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巫女の祈り

あけましておめでとうございます!

 整列しているように見えて乱雑に。導くように見えて歩く者を惑わせる森の中、双子の眷属が顔を見合わせて笑う。


「来たね」


「うん。来たみたい」


「どうするゼバブ?敵対の意志がないみたいだけど」


「戦いも話し合いも面倒くさい。このまま隠れちゃおっかな」


「隠れんぼも面倒くさいけど、戦闘と対話よりは楽そう」


「……でもあの二人ならすぐに見つけちゃうんだろうなぁ」


 森に入ってきた青年と少年の気配を感じ取ったベルブが、不満そうに口を尖らせる。

 はるか昔、若草髪の青年とは一度あったことがある。直接戦ったことは無いが、あれは厄介そうだと『怠惰』の本能が告げていた。


「それじゃあ話し合いはやめよっか」


 片割れの表情を盗み見たゼバブは両手を小気味よく叩く。

 交戦の意思よりも対話の意志が強い二人を見て、双子はすぐに答えを出した。


「僕らは彼らに協力する。金髪のお姉ちゃんは死んじゃったみたいだから、自由に動いても誰も文句言わないよ」


「それいいね。赤毛のお姉ちゃんのことは好きだし、協力したら褒めてもらえるかも」


 ずっと前の記憶の中にある少女を思い出して双子はクスクスと笑う。ベルゼバブにとって現在の神は優しい姉のような感覚だった。

 誰か旧眷属を倒したら、きっと頭を撫でて優しい声で褒めてくれるだろう。


「それなら最初から全力でやろうよ」


「うん。面倒なことは二人一緒なら半減。嬉しいことは倍になる。僕らはいくらでも強くなれる」


 ベルブは右手を。ゼバブは左手を頭の上に掲げてハイタッチをする。

 入り乱れた針葉樹林の真ん中で、まるで自分たちの位置を知らせるように眩い光が空へと登る。周囲が夜のように暗くなりやがて光が消えると、双子の姿はすでになかった。

 代わりに座っていたのは十七歳ほどの銀髪の少年。赤い瞳は変わらず、瓜二つだった双子が成長した姿の人物だった。


「待つのは苦手だから、あまり待たせちゃダメだよ」


 ベルブとゼバブが融合した姿こそ、真の『怠惰』の眷属は本領を発揮する。

 少しだけ子供っぽい口調はそのままに、まろい頬を片方だけ持ち上げた少年は欠伸混じりに来訪者を待った。


 ☆*☆*☆*


 吹き飛ばされる。体制を整えて着地する。息をする間もなくまた吹き飛ばされる。

 そんなことを何回も繰り返すうちに、劣勢に陥っているアイラの息はすぐに上がった。


 玩具みたいに好き放題弄ばれているうちに、苛立ちは決して高くない沸点をすぐに飛び越えた。


「……ッ!!」


 一連の流れのように繰り出される拳を無音の気迫とともに繰り上げる。


「調子に……乗るな!!」


 どんな無礼者にも浴びせたことの無い怒声を放ち、体勢を崩したベルフェゴールの背後に回り込む。がら空きの背中に打ち出した正拳突きが彼女の背中を貫通した……はずだった。


「っ!?」


 確かに貫通した。拳は反対側の鳩尾に抜けて、腕は暖かな体内に入り込んでいる。それなのに血を浴びない。血に濡れない。敵が血を吐かない。


「勝ったと思った?オマエは今勝利を確信して、一瞬全身の筋肉が緩まなかった?ざーんねん。ワタシは化け物だから、このくらいじゃ死なない。このくらいで死んでいられない」


 そんなはずは無いと言葉の全てを強く否定する。絶対に油断はしていない。油断は命取りだと、アイラは色んな場面を見てそれを知っている。

 気を抜くな。緊張を緩めるな。相手の心臓を握りつぶし、息の根が止まり、完全に事切れるまで絶対に攻撃をやめるな。


 それは師匠であり仲間であったシノブの教えだ。

 アイラにとってその教えは戦意の根幹にあるものだ。


 膨れ上がった魔力で九尾が膨れ上がる。

 鳩尾ではなく胸を貫けば良かったと後悔する。どんな生き物でも呼吸をしているなら心臓がある。心臓を潰されてそれでもまだ死なないと言うのなら、アイラは素直に認めよう。この敵には勝てないと。一撃で相手の身体を吹きとばせでもしない限り負けは確定していると。


 刺さったままの腕を乱暴に引き抜く。乾いたままの腕を見て肌が粟立つの感じる。

 目の前にいるのは正真正銘の化け物なのだと、アイラは認識を改めた。相手が化け物ならばこちらも化け物にならなければ勝てない。


「どうやら、あなたに勝つには意地もプライドも捨てる必要があるようです」


 数歩後退し距離をとる。

 先程少女の腹を貫いた爪を今度は自分の胸に突き立てた。骨が割れる音と肉が引きちぎられる音、そして重く湿った音が響く。

 真っ赤に染った手が取り出したのは、なお力強く脈打つ心臓だった。

 生き物にとって必要不可欠な臓器をアイラは天へと捧げるように掲げる。

 その様子を青髪の少女は面白そうに見守っていた。


「母様。あなたの形見、壊しますね」


 小さく亡き母に告げる。

 極限まで膨らんだ九つの尾が光に溶けるように透け始める。粒子となった魔力は、強引に肉体から分かたれた心臓へと吸い込まれていく。


「我が名は狐王(こおう)。星に選ばれた器。

 我が名は狐后(こごう)。神が封じた力。

 因果終滅。輪廻瓦解。あらゆる(ことわり)に異を告げる反転者。

 魂の楔は今解き放たれた」


 金狐を中心に金色の魔法陣が展開される。陣に記されているのは文字ではなく、狐の顔を正面から象ったものだ。

 眩い金光。大気を満たす濃密な魔力。それらを吸収する心臓は力強く脈動を繰り返し、ゆっくりと体内に戻っていく。


 尾が一つに減った少女。しかし溢れ出る力が風となって両者の髪を揺らした。


「仕切り直しよ。この命を投げ打ってでも、私はあなたを倒す。……だから」


 ゆっくりと片膝をつく。右手を地面に。左手を空に。

 乾いた血がこびりつく唇が紡ぎ出すのは巫女の祝詞。


「満ちよ 『海祈(かいき)』」


 雑草が生えていた大地が瞬き一つで海底へ姿を変える。

 浮力に遊ばれる二人の体。酸素を取り込めない肺が苦しみを訴える。

 気泡を吐き出すアイシャをアイラは無表情で見つめた。


 橙色の瞳は暗い海中でもぼんやりと輝き、呼吸に合わせて胸は上下に揺れる。


 長い間封印されていたアイラの『伝説の力』。

 かつての戦いの後、アネロが最後の力で守ったのは少女の心。赤髪の少女のような人生を歩んで欲しくなかったアネロの願い。


 母の形見を代償に。相打ちの覚悟を胸に。


 少女たちの戦いは第三ラウンドへと幕を開けた。

今年もよろしくお願いします!

次回はアネロとラーズの戦いの顛末を冒頭に、アイラとアイシャのバトルに決着をつける予定です!お楽しみに〜

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