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05 その令嬢、ピチピチにつき

「ご覧になって。ラミレージ家のカレッタ様だわ」

「まぁ、『あの』カレッタ様?」

「魔力が少ないというのに、無理を言って王子殿下との縁談を取り付けたそうよ」

「由緒正しき公爵家ですもの。権力を振りかざされては、他の家では逆らえませんわ」

「ああ、恐ろしい方……」


 十二歳の秋。ついにわたくしはお兄様と同じ王立学園への入学を果たした。

 魔力の少なさを補うため地獄のような対策勉強を乗り越えて、なんとか第一クラスに滑り込むことができた。

 自分なりにやり切ったのだから堂々としていようと思った矢先から、遠巻きに聞こえてくる小魚たちの跳ねる音。新生活に踊っていた心が急速に萎えていくのを感じた。早くも家に帰りたい。


 王子殿下との縁談について、わたくしは完全に蚊帳の外だった。入学直前に決定事項として知らされて、口から泡を吹きそうになった。


 確かにお父様は、


「カレッタの魔力の少なさなんて気にならない、しっかりした相手を探す!」


 と豪語していた。

 わたくしはてっきり魔力量で人を判断しない公正な相手という意味だと思っていたのに、お父様が結んできた縁はなんと国一番の魔力量を誇る王家の後継者。

 魔力量の遺伝は多いほうに引っ張られる傾向があるので、わたくしの作用で子孫の魔力が多少減ろうが痛くも痒くもない相手だった。お父様、違う、そうじゃない。


 実は王子殿下も、今年同時に入学している。もちろん余裕の第一クラスだ。

 まだ十二歳なのであどけなさが残るけれど、美しいと言われる顔立ちのお方だ。

 しかし、わたくしにはあまり興味が無いらしい。朝と放課に軽く挨拶はするものの、本人は婚約者よりもさっそくできた男友達とつるむのが楽しいようで、積極的にこちらに関わろうとはしてこない。


 そんな冷めた距離感が周囲に見られているせいで、小魚が水を得てピチピチ騒いでいるという側面も無きにしもあらず。

 まあ、そういう手合いは相手にしないに限りますわ。


 国の総合研究機関に併設されている学園は広大で、長い歴史をかけて増改築を繰り返したためいくつもの棟がひしめいており、ワクワクするほど入り組んでいる。

 各校舎の間には隙間を埋めるように大小の庭園が整えられていた。


 放課後、寮に帰る途中、散歩がてらそんな庭園の一つに面した渡り廊下を歩いていると、風に乗ってかすかに人の声が聞こえてきた。

 庭園の中でも高い生垣に囲まれた辺りで、庭木もあるため校舎からは死角になっている一角。花の季節外れのため、辺りに他の人の姿はない。

 いかにも険悪そうな雰囲気の話し声に、心配半分、やじ馬根性半分で、わたくしはこっそり覗いてみることにした。


「あなた、子爵家の分際でそのような態度、許されると思っていますの?」

「えっと……何が気に障ったのか分かりませんが、ごめんなさい……」

「それで謝っているつもり? 馬鹿にしておりますの!?」


 生垣の壁を背に、一人の令嬢が、四人の令嬢に取り囲まれて口々に詰られていた。

 特にリーダー格と見られる華やかな外見の令嬢は扇子を折れんばかりに握りしめ、すっかり頭に来ている様子だ。

 対する子爵家だという令嬢は、儚げな印象の顔を困惑と怯えに染め、今にも泣き出しそうだった。いったい彼女は何をしでかしたのだろう。


「第二クラスで最も家格の高いアローナ様への数々の無礼な態度、もうこれ以上見過ごせませんわ!」

「そうね……私が直々に、身の程を思い知らせてあげますわ!」


 そう言ってアローナ嬢が扇子を掲げると、彼女の目の前に鋭利な氷の礫が現れた。

 子爵令嬢は引きつるような悲鳴を上げて、ボロボロと涙をこぼし始める。

 アローナ嬢が扇子を振り下ろそうとした瞬間、わたくしは居ても立ってもいられず両者の間に飛び込んだ。


 バチン!

 小気味よい音を立てて、氷の礫は地面に叩きつけられ粉々になった。

 何が起きたか理解できず呆然としている令嬢たちの前に、わたくしは興奮を隠したすまし顔で立ちふさがる。


「あ、あなた、いきなり現れて何なんですの!?」

「ごめんあそばせ。随分と『面白そうなこと』をなさっていたので、つい」

 

 どうやらアローナ嬢にはまだ、わたくしの顔は割れていないらしい。

 彼女が冷静さを取り戻してしまう前に、わたくしは彼女を煽る。


「ほら、せっかくの氷が落ちてしまいましたわ。あんなに威張っておいて、あなたの魔法はその程度ですの?」

「なっ、なんですって!」


 瞬間的に新たな氷塊が現れる。早い。


「無礼者! あなたも思い知りなさい!」


 言うが早いか、氷塊がさっき以上の勢いで真っ直ぐこちらに飛んできた。


「素晴らしい」


 バチン! と再び叩き落す。

 今度はすぐに収納しなかったので、彼女たちもようやくそれを目にすることになった。


 わたくしの前に魔法でフヨフヨと浮かぶもの。

 制止させず、常に小さく回すように揺らしているのは、どの方向へでも淀みなく瞬時に反応できるようにするため。前世の『私』が編み出した独特の構え。


 二年の練習の末、自在に扱えるようになった無属性魔法で操るそれは……ばあや謹製、革張り綿詰めハンマーである。


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