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*** 93 中央大陸の国々 *** 

 


「この力もさっきの体の強さもダンジョンで得られる力なんだ。

 ダンジョンで訓練してこの力を得たら、例え近衛兵団が全員で襲って来ても護衛が10人もいれば簡単に撃退出来るぞ。

 それに、この王都内や街道は既にダンジョン登録してあるんだ。

 ダンジョン内で死んだ者は全員が安全な場所で生き返ることが出来る。

 もちろん怪我も全て治った上でだ」


「敵は死んだままなのですか?」


「いや、敵も生き返るが、それは牢の中でだな」


「つまり我々は、家族や年少者を安全なところに置いた上で、努力次第でいくらでも強くなれるというわけなのですな。

 そしてその力を使って商館や商隊の護衛が出来ると」


「そうだ」


「もうひとつお聞かせください。

 我らが1人で10人の盗賊を相手に戦えるようになるまでに、どのぐらいの期間の鍛錬が必要になりましょうか」


「そうだな、既に基礎が出来ていて強くなっている者で1年、全く戦闘訓練を行っていなかった者で3年かな」


「やはり、いくらダンジョン内であってもかなりの時間がかかるのですな……」


「だがバルガス隊長。

 俺たちはその時間を克服する方法を見つけたんだ」


「と、仰いますと?」


「俺は『収納』の魔法を使えるだろ。

 そして、収納庫内の食べ物は腐らないし、温かいものはいつまでも温かいままなんだよ」


「そ、それはまさか……」


「そうだ。

 収納庫にも2つの種類がある。

 まずは、中に入ったものが、人も物も完全に静止して変化しないというものだ。

 この中に人を入れて100年後に外に出すと、本人は元の姿のままで外の世界だけ100年の年月が経っているということになる」


「す、すごい……」


「2つ目の種類の収納庫は、やはり中に入っている間には外で時間は経過しないものの、中の人間は時間の経過が感じられるし、睡眠も食事の必要もあるというものだ。

 つまり、中で3年の鍛錬をして強者になってから外に出ても、外では時間が経過していないが、本人は3年だけ歳を取っていることになる。


「なるほど……」


「俺はその収納庫の中にもダンジョンを作ったんだ。

 つまりそのダンジョン内でモンスターと戦って自らを鍛えても、外では時間が経過していないから、例えば護衛の皆が収納庫内ダンジョンで1年の鍛錬を続けた後に外に出たら、1年分強くなっているだろう。

 まあ、若い奴は1年分体も大きくなって成長していて、既に大人になっていた者は1年分老けていることになるだろうが。

 その辺りは許してくれ」


「なるほど、納得致しました」


「俺はこの世界に来たときには15歳だったんだ。

 それから半年ほど経ったんだが、その収納空間内ダンジョンで訓練をしていた期間は体感時間で6年近い。

 だから俺の肉体年齢はまだ15歳だが、精神年齢は21歳になってるかな」



「なあダイチ、君は今『この世界に来たとき』と言ったよな……」


「そうだ、確かにそう言った」


「そ、それは他の大陸から来たっていうことなのかい?

 それとも……」


「夜空には白い小さな光がたくさん浮かんでいるだろ」


「あれはすべてこのアルスと似たような世界だと主張している学者もいるそうだが」


「ちょっと違うかな。

 あの光っているのは全部太陽なんだ。

 アルスの太陽も明るいだろ」


「ああ」


「そうして、アルスはその太陽の周りを回っている光っていない星なんだ。

 アルスの地面は光っていないよな」


「なるほど」


「俺は別の太陽を回る地球という星に生まれて、そこで育っていたごく普通の少年だったんだ」


「なんだと……」


「そうして、そこでアルス時間で半年前、神界の天使さまにスカウトされたんだ。

 アルスという別の星に行ってダンジョンマスターになってくれないかって」


「「「「 ………… 」」」


「夜空にたくさんの星があるように、ここアルスや地球みたいにヒューマノイドが住んでる星もたくさんあるんだ。

 ヒューマノイドっていうのはヒト族やそれ以外の種族をひっくるめた、『知性がある種族』っていう意味なんだけどな。


 そのたくさんの世界のたくさんのヒューマノイドたちは、ほとんどが神さまや天使さまが大昔に創ってくださった生き物だったんだよ」


「やっぱりそうだったのか……

 教会はアルスにしか神はいなくって、そのアルス神がヒト族を創られたって言ってるけど」


「それは違うな。

 他の世界にも神さまはいて、ヒト族も犬人族も兎人族も、すべて神界が創った生き物だったんだよ」


「そうか……」


「それでな。

 ガリルたちも薄々感じているように、そうした世界の中でもこのアルスはかなり極端な世界だったんだ。

 ほとんどすべての統治者、まあ貴族や王族なんかのことだが、そうした力を持った連中ほど、自分の欲のためには他人の命なんかなんとも思っていないだろ。

 欲しければ相手を殺して奪えばいいって考えてるからな」


「そうだ、だからこの大陸は戦争や内乱ばかりだ。

 この王都内ですら人殺しはしょっちゅうだし」


「だから俺は神界の天使さまに頼まれたんだ。

 ダンジョンマスターになって、ダンジョンという資源を使って、このアルスから戦争や殺人を無くしてくれって。

 それを俺が引き受けたら、死なない体やそれ以外にもいろいろな権能を授けて貰えたんだ。

 ダンジョン内でモンスターと戦って鍛錬すればいくらでも強くなれるし」


「そうだったのか……」


「そうして、その権能の中には、俺はいつでも俺の世界に戻って、必要な物資を調達して持って帰って来られる、っていうものもあるんだ」


「な、なんと……」


「だから、今日渡した献上品は、ほとんどすべて俺の元いた世界で購入して来たものなんだよ」


「だ、ダイチのいた世界は、ずいぶんと物が豊富なんだな」


「そうだな、アルスに比べてだいぶ文明は進んでいるかな。

 なにしろ地球全体では約80憶のヒューマノイドがいるし」


「は、80億……」


「ただし、それは地球の文明の方がアルスより優れているとか、アルスが劣っているとかいうことではないんだよ。

 単に惑星に生命が生まれたのが早かったか遅かったかの違いだけなんだ」


「そうか……」


「それに、アルスには気の毒な点が2つある」


「なんだいそれは」


「ひとつめは、金属資源の量が少ないことだ。

 地球と比べてというよりも、一般的な星と比べてもかなり少ない」


「やはりそうだったのか……」


「もうひとつは、特にこの中央大陸に於いて顕著な点なんだが」


「ちょっと待ってくれ、ということは、この世界には他に大陸があるのか?」


「ああ、ある。

 あと2つ、南大陸と北大陸という大陸がある」


「ふう、海は恐ろしい魔獣ばかりで、すぐ船も襲われてしまうそうだから、誰も陸から遠くに行くことは出来ないんだよ。

 だから他に大陸があることも知らなかったんだ」


「そうだろうな。

 それで、昔神界はアルスを気の毒に思って、2つの物を授けてくれようとしたんだ」


「そ、それはなんだったんだい?」


「魔法能力と金属だ」


「我々はどちらも持っていないぞ」


「神界は500年前に3つの大陸にそれぞれダンジョンを作ったんだ。

 そうして、そこでモンスターと戦うという『努力』をした者には、魔法能力と金属や魔法道具なんかを授けようとしたんだな。

 でもこれが大失敗だったんだ」


「500年前……」


「そうだ、500年前にダンジョンを作って、そこで努力した者に魔法を授けた結果、そいつらは超人的な力を手に入れたと同時に、鉄製の道具なんかも手にした。

 おかげでそいつらが、自分が王になるために大陸中で建国戦争を起こし始めたんだ。


 当時この大陸には3500万人のヒューマノイドがいたが、そいつらの起こした戦争のせいで、たったの5年で700万人も死んだそうだ。

 その後も神界の対処が遅れたせいで、さらに5年で300万人も死んだ」


「そうか……

 だからこの大陸の国は、ほとんど全て500年前に建国されていて、建国王は魔法が使えたという伝説が残っているんだな……」


「そうだ。

 慌てた神界はダンジョンの難易度を上げ、ダンジョンの外では強力な魔法を使えないようにし、更には鉄製品を授けることも止めた」


「だが、それでは……」


「そう、そんなことをしても、この中央大陸での殺戮の嵐は収まらなかったんだ。

 もう既に力と武器を手にした者が、既存の国の連中を殺しまくって自分の国を作り始めていたからな。

 単に誰もダンジョンに入らなくなっただけのことだったんだよ。


 もちろん当時にも、他人を殺して土地や財産を奪うことをしなかった超人もいただろう。

 だが、殺戮と侵略の結果成立した国は兵士も大量に集めていた。

 それに、超人的な力や魔法能力は子孫に遺伝しないんだ。

 だから、善良な人々が作っていた国も、次第に暴虐国家に飲み込まれていったんだろう」


「ということは……」


「そうだ、今の王も貴族も、すべてそうやって500年前に他人を殺しまくり奪いまくった者の子孫なんだよ。

 しかもそれが彼らの成功体験になったせいで、奴らにとっては殺して奪うことこそが当然のことだと思うようになっているんだ」


「ふう、これでようやく謎が解けたよ。

 なんでこの大陸の国々は、揃いも揃って500年前に建国されていたのかって。

 この国にしたって200年前に王子たちの内乱で分裂して出来た国だけど、元々の国は500年前に成立していたからな。

 それもすべて神界とダンジョンのせいだったんだ……」


「そうだ、神界も深く反省している。

 ヒューマノイドの暴虐性を理解していなかったといってな」


「なあ、神界と言えば相当な力を持っているんだろ。

 なんでそういう殺戮者たちを滅ぼさなかったんだ?」


「もちろん、かなりの力を持っている。

 その気になれば、この大陸の住民2500万人を1か月で皆殺しに出来るほどだ。

 だが、神界はその管理下にある世界の住民を直接殺すことは出来ないんだよ」


「そうか、そうだろうな……

 ところで地球っていう世界ではどうだったんだ?

 もっと平和に進歩して来ていたのか?」


「いや、地球の歴史もそのまま戦争の歴史だ。

 ここ100年ちょっとで、合わせて5000万人も死んだ大きな戦争が2回もあったしな」


「5000万人も死んだのか……」


「だが、最近はようやく少しだけ平和になりつつあるんだよ。

 だから文明の発達も加速し始めたんだけど」


「その結果があの商品なんだな」


「そうだ。

 そうしてここアルスでは手詰まりな状況がずっと続いていたんだ。

 ダンジョンを使ってこの世界に富を授けようとしても、もう誰もダンジョンに来ないからな。

 主に地球の住民をダンジョンマスターにしてこのアルスに連れて来ていたんだが、誰も来ないダンジョンでは、いくら多くの権能を持っているダンジョンマスターでも何も出来なかったろう」


「でも何となくだけど、ダイチは違うよな。

 こうしてダンジョンから出て来て活動しているんだから」


「そうだ。

 俺はここアルスでダンジョンマスターの任務を引き受けるに当たり、神界からさらにいくつかの権能を与えてもらった。

 ひとつ目は俺が死なないことだ」


「………………」


「だから、例え俺が寝ているときに首を刎ねられても、すぐに別の場所で復活する。もちろん傷も治った状態でだ。

 2つ目は、ダンジョン内でも外でも強力な魔法が使えることだ。

 そうして3つ目は、やはり強力な能力を持った仲間をつけてもらったことだな」


「そうか……

 あの力は神界に授けてもらったものだったのか……」





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