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*** 87 商品準備 *** 

 


 翌日高校の授業と伴堂ジムでの訓練が終わった後、大地は静田の社長室を訪ねていた。


「お忙しいところすみません。

 実はまたいくつかお願いがありまして」


「いえいえ、以前にも申し上げました通り、この会社が在るのはすべて幸之助さまや大地さまのお役に立つためなのです。

 いつでもなんなりとご用命くださいませ」


「ありがとうございます。

 それではまず最初にこちらの注文書なんですが……」


「ほう、上白糖を追加で100トンですか。

 それから上白糖や塩を入れるための1キロ入りの白い陶器の容器、ある程度湿気を遮断出来る蓋つきと。

 この容器をとりあえず1000個、場合によっては大量追加の可能性有と。

 いよいよアルスで商売を始められるのですな」


「ええ、いいツテが出来たものですから」


「それはそれは。

 それから、ティーセットですか。

 ティーポット、カップ&ソーサー6客、ミルクピッチャー、砂糖入れ、陶器製ティースプーン、茶こし。

 これらのセットを総額3000円のものを1000セット、1万円のものを500セット、30万円のものを100セットですね」


「ええ、3000円のセットはやはり白無地の陶器製で、1万円や30万円のセットは白無地の陶器に加えて花柄や金装飾が付いたものもあるとありがたいです」


「はは、裕福な庶民向けと貴族向けですかな」


「はい」


「それでは全てのセットに箱もつけた方がいいでしょうな」


「ありがとうございます。

 それからもちろん、紅茶の葉もお願いしたいのですが」


「どの等級のものにいたしましょうか」


「そうですね、最初は中級程度で充分だと思います」


「畏まりました」


「あとですね、100均ショップで売っているようなものをたくさん買いたいんですけど、どこかお勧めの店はありませんか?

 ああいう店って、種類は多いですけどあんまり品数は置いてないですよね。

 ですから、ガラスのコップなんかを300個ぐらい買いたいと思ったら30件ぐらい回らないといけないんですよ。

 それは時間の無駄なんで、なにかいい方法はありませんか?」


「もちろんございます。

 弊社では10年前から小規模100円均一の店向けに卸売りも始めていましたので。

 また、それ以外にも小規模スーパー向けの商品もございます」


「おお!」


「大手のチェーン店は独自の買い付け部門も持っていますが、店舗数10件以下の会社は、多くが我々のような卸から品物を仕入れているのですよ。

 それでは、取引先として『株式会社アルス』を登録させて頂きます。

 品物と価格はこちらのサイトに表示してありますので、パスワードをご登録の上、ネットでご発注下さい。

 配送先は例の特別倉庫にしておきますので」


「これは楽でいいですねえ。

 ちょっと実際のサイトを見せていただいていいですか?」


「どうぞどうぞ、こちらでございます」


「へー、ジャンル別でも価格別でも検索出来るんですね。

 あれ? 卸値が150円とかのものもあるんですか?

 100円均一店舗向けのページなのに?」


「はは、土鍋などは卸値が150円です。

 それを店では100円で売っていますね」


「それじゃあお店は赤字になるんじゃあ……」


「店頭では、土鍋の周りにその土鍋と同じ風合のデザインにした取り皿やレンゲ、お玉、穴あきお玉、箸置きといったものを並べるんです。

 ほとんどのお客様はセットで買って行かれるので、トータルでは儲かるのですよ」


「なるほど。

 でも客を装った転売業者が土鍋だけ大量に買って、自分の店で200円で売ろうとしたりしないんですか?」


「ですから100円ショップはわざと在庫を少なくしているんですよ。

 もしくはバックヤードに在庫はあっても、店に並べているのは5個だけとか。

 そうして、土鍋の転売を目論むような者が、もっと買いたいので在庫を出せと言っても、あれは人気商品ですのでもう店頭にある分だけしかありませんと答えるんです。

 そういう転売を目論む業者も、たった5個では儲けになりませんからね。

 何件も回ろうとしても、自分の労力やガソリン代の方が高くつくでしょう」


「なるほど」


「もちろん『株式会社アルス』さまからのご注文に関しては、サイトに記載されております価格よりもさらに安くさせていただきますので」


「ありがとうございます。

 あ、それから作って頂きたいものもあるんです」


「どのような品でございましょうか」


「こちらと同じデザインのものを、材質はステンレス鋼で、大きさは3種類、1キロと5キロと20キロになるように作って頂けませんでしょうか」


「これならば鋳造ではなくプレス加工で出来ますので簡単ですな。

 取引先の鉄工所にプレス用の金型を発注しておきましょう。

 いかほど作らせますか?」


「最初はそれぞれ100個ほどで構わないのですが、その後場合によっては数千から数万個の注文になるかもしれません」


「畏まりました。

 ステンレス鋼の材質は如何いたしましょうか?」


「そうですね、マルテンサイト系やオーステナイト系ではなく、フェライト系でお願いします」


「あの、念のためお聞きしますが、475℃脆性はご存知でしょうか。

 それから600℃から800℃の間で起きるアルファ脆性も」


「ええ、クロムの添加量が15%以下のフェライト系ステンレス鋼で起きる、衝撃に対して脆くなる現象ですよね」


「さすがですな」


「はは、アルスでの任務にあたって鉄のことはかなり勉強しましたから」


「ということは、この製品を炉で溶かして武器に作り替えようとしても、フェライト系ステンレスの脆化現象のせいで、衝撃に脆い剣や槍の穂になってしまうというわけですか。

 薪や木炭を使った炉では、どうしても長時間その温度帯を通過するでしょうし。

 分かりました、それでは高級ステンレス鋼ではなく、敢えてクロムの配合量は15%以下に抑えた廉価材にしておきましょう」


「ええ、それでもそのうち誰かがこの現象に気づくかもしれません。

 ですから、まだあまりフェライト系ステンレスも普及させられないんですよ。

 なにかもっと有効な方法を考えなければ」


「なるほど。

 それにしてもステンレス鋼では鉄と質感が違いすぎて、鉄製品だと思われないかもしれませんな」


「ですから、出来れば製品を鉄に似た色に加工して頂けませんでしょうか。

 表面だけでなく内部も。

 それに、たぶんアルスでは鉄か否かを磁鉄鉱を使って見極めてると思うんです。

 フェライト系なら磁石にも付きますし」


「なるほど、実によく考えていらっしゃる。

 それでは強力な磁石もご用意致しましょうか」


「ぜひお願いします」


「ではネオジム磁石の大き目の物を10個ほどご用意させていただきます」


「なにからなにまですみません。

 それから、宝飾品も少々用意していただけないかと」


「ほう! というとやはり……」


「ダイヤモンドやエメラルドなんかは希少過ぎてアルスでも流通していないかもしれませんからね。

 ですからやはり真珠のネックレスをお願いしたいと思います」


「養殖真珠でよろしいですか?」


「ええ、その方が粒が揃っていてより豪華に見えるでしょうから。

 粒が大きくて豪華なものを3つと、それよりは劣る中級品を10個、それから粒のあまり大きくない廉価品を100個お願いします」


「畏まりました」


「ほんとうにご迷惑ばかりおかけしてすみません」


「いえいえ、これこそがわたくしの本業ですので。

 ステンレス製品以外は全て3日後までに特別倉庫に搬入しておきますが、それでよろしかったでしょうか?」


「それで十分です」



「それから大地さま、実は申し訳ないご報告があるのです」


「なんでしょうか」


「あの配合飼料についてなのですが、実は農林水産省により価格統制商品に指定されているのです。

 飼料価格の高騰などを防いで国内の養豚農家などを保護するためなのですが。

 そのために国の予算もある程度使われているのですよ」


「はい」


「それが私共がそれなりの量を購入したものですから、地元の農林水産事務所から販売先についての問い合わせが来てしまったのです。

 まあなんとか納入先を水増しして報告したのですが……」


「なるほど、それでは海外などで直接買い付けをした方が良さそうですね」


「その際にも、日本に輸入したとすればやはり使途を聞かれてしまいますので、大地さまに海外までご足労頂くことになってしまいますのです。

 それにアメリカなどでは、原料の穀物の残留農薬基準が日本よりも相当に緩いものでして……」


「静田さんの会社の海外支店にも、じいちゃんは転移用のマーカーを設置していましたよね」


「はい、すべての海外支店にマーカーはございます」


「それではその支店に転移して配合飼料を買わせて頂きますね。

 まあ、まだ在庫はかなりありますので、当分先のことになるでしょうけど。

 それから残留農薬については『クリーン』の魔法がありますから大丈夫ですよ」


「さすがでございますな……」


「いえいえ、ご迷惑をおかけしてすみません」



 静田は相当に安堵しているようだった。

 万が一にも大地を困らせたくなかったのだろう。



「ところで大地さま。

 伴堂ジムの掲示板で拝見したのですが、来月の〇日には鍛錬をお休みになられるとか」


「ええ、その日は高校の文化祭があるものですから」


「ほう、大地さまも何か出し物にご参加されるのですか?」


「今度柔道部と空手部が合併してMMA部が出来るんですけどね。

 そのお披露目ということで、わたしがいつも米軍の方たちとやっている多対1訓練を部員相手にやることになったんです。

 ですから、今日系2世の軍曹さんがMMA部のみんなに戦闘訓練をしてくれてるんですよ」


「あれはそのための訓練だったのですか……

 これは是非ともみなさんと見に行かねば……」


「はは、私立の学校なんかは招待券が無いと入れないところもありますけど、うちは県立ですし、父兄の方も地元の方もけっこう来て下さるそうです」


「それはそれは……

 あの…… 僭越ながらご提案がございます」


「なんでしょうか?」


「試技の時間は、学校にどのぐらい申請されているのですか?」


「後片付けを入れて1時間ほどですが……」


「10人ずつ全員と戦う様子を披露されるとしても、大地さま相手ではそれこそ10分で終わってしまうでしょう」


「そ、そういえばそうでした……

 それは考えてなかったなぁ……」


「それでは些か寂しいので、見学の父兄や地元の方から飛び入り参加も受け付けられたらいかがでしょうか。

 あの防具があれば怪我人も出ないでしょうし、万が一の際には治癒系の光魔法もお使いになれるでしょうし」


「ご提案ありがとうございます。

 明日、みんなと相談して学校側に申し入れてみますね。

 許可が下りればいいんですけど」



 静田が微笑んだ。


「たぶん許可は下りると思いますよ……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 その日の夜、大地は地球の自宅で静田物産のサイトを開き、アルスで売るための商品を注文しようとしていた。


「何してるんにゃ?」


「アルスでガリル男爵に売る商品を探してるんだよ。

 タマちゃんもなにか欲しいものがあったら買ってあげるよ」


「ふーんにゃ」


「あ、『ネコちゃん用バスタブ』だって……

『ネコちゃん用シャンプー』もある……」


「い、要らないにゃ―――っ!」


 タマちゃんはベッドの上に逃げて行き、毛布を被ってしまった。


(はは、よっぽどお風呂が嫌いなんだな……

 でも毎日朝晩クリーンの魔法で綺麗にしてるみたいだからいいか……


 お、100均ショップ用コーナーに透明なプラボトルがある。

 そうか、これにスーパー用コーナーで買ったシャンプーを入れて売ればいいな。

 まあ、プラスティックぐらいは売っても構わんだろう。


 ほう、それぞれの商品の横にメモ欄もあるのか。

 これ、ガリル男爵に買値を聞いて、地球の何倍で売れるのかメモしてみるか。


 あー、お菓子も充実してるんだな。

 それじゃあお菓子を入れるプラ容器や袋も買って、詰め替えよう。


 おお、タオルもいいな。

 こんなにたくさんの色がついた綺麗なタオルがあるし。


 それにしても、こうやって商品の仕入れを考えるのって楽しいな。

 しかも最低でも仕入れ値の10倍、砂糖なんか1000倍以上で売れそうだから余計に楽しいわ。

 そうか、昔の大航海時代に危険を冒して船を出して交易したのって、こういうことだったんだろうな……



 翌日大地は、放課後に市内中心部のショッピングモールに出かけた。

 ガリル男爵の家族に土産を買うためである。


(えーっと、まずはファンシーショップでシュシュや髪留めやヘアブラシなんかのセットを買ってと……

 静田物産のサイトにもあったけど、100円ショップ用だからやや貧弱な品だったからな。


 次はおもちゃ屋で積み木なんかがいいか……

 あ、独楽もいいな。


 はは、みんな驚いてくれるかなぁ……)




 大地くん。

 せいぜい青銅器時代のアルスに現代日本の品なんか持ち込んだら、そりゃあみんな驚くって……





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