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27 影もかたちも

「カレッタ! ルディのやつに会ってないか?」

「お会いしていませんわ。何がありましたの?」

「ルディがどこにも居ないんだ。さっき、部屋に確認に入ったらもぬけの殻で。寮の厨房の連中も昨日の夜から見かけてないらしい。カレッタのところにも行ってないとなると、いったいどこに……」


 話を聞いたアローナ嬢たちやコドラリス先生も、すでに学園内を探し回っているという。わたくしもロージーと手分けして、捜索に加わった。

 けれど結局、その日はルーデンス殿下を見つけることができず、寮の部屋に彼が戻ってくることもなかった。


 翌日、放課後にメンバーが集まった資料室は、重苦しい空気に満ちていた。


「これだけ探しても居ないなんて……」

「先生、もしや学園の外に出たのでは?」

「外出許可の履歴も、門衛の証言もありませんでしたが、ルディ君は人目を避ける天才ですからね。念のため街にも捜索を出したほうがいいかもしれませんね」

「カイラー通りには行ってないみたいだが」

「そうですか……となるとまた難しいですね……」


 肩を落とすコドラリス先生は見たこともないほど消沈していた。


「上にも報告を上げましたが、王宮に知らせるかどうかはまだ慎重に考えているようです。動ける職員が秘密裏に探している状態ですね」

「大事になってきちゃったなぁ」


 ガシガシと髪をかき乱すロージーに、わたくしは尋ねた。


「ロージー様、何か心当たりはございませんの? 直前までお会いしていたのはロージー様でしょう」

「そうですわ。何かに悩んでいたようだと、事情を聞いていらしたではないですか!」


 アローナ嬢が詰問するけれど、ロージーは言葉を濁して教えてくれない。


「こんな、急に居なくなるような話じゃない……と思う……とにかく、ここじゃ話せない」

「私にも話せませんか、ロージー君」


 先生にそう言われたロージーは、しばらく考えた後、やがて先生を手招きして二人で資料室の外に出た。

 事情を聞き終わって部屋に戻ってきた先生は、ますます眉間の皺を増やして考え込んでいるようだった。


「どうでしたの、先生」

「動機の可能性が見えてきたような、さらに謎が深まったような……」

「さすがに考えすぎじゃないか?」

「いえ、ロージー君。ルディ君の純粋さとその場の勢いを甘く見てはいけませんよ。彼はやるときはやる男です。斜め上の方向に」

「ルディ様は、ご自分の意志で姿を消したと?」

「学園の警備体制は万全ですから、元よりその可能性が高いですね」

「確かに、部屋に残ってた魔力の気配もルディのものだけだったし……いや、まてよ」


 そこまで言って、何かに気が付いたロージーに全員が注目した。


「おかしい。なんであんなに魔力の気配が濃かったんだ?」

「どういうことですの?」

「みんなも知ってると思うけど、ルディの奴、魔力の気配がめちゃくちゃ薄いだろ? あいつが魔法を使った直後でも、相当集中しないと拾えないくらいに」


 ルーデンス殿下は存在感だけでなく、魔力の気配もとことん薄い。そのせいで、魔力感知が敏感なロージーですら、彼が人に紛れていると見つけられなくなることもあるほどだ。


「いつも寝起きしている部屋だから……とも言いきれませんわね」

「それなら、この資料室にいる時間のほうが長いですもんね」


 けれど、資料室に入ってルーデンス殿下の魔力を真っ先に感じたことなどない。


「俺が鍵を無理やり開けて部屋に入った時に感じたあいつの魔力の気配は、すぐにわかるくらい強かった。証言通りに居なくなってほぼ一日経ってあの気配の濃さだとしたら、あいつにとっては異常だ。何か、とんでもなく強力な魔法を使ったとしか思えない。あるいは……暴走したとか」

「暴走って……」


 少し行き過ぎた意見に、アローナ嬢が頬を引きつらせる。

 魔法は一度身に着ければ、個人の得意不得意はあるけれど、当たり前に制御できるものだ。ペンで字を書くとか、食事の際のテーブルマナーと同じようなものである。

 それが使用者の意志を飛び越えて暴走するというのは、創作物語の中だけの話だった。前世の物語でも少年漫画でよくあった、人体が壊れないように筋力を制御している脳のリミッターを外すとか、そういった次元の話と同じだ。

 アローナ嬢が怒って言う。


「ルディ様の土属性魔法が暴走して、地面に埋まってしまったとか? こんな時に冗談を……」

「いや、例えばだよ。それに暴走自体はあるからな。ウチの兄貴が研究してる」

「えっ」

「あ、いや、ルディは条件的に無いと思うから大丈夫だ。安心しろ」


 真っ青になったわたくしたちをロージーが慌てて宥めた。暴走、あるんだ……。


「土属性……」


 深く考え込んでいた様子だったコドラリス先生が、ぼそりと呟いた。


「先生、どうかされましたか?」

「いえ、実は、昔からずっと引っかかっていたことがありまして」


 少しだけためらってから、コドラリス先生は続けた。


「彼は、王宮で生まれてから学園に入るまでずっと、ほとんど外に出ずに育ちました。庭にもめったに出してもらえなかったといいます。園芸の趣味もありません。なのにどうして、彼の属性は『土属性』なのかと……」


 おさらいするけれど、属性というのは、幼少期に身につける感性のようなもの。実際に触れて馴染んだ自然現象がその人の属性となる。

 アローナ嬢は生まれた領地が雪深い地方だったので氷。ロージーの風は、家族の実験の爆風をしょっちゅう浴びていたから。

 では、ルーデンス殿下の『土属性』は?


「……少し、確認することがありそうですね。私にできるところまで調べてみようと思います。みなさんは、引き続き何か手掛かりがないか、探してあげてください」

「もちろんですわ。みんなで絶対にルディ様を見つけ出します」


 席を立ったコドラリス先生が、わたくしたちを順繰りに見渡す。

 気合を入れ直すわたくしたちを見て、先生は感慨深そうに微笑んだ。


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