自由な司祭
冷たさと温かさが共存する記憶を思い起こしていると、いつの間にか『リズィグル』のバベルまで座標が合わさっていた。
白い空間を指で弾き外に出れば、清々しい青空が視界を覆う。眩しさに目を眇めつつ大人しく後を着いてきていたラピスを見やった。
フヨフヨと宙を浮く少年の瞳は相変わらず赤い。黒髪金目がトレードマークにもなっていたのに、一気に様変わりしてしまった。
「アキラのことだが」
どこかぼんやりとしていたが、親友の名前を出せば分かりやすく興味を示した。無言で続きを促す視線に笑いかける。
「昔なじみの司祭が保護して『心理室』と呼ばれる部屋に連れて行ってくれてる。疲れてると思うが会いに行くか?」
「怪我はしているのか?」
「少し擦り傷がある程度で大きな怪我はしてないって聞いてるぞ」
アズリカの答えに満足したのか、ラピスは伏し目がちに薄く笑った。その表情がどこか危うげに感じて子供の背中を冷や汗が伝う。
静かに硬直する眷属の様子に気づかずラピスはスムーズな動きでバベルへ進んでいく。
「今日は、会いに行かない。アキラが一番知りたいことを知っている人物は俺じゃないからな」
「それはどういうことだ?」
追いかけながら聞くと少年は金の虹彩を煌めかせながら答えた。
「リーシェだ。まずはリーシェが起きないことには、アキラは梃子でも動かないぞ」
「俺も疲れたから今日は休ませてもらう」と言い残して昇降盤で遠ざかっていくラピス。
取り残されたアズリカは久しぶりの感覚に身を震わせる。
アズリカが質問してラピスが答えを提示する。
かつては当たり前だった構図があった。
異世界から戻って来てからはアズリカが答えてばかりだったのだが、知らぬうちにそれを少し寂しく感じていたらしい。
「あ、そういえばぁ」
「うわっ!?ビックリした……まだいたのかキルス」
感傷に浸っていたところを間の抜けた声に驚かされる。直ぐに思い至った人物の名前を呼べば、心外だというふうに苦笑する執事姿の眷属がいた。
「ラピスさんの『知の力』ですが、我々が知っているのとは少しだけ様子が違っていましたねぇ」
「違う?具体的にはどう違った?」
「その話、俺も混ぜろ」
「ついでに私もお願いする」
顎を撫ぜながら気になることを言ったキルス。嘘は言わない男の言葉に首を傾げれば、横から強引に割ってくる者がいた。
顔を見ずとも声を聞けばわかる。
フェンリルとシノブだ。
「えぇ!えぇ!よろしいですとも!どこかのカフェででも?」
「俺は茶より肉が食いたい。ちょうど夕飯時だろう?」
「待て貴殿ら、決めるのはアズリカ殿だ。アズリカ殿、私も久々に豪勢な食事にありつきたい」
「お前ら最初から俺の意見聞く気ないだろ……」
勝手に承諾するキルスはとりあえずぶん殴っといて、迷宮明けの二強を労う意味も込めて四人で食事をすることになった。
キルスはネタ袋と財布袋としてきっちり絞るつもりだ。




