表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/79

問いかけ

 指名手配が出回っている人物と突然邂逅した気分だった。

 アキラが生まれた国では滅多に見ることができない眩しい金色の髪。口元の微笑みに合わせて細くなった瞳は青の虹彩を湛えている。恐怖よりも先になぜここにいるのかという疑問が先立ち、次に街で教師に会ったような感覚に陥った。知ってはならないこととはいえ、アキラに一番最初に世界について詳しく教えてくれたのがライザだ。妹のところに帰りたいだけのアキラにとって、ライザの異常性にはあまり危機感を抱いていなかったのが、警戒できない一番の理由だろう。


 キリヤの統治のもと賑やかな喧噪に包まれていた周囲はいつの間にか静かになっている。見回すと時が止まってしまったように動きを一斉に止めていた。

 困惑するアキラを見てライザは笑みを一層深くさせた。桜色の唇が小さく開いて花弁のようになる。そこから、秋にうたわれる春の詩と同じくらい違和感のある言葉が紡がれた。


「私の話題はすでに上がりましたか?」


 ぞわっと、ようやくアキラの全身の毛が粟立つ。春を思い浮かばせる笑みがガラリと印象を変え凍てつく冬の寒気を感じさせた。


「なんで……」


「なぜ知っているのか聞きたそうですね。さぁ、なぜでしょうね?そちらに間者でも紛れているのかもしれませんね」


 間者の言葉が出たのは偶然ではないのだろう。こちらの状況をすべて把握した上でライザは目の前に現れたのだ。今この街……『愛郷心』の眷属が治める『ユピテル』には七眷属と主神が揃っている。誰かがライザの出現に気づくか、アキラがバベルまで走ればすぐに捕縛されてしまう。今のライザにとって最も危険な場所になぜわざわざ現れたのか。

 貧相な頭では予想すら浮かばない。だがどうするべきかは分かる。彼女が追われている存在である以上何とかして眷属に伝えるのだ。


 分っている。頭では分かっているのに次の瞬間には全く真逆の行動をとっていた。

 足を大股に進ませて微笑んだままのライザの手を取る。柔らかい小さな手を引いて、路地裏を奥へ奥へと進んだ。


「どこへ?私を主神の足元に差し出さなくて良いのですか?それともバベルの位置を忘れてしまいました?」


 ライザの授業中も途中で寝てしまったアキラ。彼女の中で「おバカでのん気な異邦人」として映っているアキラに背中に軽やかな笑い声が響いた。不愉快ではない声音にアキラは子供みたいに叫んでしまう。


「うるさいな!いいから静かについて来いよ!」


 ようやく歩みを止めたのは人気のない薄暗い路地裏。我武者羅に入り組んだ道を進んだから帰り道は分からない。


「なぜ私をここに?」


 短い問い。疑問を感じていても崩れない笑みを正面から見てアキラは言った。


「俺に話があるんだろ。だからラピスがいなくなったタイミングで現れた。違うか?」


 ライザの表情がやっと変わった。目を少しだけ見開いて驚きを顕わにする。すぐに笑みは戻ったが人間らしい微笑みになっていた。


「驚きました。おバカさんだと思っていたのにその実、座学ができないだけで頭の回転は速いのですね」


 さきほどまでアキラが握っていた手を顎に添えて首を小さく傾げる。警戒しなければと分かっているのに女性らしい可愛い仕草に気持ちが緩みそうになる。


「がんばれ俺……!耐えろ!」


 大きなひとりごとをしながら首をブンブンと振る。「やっぱりおバカなんですか」という声は聞かなかったことにした。


「面白い人ですね。あなたの予想通り、私はあなたに提案がありますの」


「提案?」


 一方的に握った手が今度は向こうから差し出された。


「元の世界に帰りたくはありませんか?」


 ☆*☆*☆*


 アキラを置いてラピスが駆け付けた先は青紙の眷属が吹っ飛んできた場所だった。

 初対面から好感を持てない眷属は、目を逸らしたくなる太い稲妻に焼かれてもなお何事もなかったように無傷で座っていた。

 心底楽しそうにニコニコとバベルの方向を見ていたキルスは接近するラピスに気づくと、一層笑みを深くさせた。


「これはラピスさん。ご友人は一緒ではないのですか?」


「アキラは街中で待たせてる。人が多い場所にいるから、何かあればすぐに騒ぎが起きるだろう」


「アキラさんを置いてまで話したかったこととは何でしょうか?」


 執事っぽい服についた煤を払いながらキルスが立ち上がる。スラリと高い身長は半分以上が足で、スタイルが極めて良いことが分かった。主神が美人なら眷属は美男美女じゃないとなれないものなのだろうか。と考えると脳裏に自慢げに鼻を鳴らすアズリカが浮かんできて、そんな訳がないとくだらない考えを捨てる。


「眷属に聞きたいことは山ほどあるが、お前に聞きたいことは一つ。ラズリについてだ」


「ほう……?」


 スッとキルスの目が細められた。妖しさが増した笑みを睨むように、真剣な顔で眷属を見上げる。


「俺とラズリが深く関わっているからお前はわざわざあの場で話を切り出した。違うか?」


 嘘もはぐらかしも許さないと雄弁に語る赤の瞳と、面白いことになったと輝きを増す緋の瞳が交差する。

 空気が引き締まり、それに似合わない緩い声がキルスから発せられた。


「場所も場所。簡潔にお教えしましょう。ラズリとは三千年前まで世界で最も科学的に発展した王都でございます。たった十四年のうちに現在のセルタに近しい文明を築いておりました。今の世界の発展の基礎でもあり礎となったあの都。そのような価値をもたらしたのは、最後のラズリの王の息子。あることがきっかけで身分をはく奪され追放されましたが、姿を消してもなお多大な影響力を誇っていた嫡子。それこそがあなたです、ラピスさん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ