プロローグ
強い雨風、雷が激しく鳴り響く嵐の夜。道場つきの少し大きめな平屋の道場の中に一人の青年がいた。青年は十七歳くらいの年齢で黒色の長くもなく短くもない髪に切れ長の黒色の瞳を持ち、胴着を着用していて首には剣の形をしたトップが目立っているシルバーネックレスをし、手には黒色の手袋をしていて竹刀を持ち、汗をかきながら真剣な顔つきをして竹刀を振るっていた。
「ゆ、悠希お兄ちゃん」
そんな青年のことを悠希と呼ぶ声が道場内に響き渡った。
「ん?」
その声に反応するかにように悠希が素振りを止めて声のした方向へと目を向けると、そこには五歳前後で男女複数の幼い子供たちがいてその中心にいる女の子が目からポロポロと涙を溢し、鼻水を垂らしている。
「っ…どうした?」
そんな女の子の姿を見て悠希は慌てて子供たちへと駆け寄っていった。
「……ボール。お外に忘れてきちゃったみたいなの」
だが女の子は泣きじゃくっていて悠希の問いかけに答えることが出来ず、その女の子の隣にいる男の子が答えた。
「っ…本当、か?」
子供達の目の前で立ち止まった悠希は泣いている女の子の目線に合わせるようにしゃがみこみ、竹刀を手にしていない方の手で泣いている女の子の頭を優しい手つきで撫でながら出来るだけ優しい口調で問いかけた。
「う、ん…お昼ご飯食べたあと、お外で遊んでたの…でも…でも…お天気悪くなっちゃって慌ててお家の中に入ったから忘れちゃった、の…」
女の子は途切れ途切れではあるが泣きじゃくりながら答えた。
「夜ご飯食べてお部屋に戻った時に気がついたみたいでその時からずっと泣いてて…園長先生にはお天気悪いからお外に出るの駄目だって言われてるし…お兄ちゃんに言えばどうにかしてくれるかなって…皆で相談してきたの」
泣いている女の子の後ろにいた女の子が泣いている女の子の言葉に続くように口を開いた。
「そっか…わかった。お兄ちゃんに任せろ」
悠希は女の子の頭から手を離しつつ立ち上がった。そしてその後直ぐに道場内に畳んでおいてあった私服へと近寄っていき、持っていた竹刀を床に置いて着替えを始めたのである。
「…これ頼む。あとラタに…いや。園長先生には内緒な?」
着替えたことにより悠希の服装は胴着から身軽なシャツとジーパンへとかわり、悠希はきちんと畳んだ胴着と竹刀を持って子供たちへと近寄っていき、胴着と竹刀を子供たちへと差し出した。
「わかった!お兄ちゃん!気を付けてね!」
竹刀は先程言葉を発した男の子が…胴着は同じく先程言葉を発した女の子がそれぞれ悠希から受け取り、竹刀を受け取って抱き締めるように持っている男の子が悠希のことを見つめた。悠希のことを見つめる男の子の瞳は今から外に出る悠希のことを心配してるのか潤んでいて、男の子の言葉に同意するかのように頷いた子供たち全員の瞳も悠希のことを心配しているのか潤んでいた。
「ああ。行ってくる」
悠希は子供たちを安心させるようににっこりと微笑んだ。そしてそのあと直ぐに子供たち全員の頭を優しい手つきで撫でたあと、悠希は道場から出ていったのだった。
これが別れの言葉になるとも知らずに…
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