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「ん…」
太陽が登り始めた頃、人里離れた森の奥にある大きく古びた城の一室の中にあるふかふかで大きなベッドの上で悠希は目を覚ました。
「此処、何処だ…っ?」
目を冷ましたことにより悠希は見覚えのない天上を見て体を起こし、辺りを見渡そうとしたが所々体に痛みが走ってしまい、ベッドに身を預けてしまった。何故、体が痛むのかと悠希は視線を動かして体を見た。すると悠希が着用しているものは手にしていた手袋とネックレス以外、家を出たときに着用していたものとは違っていて、肌が見える部分には包帯が巻かれていたり、本人は気づいているかわからないが頬にも傷があるのかガーゼでとめてあった。
「何で服が変わって…?それにいったい此処何処なんだ…?俺は確か悪天候の中外に出て…」
悠希はベッドに身を預けたまま目を閉じ、自分の身にいったい何が起きてこの場にいるのかを考え始めた。
「……あれ?そもそもなんで外に出たんだっけ?」
だが悠希は傷を負う際、頭を打ったのか子供たちと別れるように外を出てあとのことを思い出そうとしても何も思い出すことが出来ず、その上何故悪天候の中外に出たのかも忘れてしまい、目を開けて困惑した。
「あ、よかった。目、覚めたんですね」
悠希が困惑していると部屋の扉がゆっくりと開き、少年が部屋の中へと入ってきた。そして少年は目を開けている悠希の姿を見てほっとしたような表情をしたのである。少年の年齢は十五、六歳くらいで髪は長くもなく短くもない藍色のくせ毛。瞳は黒色で黒縁をかけ、服装は上のボタンを一つ開けた状態の白色のワイシャツに黒色のズボンを着用し、右耳には太陽をモチーフとしたピアスをしていた。
「っ…貴方、は…?」
悠希は少年が部屋の中に入ってきたことで、上体を起こそうと体を動かし始めた。
「わわ。動かないで。傷に障るから」
少年はそんな悠希の姿を見て慌てたように駆け足で悠希へと近づいていき 、悠希の体を軽く押して悠希のことをベッドに寝かせた。
「此処は何処…?俺はいったい…」
素直にベッドへと身を預けた悠希は少年のことを見つめながら少年なら何か知っているのかと問いかけた。
「話はあと。リース。お願い」
少年は悠希に向かって答えたあと、自分の後ろへと顔を向けた。
「任せて。天月」
少年よりも身長が低かった為分からなかったが、少年の後を追うように部屋の中へと入ってきたらしく少年の後ろには子供のように見えるが大人びている少女が立っていて、少年にリースと呼ばれた少女は返事をしたあと、悠希へと近付いていった。リースはおかっぱに近い髪型をしていて色は黄緑色。瞳の色はオレンジ色で耳は尖っていて今まで眠っていたのか服装はパジャマ姿だった。
「…え。もしかしてエルフ?」
悠希はリースの姿を目にするなり驚いたように目を見開いた。リースはそんな悠希のことをさして気にも止めず、悠希へと両手をかざして目を閉じ、呪文のようなものを唱え始めた。
「……はい。起き上がってみて頂戴」
呪文を唱えることを止めたリースは手をかざすことを止めつつ目を開け、、悠希のことを見つめた。
「っ…痛く、ない…?」
悠希は体を動かす際に生じる痛みを想像しつつリースに言われるがままゆっくりとした動作で上体を起こした。そして起き上がる際に痛みを感じなかったのか呟いたのである。
「痛くなくて当然よ。魔法の力は偉大だもの」
リースは当たり前だと言わんばかりに胸を張り、にっこりと微笑んだ。
「魔法…やっぱり貴女はエルフなんですか?いや。でも…」
悠希は困惑しているがリースのことを見つめた。
「先程の反応といい。今の反応といい君が住んでいた世界にエルフはいないようですね。でも学んではいるようだ。そう。彼女はエルフだよ。そして此処は君がいた世界とは全く別の世界なんだ」
天月はそんな悠希の姿を見て答えた。
「え、別の世界…?」
悠希は天月の言葉を聞いて驚愕し、大きく目を見開いて戸惑った。
「神隠しにあって君は他の世界に…此処に飛ばされてしまったんだよ」
天月は悠希の頬に貼ってあったガーゼを優しい手つきで取ってあげた。
「神隠し…」
悠希は神隠しの意味を知っていた。だがまさか自分が神隠しに合うと思っていなかったのか大きく見開いていた目を細め、困惑した。
「何があって外に出たのかは知らないけど君が外に出た時、悪天候じゃなかった?その天候は神隠しによるもの…そして君が負った怪我はこの世界に来たときに出来たものだ。単独みたいだったけど出現する場所が悪かったようでね。発見時、君は多くの怪我を負っていた…」
天月は悠希に向かって説明をした。天月が言うように神隠しは嵐のような天候を起こし、人や物、大きな建造物でさえも他の世界へと誘ってしまうことを指していてこのように神隠しには単独と相互があり、単独はその名の通りついた先で神隠しは起きていないことで相互は起きていることを指す。だがどちらも出現する場所はランダムで相互の場合、神隠しが起きている場所に出現するとは限らないのだ。
「…まぁ。リースが貧血で気を失っていたから回復魔法かけてあげるの遅くなっちゃったんだけどね…あ。そうだ。回復したことだし最上階とその手前の階にある部屋以外の部屋をこの城の主代理である僕、天月の権限で見て回ることを許可するから色々と学ぶといいよ。神隠しとは何かと尋ねなかった君なら学んだ方がいいってわかっている筈だから」
だからあんなにも体が痛かったのかと天月の言葉を聞いて納得した素振りを見せる悠希。そんな悠希に向かって天月は言葉を続けた。
「そうですね。そうします」
悠希は天月に向かって返事をするとベッドから降りるように立ち上がり、眠っていたために乱れた身なりを整え始めた。
「助けてくれてありがとうございました。俺の名前は悠希っていいます。お言葉に甘えて色々と学んできます」
身なりを整え終えた悠希は自分の名前を名乗り天月たちに一礼したあと、足早に部屋から出ていってしまったのである。
「……凄い行動力ね。神隠しにあったなんて知ったら取り乱すと思ったのに」
部屋から出ていく悠希の姿を見送ったリースは感心した。
「うーん…取り乱すかどうかは個人差がありますからね。大泣きしたり平然と笑っていたり……彼の行動力の速さは戸惑い、困惑しながらも順応しようとしているからだと思う」
リースと同じく部屋から出ていく悠希の姿を見送ったあと、天月は少しだけ考える素振りをみせてからリースへと目を向けた。
「そう……って天月!今何気に失礼なこと言ったでしょ!
リースは天月の言葉を聞いてムッとして天月へと目を向け、頬を膨らませた。
「事実を言ったまでのことだよ。さて彼も元気になったことだし綺麗ではあるけれど僕は今から彼に使って貰うため、この部屋の掃除をもう少し念入りにしておこうと思う。リース。君はもう少し休んだ方がいい」
天月はそんなリースに対して普通に返事をしたあと、今からすべきことを伝えた。
「……そうさせてもらうわ。あいつ、遠慮がないんですもの…でも心配してくれるのならあのお方を起こせばよかったんではなく…」
「リース。君には悪いけど何があってもあのお方を起こすつもりはないよ。だからそれ以上言わないでくれるかな」
リースが起こせばよかったのではないかと言いかけた時、リースの言葉を聞いて鋭い目付きに変わった天月が睨み付けるようにリースのことを見つめ、その言葉を遮った。
「っ…ごめん」
天月の目を見たリースは言葉が過ぎたと反省し、俯いてしまう。
「……掃除します。リースは自室に戻ってしっかり休むように」
天月は俯いてしまったリースの姿を見て我に返ったようにリースのことを睨み付けることを止め、指で眼鏡を持ち上げながらばつが悪そうに指示をした。
「うん…休んでくるね」
リースは天月に向かって答えると足早に部屋から出ていったのだった。
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