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悪役令嬢に転生したようですが、そんなことよりピチピチしたい!~無力なる令嬢カレッタの優雅なる遊戯な日常~  作者: 船田かう
第六章:攻略対象を攻略しよう!

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54 かくて令嬢は爆走する

 氷の礫を飛ばす合間に、アローナ嬢が突然こんなことを言ってきた。


「カレッタさん! ずっと、お訊きしたかったことがありますの」


 会話はもちろん騎士たちに聞かれている。

 アローナ嬢はそんなこともお構いなしに、遠くから声を張り上げた。


「本当は、ルディ様のこと、どう思っておりますの?」

「ええっ?」


 内容に驚きつつも、飛んできた氷を叩き落す。


「どうも何も、大切なお友達ですわ!」

「本当に、それだけ?」


 際どいコースに飛んできた氷をぎりぎりで弾く。いじわる。


「何か、気持ちを伝えられない理由があるのですか?」

「理由なんて、いくらでもありますわ。ありました」


 鋭いのが三連発。なんとか捌いた。


「それはまだ、今になっても気にする必要があることですの?」


 わたくしの婚約事情も、彼のテトラ嬢への恋心も。

 今なら分かる。それはただの言い訳。ただの建前だ。

 彼から何も奪わせたくないという意地。

 彼を守るのは自分だと思う独善。

 ただわたくしは、彼の特別でありたかったのだ。


 彼と一緒に居ること、それが、わたくしの何よりの幸せだった。

 だから、そのための価値を、自分の中に作りたかった。

 彼の真っ直ぐで純粋な心が愛おしくて、わたくしには尊すぎたから。

 自分が無力でずるくて器が小さくて、大した人間じゃないことを知っていたから。


 今までは『親友』という価値がそれだった。

 絶対に裏切らないその信頼の繋がりを、手放してしまうのが怖かった。

 居心地が良すぎて、想いを伝えることで何かが変わってしまうのが怖かったのだ。


 変化球の連続を捌ききる。

 すると不意に、アローナ嬢の表情が切なげに変わった。


「私は、お慕いする殿方がいます。あの方が私を好いてくださっているということも、私は知っています。それでも知らないふりで黙っているのは、待っているからですわ」

「待っている?」

「あの方は願を掛けているのです。達成できないと私にフられると思っているのですわ。だからその願が叶って決心が付くまで、私はずっと待って差し上げているのです」


 まるでずっと年上のお姉さんのように、その彼の気持ちを包み込むような笑顔を浮かべる彼女を見て、わたくしの胸も締め付けられた。


 ……もう認めよう。


 建前のせいにして見ないふりをしていたけれど、わたくしも本当は分かっている。

 わたくしは彼が好きで、彼は……テトラ嬢ではなく、わたくしが好きだ。


 誰かに聞いた情報でも何でもない。

 わたくしが彼を見て、話してそう思ったのだ。

 これが勘違いだったとしたら、わたくしはもう海の底に沈んで魚の餌になってもいい。

 迷いなくそう賭けてもいいほど、彼はその心をたくさん、たくさんわたくしにくれた。


 そして、わたくしの気持ちがそこへ追い付くのを、ずっと待ってくれている。


 休憩がてらに放られた適当な氷塊を、思い切り叩いて壊した。


「まったく、わたくしもその方のことなど馬鹿にできないお子様ですわね」

「ええ、待つほうもなかなか大変ですのよ。……でも、お二人ならきっと大丈夫」


 清々しい笑顔でそう言ってくれたアローナ嬢は、懐から愛用の扇を取り出した。

 彼女の魔力が一気に高まり、その場に満ちる。彼女の魔法は早いのだ。

 駆け出した騎士たちが数歩も動かないうちに、触れれば肌を裂くほど鋭い無数の細かい氷塊が爆発するように空中を覆いつくし、その場に居る人間の動きを阻害した。


「あらいけない。手元が狂いましたわ」


 アローナ嬢が呟くのとほぼ同時に、けたたましい音を立て、寮の裏手から猛然と飛び出してこちらに向かって来る物体が見えた。

 屈強な荷運び鳥ウロコアシが牽く庶民の足、軽量三輪牽引車だ。


「カレッタさ~ん、気を付けて!」


 そう声がしたかと思うと、ウロコアシの軽量三輪牽引車はその進路に向けて極太の火炎放射魔法を放った。

 前髪が焦げるかと思うほど近く、わたくしのすぐ目の前で、アローナ嬢が仕掛けた無数の氷の檻に車両が通れるトンネルが開通する。

 次の瞬間には、玄関横付けとばかりに軽三がやってきた。


「乗って!」


 声の主、プリステラ嬢に引っ張り上げられるように、わたくしは軽三の荷台に飛び乗った。

 騎士たちが制止の声を上げるけれど、プリステラ嬢は構わずウロコアシを走らせた。

 荷台から後ろを見ると、白々しく謝りながら、追加の妨害魔法を展開するアローナ嬢が見えた。


「大丈夫です。アローナさんに任せましょう」


 いくら『瞬雪の乙女』と呼ばれるアローナ嬢といえども、相手は本職の騎士が二人だ。もちろん相手だって魔法を使う。

 角を曲がって姿が見えなくなったアローナ嬢に向けて、どうか怪我だけは無いようにと祈った。


「カレッタさん。このまま学園を出て、王都に向かってください。この子は持久力抜群の特別な子なので、王都までならずっと走らせて大丈夫です。こっちのほうが速いですから、馬車に追い付けます」


 有無を言わさず、がたがた走る車両の上で軽三操縦の指導を受けることに。

 車両は軽三の中でも小さいほうで、荷台はわたくしが足を延ばして座ってちょうどくらい。対してウロコアシは街で見かける一般的なものより二回りは大きかった。荷車に対してオーバースペックなのは明白だ。まさかネオン子爵領から連れて来たのかしら……。


 鞭は細長く薄いものさしのような木の板で、腰の上あたりを軽く叩いてやると加速、おしりの横を撫でると減速。緊急ブレーキは車両のレバーを引く。

 運転席には輪っか状のハンドルが付いていて、軽三の特徴である荷車の前輪に連動している。これで方向を転換すると、ウロコアシもつられて素直にそちらに進んでくれるらしい。おお、意外と簡単そう。


「って、プリステラさんは?」

「そうですね、ずっと一緒に行ければいいんですけど……」


 すれ違う学生たちの驚愕の視線に晒されながら猛スピードで軽三は駆けていく。

 あっという間に学園の正門が迫ってきていた。


 その時、後ろから先ほどの騎士の一人が馬に乗って追ってきた。

 水球魔法を飛ばしてきたのでハンマーで叩いて散らす。

 プリステラ嬢はひらりと運転席から移動し、代わりにわたくしを押し込んでハンドルと鞭を握らせた。


「止まらないで。ここで私が足止めします」

「プリステラさん!」

「大丈夫。カレッタさん、絶対に、お二人で帰ってきてくださいね」


 待ってますよ、といつものようにのほほんと微笑んで、プリステラ嬢は荷台から飛び降りた。

 前方から目を離すのが怖くて彼女の様子をじっくり見ることはできなかったけれど、直後、後ろから轟音と熱さを感じた。

 周りで盛り上がっているようなのんきな学生の声も聞こえるので、とりあえず大丈夫だと思いたい。『マールー部の虹炎』の実力を信じよう。

 いつも思うけれどマールー部関係あるのかしら。


 学園を飛び出し、大通りを走り抜けて、帰省の際に何度も通った街道に出た。

 徐々に民家の数が減っていき、のどかな田舎道に変わっていく。ウロコアシの進みは快調だ。


 もう夏至を過ぎたというのに、今日は特に濃い霧が辺りに立ち込めていて視界が悪い。

 いくら王都とつながる幹線道路でも、こういう時は行商人や旅人も街から離れるのを控える。いつの間にかすれ違う人の姿もなくなっていた。


 追っ手に警戒しつつ、山ほどある考え事を脳内で処理しながら進んでいると、あることに気が付いた。


 太陽の日差しが霧に遮られて光が拡散しているため、濃い影が出ていない。

 殿下の影魔法は、ある程度の濃い影でないと自分の影以外は操りづらくなり、潜るにも時間がかかるという欠点がある。


 今日この天候を選んで護送されたのは偶然か、それとも誰かが考えてのことか……後者だとしたら、王都にたどり着く前に最悪の危険がルーデンス殿下に迫っているのかもしれない。


「ルディ様」


 祈るように彼の名前を口に出す。

 ここまでしてくれた親友たちのためにも、何があろうと絶対に彼を連れて帰るのだ。




次回、リッド視点の挿話です。

挿話が入るのはこれで最後になります。

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