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天月の許可を得て色々と城の中を見て回っていたことで図書室のような部屋へとたどり着いた悠希は何やら本を探していた。
「うーん…これかな?」
悠希は背表紙に【世界について】と書かれた本を見つけ、その本を手に取りその場で本を開いた。
「えーっと。古代種、天使、悪魔以外の種族が存在しなかった遥か昔、世界は大きく一つだった。だが世界は突如、破滅の危機に直面した。これに立ち向かったのは神と契約しているという者たちで世界はこの者たちの手によって救われたが世界に残された爪痕は大きく、神との契約者たちは神に願い出ることで世界を小さく複数にわけた。この時から神隠しなる現象が起きるようになった、か…うーん。この話、園長先生に教えてもらったから知っているや。俺が知りたいのはこの世界のことなんだ。傍観者のお陰で言葉や通貨は全世界共通だけど一つ一つの世界観は違うらしいから」
悠希は本の一文を声に出して読み終えたあと、この本ではないと残念そうに本を閉じ、元あった場所に本を戻した。
「…あ、あの」
悠希がは再び本を探していると細い女の子の声が聞こえていた。
「ん…?」
その声を聞き逃さなかった悠希が声のした方向へと目を向けるとそこには開かれたドアがあってそのドアに隠れるように立ち、ひっそりと悠希のことを見つめる少女がいた。少女は五歳前後でとても可愛らしく、動きやすい服装にピンク色の瞳。髪は短くはないがそこまで長くない黒色で月下美人の花の蕾が髪飾りのように頭に咲いていた。
「もしかして君、花族…?」
悠希はそんな少女の姿を見て問いかけた。
「う、うん…お兄ちゃん。花族のこと知ってるの?」
少女は隠れたまま小さく頷いたあと、悠希の問いかけに控えめな口調で答えた。
「知ってるよ。俺がいた世界には人間しかいなかったけどね。園長先生から色々と教えてもらってるんだ。他に世界が複数あることやいろんな種族がいることとか…そっか。この世界には花族やエルフ…色んな種族がいるんだね。それで俺に何か用?えーと…」
悠希は少女へと近付いていった。そして少女の目の前で立ち止まるなり悠希は少女の目線に合わせるようにしゃがみこんだものの少女の名前がわからず、首を傾げたのである。
「もしかしてお名前知りたいの?」
少女は隠れたままそんな悠希のことを見つめた。
「そう。お名前が知りたいの。俺は悠希っていうんだけど君のお名前は?」
悠希は首を傾げたまま自分の名前を名乗りつつ問いかけた。
「月華っていうの。お父さんがつけてくれたんだ」
少女…月華は答えるように自分の名前を名乗り、月華という名前が気に入っているのか凄く嬉しそうににっこりと微笑んだ。
「月華ちゃんか。月下美人だからそう名付けたのかな?良い名前だね。それで月華ちゃんは俺に何か用?」
悠希は首を傾げることを止め、月華の名前を褒めつつ問いかける。
「みんな忙しいみたいで誰も月華と遊んでくれないの…だから遊んでほしいなって」
月華は名前を褒められて満足そうな顔をしたあと、控えめに悠希のことを見つめた。
「誰もいないのか…わかった。いいよ。俺でよかったら相手になるよ。何して遊ぶ?」
悠希はにっこりと微笑んで月華のことを見つめた。
「いいの!ありがとう!うーんとね…何がいいかな?悠希お兄ちゃんは何がしたい?」
月華は悠希の返事を聞いてとても嬉しそうに微笑んだが何がしたいか迷ってしまい、悠希に向かって問いかけた。
「うーん。そうだな…チャンバラとかは?」
悠希は少しだけ考える素振りを見せた後、提案した。
「チャンバラ…?」
月華は悠希の提案を聞いてキョトンっとし、そう言いながら首を傾げた。
「チャンバラ知らない?弟や妹たちには人気だったんだけど…あ、知っててもデリケートな花族にはあまりおすすめできない遊びなのかな?」
悠希は答えが、花族は知っていてもそんな事しないかと苦笑した。
「お父さんに色んなことを経験しなさいって言われてるから月華、チャンバラやってみたい!」
月華はそんな悠希のことを真っ直ぐ見つめた。
「わかった。それならチャンバラしよう。でも此処は本を読むための場所だから外に行こうか」
悠希は月華の返事を聞いてにっこりと微笑み、立ち上がった。
「お外…?お外は出ちゃいけないって言われてるの」
月華は首を横に振りつつ困ったような顔をする。
「え?そうなの?なら広いお部屋はあるかな?」
悠希は月華の言葉を聞いてキョトンとした後、問いかけた。
「お父さんに此処で遊びなさいって言われたお部屋なら広いよ!」
月華は悠希に向かってそう答えながらにっこりと微笑んだ。
「じゃそこでやろう。案内してくれると嬉しいな」
悠希は月華に向かってにっこりと微笑んだ。
「うん!行こう!」
月華はにこにこ微笑みながらそう言うと悠希の手を掴んだ。そして悠希の手を引きながらちょこちょこと歩き始めたのである。
「……あ、月華ちゃん。今からいく所に剣の玩具ってあるかな?柔らかい素材でできているものがいいんだけど」
月華に手を引かれるがまま歩いていた悠希は思い出したように月華へと目を向け、問いかけた。
「うーん。みんないっぱい玩具くれるから月華、あるかどうかわからない」
月華は歩きながら少しだけ考えたあとで答えた。
「そっか。じゃあ最初は探してみないとね」
悠希は月華の返事を聞いてそう言い、月華から進行方向へと目を向けた。
「うん!」
月華は元気よく返事をし、大きく頷いた。
「ここだよ!この先に月華の遊び場があるの!」
暫く歩き続けた結果、月華と悠希は一つの扉の前に立ち止まり、月華は扉を指差した。
「そっか…っ!」
悠希は扉へと手を伸ばし、ゆっくりと開けていった。そしてその先にあったものを見て悠希は大きく目を見開いたのである。扉の先にあったもの…それは床には土が敷き詰められ、人の手がくわえられた草花や樹が生えていてブランコや滑り台などの遊具があり、そこはまるで外だと思わせるほど自然豊かな場所だった。
「え…ここ本当に室内、なの?」
先程、外は危ないと月華から聞いていた悠希はそんな光景を見て目を疑い、呟きながら辺りを見渡した。見渡す先にはちゃんと壁があり、非常に高い位置にある天上は一面ガラス張りになっている。そして夜になっても暗くならないようにと室内にはいくつかの灯が設備されていて、自然公園だといってもいいような部屋だった。
「お外は危ないからこのお部屋はこうなってるんだの。お花さんたちが元気なのはお姉ちゃんのお陰なんだって」
月華はそんな悠希に向かってにっこりと微笑んだ。
「そうなんだ…」
悠希は月華の言葉を聞いてエルフであるリースのお陰なのだと思いつつ部屋の中を見渡し続ける。
「で、玩具はこっちに置いてあるの!早くチャンバラやろー!」
月華はとても楽しみにしているのかにっこりと微笑んだまま、未だに繋いでいた悠希の手を引いて部屋の中へと入っていった。悠希は辺りを見渡すことを止め、手を引かれるがまま月華に着いていく。
「あれ!あれに月華の玩具が入ってるの!」
すると部屋の片隅にこの部屋には似つかわしくない収納箱が沢山置いてあるのが悠希と月華の視界に入り、月華はそんな収納箱を指差しつつ近づいていきながら悠希へと目を向けた。
「あれか…さっき言ってたの入っているといいね」
悠希は歩きながら月華の指差した収納箱を見たあと、月華へと目を向けた。
「うん!」
収納箱の目の前まで来て立ち止まった月華は元気よく返事をした。
「……あった」
月華が立ち止まったことで自身も立ち止まった悠希は月華の返事をきいたあと、収納箱の中を一つ一つ確かめるように漁っていき、そんな悠希を真似るように収納箱を漁る月華。すると収納箱の奥の方に先程言っていた剣があるのを悠希が見つけ、悠希は声をあげながらその剣を収納箱から二つ取り出した。
「わぁ!これでチャンバラ出来るね!」
月華は悠希の声に反応するかのように収納箱を漁ることを止め、悠希が取り出した剣を見てにっこりと微笑んだ。
「そうだね」
悠希は月華に剣を一つ差し出した。
「でもチャンバラってどうやるの?」
差し出された剣を受け取った月華は不思議そうな顔をして首を傾げた。
「うーん…本当は剣を使って打ち合うんだけど…体格差あるし、月華ちゃんは初心者だからその剣が俺の体に触れたら月華ちゃんの勝ちってことにしようか」
悠希は少しだけ考える素振りを見せた後、月華に向かって答えた。
「剣を悠希お兄ちゃんの体に当てるだけでいいの?」
月華は悠希の言葉を聞き、首を傾げたまま問いかける。
「うん。そうだよ」
悠希は月華へのハンデとしてその場に正座をする。
「わかった!」
月華は悠希の返事を聞いて剣を両手に持って悠希へとかかっていった。しかし悠希は月華に渡した剣と共に取り出し、片手で持っていた剣でその剣を意図も簡単に受け止めてしまう。
「やぁぁあ!」
声をあげながら剣を悠希に当てようとする月華。だが月華が何度向かっていっても悠希はその場から動くことなく剣を使ってそれを防いでしまった。
「っ…はぁ…はぁ。当たらない」
暫くの間、月華と悠希の攻防は続いた結果、疲れて少し辛そうな息づかいをしているが何度もやっている内に楽しそうな表情をしている月華は、動いたことによって額から出た汗を服の袖で拭った。
「はぁぁ!」
汗を拭い終わった月華はどうしても悠希の体に剣を当てたいと思ったのか、大きなかけ声も共に力強く踏み込んで悠希へと向かっていった。そんな月華の姿を見て悠希は月華にわからないように手を抜いてあげた。その結果、月華が持っていた剣は悠希の頭に当たる。
「っ…やった!当たった!」
悠希が手を抜いたことに気がついていない月華はとても嬉しそうな顔をし、はしゃぎ始めた。
「おめでとう。月華ちゃん」
悠希はにっこりと微笑み、月華の頭を撫でてあげた。
「えへへっ。ありがとう!」
悠希に頭を撫でられた上で褒められた月華は、更に嬉しそうな顔をしている。
「それにしてもお兄ちゃん凄いね!月華、頑張ったのに一回しか当てられなかった」
そんな月華の頭を撫で続ける悠希。頭を撫でられ気持ち良さそうに目を細めている月華は悠希のことを見つめた。
「凄くなんかないよ。小さい頃から…月華ちゃんより小さい頃から剣術をいざという時の為にやらされてて…今もやってないと落ち着かないし、勝ちたい相手がいるからやってるだけだよ」
悠希は月華の頭を撫で続けた。
「そーなの?月華。悠希お兄ちゃんがしてるネックレス、剣の形してるから悠希お兄ちゃんは好きでやってて凄いのかと思った」
月華は大人しく頭を撫でられ続けながらも不思議そうな顔をして悠希のことを見つめた。
「好きだよ。好きじゃなかったら勝てない相手に勝ちたいとも思わない訳だし…あとこれはお守りみたいなものだよ」
悠希は何処か複雑そうな顔をし、月華の頭を撫でていた手をネックレスへと持っていき、ぎゅっと握った。
「…悠希お兄ちゃん?」
月華はそんな悠希の姿を見て何故そんな顔をするのだろうと不思議そうな顔をしたまま悠希のことを見つめ続け、悠希のことを呼んでみた。
「……なんでもないよ。あ、そうだ。次は月華ちゃんがしたい遊びをしようか。何がいい?」
悠希は首を横に振ったあと、ネックレスから手を離しつつ普段通りの表情をした。そしてその顔で月華のことを見つめた悠希は問いかける。
「月華のしたいこと…あるよ!ちょっと待っててね!」
なんでもないと言う悠希の言葉を信じた月華は不思議そうな顔をすることを止め、奥に向かって駆け出した。
「……これ!これで遊びたいの!」
月華のことを座ったまま見送り、大人しく待つ悠希。そんな悠希の元へボールを抱えるように持った月華が駆け寄ってきた。ボールの大きさはバレーボール程の大きさでどうやら収納箱に片付け忘れ、何処かに転がっていたらしい。
「ボール…?っ…悪い。遊ぶのはまたあとでな」
月華が持ってきたボールを見た悠希は何かを思い出し、慌てたように立ち上がり駆け出した。
「え、悠希お兄ちゃん…?」
そんな悠希の姿を見て月華な何事かと悠希のことを呼び止めようとしたが、悠希は月華のことを呼び掛けに応じることなく部屋から出ていってしまったのだった。
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