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11 他人のスキル

 夜も更け、みんながテントで寝静まる中トールはたき火の前にいた。新たに手に入れた魂に刻まれたスキルを確認するために一人の時間がほしかったトールは夕食のあと自ら最初の見張り役を買って出たのだ。


「どう、スキルの動きは確認できた?」


 ティアがそっと語り掛けてきた。

 トールはただたき火を見ていたわけではなかった。エルベが持っていた『剣術』スキルをイメージトレーニングしていたのだ。魂の欠片を取り込んでスキルを得たといっても、スキルの影響はほんの僅かなものでちょっとした意思や条件反射などの意識外の行動に上書きされてしまう。なので、こうしてイメージの動きと実際の動きを比べることによってスキルを他人のスキルを自分のものにしようとしているのだ。


「素振りくらいならどうにかできそうだ」


 イメージの中でで素振りをしていたトールはティアに答えた後、用意していた木の棒を掴み実際に素振りを始めた。

 呼吸の仕方から足の運び、構えから振り上げる木の棒の角度や振り下ろした後の残心まで細かなところに注意し一回いっかいゆっくりと丁寧に三十回ほど振っていく。最後の方に一回だけ体が自動で動いて様な感覚があった。それがスキルと身体が合致した感覚なのだろう。この感覚を忘れないようにしたかったが、トールの腕はすでにパンパンで上がらなくなっていた


「軟弱ねぇ」

「剣術なんて今までの日常にはなかったからな。これから鍛えていくしかないよ」


 剣術はこれ以上できないと考えたトールは、次のスキルの効果を試すことにした。

 次のスキルはアソノとフジが持っていた『魔力操作』だ。二人は恰好や持っていたスキルからしてゲームとかで言う魔法使い系に属するのだろう。肉体が絶望的に弱いトールにとって魔法使い系のスキルはぜひとも身につけたいスキルだ。

 魔力操作スキルの基本を意識してみると、掌を合わせてグルグルと魔力を回す練習が頭に浮かんできた。


「あのアニメみたいだな」


 元の世界のアニメを思い出しながら実際に手をパンッと合わせ実践してみた。簡単な訓練に思えたが、実際にやってみると失敗した。片方の手から魔力を放出するのはできたが、放出した魔力をもう片方の手から受け取ることができなかったのだ。そして、魔力を受け取ろうと意識すると、受け取る手からも魔力が流れ出てしまう。


「なかなか理にかなった訓練ね。慣れてくれば手を離したり、出した魔力を波や球にしたりするんじゃないかな?」


 ティアの言う通りだった。上位の訓練法を意識してみると、魔力を波線にしたり球にしてお手玉のように扱ったりしていた。


「これも要練習だな。次は身体強化を試してみるか。」

 

 トールは身体強化を発動させてみるが、変化は感じられなかった。


「おもったより、効果ないな」

「欠片のスキルだからね。そのままじゃ使い物にならないよ。訓練頑張りなさいよ」


 めぼしいスキルを実際に使ってみたがどれも実践では使用できないものばかりだった。


「うーん、もしかしたら似たようなスキルを持った魂を取り込むのも有効かもしれないな。ほら、それぞれのスキルが補完しあう感じで」

「それも…… ありかもしれないわね。でも同じスキルでも個体によって使い方が変わるからスキルをトールに馴染ませるためにも訓練は必要よ」


 ソウルイーターでどんなにスキルを取り込んでもそれを使いこなすには、訓練にしろスキル集めにしろ相応の努力が必要な事が分かった。


 とりあえず体作りもかねて剣術の訓練をもうひと頑張りしようとしたときだった。不意に背後から話しかけられた。


「ちょっといいかしら?」

「うぉっと、びっくりした。フジさんでしたよね。どうかしましたか?」


 トールは跳ね上がった鼓動を落ち着けるように丁寧にフジに応対した。


「驚かせてごめんなさいね」


 フジはそう言いながらたき火のそばに腰を下ろしてきた。


「さっきから見ていたのだけど、剣術から魔力循環訓練といろいろ頑張っているんだね」

「え、ああ、少しでもこの世界で生き延びたくて必死なんです」

「そうなんですね。トールさんの素振りを見ていたら、小さい頃のエルベが素振りしているところを思い出しました。右腕に力が入りすぎて振り上げた時に剣が左側に傾くところまでそっくりでした。そして、魔力循環訓練は私の師匠が編み出したものでまだ世間には広がっていない訓練法です。トールはどこで知ったのですか?」


 トールの心臓が再び大きく脈打ちだす。ティアもフジたちに対して警戒レベルを引き上げたようだ。

 フジは明らかに何かを疑っているが、ここで慌ててしまっては余計に怪しまれる。内心が悟られないように平静を装いながらトールは答えた。


「剣術なんですが、教えてくださってありがとうございます。剣術は素人なもので…… もうちょっと力を抜けるように意識してみますね」


 エルベとの致命的な類似点は挙げられていないため、剣術に対してはあくまで偶然ということで押し通す。嘘をつけば態度に出て見抜かれそうだったため、嘘にならないように言葉に気を付けた。


「あとこれ、魔力循環訓練っていうんですね」


 トールは再び手を合わせて魔力循環訓練をやって見せた。結果は片方の手から魔力が駄々洩れになるだけの失敗っだったが。


「実は故郷でこれと似たようなことを見たことあったんですよ。鋼の義手義足の錬金術師で手を合わせることで力を循環させてものを変質させる力にしていたんです」


 これも嘘にならないように言葉に気を付ける。


「そんな錬金術、聞いたことないわね」

「まぁ、私の故郷の話なので知らなくても無理はないかもしれませんね」


 ダメ押しとばかりに笑顔で畳み掛ける。


「そう、ね」


 そう答えたフジだが、その表情は渋い。トールの話に理解はできても腑に落ちず納得でていないようだった。


「よろしければ魔力循環訓練のこと教えてくれませんか? この通り循環じゃなくて駄々洩れ状態なので」


 冗談を言うように軽い表情で話しかけた。もちろんフジに深く考えさせず、場の雰囲気を変えるためだ。


「そうね。ただ、師匠が発表するまでは大々的に広げるのは控えてもらいたいのだけど、いいですか?」

「それはもちろんです」

「それでは、循環訓練に入る前の前段階として……」


 フジのアドバイスによれば体内の魔力と体外に出た魔力の性質が異なるらしい。そして、循環訓練を行うためには体内魔力のまま体外に出す必要があるということだ。

 それを聞いたトールは魔力の膜で体内魔力を保護するという方法に気が付いた。それを踏まえたうえで魔力を流してみると、わずかに循環しだしているのを感じた。


「できた! 見てください、少しだけど循環してますよ」

「よかったです。後はどのように循環させるかなんですが、それは個々の資質によるところが大きいと師匠が言っていました」


 フジの付け加えた言葉にトールは納得する。循環する魔力の速度を上げる、循環する魔力の量を増やす、循環経路を伸ばす。ちょっと考えただけで三通りの鍛える方向性が思い浮かぶ。それだけ訓練の柔軟性があるのだから、人によって訓練が変わるのは当たり前なのだろう。


「まだ循環し始めたばかりですので、これから自分の魔力と向き合って方針を決めていこうと思います。ありがとうございます」


 魔力循環訓練を教えてくれたフジに向き合い丁寧にお礼を言った。

 訓練は魔力の無駄が多いくて、長く続けられないてめ残りの時間がフジとこの世界のことについて話した。お金の事や文字の事、さらに妖精の靴はいろいろな街を回っているらしく近くの町についても教えてもらった。


「おーいふじ、そろそろ交代時間だ」


 遠くからアルフスの声が聞こえた。かなりの時間話し込んでいたようだ。


「そろそろ戻らなきゃ。先ほどはいろいろ探るような物言いをしてすみませんでした。冒険者の過去や能力を探るのはご法度だったのに…… それと遅くなりましたがスライムの話も参考になりました。ありがとうございます」

「こちらこそ色々教えてくれて助かりました」


 深々と頭を下げお礼を言うフジ。

 そんなフジに対してトールもこの世界の知識を教わった感謝を言葉にした。


「それではお先に失礼しますね」

「ああ、おやすみなさい」


 最後の挨拶を済ませるとフジは自分の野営場所にもどっていった。

 一人になったトールは火の番をつづけながら、自分の名前を地面に書いて練習したり、荷物の整理や所持していた硬貨を確認したりして過ごした。


「トールさん、お疲れ様です。そろそろ交代の時間です」


 オキアがそっと話しかけてくれた。

 荷車のところで休んでいたテグスも目を覚ましていた。


「トールさん、悪いが顔洗う水を出してくれねぇか」

「いいですよ、手を出しててください」


 テグスの申し出を快く受けると指先からチョロチョロと水を生み出した。テグスはそれを使って豪快にバシャバシャと豪快に顔を洗うとこれまた豪快に「ありがとな」お礼を言った。


「オキアくんは大丈夫?眠くない」

「大丈夫です。僕から言い出したことですから」


 本来オキアはまだ子どものため夜警の予定には組み込まれていなかった。しかし夕食後オキア自ら

夜警に参加したいと申し出たのだ。もちろん保育士のトールをはじめツリルもテグスも反対をしたが、オキアの意志が固かった。なので、オキアが早めに休ませて先に夜警を受け持つトールの時間を長めにすることでオキアの睡眠時間を十分確保する工夫をしたうえで許可を出した。


「それでは、後は頼みました」

「任されました。トールさんはゆっくり休んでください」

「おう、いざという時はトールさん、旦那の事頼みましたぜ」


 トールは荷車に背を預けて座ると、そのまま首の力を抜いた。

 

「ティア、見張りよろしく」

「ええ、安心して休んでね。おやすみなさい」


 ティアの優しい声を聴きながらトールは座ったまま眠りについた。

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