しろくて ちいさな
12がつの あるしずかなあさのことでした。
「これはいったいなにかしら」
とってもあかくて まんまるで ちいさなきのみ。
めをさますと まくらもとに ぽつんとひとつありました。
やさしくつまんで おやまからかおをだしたおひさまのひかりにあてると キラキラとひかって とてもきれいでした。
「わぁー。 なんてすてきなの」
どこからきたのかわかりませんでしたが なぜだかとても だいじなものだとおもいました。
とっておいたあきばこに そうっといれて ゆかいたのしたにかくしました。
「これならだれにもみつからないわ」
おひさまにおはようとあいさつをして ミリィは あさのしたくをしにいきました。
*****
そのつぎのひのことでした。
めをさますと またあのきのみが まくらもとにありました。
「どうしてここにあるのかしら」
かぜにとばされてきたのかしら。
それとも だれかがおいていったのかしら。
ゆっくりかんがえていたいのですが ミリィにじかんはありません。
「はやくしたくにいかないと またおかあさんにおこられてしまうわ」
きのみをだいじにはこにしまうと いそいでだいどころにいきました。
*****
さらにそのつぎのひ。
まくらもとに こんどは ほそくて さきがみっつにわかれたこえだがありました。
「まぁ なんてほそいの。 つぶしてしまわなくてよかった」
きのうのきのみとちがって キラキラきれいなわけではないのに なぜだかこのこえだも とてもだいじなものだとおもいました。
はこにそうっとしまいます。
さぁ きょうもいちにちがんばらなくちゃ。
*****
それからというもの ミリィのもとには まいにちちいさなおくりものがとどきました。
さきのわかれたこえだが もうひとつ。
まるくて きのみとおなじくらいちいさないしが いつつ。
どんぐりが みっつ。
ほそくてながい おはなのたねが ひとつ。
そして しかくいかたちの チョコレートが ひとつ。
スープがぬるいと おかあさんにぶたれてしまったひのあさも。
そうじがおそいと おとうさんにせなかをけられてしまったひのあさも。
まいにちまいにち とどきました。
「だれがおいていってくれるのかしら」
かんがえごとをしていたら またぶたれてしまいました。
*****
「ミリィ! ミリィ! どこにいるんだい?」
「はい おかあさん」
「あんた わたしにだまって ここにあったビスケットたべたね!」
「あっ あの ごめんなさいっ。きのうごはんをもらえなかったから すごくおなかがすいてしまって だから いちまいだけ」
「まともに かいものもしてこられないグズなあんたがわるいんじゃないか。 それなのに なんていやしいんだい」
「でも あれっぽっちのおかねじゃ ぜんぜんたりないっていわれて」
「くちごたえするんじゃないよ! みにくいこだね!」
おかあさんはミリィのかみのけをつかんで ミリィがねおきしているものおきごやへとひっぱっていきました。
「いたい! ごめんなさい! おかあさんごめんなさいっ」
「きょうもごはんはなしだよ! しばらくここにはいってな!」
「いやっ とじこめないで! カギをあけて! ごめんなさいごめんなさい! ちゃんとおかいものするから! もっともっと いいこになるから! おねがいここをあけて おかあさん おかあさんっ」
そとからカギをかけられて ミリィはとじこめられてしまいました。
*****
こまどからさしていたおひさまのひかりがなくなって よるになってしまいました。
おなかがすいたなぁ。
のどがかわいたなぁ。
ミリィはもうふにくるまって なんどもなんどもおもいました。
けれど きょうもごはんはもらえません。
ごはんのことをおもったら もっとおなかがすいてしまうので ちがうものをかんがえることにしました。
まくらもとにとどく ちいさなちいさなおくりもの。
なんのためにきたのかしら。
どうしてわたしのところにきたのかしら。
そうしていたら あっ とおもいだしました。
ゆかいたのしたからはこをとりだして いそいでふたをあけました。
おくりもののなかに チョコレートがあったのをおもいだしたのです。
おいしそうなチョコレート。
でもこれは だいじなおくりもの。
「これはたべてはいけないわ」
だって とてもだいじなきがするから。
でも でも。
ごめんなさい わたしのしらないおくりぬしさん。
ミリィはがまんできずに そのチョコレートをたべてしまいました。
とてもあまい。
とてもおいしい。
まだまだぜんぜんたりないけれど とてもあったかいきもちになりました。
そうしたら なんだかとてもねむたくなって ミリィはそのままねてしまいました。
*****
つぎのひのあさ。
ミリィはおひさまといっしょに めをさましました。
まくらもとをふとみると そこにはなにもありませんでした。
けれどそのかわり ミリィはゆめをひとつみていました。
──あした ゆきがふるから ぼくからのおくりものをぜんぶつかって ゆきだるまをつくってほしい
──そして 『つれていって』とよんでくれたら ぼくはきみをむかえにいくよ
──かならず とんでいくからね
ちいさいけれど とてもしっかりしたこえでした。
あれはだれのこえだったのでしょう。
するとそこへ ガチャリとカギのあくおとがして おかあさんがとびらをあけました。
「さぁ あさのしたくをおし。 ぐずぐずするんじゃないよ」
「はい おかあさん」
そとへでると なんと ゆめできいたとおり ゆきがふっていました。
もしもほんとうにつくったら なにかすてきなことがおきるのかしら。
*****
そのひのよるになって ミリィはてがつめたくなるのをがまんして ものおきごやのすぐよこに ゆきだまをふたつつくりました。
それをたてにかさねると こやのなかからはこをもってきました。
ちいさなおくりものを ひとつずつつまんで ていねいにそのゆきだまにつけていきます。
あかいきのみを おめめにして。
おはなのたねを はなにして。
いしをならべて おくちをつくって。
おなかにどんぐりの ボタンをつけて。
にほんのこえだで おててをつくって。
「まぁ たいへんだわ」
おくりものをぜんぶつかわなくてはいけないのに チョコレートがたりません。
「どうしましょう」
これではゆきだるまがかんせいしません。
そこでミリィは あ っとおもいつきました。
こやのおくから かみきれと すみのかけらをもってきて チョコレートのえをかきました。
それをはさみできりとって ゆきだるまのむねにつけてあげます。
チョコレートのブローチがついて ゆきだるまがかんせいしました。
あとは『つれていって』とよびかけるだけです。
けれど ミリィにはわかりませんでした。
どうして つれていってくれるのかしら。
わたしのおうちはここなのに。
つれていってほしいなんて おもったことはいちどもないのに。
やっぱりあれは へんなゆめ。
わたしのあたまが かってにつくった ただのゆめ。
このおくりものも きっとかぜにはこばれて こまどからはいってしまっただけなのでしょう。
でも とってもかわいくできたので このゆきだるまは はるになるまでここにおいておくことにしました。
「おやすみなさい ゆきだるまさん」
つめたくなったてに はーっといきをあてると ミリィはこやのなかへとはいっていきました。
*****
それからなんにちかたったあるひ。
ガシャン。
まちがえて おとうさんのだいじなおさけのビンを わってしまいました。
「おまえ! よくもおれのだいじなさけを!」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
おとうさんは ゆかにうずくまるミリィのせなかを なんどもなんどもけります。
「おとうさんがかせいでくれた だいじなおかねでかったものだというのに。 なんてことしてくれたんだい」
おかあさんも たすけてはくれません。
「おとうさんごめんなさい!うっ いたい!」
まだまだおしおきがたりないと おとうさんはミリィをつかんで そとのゆきのうえにおとしました。
さむくてつめたいゆきのうえで おとうさんはまた ミリィをけります。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
わたしがぜんぶいけないの。
わたしが できのわるいこだから。
ちゃんとできなくてごめんなさい。
でも。
だけど。
いたい。
つめたい。
くるしいよ。
もうやめて。
もういやだ。
たすけて。
たすけて。
こんなところには もういたくない。
どこかとおくへ にげたいよ。
だれか。
だれか。
そのとき ミリィがつくったゆきだるまが うずくまるうでのすきまからみえました。
──よんでくれたら ぼくはきみをむかえにいくよ。
──かならず とんでいくからね。
だれか。
だれか。
わたしを。
ここから。
「つれていって」
ミリィがつぶやいたそのしゅんかん ゆきだるまがまぶしくひかりだし めのまえに ちいさなぎんいろのとびらがあらわれました。
とびらがひらき ちいさななにかが ひゅんととびだしてきました。
それはしろいことりでした。
ことりはいきおいよくとんで おとうさんのかおをつつきます。
「うわっ! いたた! なっなにをするっ!」
「ミリィ! とびらのむこうへにげるんだ!」
ことりがミリィによびかけます。
それは ミリィがゆめのなかできいたこえでした。
「さぁ はやく!」
ことりのこえにハッとして ミリィはとびらへむかって はしりだしました。
おとうさんの おこったこえがきこえます。
けれどもミリィはとまりません。
いたむからだをがんばってうごかして ちいさなぎんいろのとびらへととびこみました。
そのあとをことりがおいかけます。
ふたりがくぐりぬけると とたんにそのとびらは もとのゆきだるまにもどりました。
ゆきだるまはおとうさんがふみつけてしまったので もうにどと とびらはあらわれません。
ミリィがとびこんだそのばしょは まっしろで しずかな ゆきのせかいでした。
*****
「ここは どこ?」
「ここはようせいのくに。 そして いまいるところは ゆきのせいがすむもりのちかくだよ」
しろいことりがおしえてくれました。
「どうして わたしをたすけてくれたの?」
「ぼくをたすけてくれたきみを ぼくもたすけたかったんだ」
それをきいて ミリィはことりのことをおもいだしました。
ふゆがやってくるすこしまえ けがをしていたことりをひろって げんきになるまでおせわをしてあげたのでした。
「おくりものをとどけてくれたのは あなただったのね」
「すぐにたすけにいきたかったけど ぼくはからだがちいさいから きみをここまでつれてきてあげることができなくて」
だからゆきのせいにおねがいして ちいさなからだでもはこべるとびらをつくってもらい まいにちまいにちミリィのもとへとどけにいきました。
「きみをたすけることができて ほんとうによかった」
うれしい とよろこんでいることりをみて ミリィは でも とおもいました。
「わたし おくりものにあったチョコレートをたべてしまったのよ? それなのに どうしてとびらがひらいたの?」
「あれは とびらをひらくカギだったからだよ。 チョコレートをたべたそのくちで よびかけてくれたから ここへのとびらがひらいたんだ」
「そうだったのね。 ありがとう ことりさん」
「さぁ ゆきのせいも ほかのみんなも きみがくるのをまっているよ。 みんなのところへいこう」
「うん」
こうしてミリィは ようせいのくにで やさしいみんなにかこまれて たのしくたのしくすごしました。
おしまい