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Blackish Dance  作者: ジュンち
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29話 紫煙

全てを、煙に巻け。

 一通りヒデとシドの青春群像劇に笑い終わったルキは二人を帝国軍の軍服に着替えさせた。濃い灰色の軍服は言わずと知れた、男の子なら誰もが一度はあこがれる帝国陸軍のものだ。ヒデは軍刀をまじまじと見つめ、いつだったか、自分も大きくなったら軍人になりたいと思っていたことをふと思い出した。スポーツ選手や歌手といった職業に並んで人気の高い「将来の夢」だった。まさかそんな制服に袖を通す日が来ようとは、改めて数奇な人生だとヒデは自分の姿を確認する。

 ルキは書類の束を引き出しから取り出し、来客用のソファに向かい合って座るヒデとシドに手渡した。しかし、二人に説明するわけでもなく、たばこをくわえたまま自分の資料をパラパラとめくり、「え~? あ~、そうそう」と自問自答した様子を見せる。ルキがいつも纏う紫煙はつかみどころのない本人の性格を表しているかのようだ。

 ヒデも同じように資料に目を通すが、読むのも億劫になるほどの字数で紙は真っ黒になっていた。

蜉蒼(フソウ)は相変わらず調査中のことも多いんだけどね~」

 自分の中で話がまとまったのか、ルキはいつもの間延びした口調で話し始めた。

「今回爆破予告された場所、蜉蒼(フソウ)は『兵器庫』って言いきってるけど、一般人が得られるような情報では『政府関係施設』としか公表されてないんだよね~。ルキさんが調べたところ、気候観測省の管轄ってことまではわかったけど、兵器があるかどうかはわかんなかった。どうやって蜉蒼(フソウ)は兵器庫だって嗅ぎ付けたんだろうね~」

 何が面白いのか、ルキはへらへらと腑抜けた顔で、高そうなスーツに煙草の灰が落ちるのも構わず話を続ける。

「それで、爆破予告が来てから一回ルキさん侵入してみたんだけどね~」

「侵入したんですか!?」

 さらりと流そうとするルキの言葉に、深刻そうな表情で聞いていたヒデは思わず声を上げてしまう。ルキはきょとんとした表情を見せたものの、すぐに「当たり前じゃん~。(イザナ)の安全確保もルキさんのお仕事ですし~」と顔を緩めた。ヒデは以前に見た戦闘時のルキを思い返し、いつもの表情や話し方とは裏腹にかなり有能な人物なのかもしれないとふと考えた。

「まぁ、侵入自体は難しくなかったね~。蜉蒼(フソウ)に爆弾仕掛けられるって思われちゃうぐらいだし。ちなみにルキさんが行ったときは爆弾見つからなかったよ~。でも、やっぱり警備はただの政府関係施設って感じじゃなかったかな~。厳重すぎるかなってさ~」

 ルキは細く煙を吐き出し、飽和状態になっている灰皿で短くなったたばこを潰した。すぐさま灰皿を経由した指で新しく火をつけ、再びふわりと煙を纏う。おもむろにデスクから離れると、壁に備え付けられているスチール製の書類保管庫の前にしゃがみ込んだ。ジャラジャラと音を立てる鍵束の中の一つで引き戸を開けると、茶色い紙に包まれた箱のようなものを取り出した。

蜉蒼(フソウ)は毎回同じ爆薬、通称『一号八〇度』っていうのを使うんだよね~。何回か既死軍(キシグン)で回収できた実物がこれ。シドは知ってるよね~」

 そう言ってルキがテーブルに置いた細長い直方体はどうやら爆弾らしい。手のひらより少し大きいぐらいのそれは一見しただけでは爆発物とはわからない。こんな近くで火のついたたばこなど吸っていて大丈夫なのだろうかとヒデはハラハラするが、ルキとシドの様子を見るにどうやら要らぬ心配なようだ。

「起爆方法はタイマーか遠隔操作なんだけどさ~。それって爆弾が見つかって回収されても、製造元とか流通経路とか調べられてもいいってことだよね~。バレたくなけりゃ自爆とかで即行爆発させるもんなんだよね。何かさ~身元がバレるはずないって自信あるみたいでムカつかない?」

 ルキは自分のイスに腰掛けながら同意を求めてくるが、簡単に肯定や否定ができる内容でもない。ヒデが考えあぐねていると、元から返事など期待していなかったのか、ルキは資料を数枚めくり一枚の写真を指差した。

「爆弾にはこういう起爆装置みたいなのがコードで繋がってるから、見つけたらそれ切ってね~。今時、間違えたコード切ったらドッカーン!! なんてことはないから安心して~。まぁ、多分だけど」

 最後の言葉にいささか不安を感じながらヒデも資料をめくると、どこから入手したのか施設の見取り図が載っていた。この広さから小さな目標物を見つけるのには骨が折れそうだ。

「こんな小さい爆弾、どうやって見つけるんですか?」

 ヒデの質問に思い出したようにルキは手を叩き、先ほどの起爆装置の写真をもう一度指さした。

「こっちの起爆装置も爆弾よろしく毎回同じ作りでね~、同じ金属が使われてるんだよね。そこで登場するのが既死軍(キシグン)のピアス! 無線だけだと思ってるかもしれないけど、それってみんなの位置情報とか脈拍とか~、そういうのも全部管理してるんだよね~」

 ヒデはこんな小さなボールピアスにそこまでの機能があったのかと、改めて既死軍(キシグン)の技術力の高さに驚く。道理で以前の任務帰りに樹海であるにもかかわらず、ヤンが容易く自分を見つけられたわけだと納得する。

「あとでその金属に反応して音が鳴る設定にするから、よく聞いてみて~。音が大きくなったら近づいてる、小さくなったら離れてるってこと。単純明快でいいよね~。無線と同じく神経に直接働きかけるから他人には聞こえないよ~」

 シドは今までルキが話した情報は知り尽くしているという様子で淡々と資料を読み進め、同じく見取り図のページで手を止めた。

「潜入した成果は」

 詰問するような鋭い視線も構わず、にこにことルキは答える。

「工場では電子部品みたいなの作ってたよ~。警備してるのは陸軍。セキュリティは今イチがハッキング中だけど、流石に一筋縄ではいかないみたいだよ~。監視カメラも同じく。セキュリティーカードはこれ。それから」

 話を続けながらルキが次々にデスクの上に広げる「潜入グッズ」をヒデはのぞき込み、目を白黒させる。名前や顔写真入りのセキュリティーカードはもちろん、虹彩認証や指紋認証ですらごまかせるように準備が整っていた。

「警備の担当、巡回路は変わってなければ資料の通り。見た感じ一番セキュリティが厳しそうだったのは、このエレベーター。建物は地上一階建てだから地下に続いてて、兵器があるならそこだと思うよ~」

「ルキならどこに仕掛ける」

「ん~とね、兵器が何かによるかな~。生物兵器だったら蜉蒼(フソウ)も将来的にシャレになんないじゃん? だからボヤ程度の爆破にするだろうし、反対に軍の普通の武器庫なら派手にやっちゃうかな~。まぁルキさんが爆破するなら出入口とか電気室とかかな~月並みだけど」

「何があるかは特定してないんだな」

「ごめんね~、イチのハッキング待ち。ホントに蜉蒼(フソウ)はどこで情報手に入れたの~? って感じ」

 ルキは呆れたような表情で土足のままデスクに足をかけ、天井を仰ぐ。物思いにふけったようなぼんやりとした声でため息とともに言葉を吐き出した。

「まぁルキさんは既死軍(キシグン)黎裔(レイエイ)に進出すべきだと思うけどね~」

 聞き慣れない言葉にヒデは首をかしげる。「黎裔(レイエイ)?」と口を開こうとするよりも早く、ルキが冷たい視線で制する。

「この世界には知らないほうがいいこともある」

 いつかアレンにも言われた言葉だった。時折見せるルキの冷酷な表情は鬼気迫るものがある。ヒデが口にする言葉を失っていると、ルキは氷が解けたようにいつもの表情で話を変えた。

蜉蒼(フソウ)は神出鬼没。わからないことが多すぎるから困ってるんだよね~。ヒデはどこまで蜉蒼(フソウ)のこと知ってるの?」

「僕、というか一般的には『テロ組織』ってぐらいしか知らないです。既死軍(キシグン)でもわからないこと多いんですか?」

 世間一般では蜉蒼(フソウ)は反政府テロ組織と報道されており、国民なら誰でもその存在を知っている。しかし、何度事件を起こそうと些細な情報一つすら得られない「謎に満ちた組織」という扱いだった。

 ルキは苦笑いしながら「痛いとこ突くね~」とたばこを灰皿で潰した。

既死軍(キシグン)的にはだいたい目星というか、まぁ拠点がありそうな場所ぐらいまでは絞れてるんだけどね~。今はまだ調査段階だから何とも言えない。でも」

 ルキはいつかと同じ悪魔のような笑顔をのぞかせる。

既死軍(キシグン)に牙を剥いたことは後悔させてあげなくちゃね」

 ただ者ではない人間ぞろいの既死軍(キシグン)でも群を抜く身の毛もよだつような表情だ。全身から血の気が引くような感覚に襲われながらもヒデは会話を繋げる。

「あの、前にアレンさんも蜉蒼(フソウ)は帝国じゃなくて既死軍(キシグン)を狙ってるって言ってたんですけど、それってどうしてなんですか?」

「ルキさんが思うに逆恨み、詳しくは調査中」

 再びたばこに火をつけていたルキは気だるげに煙を一筋吐き出す。ヒデにとっては何ともはっきりしない返答だったが、シドは納得したように賛同する。

「恨まれる覚えはないが、挑発するからには落とし前をつけてもらう」

 そう立ち上がると、「続きがあるなら無線で聞く」と資料を手に階段へ向かった。慌ててシドを追うヒデの背中から「いってらっしゃ~い」と相変わらずのぼんやりした見送りの言葉が贈られた。

 いつもと違うブーツの音を鳴らしながらシドは階段を降りる。今からシドとたった二人きりかと思うと、今すぐにでも逃げ出したくなる気持ちがする。いくら自分のことをそれなりに評価してくれていたとは言え、それでもすぐにシドという人間には慣れることはできないように思えた。

 無線から聞こえるルキの声は心地のいい子守唄のようで、移動器の揺れも相まってヒデは何度も目をこすった。何とか耐えながらシドの方を見遣ると、煌々と灯りがつく中、座席に座ったまま眠っていた。意外と人前でも寝るんだなとシドの中に人間らしさを感じながらヒデは再び資料に視線を落とした。


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