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*** 92 提案 *** 

 


 ギラオルン会頭の目つきが鋭くなった。


「それをお答えする前に、いくつかのご質問をお許しいただけませんかの」


「もちろん。なんでも聞いてくれ」


「もしダイチ殿がお持ちの品々をこの国で売ったとして、それはもちろんたいへんな金額になるでしょう。

 それでダイチ殿に利益は出るのですか?」


「莫大な利益になるだろう」


「そのカネを得るダイチ殿の目的を教えて頂けませんでしょうか……」


「ガリルに奴隷、特に子供奴隷を買い付けてもらうカネに充てようかと思っているんだ」


「やはりそうでしたか……

 ですが、おそらくそれでは数万人、場合によっては数十万人の子供奴隷を得ることになりましょうぞ。

 それでその子供たちを食べさせていけますか?」


「現時点で俺は20万人が1年食べて行けるだけの小麦を持っている。

 また、現在俺の村には続々と人が集まって来ているために、大森林を切り開いて畑を作っているところだ。

 あと1年ほどで、収穫出来る小麦はその5倍から10倍になるだろう。

 もちろん小麦だけでなく、野菜も大増産している」


「それも凄まじいお話ではありますが……

 そうして、ダイチ殿の村、いやもう国といってよろしいかと思うのですが、そこまでして人口を増やされる目的は何なのでしょうか?」


「端的に言って、この大陸に平和をもたらすことだ」


「平和……」


「俺の国は、絶対に他国を侵略しない。

 つまり、俺から戦争を仕掛けることは有り得ない。

 まあ俺の国の財産を狙って攻めて来る国が有れば容赦はしないが。

 それでも、その国の兵を一切殺さずに捕獲して牢獄に収容出来るだけの力も持っている」


「それでは捕虜たちの食料が無駄になるのでは……」


「いや、それも無駄にはならないんだ。

 俺の村の中心にあるのはダンジョンなんだが、ダンジョンはその中にいるヒューマノイドの体力と魔力を糧にしてその運用エネルギーにしている。

 だからこそ、民には十分な食事と睡眠が必要になるんだが。

 それに魔法の力を使えば、畑を作ったりそこで作物を作るのもそれほど大変なことではないからな」



「なるほど……

 それからダイチ殿の国に貴族はいるのですかな。

 それからそうした貴族や豪族が内乱を起こす可能性は?」


「いや貴族はいない。

 種族を代表する族長や村長はいるが、貴族は絶対に禁止している。

 あれは王制と並んで諸悪の根源だからな。

 俺の国では万民が平等だ」


「ダイチ殿は王ではないのですか?」


「いや、俺は王ではない。

 単なる国の代表だ」


「その違いがよくわからんのだが」


「そうだなガリル、それに会頭さんも、それについては後で詳しく説明させて貰うよ」


「頼む」


「ですがダイチ殿。

 誠に申し訳ないことを言わなければならないのですが……」


「なんでも言ってくれ」


「ダイチ殿は、子供奴隷を集めて国の人口を増やすために、子供奴隷の購入資金としてあの素晴らしい品々をお売りになりたいとのこと。

 そしてそれは、子供奴隷たちを十分に食べさせてやって、平和で幸せな生活をさせてやりたいとのことでよろしいのですかな」


「その通りだ」


「ですが……

 その行為そのものがこの国に不幸を齎してしまうのでございます」


「詳しく説明してくれないか……」


「例えば我が家の女性たちに頂いたあの真珠のネックレスでございますが……

 仮に我が妻やガリルの妻があのネックレスを着けて貴族家の晩餐会に出向いたとしましょう。

 そのときは、1分と経たないうちに暗殺されてネックレスを奪われることでしょうな。

 この国の貴族共は、富を得るためであれば人の命などはなんとも思っておりませんので」


(だから女性陣はあのネックレスを見て引き攣った顔をしてたんだな……)


「例えそれが王妃さまの茶会であっても同じことでしょう。

 王妃の命令で近衛兵がすぐに我が妻を殺すでしょうし、場合によっては王妃さまご自身が妻を刺し殺すでしょう。

 そうしてネックレスを手に入れた王妃さまも、数日のうちには他の貴族の手引きで侍女などに暗殺されてネックレスを奪われます。

 もちろんその貴族もまた、すぐに暗殺されてネックレスを奪われます」


「酷いな……」


「ええ、王侯貴族とはそういう生き物なのですよ。

 自らが努力して富を得るよりも、力無きものを殺して奪う方が容易であると考える者どもなのです。

 そして、あのネックレスはそれほどの価値を持った品なのです。

 高位貴族家のご婦人が身につけたとしても、その日のうちに実の息子や娘に殺されて奪われることは間違いありません」


(それほどまでだったか……)


「おなじことがあのワイバーンや鉄貨について言えます。

 もちろん魔道具についても。

 場合によったらあの茶器や『くっきー』などにも。


 もしも我が商会の倉庫にああした品があると知られれば、その日から我らは毎日のように襲撃を受けることになるでしょう。

 それも相手は貴族直轄軍か近衛兵になります。

 そして、あれらの品を売りに出せば、必ず王侯貴族共にその存在が知られてしまうのです……」


(酷ぇな……)


「およそ商人を名乗る者にとって、本日見せて頂いた品は夢のような商品であります。

 あれらを可能な限り仕入れてこれを販売し、思いっきり儲けてみたいと思わぬ商人はおりませんでしょう。


 ですが同時に、わたしは、家族、家族同然に思っている使用人たち、おなじく息子同然に思っている護衛たちとその家族、合わせて500人の命を預かっている商会の会頭なのです。

 かの者たちが殺される危険を冒してまで商売は出来ないのです……

 どうか買取りはお許しくださいませ……」


 ギラオルン会頭は深く頭を下げていた。



「頭を上げてくれないか会頭殿。

 俺は貴殿の判断を非常に好ましいものと思っている」


「あ、ありがとうございます……」


「だが、よければ俺の提案も聞いて貰えないかな」


「是非……」


「みんなの安全を完全に確保し、俺の品を存分に売ってもらい、大儲けしたあとで大量に子供奴隷を買い付けて、今後一切の食事の不安を無くしてやれる方法がひとつだけ存在するんだ」


「そ、それはどのような……」


「まずは、すべての従業員とその家族、もちろんみなさんも含めて全員で俺の村に移住して来てくれ」


「「「 !!! 」」」


「通いの従業員さんはいるかな?」


「い、いえ、我が商会の従業員は全員子供の頃に買った奴隷ですので、家族も含めて倉庫の隣にある従業員村で暮らしております」


「他に親戚や係累は?」


「義弟が1人いる。妻の弟なんだ。

 うちから仕入れた食料品を庶民に売る店を開いている」


「ガリルのその義弟さんに家族や従業員はいるのかい?」


「彼は最近結婚したばかりだ。

 従業員は、うちを見習ったそうで、全員奴隷商から買って来ていて5人ほどいる。

 まだみんな子供だけど」


「その奥さんの実家や親戚は?」


「いや、奥さんは元孤児奴隷だから親戚はいないよ。

 その義弟は実に面白い男で、すべての商品に値札をつけているんだ。

 それで、現金取引のみで一切値引きをしないんだけど、その代り最初から安い値をつけてるんだよ」


(『現金掛け値なし』か……

 元禄年間に三井越後屋が始めた商法と同じだな。

 大したもんだ……)



「そうか、一度会わせて貰えるかな」


「夕方になるといつもうちに商品を仕入れに来るから、そのとき紹介しよう」


「それでは特に問題はないな。

 その義弟さん一家も従業員ごと俺の村に来ればいい。

 まあいきなり移住と言ってもなんだから、事態が落ち着くまでの一時避難でもかまわないが」


「ですが、それでは王都や各地での商いが……」


「実は、この場所は既にウチのダンジョンの一部として登録させて貰っている」


「「 !! 」」


「安心してくれ。

 ウチが勝手に外部ダンジョンとして認識しているだけで、あなた方にとっては何の違いも無い。

 ただし、武装した集団が悪意を持って襲撃して来た時には、彼らが敷地に入ろうとしたり塀乗り越えようとした瞬間に、ウチの国の牢獄に転移させられる」


「「 !!! 」」


「加えて、この庭と俺の国は『転移の輪』で繋ぐから、毎日安全な俺の国からここへ通えるぞ」


「も、もし盗賊などがその転移の輪を潜ってダイチ殿の国に行ったりすれば……」


「その輪は、俺の許可を得たもの以外が潜ると、自動的に牢獄に繋がるんで安心だ」


「ふう、すごいですな……」


「それに護衛の皆にはウチのダンジョンに入って鍛えてもらえれば、魔法はともかくとして、身体能力は超人級になれるから、盗賊の10人や20人は相手にもならないぞ。

 例えば、バルガス隊長。

 その青銅の剣で俺を切りつけてもらえないか?」


「!!」


「いやほんとに大丈夫だから。

 でも心配だったら最初は軽くで」


「なあバルガス、ダイチ殿の言う通りにしてみてくれないか」


「は……」



 バルガス隊長は、青銅の剣を抜くと本当に軽く大地の腕に当てた。


「はは、いくらなんでもこれじゃあ試したことにならないな」


 大地は剣を掴んでその刃に腕を滑らせた。


「「「 !! 」」」


「ほら、なんともないだろ。

 俺は今自分の体に『身体強化』の魔法をかけているからな。

 それじゃあもっと強く切りかかってくれ」


 ふいん。


「もっと強く!」


 ぶん。


「もっとだ!」


 ぶいん。


「まだまだ、もっと!」


 がっ!


「うーん、まだ足りないなぁ。

 俺を殺す気で」


 どがっ!


 遂にバルガス隊長の銅剣が曲がってしまった。

 もちろん大地の腕には傷一つない。


「あ、剣が曲がっちまったか。

『修復』……」


 曲がっていた剣がみるみる元通りになって行く。


「それじゃあ次は俺をよく見ていてくれ。

 今からあの門のところまで行くから」


 その瞬間大地の姿が消えて、門の横に現れた。

 護衛たちがぎょっとしている。


「今からそこに戻るぞー」


 すぐにテーブル横に大地が戻って来た。


「な、けっこう早く動けるだろ」


 その場の全員が口も利けずにこくこくと首を縦に振っていた。





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