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*** 88 プレゼン準備 *** 

 


 数日後、県立青嵐高校の校長室を訪れた4人の姿があった。


「いや校長先生、お忙しいところお時間を割いて頂いて誠にありがとうございます」


「い、いえいえ、それにしても皆さんお揃いで……

 な、なにか問題でもございましたでしょうか……」


 校長はやや気押されていた。

 なにしろ、そこにいるのはこの市や県のVIPばかりだったからである。



 衆議院議員青島嵐児事務所、秘書団顧問の杉田が口を開いた。


「いや実は我々一同、御校にお願いがございましてな」


「な、何でございましょうか……」


「来月の文化祭に於きまして、新たに発足したMMA部が模擬戦闘を披露されるとか。

 どうかこれに父兄や地域住民の飛び入り参加を認めては頂けないかと思いまして。

 いや青島も楽しみにしているものですから」


「そ、それは確かにMMA部からも上がって来た要望なのですが……

 なにしろそれで怪我人でも出れば、治療費の補償ですとかいろいろと問題が……」


 市の弁護士会会長が1枚の紙を校長の前に差し出した。


【誓約書

 わたくし____は、青嵐高校文化祭に於いて、MMA部の模擬戦に参加を希望するに当たり、不測の事態で怪我をすることになったとしても、如何なる個人または学校、教育委員会を相手に損害賠償請求訴訟を起こさないことをここに誓約いたします】


 その下にはご丁寧に英文の翻訳まであった。



「参加をご希望される方には、みなさんこの用紙にサインを頂戴しようかと」



 県内最大の私立病院理事長が口を開いた。


「わたくしの病院からは、応急手当の出来る医師2名と、看護師3名を派遣させて頂きます。

 また、当日は高校近隣の駐車場に患者搬送車も待機させましょう。

 その費用も治療費も、もちろん私共で負担します」



 県でも三指に入る大企業の社長が言った。


「よろしければ更なる安全のために、数日前から校庭の隅に大きなマットを設置させてください。

 ついでに観客席も。

 なるべく多くの生徒さんや来賓の方にも見て頂きたいですから。

 もちろん設置費用はすべて寄付させていただきます」



 最後にまた議員秘書が口を開いた。


「昨日青島の名で県の教育委員会にも申し入れをして、内諾を得ています。

 あとは校長先生のご判断でございますな」



 4人のVIPにこうまで言われて、校長としては首を縦に振る以外の道は無かったのである……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ガリル男爵一行と会ってから2日目。

 大地はモン村に妖精族を訪ねた。


「「「 大地さま、ようこそいらっしゃいました! 」」」


「おお、妖精族も随分増えたな」


 妖精族の族長が恭しくお辞儀をした。


「すべてダイチさまの思し召しのおかげでございます。

 貴重なダンジョンポイントを使用して、このように大勢の同族を召喚して下さるとは……」


「いや、お前たちはいろんな役に立つ品を作ってくれてるからなぁ。

 当然のことだよ」


「あ、ありがとうございます……」


「それで今日は3つばかり魔道具の作成を頼みたいと思って来たんだ」


「御意のままに……」


「1つ目は『温水の魔道具』って出来るかな。

 お湯の温度が45℃以上にはならないやつ」


「すぐにも作成可能でございます。

 エネルギーはどなたかが魔石に魔力を込めるか、1年に一度小魔石の交換が必要になりますが」


「さすがだな、それじゃあそれを5つばかり作っておいてくれ。

 それから似たようなもので、『温風の魔道具』も、温風の温度が45℃以上にならない物って出来るか」


「はい、最近では温度調節機能付きのものも作り始めておりますので、すぐにも出来ましょう。

 こちらも小魔石1個で1年もちます」


「それじゃあそれも5つ頼む。

 それから、『腐敗防止の魔道具』って出来るかな。

 その魔道具から半径3メートルほどの空間の中にある物が腐らないように出来るようなやつ」


「あの、ストレーさまに時間停止の魔方陣を見せて頂ければ……」


「ストレー」


(はい)


「妖精族に時間停止の魔方陣を見せてやれるか?」


(畏まりました。

 ただし、1年間動かすのにやはり小魔石1個ほどの魔力を消費いたします)


「はは、それなら却って魔石が継続して売れるようになるからいいかもな。

 それじゃあみんな、よろしく頼むわ」


「「「 はい! 」」」


「出来れば3日以内に欲しいんだが可能か?」


「「「 お任せくださいませ 」」」



「あ、そうそう、それからもうひとつ。

 淳さんの作った焼きものの器って見たことはあるか?」


「はい、淳さまはわたくしたちのために小さな器も作って下さいましたので」


「そうか、それであの焼き物って割れやすいだろ。

 例えば洗ってるときに落として割っちゃうとか。

 それ、壊れにくくする魔法って無いかな?」


「それでは『靭性強化』の魔法は如何でしょうか。

 強度はそのままで、物の靭性を高めて壊れにくくする魔法です。

『れすとらん』で働く皆さんに頼まれて、お皿やコップが割れにくくなるよう、モンスター村の食器には、わたくしたちがこの魔法をかけているんです。

石の床に落としても割れなくなります」


「おお、それいいな。

 それじゃあ食器の準備が整ったら持ってくるから、その魔法をかけてくれるか?」


「「「 畏まりました 」」」





 その2日後、大地は静田物産の特別倉庫を訪れた。


 おおー、さすが静田さん。

 注文した物が全部揃ってるわ。

 ティーセットも完璧だな。

 はは、『美味しい紅茶の淹れ方』の冊子や砂時計に、器を温めたお湯を棄てるための陶器のカップにティーコジーやティーマットまであるよ。


 あ、ステンレス製品のあの試作品まである。

 なになに、「試作品が出来ましたのでお届けします。もしこのままでよろしいようでしたらすぐに量産体制に入れます」だって……

 見た目は鉄っぽい色になってるし、問題は無いように思えるんだけど、念のため男爵に見せてからにするか……


 それじゃあこのティーセットを妖精族のところに持って行って、魔法をかけてもらおう)




 翌日。


 さて、静田さんや妖精族のおかげでブリュンハルト商会に持ち込む品の準備もすべて終わったか。


 それにしてもだ。

 ここまでの品々が揃ったのはいいんだけど……

 果たしてこの品、普通に売れるんだろうか?


 いや、無理かもしれないな。

 ヘタに貴族だの王族だのに見せたら、大群でブリュンハルト商会を襲って来るかもしらん。

 あいつらのE階梯じゃあ、欲しいものは相手を殺してでも手に入れるのが当たり前なんだから。


 もし国王が多少はまともな奴だとして国に売れたとしても、今度は周辺国が大軍勢を擁して侵略して来るだろう。

 これはアルスではそのレベルのお宝になっちまってるわ。

 どうしたもんかね……



「なあシスくん」


(はいダイチさま)


「たとえばさ、500人ぐらいのひとたちがこの村に移住してくるとして、受け入れ態勢をすぐに整えられるかな」


(はい)


「そ、そうなんか?」


(ダイチさまのお指図で、現在20隊もの避難・移住勧誘部隊が大森林各地で動いております。

 その受け入れのために、現在2万人分の居住施設を建設済みでございますし、食堂街とは転移の輪で連結もしてありますので、500人程度でしたら余裕です)


「そ、そういやそうだった。

 そ、それで現在村の人口はどのぐらいになってるんだ?」


(ちょうど1万2000人に達したところでございますね)


「も、もうそんなになってたんか、はは……

 それじゃあ500人ぐらいわけないか」


(はい)


「なんか俺の仲間たちが優秀過ぎて困惑するな」


(これからももっとがんばります)


「おお、頼んだわ」



 さてと、男爵から呼び出しが来るのは明日だろうから、今日はどうしようか。


 ああそうか、ティーセットや紅茶の葉を売りつけるだけじゃあなくって、旨い紅茶の淹れ方も伝授しなきゃだ。

 それじゃあ、マニュアル見ながら俺も紅茶を淹れてみるかね。


 なになに、紅茶を淹れるには硬水より軟水の方がいいのか。

 それじゃあ、俺が水魔法で出した水ってどうなのかな?


 よし、『水魔法Lv1』、それから『分析アナライズ

 はは、硬度ゼロだってさ。

 カルシウムもマグネシウムもその他のミネラルも全く含まれていないのか。

『水魔法』で作れるのは『純水』だったわけだ。

 まあそりゃそうか。


 あ、これ、『純水の魔道具』とか作ったら、地球で半導体産業とかに売れるかも……


 それじゃあまず『熱の魔道具』でお湯を沸かしてポットとカップを温めてと。

 ほう、湯を沸かすのに鉄製のケトルはNGなんだな。

 ついでにティーコジーやティーマットも使って、こっちも温めておくか。


 それから紅茶用のお湯を沸かそう。

 なになに、完全に沸騰させたお湯で、それも沸騰してすぐのお湯を使うのか。

 茶葉はストレートティーだと一人分ティースプーン1杯ね。

 大きい茶葉だとスプーン大盛で、細かい茶葉だと中盛か。

 この茶葉って大きいのか? それとも細かいのか?

 まあいいや、後でもう一回作ろう。


 へー、お湯はティーポットに人数分入れるんだ。

 ああ、最後の1滴が美味しいのね。

 お茶と一緒か。


 それで、お湯はポットに勢いよく注いですぐに蓋を被せて、コジ―やマットを使って大きな茶葉は3~4分保温すると。

 細かい茶葉は2分半~3分か。

 あ、この砂時計、3分計と4分計がある!

 さすが本格的だね♪


 それで最後にポットの中をスプーンで軽くひと混ぜか。

 後は茶こしを使いながらカップに注ぐと……


 よし出来た!

 うっわー、綺麗な色だわ。

 うーん、香りもいいなぁ。

 この香りを楽しむためにティーカップは口径が大きいものがいいらしいからな。


 うん、旨い!

 これならストレーが用意してくれたものと遜色ないわ。


(ほっ……)


(ははは、気になってたんかストレー)


(は、はい……)


(大丈夫だ。お前の作ってくれたのも十分に美味しかったぞ。

 だが、土産として渡すんだから、男爵たちも淹れられるようにしないとな)


(はい)



 それじゃあ、妖精族のところに行って、水からカルシウムとマグネシウムを除去する魔道具が作れるかどうか聞いてみるか。

 あ、でも、彼女たちに魔道具を作って貰うときは目の前で魔法を実演する必要があったな。

 うーん、『抽出』のスキルで普通の水からカルシウムやマグネシウムを抽出出来るのかね?


 試しにスキルスクロールで『抽出』をレベル8まで取ってみるか……


 おお! レベル8だと元素記号や分子式を言えば抽出する物質が指定出来るようになるんか。

 これ便利だわー。


 それじゃあ海の水から塩化ナトリウムを抽出してる塩工場に行って、捨ててる水からマグネシウム(Mg)と、カルシウム(Ca)を抽出してみよう。


 ん?

 待てよ……

 だったらいっそのことH2Oを抽出すればいいんか。

 はは、そりゃそうだ。


 それじゃあH2Oを抽出する様子を妖精族にも見て貰おう。





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