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「うわぁ…広くて豪華だ」


清香のことを女湯で降ろし、男湯の脱衣所で服を脱いで腰にタオルを巻き浴室へと向かった悠希は浴室を見るなり呟きつつ大きく目を見開いた。悠希の言うとおり浴室は広くて豪華で複数の洗い場に二十五メートルプールくらいの大きな浴槽。その浴槽のお湯はライオンの置物の口から出ていてお湯は少し変わった色をしていた。


「……広くて豪華なのはここの主が大のお風呂好きだったからだよ。女湯も似たような感じだね」


物珍しそうに辺りを見渡す悠希。そんな悠希に向かってそう言った男の声が浴室ないに響き渡った。


「っ…貴方は!」


悠希は声の主の姿を目にするなり声をあげつつ咄嗟に左手を自分の背に隠す。声の主は先程、悠希と清香を助けてくれた男で男は湯船に浸かりつつ縁に頭を乗せ、暖めているのか目にはホットタオルを乗せていた。


「先程はありがとうございました。助かりました」


悠希は男に向かって深々と頭を下げ、一礼をした。


「かしこまらなくていいよ。若者よ…私は私の役割を果たしたまでだからね。ここの湯は傷にいい薬湯だから体を洗って浸かるといい」


男はホットタオルを目から離すことなくそのままの格好で答えた。


「わかりました…でもあれ?何で俺たちよりも速くここに…?」


悠希は男の言葉を聞いて体の洗い場にある椅子に腰掛けた。だが体を洗おうと石鹸にてを伸ばした瞬間、疑問に思ったことを口にしつつ男へと目を向ける。


「え?ああ…君よりも私の動きの方が速いからね。あの吸血鬼の足止めをしたあと、浴びた返り血を清める為に戻ったんですよ」


男はゆっくりとした動作で目に置いてあったホットタオルを取り、黒だが赤く見える瞳で悠希のことを見つめつつ尖った八重歯を見せた。


「吸血鬼だったんですか…?」


悠希はそんな男の姿を見て微かに目を見開いた。


「ええ。そうです。でも安心してください。私は君たちを襲った吸血鬼とは違って同意なく血を飲んだりしないから」


男はホットタオルを再び自分の目に乗せる。


「吸血鬼にも色々な考えを持った人がいるってわかってるので、お兄さんが無理矢理血を飲んだりしないって信じているので大丈夫です。無理矢理血を飲む気でいたならさっきの吸血鬼と共闘しているだろうし、独り占めにしたかったのなら俺たちよりも先に此処へ辿り着く速さがあったんだ。俺たちがこの城に辿り着く前に襲っていた筈です…でも返り血を浴びたってなんですか?まさか殺したとかではないですよね?」


悠希は少しだけ険しい表情をして男を見つめ、首を傾げる。


「まさか。殺してはいないよ。吸血鬼は殺そうとして簡単に殺せる種族ではない。血が足りている状態なら傷を負ってしまっても直ぐに治ってしまう体だし…返り血は追ってこれないようにしたときに浴びたものだよ」


男は悠希に向かって説明をする。


「よかった…死んでないんですね」


悠希は男の言葉を聞いて険しい表情をすることを止めてホッと胸を撫で下ろし、自分の体を洗い始める。


「……町での反応。吸血鬼の心配。そして臆することなくここを訪れる度胸…どうやら私の目に狂いはなかったようだ」


悠希が体を洗い始めて少しした頃、男は安易したように呟いた。


「ん?」


悠希は男の呟きを聞いて体を洗う手を止め、男へと目を向ける。


「君、この世界の住人ではないね」


男はホットタオルを目から取り、悠希のことを視界に入れて首を傾げる。


「え、あ…はい。違いますけど…それがなにか?」


悠希は不思議そうな顔をして男を見つめ、首を傾げる。


「違くてよかったよ。下手にこの世界の人間を助けると後々面倒なことになるからね」


男は目に当てていたホットタオルを自分の頭に乗せる。


「面倒…?世界とか関係なく困っている人を助けるのは当然だと思うけど」


悠希は男の言葉を聞いて険しい表情をする。


「確かに困っている人を助けることは当然のことなんだけど、この世界は少し特殊なんだ」


男は悠希のことを見つめながら立ち上がり、浴槽から出る。


「特殊…?」


悠希は険しい表情をしたまま首を傾げる。


「詳しくは天月に聞きたまえ。長湯をしているとリースに怒られてしまうから私は自分の役割に戻らなければならない。風邪など引かないようにね」


男はそれだけ言うと足早に浴室から出ていった。


「行っちゃった…あ。どうしよう。話に夢中で名前聞きそびれちゃったし、自分の名前、名乗り忘れた…」


悠希は男の姿を見送ったあと、困ったような表情をした。


「……ここの人みたいだし、今度あったときにでも名乗ればいいか」


少しの間、困ったような表情をして考えたあと悠希は自己完結しつつ普段通りの表情をし、体洗いを再開した。


「…それにしても天月さんに聞け、か…調べろって言われてたのに月華ちゃんと遊んだ挙げ句、この世界のことよく知らないのに外出ちゃったからな…聞いて教えてくれるだろうか」


体を洗うために使っていたタオルをよく絞って乗せ、湯に肩まで浸かり始める悠希。そんな悠希の体が暖まり始めた頃、悠希は唐突に呟いた。


「……あとで今回のこと聞かれるし、その時にダメもとで聞いてみよう。教えてもらえなかったら話が終わったあとで調べてみればいいよね」


少しの間、真剣な顔つきで考えた悠希は独り言のように呟いたあと、鼻下まで湯に浸かりブクブクと息を吐き始める。


「…あの!すいません!悠希くん、いらっしゃいますか!」


充分体が暖まり、上がろうと思って立ち上がっていた悠希の耳にそう言った声が聞こえてきた。


「はい。いますけど…」


聞こえてきた声は悠希にとって聞き覚えのない声で悠希は不思議そうな顔をしつつ頭に乗せていたタオルを取り、左手の甲に巻き付けて浴槽から出、脱衣所へと向かっていく。


「よかった。いてくれた…初めまして。悠希くん。僕は空。着替えとタオルを持ってきたんだ」


悠希が向かった先には、月華よりも年上で頭に杜若の花が咲いている少年がたっていて少年は悠希の姿を見るなりにっこりと微笑み、手に持っていた服とタオルを差し出した。


「あ、ありがとうございます」


悠希は少年、空からタオルだけを受け取り体を拭き始める。


「さっきまで着ていた服は洗っておきますね」


空は服を悠希の近くに置いたあと、先程まで悠希が着ていた服へと近づいていく。


「あ、ごめん。手袋だけは!」


悠希は空の言葉を聞いて慌て焦ったように空を見つめる。


「…昨日、傷の手当てと着替えをさせてもらったとき、頑なに手袋だけは外させてくれなかったのでわかってます。大切なものなんですよね?大切なものだからこそはやく洗ってあげるべきですよ。血とか時間がたつと落ちにくいものですし…手袋をしていないと落ち着かないというのであれば代わりの物を持ってきたので使ってください」


空はにっこりと微笑みつつ服へと目を向けると服の上にはちゃんと手袋が置いてある。


「わかった。ありがとう。よろしくお願いします」


悠希は空が目を向けた先に目を向け、手袋が視界に入った瞬間ほっとし、にっこりと微笑んで空へと目を向ける。


「はい。バッチリ綺麗にしておきますね!」


空は元気よく返事をしつつ大きく頷き、悠希が着ていた服を抱えるように持った。


「…それでは僕、これを洗い場に持っていって手洗いしてきます。悠希くんは服を着たあと、ここで待っていてください。月華ちゃんが来て天月さんがいる場所まで案内してくれると思うから」


手袋を目にしたあと、体拭きを再開する悠希。そんな悠希に向かって空はそれだけ言うと足早に脱衣所から出ていく。


「本当にありがとう!」


そんな空の姿を見送ったあと、悠希は手早く左からタオルを外し、両手に手袋をしたのだった。

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