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82/410

*** 82 ワイバーンの襲撃 *** 

 


 或る日シスくんから緊急連絡が入った。


(大地さま! たいへんでございます!)


「どうしたシス!」


(あの奴隷商隊の野営地に向けて、南からワイバーンらしき魔獣が3頭飛行しております!)


「なんだと!

 すぐに俺を野営地付近に転移させろ!」


(はい!)


 大地は、頭の上のタマちゃんと共に商隊の野営地に転移した。

 タマちゃん自身はいつものように隠蔽の魔法を纏っている。



「何者だ!」


「俺のことは後回しだ! 

 南からワイバーンらしきものが3頭近づいて来てるぞ!

 警戒態勢を取れ!」


「な、なんだと……」



(大地さま、接敵までもうすぐです!)


(了解)


「すぐにも来るぞ!

 弓兵部隊がいるなら準備させろ!」



 騒ぎを聞きつけたのか、粗末な天幕からあのブリュンハルト商会長が出て来た。


「護衛隊長、念のため警戒配備を取ってください」


「はっ!

 護衛隊第1分隊はこやつを包囲して警戒せよ!

 第2分隊は南側以外の周辺警戒!

 第3、第4分隊は南の空を警戒!

 第5分隊は馬を木の下に移動させよ!

 弓兵隊は弓に矢を当てて待機!

 総員遮蔽物の近くに身を寄せよ!」


「「「「 ははっ! 」」」」


 兵士たちは武器を持って駆け足で配置につき始めた。


(ほう、なかなかよく訓練されてるじゃないか……

 それに隊長の指揮ぶりも見事だな……)



 野営地は街道沿いの草原にあった。

 時刻は午後3時ごろだったが、まだ空は明るさを充分に残している。


(やっぱりこうした隊商も、登山と同じで暗くなるずっと前に野営地に着くようにするのか……)



「あっ! 南の空に飛行生物っ!」


「ほ、本当にワイバーンが来た……」


「さ、3頭もいるぞ!」


「うろたえるな!

 各自遮蔽物の後方に隠れよ!」



 それはひと際大きなワイバーンを先頭にした編隊だった。


(おいおい、あの先頭の奴、翼の幅が優に15メートルはあるぞ……

 形状はプテラノドンそっくりか。

 クロノサウルスといいこいつらといい、やっぱりアルスには恐竜種も生き延びてたんだな。

 それにしても、あの筋肉の付き方からして、あのワイバーンは地球の翼竜とは違って滑空するだけじゃあなく、上昇能力もかなり有りそうだ……)



「あ奴の鱗に矢は通らんだろう……

 弓兵隊は顔を狙え。

 出来れば目に当てて追い払うのだ」


「「「 はっ! 」」」


「空を飛ぶ対象は距離を掴みにくい。

 射撃は弓兵隊長の号令を待て。

 ぎりぎりまで引き付けて矢を放ち、すぐに遮蔽物の陰に隠れよ」


「「「 ははっ! 」」」



 第1分隊の分隊長らしき男が大地を呼びに来た。


「おい! お前はこっちに来いっ!」


(ほう、食料の袋を積み上げた遮蔽物の後ろか。

 ワイバーンの出現を当てたんで、俺への扱いが少し良くなったんだな。

 でも……)


「なあ、あんたたちももっと近くに寄らないと、遮蔽されてないぞ」


「俺たちの任務はお前を警戒することだ!

 余計なことは言うな!」


(へいへい……)



 先頭を飛んでいたワイバーンが滑空・攻撃態勢に入った。

 残りの2頭は上空で旋回待機している。


(おー、すげえな。

 弓兵隊が全員遮蔽物の後ろに立ってるよ。

 そうか、自分たちが囮になってワイバーンの目標になり、奴の飛行軌道を直線にすることで矢を当てやすくしてるのか……

 大したもんだ。


 それにしても、どうしたもんかね?

 俺がウインドカッターで迎撃してもいいんだが……

 まあもう少し様子を見るか。

 どうしても追い払えないようだったら、俺が手を出そう。

 シスくん、この辺り一帯をダンジョン化しておいてくれ)


(ダイチさまのいらっしゃる場所を中心に、半径5キロの範囲をダンジョン化済みです!)


(はは、さすがだな)



 ワイバーンが迫って来た。

 さすがの巨体だけあってかなりの迫力だ。


 接敵まであと30メートルを切ったとき、弓兵隊長が叫んだ。


「撃て! そしてすぐに隠れろ!」


 8本の矢がワイバーンの顔に向けて飛んで行った。


 だが……

 咄嗟に顔を下げて目を瞑り、硬い頭骨で矢を受けたワイバーンには、ほとんど傷がついた様子もない。


(すげえな。

 咄嗟にそんなことが出来るほど知能が高いんか……

 っておいおい!

 少し進路を変えて、俺の隠れてる遮蔽物に向かって来てるじゃねぇか!)



 どがっ!


「ぐあぁぁっ!」


「ジョシュア!」

「分隊長っ!」


(しまった!

 俺を見張るために遮蔽の薄かった第1分隊長が攫われちまったっ!

 こりゃもう自重している場合じゃないな……)


「タマちゃん行くよ!」


「にゃっ!」



 ワイバーンはいくつかの穀物袋ごと分隊長を足で掴んでいた。

 そのまま高度を上げ、上空の仲間の方に向かって戻り始めている。


 大地は重力魔法で飛び立つと、その後を追い始めた。

 タマちゃんは頭から降りて、大地の肩車の位置にいる。



「お、おい……」


「と、飛んでるぞ……」



(『診断』…… 

 よし! 分隊長はまだ生きてる!

 そうか、ワイバーンの爪が穀物袋に刺さっているせいで、体には深く刺さっていないのか!

 だが、出血もしてるし、このままだと長くはもたないか……


 よし、ワイバーンの尾まで『転移』!



 大地はワイバーンのすぐ上まで転移すると、足を開いて尾を跨いだ。

 驚いたワイバーンが尾を振り回すが、大地は尾を挟む両脚に力を入れて耐える。


(尾は細いし力はあんまり強くないな。

 攻撃には使えずバランスを取る役割しかないみたいだ……

 それにどうやら重力魔法も使って飛んでるみたいだけど、でもレベル3ぐらいだから、そんなに速くないか……)



 隙を見た大地は足を絡めたまま180度回って頭を下にした。


(第1分隊長さんに重力魔法……

 それから『念動Lv5』……

 お、足で物を掴む力はけっこう強いのか。

 鳥と一緒だな。

 それじゃあ『念動Lv8』……)



 分隊長を掴んでいたワイバーンの足が緩み、分隊長がうめき声をあげた。

 すぐにその体が白く光っている。


「分隊長の血止めをしたにゃ!

 命に別状はにゃいから、本格的な手当ては後でするにゃよ!」


「タマちゃんサンキュ。

 それじゃあ『念動』で分隊長さんを引き寄せてと……

 ところでタマちゃん……」


「にゃ?」


「俺の首に足を回してしっかり掴まってくれてるのはいいんだけどさ……

 さっきから頸動脈が絞められてるんだ……

 ま、まるでチョークスリーパーみたいに。

 このままだと俺あと30秒で落ちるから、空からも落ちるんだけど……」


「にゃははは、ごめんにゃ」



 大地は分隊長を抱えて、野営地の真ん中に転移した。


(『治癒系光魔法Lv5』……)


 すぐに分隊長の体が淡く光る。



「ううっ……」


「い、生きてる!」


「分隊長殿が生きてるぞ!」




 ギィエエエエ―――――ッ!



(あ、ワイバーンが旋回してこっち向いた……

 なんか相当に怒ってるみたい……)


(まあ、ワイバーンにしてみれば、エモノを横取りされたと思ったんにゃろうね)


(あー、俺に向かって滑空して来てるよ。

 それじゃあ『威圧Lv8』……)



 ガァァァァ―――――ッ!



(やっぱダメか……)


(怒りと狩猟本能に我を忘れてるにゃぁ)



「ま、またワイバーンが戻って来た……」


「退避っ! 総員遮蔽物の陰に退避せよっ!」



(仕方ない、誰かを殺そうとして襲ったら、反撃されて殺されても仕方が無いっていうことを教えてやろう……

 あ、でも頭骨は固そうだから、首を狙うか。

 頚椎が固くても、頸動脈切れば死ぬだろうし)


 大地は縮地でワイバーンとの距離を縮め、腕を上げた。


(『ウインドカッタ―Lv8』……)



 ズパンッ!!


 ワイバーンの首が瞬時に落ちた。

 どうやら頚椎も大地が思っていたほどには固くなかったらしい。


 首はすぐその場に落下したが、その巨大な体躯は血を撒き散らしながら依然として野営地に向かって滑空している。

 このままだと護衛たちの上に落ちるだろう。



(しまった! 翼がある分すぐに落ちないんだ!

『念動Lv8』!

 だ、だめだ、重すぎて止まらないっ!)


(手伝うにゃ♪ 『念動Lv10』)


 ワイバーンの体躯が宙に止まった。

 そのまま胴体からは激しく血が噴き出している。


(ふう、さすがはタマちゃん、ありがとう)


(任せてにゃ♪)



 大地が歩いて野営地に戻り始めると、遮蔽物の陰から護衛たちが茫然とした顔を覗かせていた。


「だ、大丈夫かっ!」


(あ、そうか、ワイバーンの返り血を盛大に浴びてたんだ……)



「これはワイバーンの血だから俺は大丈夫だ」


「そ、そうか……」


「それじゃあ『クリーン』……」


「な、なんだ今のは……

 なぜすぐに血が落ちたんだ!」


「ただの魔法だ」


「た、ただの魔法か……」



 何故か、何人かの護衛たちが慌てて水瓶の水を棄て、滴っているワイバーンの血を集め始めている。



 上空で旋回していた2頭のワイバーンは、一声鳴くと森の奥へと戻って行ったようだ。


(タマちゃん、ワイバーンが仲間を連れて戻って来るかもしれないから、念のため警戒しておいてくれないかな)


(うにゃ)



 ブリュンハルト男爵が護衛を連れて大地に近づいて来た。


「どなたかは存じませぬが、誠にありがとうございました……

 この隊商の主のガリオルン・ブリュンハルト男爵と申します。

 心より御礼申し上げます……」


(ほほー、男爵ともあろう者が、得体の知れない俺に向かって頭下げてるよ。

 やっぱり大した奴だな)


「どうかお顔をお上げください。

 わたしはダイチ・ホクトと申します」


「やはり家名をお持ちでしたか。

 それでダイチ・ホクト殿はどちらのお国の貴族であらせられますかな」


「ガリオルン・ブリュンハルト男爵閣下。

 わたしは『ダンジョン村』という名の村の代表というだけで、貴族ではありません」



(貴族なんかとまともに喋ったこと無いから困惑するね)


(ダイチはこの人たちの命の恩人にゃから、多少の失礼があっても大目に見てくれるにゃよ♪)


(まあ、無礼者とか言って怒り始めたら、転移で消えればいいか)


(にゃ♪)



「ダイチ・ホクト殿のおかげで本当に助かりました」


「いや、ご覧の通りの若輩者ですので、どうかダイチとでもお呼びください」


 ブリュンハルト男爵が微笑んだ。


「それではダイチ殿。

 まずはワイバーンの急襲を事前に教えてくださったこと。

 あれが無ければ我々は何人も死んでいたことでしょう。

 本当にありがとうございました。


 加えて我が第1分隊長を救うために、御身の危険を省みずにワイバーンを追い、見事に無事取り戻して下さいました。

 なんとお礼を申し上げていいものやら。

 しかも、この巨大なワイバーンすら一撃で屠られるとは……」


(ふーん、護衛たちは奴隷じゃないんだな。

 けっこう大事にしてるんだ……)



「いえ、ジョシュア分隊長殿は、私を監視するために遮蔽物のすぐ後ろにはいられなかったのです。

 ですから……」



 男爵の笑みがさらに広がった。


(この男は信義というものも知っているようだの……)





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