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81/410

*** 81 MMA部の文化祭準備 *** 

 


 1週間後、伴堂ジムの屋外鍛錬場を囲むスタンドには、陸上自衛隊青嵐駐屯地の司令官である遠藤陸将補と、CQC訓練教官長である米田曹長を伴った嵐児の姿が見られた。

 遠藤陸将補はあまり格闘技には興味が無かったようだが、いくらなんでも防衛大臣の誘いを断るわけにはいかなかったらしい。


 だが米田曹長は、本職だけあって喰い入るように高校生の訓練を見ていた。


(高校生たちはともかく、あの師範代の少年はただ者ではないな……

 強者のオーラが立ち上っているのが見えるようだわい……)


 そんな2人も、米軍兵士たちのCQC訓練が始まると度肝を抜かれた。


(な、なんだと! 1対10の格闘訓練だと!

 そ、そんな馬鹿な!


 うおおおおおっ!

 な、なんだあの動きはっ!

 この俺が目で追えないパンチだと!

 しかもジャブにはフリッカーがこれでもかと入っているし、ストレートはスクリューも十分だ。

 キックなどは途中で軌道を変えてガードの隙間を狙っているではないか!

 こ、この少年はいったい……)



 ナイフ格闘戦が始まった。


(あ、あれはSEALsが訓練で採用している模擬戦用ナイフ……

 こんな場所に持ち出し許可が出ているというのか……)



「米海軍横須賀基地の司令官とCQC訓練の指揮官も、ここでの鍛錬を見学したそうでね。

 交通費も滞在費もジムの会費も大幅に予算を取って兵士たちを通わせているそうなんだ。

 我が自衛隊でも検討してみたらどうだろう」


「はあ、一応隊の内規で、基地の外での対外試合は禁止されているのですよ。

 怪我をした場合の公傷扱いや、相手に怪我をさせたときの補償問題とかいろいろありますので……」


「そうか。それじゃあ今度、僕が市ヶ谷に行って相談してみるよ」


「はぁ……」





 その日、米軍兵士との戦闘訓練終了後。


『すいませんゲオルギー軍曹。

 今ちょっとよろしいですか?』


『なんだいダイチ』


 大地は民間人であるため、兵士たちは訓練終了後には大地をファーストネームで呼ぶ。


『申し訳ないんですけど、来月の〇日は、訓練をお休みさせてください』


『そりゃもちろん構わないよ。

 ダイチだって少しは休暇を取った方がいいだろう。

 どこかに旅行にでも行くのかい?』


『いえ、その日はハイスクール・フェスティバルがありまして』


『ほう、ダイチも何かの出し物に参加するのか?』


『ええ、ウチのMMA部の連中と模擬戦をするんですよ。

 とてもじゃないですけど皆さんのようにはいきませんが、それでもやってみたいそうなんで』


『はは、わかった。

 それじゃあそれまでに俺たちが彼らを訓練してやろうじゃないか』


『い、いいんですか?』


『まあダイチにはいつもやられてるけどな。

 俺たちはそもそも、海軍特殊部隊(SEALs)の近接戦闘訓練教官なんだぞ。

 新兵教育ならお手のもんだ』


『あ、ありがとうございます』


『いや、みんなとも言ってたんだよ。

 俺たちでなにかダイチにお礼が出来ないもんかってな。

 ちょうどいいわ』


『それじゃあお願いしてもいいでしょうか……』


『おう、任せとけ』


『それからさらに厚かましいお願いで恐縮なんですが、あの模擬戦用のナイフって買うことは出来ますか。

 もし出来れば10本ほど買いたいんですけど』


『それも任せておけ。

 そうだな。

 ナイフ以外でも、新兵訓練用のガードセットも12人分持ってくるわ。

 それから、ニシジマ軍曹っていう日系3世で日本語も喋れる奴を教官にしよう』


『なにからなにまですみません』


『はは、気にするな。

 ダイチになにかお礼がしたいっていうのは、なにしろ俺っちの司令官殿も言ってることだからな。

 少将閣下も喜ぶぜ』


『ありがとうございます……』




 数日後。


「俺はニシジマ軍曹だ。

 今日から毎日、諸君らのスクール・フェスティバルの日まで、多対1戦闘訓練を指導することになった。

 よろしく」


「「「 押忍オス! よろしくお願いします! 」」」


「まずはこの訓練用防具を着けてくれ。

 これは俺たち米海軍の近接格闘(CQC)訓練で、新兵に装着させているものだ。

 ケブラーベストとソフトヘルメットのセットになる。

 柔らかそうに見えてもケブラー製だから.22口径の銃弾を受けても死なずに済むぞ」


「「「 す、すげぇ…… 」」」


「それから、このベストには5か所にパッドが付いているだろう。

 これはそれぞれ、心臓と水月とレバーとキドニーを覆っている。

 急所を保護すると同時に、攻撃されると色も変わるし音も出るようになっているんだ。

 試しに軽く叩いてみよう」


 ぱん! 「プ」


 叩かれたパッドが薄いピンク色になった。


「このように軽く叩かれるとパッドがピンク色になって小さな音が出る。

 それではもう少し強く叩いてみよう」


 ばん! 「プァー!」


 パッドは赤くなっている。


「或る程度ダメージが入ったと判定されると、こうした音が出るんだ。

 それじゃあ強く叩くぞ」


 どん! 「アウト!」


 パッドが濃い赤になった。


「これは行動不能になるほどのダメージが入ったという判定だな。

 まあ、いくらケブラーベストの上からでも、この判定が出た時は実際に体にもある程度のダメージは入っているが。


 それからこちらはソフトメットだ。

 ソフトとは言ってもケブラー製だから頭部のダメージはかなり減衰される。

 鼻骨も保護されているし、後部もかなり下に伸びてるだろ。

 ここには強化プラスチックの板が鱗みたいに入ってるから、たとえ首の後ろに蹴りが入っても大丈夫だ」


「すげぇ」


「これがあったらケガしないで済むかもな……」


「はは、まあやはり多少のダメージは入るがな。

 そして、このメットには全面に同じパッドが入ってるんだ。

 頭部への打撃は、ほとんどどこに受けても行動不能になるからな。

 さあ、まずはみんなも装着してみろ」




「みんな防具の具合はどうだ?

 その場で動いて緩まないか試すといい。

 その後は10分間のランニングだ。

 走るとすぐに防具を着けていることも忘れるぞ」




「よし、それじゃあレギュラー10名と補欠2名の諸君。

 まずは俺との1対1訓練からだ。

 順番にかかって来い」


「あ、あの……

 軍曹さんは防具を着けないんですか?」


「わははは、俺はこれでも海軍特殊部隊(SEALs)のCQC教官だぞ。

 海軍で鍛えられた連中のうち、志願して特殊部隊に入隊してきた奴らをさらに鍛えるための教官なんだ。

 言っちゃあ悪いが、君たち程度の攻撃はかすりもしないよ。


 だが、その俺たち教官クラスが10人束になってもあのダイチ教官殿にはかすりもしないんだ。

 あの方の強さは超人のさらに上だな。

 MMAの世界大会に出れば、すぐに3階級ぐらいは制覇しちまうだろう」


「「「「 ………… 」」」」


「それじゃあ訓練を始めよう」



 それからしばらくの間、辺りには『アウト!』という音声が聞こえまくっていたという……




『ゲオルギー軍曹さん、ニシジマ教官はさすがに教え方が上手ですね』


『いやまあ、俺たちは格闘を教えるプロだからなあ』


『すみません、俺は教え方がヘタで』


『いや……

 俺たちは、格闘のやり方を教えてもらう必要は無かったんだ。

 ただ、俺たちより遥かに強い相手との実戦訓練が必要だっただけなんだよ。

 ダイチ師範代はその機会を充分に与えてくれているんだ。

 本当に感謝しているよ』


『はあ…… そんなもんですか……』




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 アルスに戻った大地は、タマちゃんとダンジョン村を視察していた。


「ねえタマちゃん、ここも随分と賑やかになったね」


「うにゃ、特に食堂の充実ぶりが凄いにゃ♪」


「あ、ラーメン屋がある……

 スパゲティの店もお好み焼き屋も……」


「みんにゃ好きなものを食べられるようになったんにゃね」


「あ、ラッピー族長、お好み焼きを5枚も受け取ってる……

 なんかすっげぇ嬉しそう……」



 大地たちの前には、穀物粥の店で粥と生の穀物を受け取っているジャンガリアンハムスター族の親子連れがいた。


「お母ちゃん、お粥の方が美味しいのに……」


「この生の穀物、味が付いてないからあんまりおいちくないの……」


「まあまあ、森の村にいたときはこんな生の穀物だって、あんまり食べられなかったのに。

 それにあなたたちはまだ子供だから歯が伸びるのが早いでしょ。

 固いものも食べないと、歯が伸びすぎて口を閉じられなくなっちゃうわよ」


「えー」


「それいやー」


「だったらお粥の中に穀物を入れて食べましょうか。

 よく噛んで食べるのよ」


「「 はぁ~い♪ 」」




 公園にはハムスター向けの回し車を巨大にしたものが設置されていた。


(淳さん、こんなものまで作っていたのか……)


 その回し車を取り囲んで、30センチぐらいの鼠人族ワーハムスターの子供たちが大勢いる。


 40センチほどの少年が前に出た。

 小学校低学年ぐらいだろうか。


「いいかーみんな、今からお手本を見せるからなー。

 よーく見てるんだぞー」


「「「「 はぁーい♪ 」」」」



 少年は回し車の中に入って4つ足で走り始めた。

 足が見えないほどの素晴らしいスピードで走っている。


「よーし! 行くぞーっ!」


 少年が急停止した。

 回し車はそのまま慣性で回り続けている。

 必然的に少年は回し車と一緒に後方に向けて回転し始めた。


「「「 わー♪ 」」」

「「「 すっげぇ! 」」」


 3回転ほどした後、少年はまた走り始めた。

 少しずつ走るスピードを緩めて完全に停止する。


「はぁはぁ、どうだい俺の後方3回転。

 回転が足りないと頭や背中から下に落ちて痛いからな。

 まずは早く回す練習からだぞ」


「「「 はぁーい♪ 」」」




「あの…… た、タマちゃん、また少し爪が伸びて来て痛いんですけど……」


「うにゃにゃにゃにゃーっ!」





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