ落ち着いてきた」


 そう答えるものの鼻の奥にこびり付いた血の生臭さや、血でぬめる感覚がまだ拭いきれず、目を閉じれば頭のないゴブリンが思い浮かぶ。吐き気もまだ続いていた。


「思いもよらずに倒してしまったね」

「ああ」


 なぜ、あんなことになってしまったのか…… 落ち着いた今考えれば納得がいく。

 ゴブリンでも十数メートルは弾き飛ばせるであろうソウルイーターの反発力。それが額の一点に生じれば、その力は首を中心にした円運動に変わる。そしてその勢いに負けた首の骨は折れ、さらに後ろへと反ったため切り傷から皮膚が裂け、噴き出した血が自分にかかったのだろう。


「……漫画みたいに吹っ飛んだりしないんだな」


 自嘲的に笑う。

 しかし、なんとなく心が軽くなった気がした。


「トール、今日はもうやめとく?」

「いや、ほかの魔物を狩りに行こう」


 なんとなく自分のことが分かった。今のうちに何かを狩って殺しに対する経験を上書きしなければ、おそらくこの経験がトラウマになり、殺すことに対する忌避感が強くなるだろうと。その忌避感で致命的な状況に陥らないうちに殺すことを割り切れるようにならなくてはならない。


「もう少し浅いところで、獲物を探そう」


 そうつぶやくと気合を入れて立ち上がった。



 森の出口に向かって歩いていると、ガサガサと何かが動く気配がした。

 木の影から様子をうかがってみると、体高五十センチくらいの小型の魔獣が土を掘り返しながらエサを探していた。


「『森猪もり いのしし』だな」


 森猪は木の多い森に適応した猪型の魔物で小型で小回りが利く。小型だが牙も鋭く体重もそれなりにあるので体当たりされれば大怪我もすると集落の狩人に教えてもらった。


 トールは存在がばれるように音を立てながら森猪の前に出るた。

 元の世界の動物なら臆病で逃げることが多いが、この世界の魔獣は好戦的らしい。自分より弱いとわかるよ襲ってくることが多いらしい。

 なのでトールは森猪に気が付かれるとともに一目散に背を向けて逃げ出した。すると森猪はプギャーと声を上げながら突進してくる。

 それを確認したトールは目をつけていた木の前で魔力をコントロールして腕に水を纏わせながらタイミングをうかがう。


「水盾ソウルイーター!」


 森猪が衝突する寸前、森猪が木に向かって逸れるように水を盾に変形させた。しかも魔力循環訓練のおかげで盾の水は流れを生み出すことができるようになっていた。盾の角度と水の流れによって誘導された森猪はトップスピードのまま木に衝突し、気絶した。


「ごめんよ」


 トールは一言謝ると、森猪の首に剣を突き刺してとどめを刺した。ゴブリンの光景が脳裏に浮かんだが、どうにか払拭することができた。


「帰ったら猪鍋にしよう」

「で、どうやって持って帰るの?」

「え?」


 トールは森猪を持ち上げようとしてみた。重さ的には持ち上げられるが腰を痛めそうで抱えて集落に戻るのは無理そうだった。

 考えた結果、テグスの身体強化があるのでロープでくくりそれを荷車を引くのと同じように引きずって帰ることにした。


 身体強化はまだ馴染んでいないため、集落に着くころにはトールはヘトヘトになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ