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*** 91 鉄貨 *** 

 


「さて、次はいくつかの魔道具をお披露目させて頂きますね」


「ま、魔道具ですと……」


 テーブルの上に大中小3つの魔道具が出て来た。


「この小さい箱は、井戸水をお茶に適した水にする魔道具です。

 この上の部分に井戸水を入れてこの栓を回すと、ここから美味しいお茶を淹れられる水が出て来ます」


「え、ええっ!

 旨い茶を淹れるためだけの魔道具ですと!」


「ええ、これは私の村の仲間たちが作ってくれました」


「なんと……」


「それからこちらの箱は『温風の魔道具』です。

 みなさんが風呂に入られた後に、髪の毛を乾かすためのものですね。

 あまり熱い風は出ないようになっていますので安全ですよ。


 それからこちらは『温水の魔道具』です。

 風呂に湯を入れるときには、この上のタンクに水を入れて、ここのボタンを押すと湯が出て来ます。

 タンクに水を足しながら使えばいくらでも湯が出て来ますので便利ですね」


「こ、これもダイチ殿の村で作られたものなのですか……」


「ウチの村の連中はみんな風呂好きですから、この魔道具はたくさんあるんです」


「なんとまあ……

 国宝級の魔道具がそんなに……」


「どの魔道具も魔石で動いています。

 だいたい1個で1年動くんですけど、念のため予備で20個ほど魔石もお持ちしました。

 魔石の魔力が無くなったら、また私が魔力を込めに来ますので」


「と、ということは、ダイチ殿は魔法を使えると……」


「ええ、ここへ転移して来たのも、こうした物を持ち歩けるのも、みんな魔法の力になります」


「あ、あの健国王の伝説の力は本当だったのか……」



(ストレー、クッキーの入った袋を出してくれるか)


(はい)



「そうそう、バルガス隊長さん」


「はっ!」


「あのときは任務中だということで、クッキーは食べられなかったろ。

 だから、今日は人数分袋に入れて持って来たんだ。

 4枚ずつ入ったものが100袋あるから、今日の任務が終わったら護衛の皆さんで食べてくれ」


「そ、そんな…… わたくしどもにまで……」


 バルガス隊長が困った顔でガリル男爵を見た。


「はは、隊長、ありがたく頂いておきなさい。

 そうそう、そのクッキーはどう考えても1枚が銀貨1枚はするものだから、大事に食べた方がいいな」


「ははっ! ダイチ殿、ありがとうございます!」


「それじゃあみなさんにもどうぞ」


 大地はテーブルの上に6つの小袋を置いた。

 100均ショップ用のサイトで買ったひも付きの不織布の袋に、良子たちが作ったクッキーを詰めたものである。


「これもなんと綺麗な布でしょうか……」


 クッキーを口に入れた男の子が叫んだ。


「お母さま! これ、すっごく美味しいよ!」


「まあまあ、慌てずにゆっくり頂きなさいね」


「うん!」



「こ、これは……

 なんという旨さだ……

 砂糖の量を自慢するための貴族菓子とも全く違う……

 王宮晩餐会の茶菓子よりも遥かに上だ……

 ガリル、お前は今くっきー1枚につき銀貨1枚と言ったが、私が値を付けるとしたら、売値は銀貨2枚になるぞ」


「うん、そうだね……」


(そういやあ良子さん、バニラエッセンスや生クリームも使ってたか……)



「なあガリル、この邸には侍女や執事の皆さんは何人いるんだ?」


「見習いも含めて12人いるな。

 ん? ま、まさか……」


「はは、そのまさかだ。

 ここに12袋あるからみなさんでどうぞ」


「ふう、畏れ入ったよ。

 ダイチの国では使用人にまで献上品を渡すんだな……」


「ウチの国では『土産』って言うんだけどな。

 招いてくれた人よりも、むしろ家族や家のひとたちにいいものを渡すんだよ」


「そうか、その方が主人の格が上がるわけか。

 覚えておこう……」


「それじゃあそろそろ今日の本題に行くかい?」


「そうだな……

 お前たち、私たちはこれからダイチ殿と商談があるから邸に戻っていなさい。

 母上もどうかお戻りいただけますか?

 侍女たちもだな」


「はい」


「ダイチさん、本当にありがとうございました」


「ダイチさんありがとう!」


「はは、独楽を回すときは広いところで回すんだぞ」


「うん!」



 ガリル男爵が目配せすると、護衛たちが門の周囲を固めた。


「それじゃあガリル、例のブツを出すけど、ここに出していいのか?

 綺麗な石畳が汚れるぞ」


「問題ない。

 ここには肉なんかの荷を運び込むこともあるからな。

 血が垂れてもすぐに洗い落とせるよ」


「わかった。それじゃあまず首から出すぞ」



 その場に巨大なワイバーンの頭部が出現した。

 その後にさらに巨大な胴体も。



 あー、気の毒に執事さんたちがみんな腰を抜かしてるよ。

 あ、ギラオルン会頭もだ。



 ようやく我に返った会頭が、よろよろとワイバーンの頭部に近づいていった。

 恐る恐る手を出して、ワイバーンの牙を触っている。


「は、話しには聞いていたが、こ、ここまで巨大だったとは……

 息子たちの商隊は、こんな化け物に襲われていたのか……」



「親父殿、是非首の切り口を見てやってくれないか」


「こ、これは…… 見事に平らに切られている……」


「そうなんだ。

 ダイチはただの一撃でこのワイバーンの首を落としたんだよ……

 迫って来るワイバーンの正面に一人立って、瞬時に距離を詰めて、そして魔法で首を落としたんだ。

 こう、ズパンってね……」


「生きたこの化け物が迫って来る正面にひとり立てるとは……

 凄まじい勇気ですの……」



(モン村の戦士たち400体を前にした方がよっぽど怖いけどな……)



「それで親父殿、このワイバーンはいくらで売れると思う?」


「そうそう、こんな魔道具も作って持って来たんだ。

 これは『腐敗防止の魔道具』って言って、半径3メートル以内の物を腐らせずに保存出来るものなんだよ。

 だから、少なくともこの頭部だけは、生のままいつまででも保存しておけるぞ」


「ダイチの村はそんな魔道具まで作れるのか……」


「ああ」


「そんな道具があったら、肉も魚も野菜もいくらでも保存出来るな」


「ウチの村では食品はすべてそうやって保存しているからな」


「食料品を扱う商会としては羨ましい話だ。

 ひょっとして麦もそうやって保存しているのか」


「そうだ」


「ということは、どれだけ長期間麦を保存していても、全く味が落ちないのか。

 すばらしいな。

 なあ親父殿、その魔道具やこのワイバーンの買取りはいくらになるかな」


「正直に言おう。見当もつかん……

 まあ最低でも、この頭部だけで金貨1000枚にはなるだろうが」


(日本円で10億円かよ……

 でもまあそうか、オーストラリアで発見されたTレックスの全身骨格化石は1000万ドル以上の値が付いたっていうしな……)


「すまんダイチ、俺の見積もりは安すぎた」


「いや、森の恵みが減っているせいで、これからは餌を求めてワイバーンも人里に出て来るだろう。

 だからすぐに珍しくなくなって、もっと値下がりするんじゃないか?」


「いや…… バルガスや」


「はっ!」


「このワイバーンに矢は当てたのか?」


「はい、射た矢は8本全て命中致しましたが、全て頭の骨で弾かれました」


「この頭部の小さな傷がその跡か……

 それでは到底ワイバーンを倒すことは出来ないということだな。

 よって、いくらワイバーンの襲撃が増えたとしても、誰もこのようなトロフィーは手に入れられんのだ。

 値下がりは無いだろうの……」


「そうか、なるほど……」


「それじゃあガリル、借りてた壺を返すよ。

 中の血は土産代わりに取っておいてくれ」


「あ、ああ…… ありがとう」



「さて、それじゃあいったんワイバーンは仕舞うか。

 代わりに壺を出そう」


 その場のワイバーンが消えて代わりに壺が出て来た。


「すぐに石畳を洗った方がいいかもな。

 地面に染みついちゃうぞ」


「シュテファン、頼めるか」


「いや俺が綺麗にしよう。『クリーン』」


 地面が白い光に包まれた。

 光が収まった後には血の1滴も残っていない。


「なんとまあ……」



「それじゃあもう一つ見て貰いたいものがあるんだ。

 席に戻らないか?」


「まだあるのか……」



 席に着いた大地は、ステンレス製の貨幣を取り出した。


「「 !!!!! 」」


「ガリオから貰った金貨のデザインをそのまま使って鉄で作ってみたんだ。

 この小さいのが1キロで、中ぐらいのが5キロ、そしてこの大きいのが20キロだな」


「こ、こここ、これが鉄貨だというのか!」


「もしよかったら手に取って見てくれ。

 大きいのは重いから気をつけてな」


「やや色が薄いように思えるが確かに鉄貨だ……」


「シュテファン、磁鉄鉱と金貨を持って来てくれるか」


「畏まりました」



「ふむうー、素晴らしい出来栄えだ。

 傷も全く無いではないか……」


「だがダイチ、ひとつだけ気になる点があるんだ」


「なんだい」


「この表面の建国王の肖像なんだが、頬に窪みが無いんだ。

 ほら、この金貨の肖像には窪みがあるだろ。

 どうやら建国王には本当に頬に窪みがあったそうなんだ。

 だから、金貨が本物かどうか調べるのに、商人はまずこの窪みがあるかどうか見るんだよ」


「なるほど」


(鉄工所が金型を作るときに傷だと思って省略してたんだな……)


「それじゃあ、ちょっとその鉄貨を貸してくれるか。

『錬成』…… 『念動』……

 窪みはこんなもんでいいか?」


「な、なんだ今のは! 今のも魔法か!」


「もちろん」


「鉄をまるで粘土のように扱うとは……

 これでは鍛冶の必要が無いではないか!」


「まあ無いな。

 それに、土魔法を使えば、土で鉄並みの固さを持ったものも作れるし」


「ほ、本当か!」


「ほら、これが土で作ったナイフだよ。

 俺の村ではみんなこれを使ってるんだ」


 男爵は大地が取り出した茶色いナイフを矯めつ眇めつしている。

 さらには執事が持って来た黒っぽい丸い石をくっつけていた。


「磁鉄鉱もくっつかない……

 だが、この鉄貨にはつくじゃないか……」


「やっぱり磁鉄鉱で鉄かどうかを見ているのか」


「そうだ。

 ただこの磁鉄鉱は非常に高価なものなので、大商会しか持っていないがな」


「それじゃあ、こんな磁石はどうかな」


「な、なんだこの綺麗な金属は……

 うおっ! 鉄貨に吸い付いて離れない!

 な、なんて強力な磁鉄鉱なんだ……」


「因みにこの磁石はいくらぐらいするんだ?」


「『じしゃく』っていうのか。

 そうだな、同じ重さの金貨の10倍の値だな」


「そんなにするんか」


「そうだ、ただの鉄の倍の価値だ。

 なあシュテファン、済まんがなにか野菜とまな板を持って来させてくれるか」


「少々お待ちくださいませ」



 すぐに届けられたまな板らしきものの上で、ガリオが意外に器用な手つきで土ナイフで野菜を切り始めた。


「おおっ! 

 青銅製のナイフなんかより、こっちの方がよっぽど切れ味がいいぞ!

 なあ、ダイチの村ではこんなナイフがいっぱい作られているのか?」


「そうだな、作るのは簡単だから、今じゃあ2000本ぐらいはあるんじゃないか?」


「そ、そうか…… 簡単なのか……

 それじゃあ武器も作り放題なんだな……」


「それにさっきのティーカップと同じ『靭性』の魔法をかければ、折れず曲がらず欠けずの剣も作れるな。

 まあ俺たちは武器は作っていないけど」


「……………」



「ところでダイチ殿、この鉄貨には表面に油を塗っていないようですが、これではすぐに錆びてしまいますぞ」


「いや会頭殿、これは鉄にクロムという金属を12%混ぜたステンレスという合金なんだ。

 そしてこのステンレス合金は非常に錆びにくいんだよ」


「な、なんと! 錆びない鉄ですと!」


「そ、それでダイチはこんな鉄貨をどれぐらい持っているんだ?」


「今はそれほどの数は持っていないが、時間さえもらえればいくらでも」


「い、いくらでも?」


「そうだな、1か月あれば1万枚ぐらいは用意出来るな」


「い、いちまん……」



(そうだ、この窪みをつけたやつを1万枚ずつ静田さんに注文しておくか……

 それからもっと大きいやつも100枚ほど)



「さて、それじゃあ会頭さん。

 俺は俺の用意出来る品々を売りたいと思っているんだが、今日持って来た品は、献上品も含めていくらぐらいで買い取って貰えるものなのかな」



 ギラオルン会頭の目つきが鋭くなった。


(おー、まるでビジネスの話をするときの静田さんみたいな目だな……)





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