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*** 99 大偉人 *** 

 


 皆が紅茶も飲み終えたころ、シスくんから連絡が来た。


(ダイチさま、イタイ子病院のイタイ子さんから救援要請です。

 患者さんが多すぎて魔力が足りないそうでございます)


「すぐ行く。

 こちらの皆さんは、後で『クリーン』の魔法をかけた後にゆっくり転移させてあげてくれ。

 ガリル、すまないが病院からの救援要請なんで先に行くぞ」


「ああ、もちろん構わないよ」



 大地がその場から消えた。


(それにしてもなんだよ『イタイ子病院』って……

 俺が幼児で、そんな名前の病院に連れてかれるって聞いたら大泣きする自信があるぞ。

 もっとまともなネーミング考えろよな……)


(ダイチ……

 イタイ子も、ダイチだけにはそれを言われたくにゃかったと思うにゃ……)



 病院の大部屋には、ぐったりした子を抱えた母親たちが大勢いた。

 ざっと見まわしたところ100人は軽く超えているだろう。


「おおマスターダイチ、よく来てくれた!

 季節の変わり目で急に暑くなったせいか、風邪を引く子供が増えての。

 妾や妖精たちで『治癒系光魔法』を連発していたが、そろそろ限界じゃ。

 済まんが後を頼む」


「患者さんはここにいるだけかい?」


「いや、もう一つの待合室に同じぐらいの人数がおる」


「わかった、それじゃあとりあえず『エリア光魔法Lv8』……」


 部屋全体が光に包まれた。

 その光が収まると、ほとんどの子供たちが目を開けている。


「お母ちゃん、ここどこ?」

「お腹空いた……」


 母親たちが号泣しながら膝をつき、子供を抱えたまま額を床に押し付けている。

 どうやら口々にお礼を言っているようだが、何を言っているのかよくわからない。


「みんな、そこまでして礼を言わなくてもいいぞ。

 子供が風邪を引いて熱を出したりするのは当たり前のことだからな。

 それより、みんなに少しでも具合が悪くなったらすぐに病院に来るように伝えてくれ。

 特に子供たちが苦しむのは可哀そうだからな。

 それじゃあイタイ子、もう一つの待合室に案内してくれ」


「わ、わかった。こっちじゃ……」


「おお、こっちも患者がいっぱいいるな。

 それじゃ『エリア光魔法Lv8』……」


 再び部屋全体が光り輝いた。

 よく見れば、部屋の隅には驚きに口を開けたままのブリュンハルト商会の一行もいる。


 母親たちは元気になった我が子を抱え、同じように額を床に押し付けてさんざん礼を言ってから、笑顔で帰って行った。



「それにしても、相変わらずの馬鹿魔力じゃのう……

 残存魔力量は大丈夫なのかえ?」


「はは、馬鹿魔力は酷いな。

 MPはあと9割以上残ってるから全然平気だ」


「ふう、妾ももう少し訓練して魔力量を増やすかのう……」


「MPポーションは使わなかったのか?」


「MPが枯渇しそうになって3回もポーションを飲んだわ。

 もう腹がたぽたぽじゃ……」


「うーん、これからも村人は増え続けるだろうからさ。

 治癒系光魔法のスクロールを量産して、医者も増やしておいた方がいいぞ。

 それにさ、レベル3ぐらいまでだったら、妖精族に頼んで『光魔法の魔道具』も作ってもらったらいいんじゃないか。

 それなら、初期の風邪ぐらいだったらすぐに治るし」


「そうするとしようかえ。

 妖精族に魔道具を依頼した後は、スクロールの準備が出来たら『職業紹介所』に求人広告も出すとしよう」


「職業紹介所?」


「ジュンが作ったものでの。

 働くことを希望した者に、仕事を紹介する場所じゃ」


(日本のハローワークみたいなもんか……

 そうだ、それ男性向けと女性向けに分けたらどうかな。

 それで男性向けは野郎ヤローワークで、女性向けは女郎メローワークっていう名前にして。

 ぷぷっ)


(ダイチ……

 相変わらず酷いネーミングセンスにゃ……)



「そうそう、以前少し言ってたけど、重篤患者用の『治癒系光魔法Lv8』の魔道具と、『クリーンLv8』の魔道具も作ってもらおうか。

 両方を同時に発動出来る『複合魔道具』も」


「そういえばそんなことも言っておったの。

 確か寄生虫症対策であったか。

 妾は空の大魔石をたくさん作っておけばいいのであろ」


「暇なときにこつこつ作っておいてくれ。

 魔力は俺が込めるから」


「心得たわ」




 大地はブリュンハルト商会一行のところに歩いていった。


「やあみなさん、急に中座して済まなかったな」


「い、いやもちろん構わないが……

 さっきの光も魔法だったのか?」


「そうだ、治癒系光魔法っていって、老衰で死にかけてるひと以外はどんな病気も治せるんだ」


「わ、わしは季節の変わり目には必ず膝が痛むのですがの……

 それが先ほど光を浴びてから、まったく痛まないのです……」


「もちろん病気だけじゃなくって、怪我やそういう痛みも治せるぞ」


「「「「 ………… 」」」」


「それは…… もはや神の業ですの……」


「いや俺は神じゃない。

 この世界を管轄する天使さまと神界の神さまに任命されて、ダンジョンでそういう力を授けて貰えただけだ。

 ただのヒト族だよ」


「そうか……

 やはり天使さまや神さまからの授かりものだったんだな……」


「まあそういうことだ」


「それにしても、その天使さまや神さまにもいつかお会いさせて頂きたいものだ……」


「機会があったらいつか会わせてあげられるかもな」


「ほ、本当か!」



(あ、ダイチ、ツバサさまが今来てくれるって言ってるにゃよ)


(ええっ!

 つ、ツバサさま、あ、ありがとうございますっ!

 で、でもお願いですからヒト族の格好で服も着てきて頂けませんかっ!)


(うふふ、わかったわ)



「おいガリル、天使さまが今来てくれるそうだわ……」


「「「 ええええっ! 」」」



 天井の高い部屋の上方に、眩しくて直視出来ないほどの巨大な光の球が現れた。


 その光球がゆっくりと降りてくると、その中から大きな人影が現れる。

 その人影は身長5メートル近い巨大な姿であり、光が収まった後も背の翼は輝いていた。


(ツバサさま…… 登場エフェクト大盤振る舞い……

 しかも翼もいつもより大きいし……)



「ダンジョンマスターダイチよ」


「はっ!」


(ここはツバサさまに合わせよう……

 それにしても、ツバサさま声にエコーまでかけとる……

 石造りの建物の中だからよく響いて神々しいこと……)


「そなたの今までの働きと赫々たる成果に、神界はたいへんに喜んでいます。

 もちろんわたくしも」


「ありがとうございます」


「たった半年で、もう1万人以上の人々を幸福にしたとは……

 この上は、このアルス中央大陸に更なる幸せを齎してくださることを願っています」


「ははっ!」


「そしてブリュンハルト商会会頭にブリュンハルト男爵、護衛隊の皆。

 このダイチの偉業に手を貸して下さることを期待致します」


「「「 うははぁぁぁぁっ! 」」」


「それでは皆の今後の活躍を楽しみにしておりますよ」



 光が徐々に収まり、微笑みを浮かべた天使さまの姿が消えた。



(うふふふ、ダイチさん、服を着て来てくれだって♪

 わたしの裸を他の男性に見られたくなかったのかしら♡)




 いやあのツバサさま。

 大地は単に神界の権威を守ろうとしただけだと思いますけど……

 いくらなんでも、あの動くおっぱいはちょっと……

 あれでシリアスやるのムリ筋なんで……




<神界にて>


 神さま「わ、わしの出番がががが……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ブリュンハルト一行は感激覚めやらぬ様子だった。

 みんな涙目になっているし、会頭は大泣きしている。



「な、なあガリル、最後に住宅街を見に行かないか」


「あ、ああ……」


「それじゃああそこの輪を潜ろう。

 この村では長距離の移動にこの『転移の輪』を使うんだが、ほとんどの輪がダンジョン前広場に繋がっているんだよ。

 ハブっていうんだけど、だからどこへ行くにもいったんダンジョン前広場を通るんだ」



 大地たちが広場に移動すると、やはりそこには大勢の人々がいた。


「あ、ミミとピピじゃないか」


「「 あ、ダイチ兄さん! 」」


「みんな元気でやってるか?

 この村には慣れたか?」


「もちろんみんな元気だよ!」


「なにしろいつでもいくらでも飯が喰えるからな!」


「それで今はどこで暮らしているんだ?」


「今は孤児団のみんなと村奴隷だった子たちと一緒に、大きな家を貸してもらって暮らしてるんだ」


「そうか、それでお前たち、そのまま孤児団として暮らしていくのか?」


「それがさ、それぞれの種族の村長さんたちが、みんなを引き取るって言ってくれてるんだよ」


「子供のいない夫婦や、子供が大きくなって独立した夫婦の『養子』にならないかって誘ってくれてるんだ」


「そうか」


「でもさ、試しに小さな子たちをそうした種族村で預かってもらったんだけど、夜になるとみんなあたいたちの名前を呼びながら泣いちゃうんだ」


「夜はずっと一緒に寝てたから、あたいたちと一緒じゃないと寝られないらしいんだよ」


「それで、みんながあたいたちの孤児村に子供たちを連れて戻って来てくれるんだけど、なんかすっごく申し訳ないよ」


「でもさ、なんか大きな子ほど泣かなくなって来てるんだ。

 だからそのうちみんな養子に貰われていくかもな……」


「ちょっと寂しいけど、でも会えなくなるわけじゃないし……」


「そうか……

 それでお前たちはこれからどうするんだ?」


「もうあたいたちもあと2年もすれば成人だからなあ。

 いまさら養子でもないと思うんだ」


「だから、今は午前中は学校に行って、午後はいろんな仕事場を回って成人したらどんな仕事をするか考え中なんだよ」



「なあ、この村では、どんな仕事に就くかはみんなが自分で考えることにしてるんだけどな。

 実は是非お前たちにしてもらいたいと思っている仕事があるんだ」


「えっ! それひょっとしてダイチ兄さんの夜伽の仕事かい!」


「それなら大歓迎だぜ!

 こないだ学校でリョーコ先生に教えて貰ったんだけど、あたいたちも飯をたくさん食べていれば、もうすぐ子供を生めるようになるっていうんだ」


「おっぱいもだいぶ大きくなってきたし、すぐに兄さんの夜伽も完璧に出来るようになるぜ!」


「それにさ、リョーコ先生が言うには、子作りは興味本位や頼まれたからするもんじゃあないそうなんだ。

 本当に惚れてて、そいつの子を生みたいって思った相手とだけするもんなんだって」


「その点、ダイチ兄さんだったら完璧だよ。

 あたいたち兄さんのこと大好きだし、兄さんの子を生みたいってほんとに思ってるもの♡」


「兄さんの子だったら、何人でも生んで一生懸命育てるぞ!」


「い、いやいやいや、お前たちそう早まるなよ。

 だいたい兄貴分たちはどうしたんだ?」


「いやまあ兄貴たちのことも確かに好きだけどさあ。

 ずっと一緒に育って来たから、なんか夫婦になるって気がしなくてな」


「まあ、兄妹みたいなもんだから、子作りする気にもならないし」


「その点、ダイチ兄さんだったら大歓迎なんだけど……」


(兄貴たち哀れ……)



「い、いや、俺がお前たちにやって欲しいのは、これからも孤児たちを纏める仕事なんだ。

 そのうちに、いろんな街や村から孤児たちを連れて来て孤児院を作るから、そこの世話係をやって欲しいんだよ。

 まあ、孤児院の院長さんだ」


「そ、そんな仕事、あたいたちに出来るのかな……」


「生まれてすぐの子や2歳ぐらいまでの子は、各種族の村に引き取ってもらえるよう頼もうと思ってるんだけどな。

 3歳から8歳ぐらいまでの子は、今まで子供たちだけで暮らしていただろうから、この村に慣れるまではしばらく孤児たちだけで暮らした方がいいかもしれないと思ったんだ。

 9歳以上の子は、そのまま孤児院で育って成人してもいいと思うんだけど」


「そうか、その方がいいかもしれないな……」


「もちろん他にご婦人たちもいっぱい雇って、子供たちの面倒を見て貰うつもりだけど、やっぱりお前たちには孤児たちのまとめ役をしてもらいたいと思うんだよ。

 お前たちが成人してからもずっと」


「そうか、それなら頑張ってみようかな……」


「なにしろダイチ兄さんに頼まれた仕事だもんな♪」


「でもさ、もし兄さんが夜伽団を募集するときには、絶対に最初に声をかけてくれよ!」


「あたいたち、すぐに飛んでっていつでも尻を差し出すからな!」


(そうか……

 こいつら兎人族と犬人族だから、子作りは後背位が基本か……

 それにしても、もう少し言い方というか表現というか……)



「はは、わかったわかった。

 もしも募集するなら、そのときには最初に声をかけるから」


「「 絶対だぜ! 」」


「それじゃあ俺はこの人たちの案内を続けるから、孤児たちを連れて来たらお前たちに連絡するぞ」


「「 ああ、待ってるよ! 」」





 この日の会話が、後の世にマザー・ピピ、マザー・ミミという大偉人を創ることになる。

 孤児院開設から30年間で20万人の孤児たちを育て上げ、その全員から母と慕われた功績をもって、マザー・ピピとマザー・ミミは、マザー・リョーコと共に正式にダンジョン国の大偉人として認定されるのだ。

 

 尚、その子孫たちが大地の子や孫かどうかは、まだ作者のプロットが固まっていないために定かではない……





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