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*** 96 ダンジョン村見学会 *** 

 


「第2分隊から第5分隊まで、分隊長以下総勢16名集合いたしました!」


「ご苦労、これより我々は会頭殿と男爵閣下とともに、ダイチ殿の村に見学に行く。

 護衛はもとより、後で他の者にも見学の様子を伝えられるように、よく見分せよ」


「「「 ははっ! 」」」


「それじゃあ出発しようか。

 といっても数歩歩くだけだけどな、はは。

 まずは俺から潜ろう」



 全員が順番に輪を潜ると、そこはダンジョン前広場に繋がっていた。

 広場では多くのモンスターやヒューマノイド種族たちが歩いている。


「こ、これは……

 本当に別の場所に来たのか……」


「さあ、ここがダンジョン村の正面玄関だ」


「な、なんという数多くの種族がいることか……」


「今、モンスター族で22種族、その他ヒューマノイド種族で25種族がいるぞ。

 まずはこの広場の端に行ってみようか。

 この辺りの様子がよく見えるからな」


「な、なんという広さだ……」


「見渡す限り森と畑が広がっている……」


「この下に流れている川の向こうに、整然と木が並んでいるのが見えるだろ。

 あれは俺たちの果樹園なんだ。

 果物の実をつける木を運んで来て植えたんだよ。

 約1000メートル四方あるから、秋には結構な量の果物が収穫出来るだろう」


「森に入って実を採って来るのではなく、果樹そのものを持って来て果樹畑を作られたというのですか……」


「ああそうだ。

 それから、川を挟んで両側に木が無い部分が広がっているだろ。

 あれが畑だな」


「本当に見渡す限り畑が広がっている……」


「シス、今畑の広さはどれぐらいになったんだ?」


(おおよそ1万ヘクタールになりました)


「会頭さん、ガリル。

 ヘクタールっていうのは俺の国の単位で、100メートル四方の広さのことを言うんだ。

 だから今だいたい10キロ四方の範囲が畑になっているっていうことだな」


「そ、そんなに……」


(たぶん彼らの単位系って違うんだろうけど、『言語理解』のスキルが上手く翻訳してくれてるんだろう……)


「森の獣や魔獣が入り込んで来て畑を荒らしたりしないのか?」


「畑の周りには魔法で結界が張ってあるんで獣は入って来られないんだ。

 同時にマナも溜めておけるんで作物の成長も早いんだよ」


「『まな』……ですかの?」


「マナっていうのはある種の栄養分で、これを吸うと動物も植物も元気になるんだよ。

 そうそう、この大森林は今南北方向に1000キロ、東西方向には2000キロもあるんだけどな、500年前にはわずかに直径100キロほどの範囲の森でしかなかったのは知ってるかい?」


「そ、そんなに小さかったのですか」


「500年前に出来た国のうち、多くの国が森に押されて消えて行ったり領地を狭めて行ったとは聞いていたが、大森林も元はそんなに小さかったのか……」


「そうだ、そしてその森は、このダンジョンから漏れ出るマナを養分にして木を成長させ、また領域を拡大していってたんだ。

 だからまあ、中央にダンジョンがあったから大森林が出来たと言っていいな」


「そうだったのか……」


「だが、ヒト族の国にとっても悪い話ばかりじゃないんだぞ。

 そのマナのおかげで周囲の国の畑の実りも多かったんだからな」


「なるほど」


「そのマナが吹き出るダンジョンの近くにあるおかげで、どうやら俺たちの小麦畑では年に3回から4回ほどの収穫が出来そうなんだ」


「なんと……」


「これが魔法の力と並んで俺たちの有利な点のひとつだ」


「それならば、1万人もの村人も十分に養っていけますの……」


「いやいや、まだまだ畑が足りないんだ。

 最終的には500万から1000万の人々が暮らす村にしようかと思っているから、もっと畑は必要だ」


「「 ………… 」」


「だが、これだけの広さの森の中だから、畑を1000倍に増やすことも出来るだろう」


「だが、森を開墾して畑にするのは大変だろうに……

 そうか! 魔法の力があるのか!」


「その通り。

 あの野営地でも見せたように、木を抜いて地面を平らにするのは簡単だ。

 俺一人でも1日で10キロ四方の森を畑に出来るだろう」


「なあ、ダイチ、それだけの村人を養うのに肉は足りるのか?

 周りの野生動物があっという間に狩りつくされたりしないのか?」


「だから俺たちの村では動物の肉はほとんど食べていないんだ。

 代わりに海の魚を獲って食べているんだよ。

 海は広いから、多少俺たちが魚を獲って食べても狩り尽くしたりすることは無いだろう」


「海の魚ですと…… そのような高価なもの……」


「ここはこの大陸のほぼ中央部なんだろ。

 海の魚なんかどうやってここまで…… 

 そうか! さっきの転移の輪か!」


「そうだ、まあ輪を使って運ぶより、俺の部下が直接海で泳いでるヤツをここまで転移させて来てるんだけどな。

 シス、今魚の処理場は稼働してるか?」


(はい、ちょうど昼の休息が終わって午後の仕事が始まったところです)


「それじゃあみんな、魚を処理している場所を見に行ってみないか」


「ああ、是非見せてくれ」




「ほら、ここが魚の処理場だ。

 おーい、リザードリー場長、ちょっと客人を連れて来たんで見学させて貰うぞー」


「こ、これはこれはダイチさま。

 このようなところにようこそおいでくださいました。

 いくらでも見て行ってやってくださいませ」



 その広い処理場には、土魔法で作られた大きな台がいくつもあり、その周囲には大勢の作業員が立っていた。



(大型1番台にカジキ入りまーす)


「「「 おう! 」」」


 びたん!


 おお、すげぇ、ありゃ3メートル級だ。



「こ、このように大きな魚なぞ、見たことも無い……」


「海の魚は川の魚と違って大きいからな。

 中にはこの3倍ぐらいの奴もいるんだぜ」


「なんと……」



 大型1番台にはリザードマン族やミノタウロス族、牛人族や馬人族といった大柄なモンスターや種族が4人ついていた。

 全員が革のエプロンやアルミ合金の篭手、金属メッシュ入りの手袋をつけている。

 3人がカジキを押さえ、1人が小ぶりのナイフをエラに差し入れて動脈を切断した。

 血が噴き出してカジキが動かなくなると、1人が巨大な出刃包丁で腹を裂き、内臓を取り出す。

 その後は刃渡り1メートルもある刀のような包丁を使って、カジキを3枚に下ろし始めた。


 内臓や頭部はそれぞれプラ製の大きな箱に入れられ、中骨は小型1番台に運ばれて、大勢の小柄な種族がスプーンを使って骨から身を欠き取って器に入れている。


 半身をさらに縦に2つに切ったものが、中型1番台に運ばれた。


 そこにはやはり革製のエプロンとワイヤー入りの手袋をつけた者たちが4人いる。

 オーク族、豹人族、獅子人族や熊人族などの中型種族である。

 彼らの手によって、大きな身が500グラムほどの切り身に分けられて行った。

 それら身の内の半分が小型1番台に運ばれ、そこにいたゴブリン族や猫人族、犬人族などの大勢の小柄な種族たちによって、さらに100グラムほどの切り身に分けられていく。

 大きな身は大柄な種族の、小さく切られた身は小柄な種族の食料になるのだろう。


 頭部はウインドカッターで2つに切られ、兜煮か兜焼きになる。

 内臓も、鑑定の魔道具で毒が無いことが確認されると、一部内臓好きな種族たち用にモツ煮にされる。

 骨も塩を振られて良く焼かれ、ラプトルやリザードマンなどの咬筋力の強い種族のおやつになるだろう。

 残った皮や鱗などは、これも魔道具で乾燥させた後、ウインドカッターや専用のミルで細かく粉砕されて地面に埋められ、堆肥の材料となる。


 一度でも飢えたことのある者は、絶対に食料を無駄にしない。



(大型2番台にスズキ入りまーす)


「「「 おう! 」」」



(網にサンマの群れが入りました。

 小型3番台にサンマ入りまーす)


「「「 わーい! 」」」


「うっわー、大漁だぁ♪」


「おっきいサンマだねぇ」


「これ、炭火で焼いて食べると美味しいんだよな」


「大根おろし、足りるかなぁ」


「こないだ野菜料理班が大量に作って保存してたから、大丈夫だと思うぞ」


「しょうゆもたっぷり入荷してたからな」



 皆、楽し気に喋ってはいるが、手は止まっていない。

 エラの内側にナイフを入れて〆ると、地球産の鱗落としでどんどんと鱗を落としていく。

 2か所ほど隠し包丁も入れられたサンマは、平たいトロ箱に並べられて搬出されていった。


 他にも8つほどのラインに続々と魚が水揚げされている。



「これほどまでに大量に魚が得られるのですな……

 それも生きたまま運ばれてすぐに捌かれて。

 そうして、保存は例の腐らない倉庫で為されると」


「そうだ、だから魚がたくさんいるときには多く保存しておいて、少ないときには無理をしないようにしているんだ」


「ま、魔法とはやはり便利なものなのですのう……」


「はは、もしよかったら生きたまま王都に転送させるから、ブリュンハルト商会でも売ってみるかい?」


「きっと大騒ぎになりましょうな……」


「ところでダイチ、みんな随分と熱心に働いているようだけど、ここで働いたときの給金はいくらなんだい?」


「この村には給金は無いんだよ。

 その代り住居も用意するし、服も支給するし、食事は食べ放題なんだ」


「それじゃあ全く働かない者も出て来るんじゃないか?」


「それについて、地球で興味深い研究結果があってな。

 これはアリやハチなんかの社会性のある昆虫なんかでは特に顕著なんだけど、我々ヒューマノイドにも当てはまる法則があるんだ。

 その法則は『2対6対2の法則』って呼ばれてるんだけど」


「2対6対2?」


「例えば100人の集団に仕事をさせるとするだろ。

 そうすると、おおよそ20人が『極めてよく働く』グループになり、60人が『まあまあ働く』グループになって、残りの20人が『あまり働かない』グループになるんだよ」


「それはなんとなくわかる気がするな」


「それで、この研究で興味深いのは、『あまり働かない』グループも、集団全体の役に立ってるっていうことだったんだ」


「え……」


「その100人の集団から『極めてよく働く』20人を分けて、他の場所で仕事をさせるとするだろ。

 そうすると、20人のうちやっぱり4人は極めてよく働いて、12人はまあまあ働いて、4人はあまり働かないようになるんだ。

 残された80人も、16人が極めてよく働くようになって、48人はまあまあ働いて、残りの16人はあまり働かないんだ」


「ほう……」


「それで面白いのが、最初の100人から極めてよく働く20人を抜いた後の残りのグループなんだけどな。

 その中から16人の極めてよく働く奴が出てくるんだけど、それは必ずしもまあまあ働いていた奴らからじゃあないんだ。

 今まであまり働いていなかった奴らの中からも、極めてよく働く奴が出てくるんだよ」


「えっ……」


「これはどうやら、組織のゆとり維持のための自然の摂理らしくてな。

 ほとんど働かずにサボっていたやつらも、イザというときのために休養していたと考えることが出来るんだ。

 よく働く20人が居なくなるって、ある意味組織の危機だろ。

 その危機に際して、あまり働いていなかった奴らが目覚めるんだろうな。

 だから最初の100人のうちの20人も、そいつらだけで仕事をさせると4人は自主休養に入るんだろうね」


「なるほど……」


「だから、俺の村では5日働いたら、必ず2日休むようにさせているんだ。

 その2日は仕事をするのを禁止して。

 つまりまあ、『あまり働かない』奴らのグループを強制的に作っているわけだな。

 その方が全体の仕事の効率が上がるからね。

 働いている連中が働き過ぎておかしくなることも無くなるし」


「それはなんとなく分かる気が致します。

 先代会頭さまのご指示で、護衛8分隊のうち2分隊は必ず交代で休養を取らせておりました。

 先代さまによれば、その方が遥かに全体の効率が上がるとのことで」


「その先代さんはすごい人物だったんだね。

 出来ればお会いして話をしてみたかったよ」


「神の御使いさまにそう仰って頂けるとは……

 父も墓の中で喜んでおることでございましょうな……」





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