記憶
「……ふーん」
ここは傷つけないように、、、
「あれ?…なんか反応薄くない?」
雪月が顔を覗き込む。
いや、だってふーんていうしかなくない?
いきなりこんなこと言われてみ?
私の反応はおかしくない。
厨二病を発症したと言わないだけマシだろう。
…………いやでもおかしいな。
この話を嘘と仮定すると、聞かなきゃいけないことが出てくる。
それこそ受験のこととか。
でもその答えはさっきの通り。
つまり、本当にその世界とやらが関係してるっていう事…?
チラッと顔を見ると不安そうな顔をしている兄たちが映る。
それでも二人とも今までにないぐらい真っ直ぐにこちらを見ていた。
…本当の話なのか。
「…確かに驚いた。でも、覚悟を持って言った言葉を笑い飛ばすほど性格は悪くないと自負してるから。」
すみません、こんなこと言ってはいますがめちゃくちゃ疑いました。
ごめん兄ズ
「…そっか。」
「それで?もしかしてこの転入届の紙もそれに関係してたりする?」
「関係ありまくり…なんだけど…。」
そこで言葉を切って気まずそうに美月を見る雪月に首を傾げる。
「…凛月、お前、昔の事どこまで覚えてる?」
言いにくそうに美月が聞いてきた。
「昔…」
私には中学生より前の記憶がない。
いや、正確に言うと、家族のこと以外綺麗さっぱり記憶にない。
自分がどこで誰と遊んでいたとか、自分が小さいときどこに住んでいたとか…
家族のことに関しては面白いぐらい思い出せる。
でも、家族以外のものを思い出そうとすると、頭の中に靄がかかったようになる。
思い出したいけど、思い出せない。
そんな感じ。
よく、大切な人の記憶を忘れると、違和感があるとかいうじゃん。
不幸中の幸いだったのは、家族以外におそらくそういう存在がいなかったこと。
私にはそういう違和感はなかった。
でも、昔の記憶がないせいか分からないけど、最近は不思議な夢を見る。
あたり一面が水なのに私はその上に立っている。そして蒼い月を見上げている自分の夢を。
その夢の中の自分は幼かったり、大人になっていたり見るたびに姿は違うし、空の色だって違った。
ただ、蒼い月と水面は毎回同じだった。
「……凛月?」
美月の質問に考え込んでいると怪訝そうな顔をして声をかけられた。
その声でハッと我にかえる。
「…あぁ、ごめん。昔の記憶は家族のこと以外相変わらず覚えてないんだけど…最近見ている夢があるんだよね。」
「夢?」
「うん、そう。最近ずっとかな。夢を見るんだよね。あたり一面水面でそこで蒼い月を見ていた。自分の姿は毎回違うのにその月と水面だけはずっと変わらなかった。…全然質問と関係ないね。ごめん。」
そう言うと、二人は何故か驚いた顔をした。
「謝る事じゃない。蒼い月に水…封印が解ける時期か?」
「え…何、封印って」
美月が呟いた言葉を私は拾ってしまった。
私は一体何を封印されているのだろうか。
「…さっき、俺たちはこの世界の人間じゃないと言ったな。」
「うん。」
「この世界には隣り合わせになっている世界がある。隣り合わせになっている世界をゼノと呼び、
俺たちが今いる世界をオスカと言う。ゼノはオスカと違う。
オスカが科学で成長したとするならば、ゼノは魔法で成長した世界だ。
ゼノの人間は当たり前のように魔法を使う。体内にある魔素を消費してな。
そして、稀にその体内にある魔素量が多すぎて天候にさえ影響を出す人間がいる。
それが、俺たちや凛月、お前だ。
俺たちと違ってお前は取り込んだ魔素を強くしてしまう珍しい体質の持ち主だ。
取り込んだ魔素の濃度を濃くしちゃうんだよ。お前。その余りにも強すぎる魔素を取り込んだお前は体が弱かったんだ。まぁ、弱かったといっても、お前は魔法やら武器やら体術やら教わってたけどな。でも、普通の風邪ですら生死の境を彷徨うぐらいだった。これはまずいと思った父さんが伝手でお前の中の力を記憶と一緒に封印したんだ。
記憶と力は結びつきが強いからな。
んで、いつか、その力が受け入れるようになったら封印が解けるようにしたんだと。
で、今、お前は蒼い月を夢でよく見ると言っていた。それはつまり、封印が解かれる前兆だ。おそらく2、3日の間に封印は解けるんじゃないか?」
…余りの情報量の多さにびっくりしたんだけど。
つまりあれか、もうすぐ封印解けますよっていう合図だったわけか。あの夢は。