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*** 98 猫カフェ *** 

 


 大地は観客席のブリュンハルト商会一行のもとへ転移した。


(あー、みんな顔面蒼白になって手が震えちゃってるよー。

 仕方が無い、『心の平穏』……)


 全員が淡い光に包まれた。


「だ、ダイチ、ダイチはいつもこんな鍛錬をしていたのか……」


「そうだな、だいたい毎日やってるな」


「と、ということは、あのワイバーンを一撃で葬り去ったのも当然だったのか……」


「いやまあ、さすがに実戦では少し気を使うんだぞ。

 あの場で火魔法なんか使ったら森で大火災が起きるかもしれないからな。

 それに、俺も油断してたって少々申し訳なく思ってるんだよ。

 俺がすぐにワイバーンを攻撃してたら、ジョシュア分隊長さんも痛い思いをしないで済んだのになぁ」


「そ、そうか……

 ところで今の白い光はなんだったんだ?

 あれを浴びたら手の震えが収まったんだが……」


「あれは『心の平穏』っていう魔法なんだ。

 恐ろしい目に遭ったりすると、その後しばらく悪夢にうなされたり手が震え続けたりするだろ」


「新兵がかかる初陣病みたいなものか」


「そうだ。

 それであの魔法は、そういう心の負担を取り除くものなんだよ。

 これで嫌な夢も見なくて済むぞ」


「そ、そうか……

 ところでダイチはどれぐらいの種類の魔法を使えるんだ?」


「そうだな、スキルも含めれば大別して100種類、細かく分ければ800種類ぐらいかな」


「それも全部ダンジョンで鍛えて身につけたものなのか?」


「もちろん」


「ふう、ダンジョンとは凄まじい場所だったんだな……

 それにしても、ダイチが1人いたら、例え10万の大軍勢が来ても全滅させられるんじゃないか?」


「まあ一塊になっていてくれればな。

 散り散りになって逃げられたら、いくらなんでも全滅させるのは大変だぞ。

 それに俺は殺しは出来ないし、俺から戦を仕掛けることも無いからな。

 まあ、ダンジョン村が攻撃されたら、何人殺してもさっきみたいに生き返るから殺せるけど」


「な、なるほど……」


「それじゃあダンジョン村の見学を続けよう。

 いったん広場に戻るぞ。

 シスくん、転移の輪を」


(畏まりました)



「さあ、空を見てくれ。それからあの岩山にある大時計を。

 さっきの鍛錬場にはかれこれ2時間近くいたが、外では時間が経っていないだろ」


「ほ、本当だ……

 空の明るさも太陽の位置も変わっていない……」


「だから、やろうと思えばあの鍛錬場ではいくらでも鍛錬が出来るんだよ。

 それに、あそこで鍛錬をするにはもう一つ有利な点があるんだ。

 例えば隊長さんが新人隊員と模擬戦をするときには、かなり手加減をしてやるんじゃないか?」


「そうですな。

 そうしなければすぐに大怪我をするか、最悪死んでしまいますから」


「だが、あの空間では本気で相手をしてやることが出来るんだよ。

 例え死んでもすぐに生き返るし、大怪我もすぐに治してやれるから」


「ですが、まだ我々は魔法を使えませんから、大怪我は治せないのでは……」


「そのときはこのポーションを使ってくれ。

 例えどんな大怪我をしていても、体にかけてやるだけですぐに治るぞ」


「なんと…… これが伝説のポーションですか……」


「そうだ、鍛錬のためだったらいくらでも使って構わないぞ。

 まあさすがにこれは王都なんかで売りに出すわけにはいかないが」


「ありがとうございます……

 ですが、あまり何度も殺されると、新人隊員が委縮してしまうのでは……」


「そのときは俺がさっきの『心の平穏』の魔法をかけてあげよう。

 それとも、『心の平穏の魔道具』でも作ろうか」


「なるほど……

『実戦に勝る訓練無し』と言いますが、あそこの空間でなら常に実戦並みの訓練が出来るのですな……

 これは強くなれるでしょう……」



「さて、それじゃあ次は食堂街に行ってみるか。

 あそこにある転移の輪を潜ろう」




「さあ、ここがダンジョン村自慢の食堂街だ」


「なんとたくさんの食堂があることでしょうか……

 それにこんなにたくさんのひとびとが……」


「まだ空いている方だな。

 5時過ぎてみんなの仕事が終わるとけっこう混雑してるぞ。

 まあ、これからはもっとたくさんの食堂街を作って行くつもりだけど。

 実はここでは実際に料理を作ってはいないんだ。

 別の場所にある『料理工場』で作ったものを、転移の輪で運んできて客に渡しているだけなんだよ。

 その方が効率的だからな。

 だから、どんなに列が出来ていても、割とすぐに食事にありつけるんだ。

 それに店内がいっぱいになったら、みんな外に出て来て屋外テーブルで食べるし」


「それにしても、何と多くの料理店があることでしょう……」


「毎日店は増え続けているからなぁ。

 それも新しい料理の店が。

 店の数は200軒近いし、料理の種類も何百種類もあるから、全種類食べるのはかなり大変なんだ」


「「「 ……………… 」」」



(あ、あそこに新しい店が出来てる。

 なになに? 『カフェ、ティー&パフェ』だって……

 うっわー、猫人族が列作って並んでるよ。

『猫カフェ』か!

 それもカフェにネコがいるんじゃなくって、客がネコか!)


「ちょっとあの店を見てみないか」


「ああ……」


「いらっしゃいませにゃ♪」


「あ、タマちゃん!」


「にゃんだダイチかにゃ。

 あ、そちらさんは商会の方かにゃ?」


「なんでこんなところにいるのさ」


「このお店、出来たばっかりにゃけど、大人気にゃの。

 それで、パフェ工場や店員さんが慣れるまでは、日替わりで種族別に入場制限をしてるんにゃけど、抽選の結果今日が猫人族の日にゃったもんで……」


「とか何とか言って、パフェが食べたかったんでしょ」


「にゃはははは、まあ許してにゃ」


(さすがネコはフリーダムだわ……

 そうだ、今度ハムスター族の日に視察に来よう……)


「その代りに是非パフェを食べていってにゃぁ」


「うーん、あんまり時間が無いから並ぶのもね」


「すぐにお店に入れるにゃよ?」


「だめだよ、こんなに人が並んでるじゃないか。

 割り込みはいけません」


「違うのにゃ。

 この食堂街のお店は全部、見学者や移住して来たばかりのひと優先なんにゃ。

 そういう人たちはみんなお腹を空かせてるからにゃあ」


「そんなルールが出来てたんだ……」


「リョーコが作ったルールにゃ。

 お腹が空いてふらふらしてた子供たちが、泣きながらご飯を食べてるのを見て、リョーコも泣きながら言い出したルールにゃよ。

 にゃから、見学や移住の人たちにゃら初回に限り特別にOKにゃ。

 もちろん大地はダメにゃけど」


 大地が列に並んでいる人たちを見ると、みんな笑顔で頷いていた。

 きっと自分たちも飢えていた時のことを思い出しているのだろう。



「でも席が空いてないんじゃ……」


「あちしたち従業員の休息室にゃら今空いてるから、そこでどうかにゃ?」


「それじゃあ、ガリル……」


(あ…… 

 ガリルも会頭さんも、猫人族の子供たちを見て手をわきわきさせとる……

 2人ともモフラーだったんか……)



「な、なあガリル、パフェを食べてみないか?」


「それがなにかよくわからないけど、みなさんがこうやって並んでまで食べようとしてるっていうことは、きっと美味しいものなんだろうね」


「そうだな、甘いものが嫌いじゃなかったら、けっこう気に入ると思うぞ」


「あははは、甘いものが嫌いになるほど食べられるって、王族でも無理なんじゃないか」


「はは、そうか」


(あ、猫人族の子たちが目を真ん丸にして驚いたあとに嬉しそうな顔してる。

 そうか、これから王様が食べるようなものが食べられるって思ったんだろうな……)


「それじゃあタマちゃん、みんなをお願い出来るかな」


「はーい♪ 19名様控室にご案内にゃ♪」


「ねえタマちゃん、俺はパフェは要らないから一緒に部屋に入ってもいいかな」


「特別に許してあげるにゃ♡」


 猫人族が小声でひそひそ喋り始めた。


「すっげぇタマさま、あのダイチさまに許してあげるだって……」

「タマさまって、そんなに偉い方だったんだな……」


(はは、なんか思わぬところでタマちゃんの株が上がってるよ……)



 店内に入ると、そこには50ほどもテーブルがあり、その全てが猫人族で埋まっていた。


 最初のひと匙を口に入れた途端にぶわんとしっぽを膨らませている者。

 涙目になりながらスプーンを動かし続けている者。

 うにゃうにゃごろごろ言いながらスプーンを舐めている子供たち。


 そこには、各人各様ながら、幸せのオーラが立ち上っているかのような猫人族たちの姿があった。


(甘いものは人を幸せな気分にさせるっていうけど、ほんとだったのかもしれないな……

 これからは、もっとこうした甘味処を増やすように言っておこう。

 でも、出来れば砂糖黍や砂糖大根なんかも栽培したいもんだよな。

 シスくんが探してくれてるけど、まだ見つかってないようだし……)



「こ、これは……

 こんなにたくさんの木のテーブルや椅子があるとは……」


(はは、さすが商会の会頭さんは見るところが違うね)


「ねえタマちゃん、大柄な種族の日なんかにはどうするの?

 このテーブルや椅子だと小さいんじゃない?」


「それも種族別に営業日を分けた理由のひとつにゃ。

 明日は獅子人族の日にゃから、今日の営業が終わったらテーブルと椅子を大きいものに入れ替えるにゃよ」


「それさ、当面はそうするとしても、この建物の隣に大柄な種族用のカフェと小柄な種族用のカフェを建てたらどうかな」


(爬虫類カフェや犬カフェやハムスターカフェか……)


「そうするとクリームや砂糖の輸入量が増えるけどいいのかにゃ?」


「それぐらいならぜんぜん構わないよ」


「にゃ♪ みんなにそう言っておくにゃ♪

 さあこの部屋にゃよ」


「じ、従業員の休息室にまで木のテーブルと椅子が……」


「ところでご注文はどうするかにゃ?

 パフェは5種類あるんにゃけど」


「そうだね、でもみんなまだよくわからないだろうから、全員プレーンなパフェでお願いするよ。

 あ、みなさん紅茶でいいかな?」


「あ、ああ……」


(ダイチさま、お店の方もお忙しいでしょうから、紅茶はわたくしがサーブいたしましょうか?)


「おおストレー、それじゃあ頼めるか?」


(はい)



「「「 お待たせしましたー♡ 」」」


 フリフリのメイド服を着たお姉さんたちが笑顔でパフェを運んで来た。


(このメイド服……

 どう考えても地球で買って来たの淳さんだよな……

 そういう趣味があったんだ……

 まあおっぱい丸出しになってない分だけいいか……)



 各人の前にパフェと紅茶が置かれた。


「さあみんな試してみてくれ。

 そうだ、パフェがかなり甘いから、紅茶には砂糖を入れない方がいいかもしれないぞ。

 もちろん入れてもいいけど」


「それにしても、なんという美しい食べ物でしょうかの。

 食べずにずっと見ていたいほどですわい」


「ははは、それは少し冷やして作ってあるんだ。

 放っておくと溶けちゃうぞ」


「それでは頂くとしましょうかの……」


 会頭さんがパフェを一匙口にしたのを見て、護衛たちも各々食べ始めた。

 だが、全員一口食べた途端にフリーズしている。


「こ、ここここ、これは……」

「な、なななな、なんという……」


 凄まじい勢いでパフェが消えて行った。


 間もなく全員のパフェ皿が空になり、後には茫然とした顔の男たちが並んでいる。

 中にはパフェ皿に顔を近づけて、皿についたクリームを凝視している者もいた。

 もしこの場に他に誰もいなかったら、皿を舐め始めそうな顔である。



「なあガリル、もしこの店を王都の貴族街で開いたら、このパフェいくらで売れるかな」


「そうだな、ひとつ金貨1枚でも売れるだろう……」


 護衛たちが仰け反った。


「いやガリルや。

 これに使われている砂糖の量だけで金貨1枚以上になるだろう。

『ぱふぇ』全体ならば金貨2枚と銀貨50枚だろうな……」


 護衛たちがさらに仰け反った。

 それはアルスでは4人家族が1年暮らして行けるだけの金額である。

 まあ、地球人でも、今お前が食べたのは1つ250万円の食べ物だと言われれば盛大に仰け反るだろう。





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