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太陽が沈みかかった頃、悠希が使うための部屋の掃除を終えた天月は自室に戻っていた。天月の自室はカーテンを締め切っている上に何本かの蝋燭で照らされているだけなので薄暗かったが、天月はそんなことお構いなしに薬の調合を真剣な顔つきでおこなっていた。


「天月ちゃん!大変なのっ!」


そんな天月の部屋に月華が飛び込むように訪ねてきた。


「っ…どうした?月華」


天月は訪ねてきた月華の顔を見てぎょっとする。月華は目を真っ赤にして泣いていて頬には涙の痕が残っていたのだ。


「悠希お兄ちゃん…お城の中にいないの」


月華は泣きながら天月のことを見つめ、答える。


「え…」


月華の返事を聞いて天月は驚き、調合中の薬品を思わず落としてしまう。


「月華ね。遊んで貰ってたの…でも悠希お兄ちゃん。いきなり走り出しちゃって…月華。悠希お兄ちゃんはおトイレに行ったんだと思って待ってたの。だけどずっと待ってても悠希お兄ちゃんは戻ってこなくって…お城の中、いっぱい探して見たんだけど何処にもいなくて…」


月華は天月に説明した後、その場で大泣きをしてしまう。


「……僕が探しに外へいく。だから泣かないの」


天月はそんな月華に向かって近づいていき、頭を撫でる。


「天月ちゃんが…?でも天月ちゃん。あんまり外に出たくないって…」


月華は泣きながら天月のことを見つめる。


「出たくないよ。手薄になるからね…でも遊んでもらっていたということは彼はまだこの世界について何も知らない可能性が高い。そして知らずに彼が外に出たというのなら自ら学んだ方がいいとこの世界について何も説明しなかった僕の落ち度だ。だから探して連れ戻す」


天月は真剣な表情をして月華のことを見つめる。


「天月ちゃん…」


月華は天月の表情を見て泣き止んだものの未だ涙で濡れた目で天月を見つめる。


「危険を察知したらリースを起こして対処させつつお父さんのことを呼ぶんだ。いいね?」


天月は泣き止んだことで月華の頭を撫でることを止め、壁にかかったマントへと近寄って羽織る。


「わかった!天月ちゃんがいない間、月華。頑張る!」


月華は大きく頷きながら元気よく返事をした。月華の返事を聞いた天月は月華の頭を優しい手つきでポンポンと叩いた後、マントについていたフードをかぶって歩き出した。服の袖で目をごしごし拭いた後、月華はお見送りをしようと小走りで天月のあとをついていく。


「天月ちゃん…?」 


玄関へと向かう途中、突然立ち止まる天月。月華はそんな天月を目にして立ち止まり、不思議そうな顔をして天月の顔を覗き込むように見た。


「血の…臭いが…」


天月は腕で鼻を覆い、険しい表情をして呟いた。


「血の臭い…?もしかしてっ!」


天月の言葉を聞いて月華は怪我をした悠希が戻ってきたのではないかと思い、駆け出した。


「悠希お兄ちゃん!」


月華が思った通り玄関には悠希と清香の姿があり、月華は悠希の姿を見るなり名前を呼びながら駆け寄っていく。


「……月華ちゃん」


全力でこの場所を目指していた悠希はたった今ここに辿り着いたのか荒々しい息づかいをしつつ月華の声に反応し、月華へと目を向ける。


「悠希お兄ちゃん!怪我してるの?大丈夫?」


悠希の目の前で立ち止まった月華は潤んだ瞳で心配そうに悠希の体を見た。


「怪我してるけど掠めただけだし、血は止まっていると思うから大丈夫だよ。それよりもこの子を見てあげてくれる?」


悠希は抱き抱えていた清香を月華へと見せた。


「っ…吸血鬼に噛まれちゃったの…?天月ちゃん!大変!悠希お兄ちゃんが吸血鬼に噛まれちゃった女の子連れてきた!」


月華は清香の首筋を見た後、月華は自分のあとを追ってきていて背後にたっていた天月へと目を向ける。


「吸血鬼に噛まれて…その子、げっそりしてたりする?血の気はある?」


天月は腕で鼻や口を覆ったまま悠希が抱えている清香へと目を向ける。


「色白で意識はないけどげっそりはしてないよ…って天月さん。なんでマントなんて着けてるの?」


その問いかけを聞いて悠希は一度だけじっと清香の事を見てから天月へと目を向け、首を傾げる。


「……君が城の中にいないって月華に聞いたから探しに行こうと思ってのことだけど」


天月は清香から悠希へと視線を移し、真顔で悠希のことを見つめる。


「っ…それはすいませんでした」


悠希は天月に向かって申し訳なさそうな顔をして深々と頭を下げる。


「……安心していいよ。吸血鬼に噛まれてできた傷は直ぐに塞がるからこれ以上、血が流れることはない。彼女が意識を失っているのは血を吸われ過ぎたことによる貧血だから」


天月はそんな悠希の姿を見た後、清香へと目を向けた。


「よかった…死んじゃったとかではないんだね」


天月の言葉を聞いて月華はほっと胸を撫で下ろす。


「…お風呂湧いているから血を洗い流して着替えるといい。月華、案内してあげてね。案内が終わったらリースを起こして彼女の体を拭いてあげて」


口などから腕を離した天月は少しはやめな口調でそう言った。


「了解だよ!」


月華は元気よく返事をしつつ大きく頷く。


「……今回の件、あとでちゃんと話してもらうからそのつもりで」


天月は悠希のことを真剣な顔つきで見つめる。


「わかった」


悠希は天月を見つめながら小さく頷いた。


「じゃまたあとで」


悠希の返事を聞いた天月は悠希たちに背中を向け、先程落とした薬品を片付けようと足早に自室へと戻った。


「……もしかして天月さん。血が苦手?何処か険しい表情してたし」


天月の姿を見送った悠希は月華へと目を向け、首を傾げる。


「うーん…苦手なことに入るのかな?天月ちゃんに血はダメだってお父さんからは言われてるけど…」


月華は軽く下を向いて少しだけ考える素振りを見せた後、悠希へと目を向ける。


「そっか…ならはやく血を流さないと…でもその前にこの子、何処に降ろせばいい?」


悠希は申し訳なさそうな表情をして天月が去った方向を見つめたあと直ぐに月華へと目を向け、再び首を軽く傾げる。


「うーんとね。今から案内するお風呂場の隣で大丈夫だよ!隣のお部屋は女の子専用のお風呂場だから」


月華は少しだけ考える素振りを見せた後、悠希に向かってにっこりと微笑んだ。


「わかった。それじゃ行こう?」


悠希は月華の笑みを見てにっこりと微笑み返す。


「うん!」


月華はにっこりと微笑んだまま元気よく返事をすると前を向いて歩き出した。そんな月華の姿を見て悠希は微笑むことを止め、清香のことをしっかりと抱えたあと、月華のあとを追うように歩き出したのだった。

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