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悪役令嬢に転生したようですが、そんなことよりピチピチしたい!~無力なる令嬢カレッタの優雅なる遊戯な日常~  作者: 船田かう
第七章:『乙女ゲーム』を攻略しよう!

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エピローグ あなたと歩む遊戯なる日常

 ルー博士の乱入とリッドの公開大告白で伝説となったあの夜会から、丸一年が経った。


 六年間過ごしたこの学園とも今日でお別れだ。

 学年末夜会の開始宣言を感慨深い思いで聞きながら、わたくしは学園で経験してきたたくさんの出来事に思いを馳せていた。


 入学してからいろいろなことがあったけれど、特に最後、この一年は怒涛の勢いだった。


 とりわけルーデンス殿下は、五年生までとはまるきり周りの環境が変わってしまい相当大変だったようだ。

 『ルー博士』の活動は続けつつ、卒業後の準備もしなければならなかった。


 人見知り克服のために名簿がある第二クラスの教室に通うようになり、さらに、なんだかんだで和解したサフィエンス殿下に強制連行されて、王家のお屋敷で寝泊りするようになった。

 使用人がどっさりいるお屋敷だ。


 最初は本気で泣き叫びながらリッドに引き摺られて家に帰されていたけれど、荒療治の甲斐あって使用人恐怖症はだいぶ改善してきたらしい。少なくとも同じ空間に居て吐くことはなくなった。

 卒業後にわたくしに苦労をかけないようにという一心で頑張ってくださっていたので、わたくしもその分ひたすらに殿下を甘やかした。


 生活が変わったストレスなのか、長いこと温めていた気持ちが通じたからなのか、正式な婚約を交わしてからというもの、もともと紳士にしては多めだった彼のスキンシップが一層頻度と大胆さを増した。


 話す距離はとにかく近いし、一緒に居ればすぐに手を握ってくる。髪を撫でるのも好きらしい。気が付くとどこかしら触れられている状態だ。テンションが上がると人目があっても平気で抱きしめてきたりもする。


 少しは慣れてきたとはいえ、まだ不特定多数の人前では緊張して表情筋が固くなりがちなので、傍目から見ると表情乏しめのミステリアス王子様がわたくしにだけグイグイくるという前世の少女漫画のような状況に見えるらしい。資料室でのくるくる変わる表情を思うとイメージの差がすごい。

 いまやすっかり学園最強のいちゃいちゃカップル扱いである。


 けれど、あの無邪気で幸せそうな目でそんなふうに甘えられると、どんなに恥ずかしくても邪険にできない。なんなら嬉しい。わたくしはこんなところまで無力だ。


 ロージーと、何故かサフィエンス殿下も口を揃えて「結婚まで絶対にこいつと密室で二人きりになるな」とわたくしに厳命している。

 彼を甘く見てはいけないと耳にタコが棲み着くほど言われた。まあそれは何度か身をもって経験してよく理解したので、守るべき一線はなんとか防衛しきりましたわ。さすが好敵手、手ごわかった……。


 結婚といえば、何故かばあやだけはルーデンス殿下も平気だったので、嫁ぐわたくしに付いて来てくれることになった。新しい家では使用人の纏め役になってもらう予定だ。頼もしい。

 殿下は初めてばあやに会ったあと、


「いや使用人どころか只者じゃないよね。ていうか本当に人げ……お婆さんなの?」


 とおっしゃっていたけれど失礼な話だ。あんなに立派な使用人はいない。

 お料理もお裁縫も狩りも組織の仕切りも得意な素晴らしい人材だ。若い頃ちょっと冒険者として名を馳せていただけで。

 リッドも片手でひねれそう、と呟いた殿下に、たぶんできますわ、と答えておいた。


 リッドはあの夜会の後すぐにネオン子爵家へ挨拶に赴き、テトラ嬢との婚約をもぎ取ってきた。子爵の混乱がありありと目に浮かぶようだ。

 さらにリッドはその足で、夏休みの間国内各地を転々と巡り、夏休みが明けた後にはテトラ嬢への嫌がらせはぱったりと止んで二度と発生することはなかった。

 そして何故かリッドの顔を見て震え上がるご令嬢が増えた。

 さすが愛のためなら何でもする紳士。影五分にも耐えた騎士は違いますわね。


 ちなみにあの夜会の時、リッドは国王陛下と少しだけ会話していたようだった。

 何を話していたのかまでは分からないけれど、お互いにほんの少しずつだけ、纏う空気が柔らかくなっていた気がする。


 テトラ嬢は、公式行事などで必要がない限りは、普段から楽な態度で過ごすようになった。

 ざっくばらんな毒舌はちょっと傷つく時もあるけれど、意外と気を遣う優しい面もあるし、的を射たことを言うので話していて楽しい。

 でもイラついた時にわたくしを『ピチピチババア』と呼ぶのはやめてほしい。ピチピチの名を冠するのは嬉しいけれど意味が不明すぎる。せめて『ピチピチ元ババア』にして。


 彼女とプリステラ嬢との関係も、ぎこちないけれど徐々に改善されてきた。

 プリステラ嬢もようやく可愛い妹を甘やかせてご満悦だ。時折、資料室まで連れて来てくれた。


 彼女は本当に頭がよくて、特に前世の機械系の知識に強かった。彼女のおかげで凝った造りにできた新作ゲームもある。

 いまや立派な『ルー博士』の外部相談役だ。本人は嫌がっているけれど。

 いつか彼女の手を借りて、前世のピチピチを再現しようとわたくしは密かに企んでいる。


 アローナ嬢とロージーは、見た目には相変わらずだ。

 ただロージーは時々ふざけていきなり大人の姿になったり、新技と称してなぜか獣耳まで生やしていたりとさらに自由度が増していた。もう手が付けられない自由さだった。


 たまにそういう変身姿でアローナ嬢を口説いている時もあるけれど、たぶん半分くらいはおふざけなのでアローナ嬢は呆れ気味だ。

 ……本気で口説く時は誰も居ないところで真面目にやっていますわ。


 ロージーはこのまま王立研究所の研究員になり、無属性魔法の研究をさらに進めていくつもりらしい。

 魔力とは何かという根本にも通じる題材で、もしかしたら平民でも魔法を使える人間が現れるかもしれないと、なかなかセンセーショナルな話題になっているようだ。

 まあ、わたくしたちにとっては、母校に遊びに来れば気軽に会えるところに親友たちが居てくれることになって嬉しい限りだ。




 楽しい思い出を振り返っている間にも、学年末夜会は粛々と進行していく。

 今年は王子が二人も同時に卒業を迎えるので例年以上に来賓貴族も多く、厳粛な雰囲気だ。


 この一年で第二王子殿下の公への露出も増えた。

 国王陛下の態度が変化したことはもちろん、彼本人のルー博士としての活躍や、優しく遊び心がある人柄の評判も広がり、さらにラミレージ家の派閥もてこ入れしたので、貴族たちからの風当たりもだいぶ柔らかいものになっていた。

 もう表立って彼を不真面目で不出来な賭博中毒と馬鹿にする貴族は居ない。


 夜会の最初に行われる、国王陛下が卒業生に高位官職を授ける任命式は、最も位が高いサフィエンス殿下から始まった。

 玉座から降りてきた国王陛下の声が、会場に厳かに響く。


「第一王子サフィエンス。そなたの卒業と成人を認め、我が後継、王太子の位を与える。この国によく仕え、民のよき導きとなるよう、その全身全霊を振るうように」

「はい」


 膝をついて最上級の礼でその勅命を受けたサフィエンス殿下を立たせ、陛下は主に来賓貴族のほうを向いて言葉を付け足した。


「さらにこの場を借りて通達しておく。王太子は学園でよき伴侶を得ることになった。余はこの場において、王太子サフィエンスと、プリステラ・ネオン子爵令嬢の正式な婚約を認める」


 どよどよと反応する来賓貴族たち。学生たちの最前列にいたプリステラ嬢は一歩だけ前に進み出て、来賓貴族たちに向かって優雅で完璧なお辞儀を見せた。

 その瞳がほんのちょっぴり茶目っ気を滲ませて、嬉しそうなサフィエンス殿下と軽く視線を絡ませた。


 ……本当に、大変だったんですのよ、この二人をここまで持ってくるのが……!

 まあ、今はもっと大事なことが次に控えているので、これはまた別のお話ですわ。


「次に、第二王子ルーデンス」


 前に進み出て跪いたルーデンス殿下に、陛下は静かに一度深呼吸をしてから、言った。


「そなたの卒業と成人を認める。そなたは成人をもって王家の籍を抜け、成年貴族としてこの国に仕えよ。そなたには公爵の爵位と領地を与える。そなたは今日より『リベラニモ公爵』を名乗るように」

「はい」


 短い返事の中にも、彼の様々な感情が詰まっていることが感じ取れた。

 もともとの計画では、彼はラミレージの分家の婿養子侯爵になる予定だった。

 それが、我がお父様と国王陛下の間で壮絶な水面下のやり取りが発生した結果、なんと王家の直轄領地を割譲され、公爵として新しい家を興すことが許されたのだ。


 普通に生まれ育った次男以降の王子にはよくある相続のかたちなのだけれど、正妃の子ではない彼の生い立ちを考えれば破格の対応に思えた。

 一応、ラミレージ公爵家と、他家に不干渉だったはずのカーディナル魔法伯家の支持を同時に得てしまった彼に対し、国王が何の影響力も持たずにいるわけにはいかない、という政治的な事情もあってのことらしい。


 彼本人は陛下と距離を置きたがっているので複雑な気分だったようだけれど、これも陛下の罪滅ぼしの気持ちなのだろうと思う。


「加えて」


 立ち上がろうと身じろぎした彼を留めようとするように、陛下が事前の予定になかった言葉を発した。


「余は此度、王宮に新たな政省を設けることにした。戦乱の世が安寧を迎えて久しく、今こそ我が国は新たな価値観を取り入れる必要がある。それにはまず国民の健全な精神と豊かな文化の保護、そして醸成が不可欠だ。そこで余は、新たに『文化省』を設ける。そして……その初代大臣に、そなたルーデンスを任命する」


 彼は不敬にも心底驚き唖然とした顔で、眉一つ動かさない陛下を見上げていた。わたくしも彼とほとんど同じ顔をしていた。寝耳に水だ。

 領地に引きこもってのんびりスローライフをしながら思う存分ゲーム作りに没頭……とはさすがにいかなくなりそうな大出世だった。


 けれど、この儀式の場で許される返答はただ一つ。


「……は、い…………」


 心なしかふらつきながら立ち上がった彼に、陛下はわずかに目元を緩めて囁いた。


「そなたの才と情熱をもって、王太子を支えてやってくれ」


 自分を、ではなく王太子を支えるように懇願する陛下。

 彼の立場だけでなく実力も認めたと受け取れるその言葉を聞いて、彼も黙って表情を引き締めた。


「立太子に限らず、臣籍降下と叙爵も王族にとって重要な儀式だ。後日、改めて王宮にて正式にそなたの叙爵式を執り行いたい。……来てくれるか?」


 敢えて問いかけの形をとる陛下に、彼は少しだけ不機嫌そうに眉を寄せながらも慣例通り「はい」と答えた。彼は立派な成年貴族、ルーデンス・リベラニモ公爵になったのだ。


 任命式は滞りなく終わり、自由に動き回ることができる夜会の時間になった。

 相変わらずルー博士は大人気で、知り合いから初対面まで大勢の学生たちが列を成して卒業祝いの言葉を述べに来る。この一年で荒療治ながら諸々鍛え(させられ)てきた彼も、そろそろ限界のようだった。手足がプルプルしてきている。


 学生たちをわたくしのすまし顔睨みで牽制しつつ、なんとか壁際の休憩ソファに座らせてやることに成功した。わたくしも一緒に一休み、と。

 隣に並んで座ると、すっかり馴染んだ温度の大きな手が、迷うことなくわたくしの手に重なった。こういう些細なふれあいにも未だにきゅんと鳴いてしまうわたくしの心臓も、無力だ。


「ルディ様、コドラリス先生、放っておいて大丈夫なんですの? まだ泣いていらっしゃいますわよ」

「うーん……さすがに僕もあれは近付くの怖いよ……もう少し落ち着いてきたら行こう」


 手塩にかけて育ててきた彼の卒業と立身出世の瞬間を目の当たりにし、コドラリス先生は溢れる思いを止められない様子だった。まわりで慰めている先生方も若干引き気味だ。干物になる直前くらいで飲み物を持っていって差し上げよう。


 その時、急に、次期生徒会長の学生が会場全体に響き渡る大きな声を上げた。


「卒業生の皆様、そして『ルー博士』の門出を祝って!」


 周りの学生たちも生徒会長の言葉を高らかに復唱し、次の瞬間、色とりどりの魔法が大広間の天井を覆い尽くした。

 去年の無秩序な魔法合戦よりももっと洗練され、見て楽しませることを意識した空中パレードだ。きっとわざわざ練習してくれたのだろう。


「なんだか、伝統行事になってしまいそうですわね」


 苦笑してしまいながらも、胸の中には温かい喜びが満ち溢れていた。


「そうだね……何かを残せたみたいで、嬉しいな」


 パレードを微笑んで見上げながら、彼もわたくしと同じ気持ちのようだった。


「これからも、わたくしたちでもっといろんなものを残してまいりましょうね、ルディ様」


 笑いかけると、彼も目を合わせてしっかりと頷いた。


「ところでさ、カレッタ」


 ふと思いついたように彼は言う。


「そろそろ『様』はやめにしない? 僕はもう殿下じゃなくなったし、君とももう他人じゃなくて、家族になるわけだし……もっと気安く呼んでほしいな」


 その言葉に、出会ったあの日の気弱そうな少年の姿が蘇った。


 いま目の前にいる彼は、あの日とは違う。

 もう何に怯えることもなく、これから歩む未来を力強く輝くまなざしで見つめ、心のままに楽しもうとしていた。

 その道を彼と一緒に踏み出せるわたくしは、きっとこの世界で一番の幸せを掴んだに違いないと思う。


「そうですわね。……適当にではなく、大切に呼びますわ、ルディ」


 自分で言い出したくせに、いざそう呼ばれると顔を真っ赤にして照れるルディが面白くて、わたくしはまた笑った。




 ≪完≫




この作品を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

じっくり進行なお話でしたが、お楽しみいただけましたでしょうか。

もしこのお話が気に入ったなら、評価や感想などをいただけると今後の活動の参考になり、作者も幸せな気分になります。どうぞよろしくお願いします。



(以下、少し長いあとがきです)


この作品は、悪役令嬢もののテンプレを押さえつつ、作者の好きな書籍である『ホモ・ルーデンス』(ヨハン・ホイジンガ著、里見元一郎訳、講談社学術文庫、2018年)の影響を多大に受けて創作しています。

原著は1938年に発表され、〈遊び〉文化研究の先駆けとなった名著です。

敬意を表し、ここに明記しておきます。


作者は〈遊び〉というものを、俗っぽくて崇高で愛おしい、人間の本質に迫る尊いものだと考えています。

テンプレとしてよく見かける乙女ゲーム系のお話は、断罪やざまぁなど物騒なことになりがちですが(もちろん読むのは大好きです)、本来は乙女ゲームも楽しい〈遊び〉であるはず。

だったら〈遊び〉に真っ向から向き合い情熱を注ぐ主人公たちを書きたいな、と思ったのが執筆のきっかけでした。


また、上手く書けている自信はないですが、純粋に遊ぶだけでは生きていけない現実も〈真面目と遊び〉〈日常と非日常〉の対比という形で物語の軸の一つにしています。

とくにサフィとルディは、生い立ちや言動などで〈真面目と遊び〉をそれぞれ象徴するキャラクターとしています。

そして、辛い現実も塗り替える力が〈遊び〉にはある、ということも書きたかったです。


ちなみに、エピローグで登場したリベラニモという名前の由来は、エスペラント語の libera animo(自由な魂)です。

エスペラント自体もある意味自由な言語なので、どこかでぜひ使いたいと考えていました。

誰にも強制されない自由な魂こそ『遊ぶ人間ホモ・ルーデンス』の本質。

ちょっと不思議で可愛い響きも主人公たちに似合うと思い、この名前にしました。


最後に、毎日にもかかわらず更新にお付き合い下さり、毎回いいねを付けて応援して下さった皆様へ、重ねて心より御礼申し上げます。皆様の存在が大変励みになりました。少しでも皆様の日々の楽しみになれたのなら、勇気を出して投稿してみてよかったと思えました。

もちろんページを開いて読んでくださるだけの皆様も、それだけで作者はとても嬉しかったです。


この作品の何かが、皆様の心の端に少しでも触れられたのなら、これ以上の喜びはありません。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

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