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悪役令嬢に転生したようですが、そんなことよりピチピチしたい!~無力なる令嬢カレッタの優雅なる遊戯な日常~  作者: 船田かう
第五章:悪役フラグを攻略しよう!

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52 悪役

 わたくしもテトラ嬢も、揃って階段の下を見下ろした。

 大きな扉が解放してあった五号校舎の入口から、険しい表情の第一王子殿下とリッドが入ってくるところだった。


 彼らの姿を認めたテトラ嬢はすっと表情を消し、正面に居るわたくしに再び顔を向ける。

 交錯する視線。そして彼女は、小さく「フッ」と笑う。

 わたくしが呆然としていた次の瞬間。


 彼女は床を蹴り、不自然な姿勢で横に跳ねた。


「テトラ嬢!」


 ルーデンス殿下が驚きの声を上げて、すぐにわたくしの背後に現れた。

 階段の上から空中へ躍り出るテトラ嬢の体。

 咄嗟に手を伸ばして影トランポリン魔法を使おうとしたようだったけれど、それよりも早く飛び出していた階下のサフィエンス殿下が、ぶつかるように彼女の体を抱きとめて転がった。


「殿下! テトラ嬢!」


 すぐさまリッドも駆け寄り、二人の無事を確かめる。幸い二人とも大きな怪我はなく、無事な様子だった。

 わたくしは驚きでピクリとも動けず、ことの成り行きをただ見ているだけだ。


 テトラ嬢を強く抱きしめる第一王子殿下の肩越しに、彼女とリッドの視線が交わされるのが見えた。

 リッドは気味が悪いほど静かな瞳でわたくしの方を見上げると、平坦ながらやけに通る声でわたくしに言った。


「カレッタ嬢……あなたともあろう方が」


 え?


「どういう意味だ、リッド」


 地を這うような声で第一王子殿下はリッドに問う。

 リッドはいつもの感情の読めない顔で答えた。


「カレッタ嬢の魔法は物体を浮かせ操るだけではありません。目視できない魔力を操り、予備動作なしで対象物を弾き飛ばすことが可能です。以前、彼女自身の口からその能力を聞きました」


 手合わせの時に説明したことだ。

 ざっと自分の血の気が引く音が聞こえた気がした。


「確かに今、わたし、変な方向から急に押されたような……」


 怯え切った表情でテトラ嬢が呟いた。


 うそ。うそでしょう?


 混乱で何も言えないでいるうちに、第一王子殿下はゆっくりと立ち上がり、怒りに燃える目でこちらを仰ぎ見た。


「そんなっ……ふざけるなリッド! 彼女はそんなことしていない!」


 わたくしをかばう様に前に出たルーデンス殿下が怒声を飛ばした。

 けれどその姿を認めた第一王子殿下は、ぶわりと魔力の気配を膨らませながらその姿を睨みつけた。


「なるほど……やはりすべて貴様の仕組んだことか、ルーデンス」

「え?」


 戸惑うルーデンス殿下の様子にも構わず、第一王子殿下は続ける。


「妙だと思ったんだ。カレッタ嬢がテトラに嫉妬して嫌がらせをしているという話だったが、そもそもカレッタ嬢は最初から俺に興味などない。嫉妬などするはずのない彼女が何故テトラに害を加えるのか分からなかった。だが、貴様が誑かしたカレッタ嬢を操り、俺への当てつけとしてテトラを攻撃していたというのなら、納得がいく」

「はぁ!?」


 ルーデンス殿下は声を裏返らせて驚いていた。わたくしももう頭が追い付いて行かない。


「卑怯者。今までずっと陰に隠れて、俺を嘲笑っていたのだろう。政略で決められた俺の婚約者を篭絡して奪い、ラミレージ公爵家との繋がりを弱めさせ、代わりに自分がその後ろ盾を得ようと画策した。そうやって地盤を固めた後、貴様はその暴虐非道な影の魔法をもって俺を廃し、やがては父に復讐するつもりだったのだろう」


 第一王子殿下の口から語られる荒唐無稽な妄想に、ルーデンス殿下は蒼白になって唇を震わせた。


「何を……あなたは、何を言ってるんだ……?」

「白々しい。これ以上貴様を野放しにしておくわけにはいかない。リッド」


 素早く階段を上ってきたリッドが目の前に迫った。

 わたくしたちはじりじりと後ずさるも、すぐ壁際に追いつめられてしまった。


「第一王子と生徒会長の権限をもって、処分が決定するまで二人とも寮の自室に謹慎とする。お互い外部と連絡を取ることは許さない」


 冷たい声が吹き抜けのホールに響く。

 わたくしは小声でルーデンス殿下の耳元に囁いた。


「ルディ様、あなただけでもお逃げに――」

「無駄なことはするな」


 わたくしの声に反応して体に力を入れたルーデンス殿下の行動を封じるようにリッドが警告した。

 リッドは殿下を見据えながら、護衛として学園内でも装備を許可されている腰の剣に手を掛けている。魔力を鋭く練り上げながら。

 この状態のリッドからは逃げきれない。でもルーデンス殿下だけならまだ……。


 わたくしを庇う格好のまま身動きができないルーデンス殿下に、リッドは一番効果的で残酷な言葉を平然と吹き込んだ。


「カレッタ嬢の無事は、あなた様次第だ」


 また! こいつは! 脅してくる! このエセ紳士!

 鬼畜極まりないリッドの発言に地団太を踏んで罵りたい気分になる。

 ルーデンス殿下は見たこともないほどの怒りを纏ってリッドを睨みつけていたけれど、やがて静かに体の力を抜いた。


「彼女に危害を加えたら許さない」

「覚えておきましょう」


 ホント覚えてなさいリッド!


 こうして、わたくしたちはろくな反論も抵抗もできず、呼び集められた警備の衛兵たちの手で、自室に軟禁されることになってしまった。


 誰と会うことも話すこともできないまま、窓の外の霧模様をぼんやりと眺めるだけ。

 そんな日々が、刻々と過ぎていった。




悪役フラグ攻略、失敗……!?


次回、テトラ視点の挿話です。

その後、ロージー視点の挿話が前・後編の二分割で続きます。

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