甲〇沢グランドホテル 警備員の体験
百物語二十九話になります。
一一二九の怪談百物語↓
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私はとあるホテルで警備員の仕事をしています。
うちのホテルは、とても不思議な出来事が多くて…
今回は私がこのホテルで「初日」に体験したことを書きたいと思います。
私の仕事は、主にホテル内の巡回です。その日は巡回中に無線へ連絡が入って…
「3階のエレベーターに不審なお客様がいる。すぐに現場へ向かってくれ」
私は走って3階のエレベーター前に向かった。エレベーターのドアを開けると、中に若い女性がいました。女性は何かに怯えた様子で、エレベーターの中をうろうろと歩き回っていました。
「お客様、どうかなさいましたか?」
私はすぐに女性へ声をかけた。すると…
「いや…あの…いるんですよ…わかんないけど…ここにいるんですよ…えぇ…はは…うん…どうしたらいいんですかね…?」
女性はパニック状態になっているらしく、言っていることが支離滅裂であった。
「あぁ、わかりました。すぐに医療スタッフを呼びますので、ちょっと待っていてください」
私は一度エレベーターの中から出ると、無線で監視室へ連絡を入れることにした。
「すいません、私です。エレベーターで体調不良のお客様を発見しました。すぐに医療スタッフを…」
無線で連絡を入れていると、後ろのエレベーターのドアが閉まった。私は急いでエレベーターのドアを開けたのだが…
「あれ…そんな…!?」
中にあの女性客の姿はなかった。しばらくすると、医療スタッフが急いでエレベーター前にやってきた。私は状況を説明したのだが、女性客の姿はないし、特に異常も見当たらない。
困った私は、無線で監視室の先輩に監視カメラを確認してもらうことにした。すると…
「何を言っているんだ?女性客はまだエレベーターの中にいるぞ?」
先輩の無線を聞いた途端、エレベーターのドアが再び不自然に開いた。
中には誰もいなかった。
私と医療スタッフはすぐにエレベーターの中を確認したが、もちろん誰もいない。
「おい!何をやっている?目の前にいるだろ、女性客が…ほら…えっ?」
監視カメラを確認している先輩が再び無線を入れてきたが、何やら様子がおかしい。
「あぁ、もういい!早く監視室へ帰ってこい!休憩していいから…もう帰ってこい…早く!!」
私たちはすぐにエレベーターから離れると、それぞれの仕事に戻った。監視室の先輩に何があったのか聞いてみても、先輩は何も言わない。ただ…
「ここではこういうこともよくあるんだ。今のうちに覚えておきなさい…」
そう言いながら、先輩は私に向かってコーヒーを差し出した。
このホテルでは、こういうことがよくあるんですよ。今ではすっかり慣れてしまいましたが、このホテルは「異常」です。他のスタッフも色々と体験しているみたいですが、私の口から語れるのはこのお話だけです。
他のお話は…話すなと言われたので、遠慮しておきます…