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閑話 魔法実習の時間

 魔法実習の時間はいつも、正直なところ、暇だった。

 今日は屋外訓練場での実習で、クラスのみんなが遠くの的に得意魔法を当てていくのを、わたくしは訓練場の隅に置かれた休憩用のベンチに座ってぼんやりと眺めている。


「カレッタ嬢は魔力量が少なく魔法が使えないから、見学を許してやってほしい」


 おそらくどこかで情報の齟齬があり、何かを勘違いしたらしい第一王子殿下が、実習担当の教師に入学早々クラスのみんなの前でそう直談判したので、わたくしが何を言う間もなく、そういうことになってしまった。


 まあ実際、わたくしの無属性魔法では物理的に難しい実習内容ばかりなので、どちらにしても見学になることは必然だった。

 今日の的当てもわたくしには無理だ。わたくしの魔法は腕の二、三倍程度の範囲内でしか物を動かせない。

 自己申告のタイミングを逃してしまったわたくしは、魔法が一切使えないご令嬢として名を馳せることになってしまった。


 第一クラスには未だ友人どころか話し相手すらいない。

 もう少し、王子殿下の婚約者や公爵令嬢という肩書を形だけでもうまく利用して、取り巻きでも作れば過ごしやすくなったのかもしれないけれど、わたくし自身が第二クラスの気の置けない友人たちにべったりなので、必要性を感じなかった。

 公爵令嬢の社交としては失格もいいところだけれど、これも立派な『ワガママ』だ。

 気を許せない相手と話すのは苦手だし、疲れる人づきあいはなるべくしたくない。

 はたして、こんな調子で未来の王子妃になっていいのだろうか。


 というわけで、今は誰もわたくしのことなど気に掛けずに実習に夢中。

 見て参考になる授業でもないし、暇で暇で仕方がない。


 飽きてきたわたくしは、おもむろにスカートの中から愛用の綿詰めハンマーを取り出し、フニフニと揉んで遊んだ。

 これを揉むと落ち着くし、集中力も増す。


 前世のゲーム『ピチ♪ピチ♪アタック!』では、筐体にコインを入れる前に、必ずハンマーを揉んで形を整えていた。

 前の人のプレイでもしも形が歪んでいると、人形が出てくる穴を仕切る波を模した壁にハンマーが引っかかり、手元が狂うのだ。

 ミリ単位の動線をなぞり、百分の一秒を争うこのゲームでは許されないミス。いつしかゲームの前に雑念を取り払う規定動作として体に染みついた動きだった。


 揉み終わったハンマーを、なんとなく縦にして、手のひらの上に柄を垂直に立たせてバランスをとる。

 さすがわたくし、ハンマーの重心を知り尽くしているからピタリと綺麗に立たせることができる。

 しばらくそのままキープしていたけれど、簡単すぎてつまらないので、懐から女子生徒の標準装備、扇子を取り出した。作法の時間から入れっぱなしで忘れていたものだ。


 立てたハンマーの上にさらに扇子を立てて、支えていた手を放す。

 すぐに崩れる。これは難しい。なかなか楽しめそうですわ。

 結局、授業終了の鐘が鳴るまで、わたくしはバランスタワーで一人遊んでいた。


 ところでこのバランス遊びは、この時も資料室棟から見ていた第二王子殿下になにやら大きな啓示を与えていたようで、数年の時を経てちょっと面白いことになっていくのだけれど、それはまた別の機会に。


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