*** 75 馬鹿DQN撃退 ***
大地が孤児たちを料理自慢亭に連れて行こうとしたとき、土手の上から声が聞こえて来た。
「おお、いやがったな下層民ども。
今日はお前たちのせいで街が臭くてたまらなかったのだ。
この俺様が直々に罰を与えてやろうではないか」
見れば小奇麗な服を着た14歳ほどの小柄なガキが、大男2人を引き連れてニタニタしていた。
「なあピピとミミ、なんだあの馬鹿は?」
「あ、ああ、領主の息子なんだ。
13歳になって領主館の外に出られるようになってからは、毎日ああしてお供を引き連れて街を歩くようになったんだよ」
「それで街の連中に、目が合ったとか前を横切ったとか難癖付けて、お供に殴らせるんだ。
それで、街中の奴らがあいつらを見ただけで隠れるようになったんで、こうしてあたいらのところまで来るようになっちまったんだよ」
「それでも体の大きな兄貴たちが居るときにはあんまり来なかったんだけど……」
「そうかわかった。俺に任せておけ」
「で、でも、確かに兄さんは強いけどさ。
あいつらを殴ったりしたら、領主の兵隊たちが……」
「ははは、お前たちはこれから俺たちの村に行くんだからな。
なんの問題も無いぞ」
「そ、そういえばそうだったな……」
「こら! 下層民ども!
何をぐちゃぐちゃと喋っておる!
早くこの領主嫡男であるゲスラー様に跪け!」
やはりニタニタ笑いながらDQNガキが土手を降りて来た。
(お供の大男たちのE階梯は、マイナス5.0とマイナス5.5か……
うわっ、このガキはマイナス15.2だって!
今までの断トツ最低記録だ!
しかも14歳で既に殺人教唆5人だと……
そうか、街を出歩くようになって1年で既に5人も殺させていたのか)
大地は領主嫡男を睨みつけた。
「おい、そこのチビガキ」
「なっ……」
「いくら自分が小さいことに劣等感を持っていてもだ。
そんなウスラデカい子分を引き連れていると、余計にチビに見えるぞ」
「な、なななな……」
「ったく、やっぱ弱い奴ほど自分より弱い立場の者を脅して満足しようとするんだなー。
でもそんな子分を連れて歩いてるうちは、お前はいつまで経ってもひ弱なままだぞ」
「こ、殺せっ!
い、今すぐこやつを殺せぃっ!」
「「 へい坊ちゃん! 」」
大男たちが棍棒と木剣を構えながら近づいて来た。
暴力を振るえる喜びに2人ともニタニタ笑いが大きくなっている。
ひとりは涎まで垂らしていた。
(痛覚5倍…… 縮地……)
ずど。
「ぐぎゃぁぁぁぁ―――っ!」
ずぎゃ。
「あぎゃぁぁぁぁ――――っ!」
(念動…… 2人を吊るして立たせたまま……)
ビチュンビチュンズギャズギャドゴンドゴン……
ビチュンビチュンズギャズギャドゴンドゴン……
ビチュンビチュンズギャズギャドゴンドゴン……
ビチュンビチュンズギャズギャドゴンドゴン……
「「 が、がががががが…… 」」
男たちはあまりの苦痛に意識を失うことも出来ずにいた。
全身の骨折は2人合わせて既に20個所を超えている。
「あぅ…… あぅ…… あぅ…… あぅ……」
DQNガキはその場で座りションベンをしていた。
(そうか、このガキは甘やかされて育ったから、苦痛や恐怖を味わったことが無かったんだな。
それじゃあこの街に『幻覚の魔道具』を設置してもあまり効果が無いかもしれないから、ここらでひとつ本物の恐怖体験を味わって貰おうか……)
大地はDQNガキに近づき、氷の表情で見つめた。
「く、来るなっ!
お、俺様は領主一族だぞっ!」
「お前は子分に俺を殺せと命じたよな。
だから俺に殺されても文句を言えないんだぞ……」
「ひぃぃぃっ!」
(『ロックオン』、『威圧Lv5』……)
「あ……」
ぶりぶりぶりぶり……
ガキの目玉が裏返った。
小便だけでなく、大便も噴出して来ている。
(『サンダーLv0.5』……)
「あひっ!」
「お前は気絶することすら許してはやらん……」
(『威圧Lv8』……)
「ぎ、ぎひぃぃぃぃぃぃ……」
(『威圧Lv10』……)
「うぎょ……」
とうとうDQNガキの全身が痙攣を始めた。
両手両足を縮めて丸くなっている。
(幼児退行どころか胎児退行したか……)
大地は大男たちの念動を解いた。
2人は地面に落ちたが、そのままピクリとも動かない。
(あ、HPが残り僅かになってる……
このままだと数分でショック死するか。
仕方ない、『治癒系光魔法Lv1』……
ついでに『スリープ(24時間)』)
大地は子供たちを振り返った。
全員がその場でフリーズしている。
「みんな、待たせて済まんな。
クズは退治したから、飯を喰いに行こうか。
シスくん、転移の輪を」
(はい)
「さあ、みんなであの輪を潜ってくれ」
「み、みんな、行くよ」
「「「 は、はいっ! 」」」
「すげぇ、輪っか潜ったら、もう料理自慢亭だ……」
「あっ! マルカ姉ちゃんだ!」
「「「 わぁーい♪ 」」」
はは、マルカが子供たちに集られてるよ。
「シスくん、さっきの『味自慢亭』のシチューとパンと、食器を10人前出してくれ。
それからビタミン補給用にフルーツジュースもだ」
(畏まりました)
「うわっ! なんか出て来た!」
「あっ、シチューだ!」
「パンもある!」
「旨そうだなぁ……」
「村に行く前に、ここで少し食事をしていこう。
でもあんまりいっぺんにたくさん食べないようにな。
3日近くもなにも食べていないときに食べ過ぎると腹が痛くなるぞ。
今は少しだけにしておけ。
その代り、寝る前にまた食べさせてやるから」
「「「 わかった! 」」」
「さあ喰っていいぞ。
ミミとピピは子供たちが食べ過ぎないように気をつけてやってくれ」
「「 あ、ああ…… 」」
子供たちは夢中で食べ始めた。
「そんなに急いで食べなくても大丈夫だぞ。
それから、そのジュースも飲んでみろ」
「じゅーすってなんだ?」
「綺麗な色だな……」
「な、なんだこれ……」
「う、旨い! 旨いよこれ!」
「はは、それは果物の汁を絞ったものだ。
体にもいいんだぞ。
そうだ、ムッシュさんとマルカも飲んでみるかい?」
「こ、これは果物を絞ったものなのか……
そんな高価なもの……」
「はは、まるでお貴族様みたいだね♪」
急いで食べたせいか、子供たちはすぐにお腹がいっぱいになったようだ。
「シスくん、さっき見つけた孤児の兄貴分たちは何をしている?」
「現在領主館の北側の森で薪拾いをしております」
「それじゃあ2人をここに転移させてくれるか」
「畏まりました」
その場に薪を抱えた少年が2人現れた。
急に景色が変わったので相当に驚いている。
「アレク兄貴!」「ミルト兄貴も!」
「あ、ミミとピピじゃないか……」
「みんなも……」
「ミミとピピ、兄貴分たちに状況を説明しておいてくれるか」
「「 わかった! 」」
「族長たち、俺はちょっと出かけて来るから、もう少し護衛を頼む」
「「「 御意っ! 」」」
「さてシスくん、汚穢処理担当の町役人のいる場所はわかるかな」
(詰所の位置は既に特定しております。
現在は2人おりますね)
「そうか。ナビを頼む」
(はい)
大地は、自身と頭の上のタマちゃんに隠蔽をかけ、シスくんの案内で街を歩いていた。
(ところでシスくん。ダンジョン内のトイレで出た汚穢って、『クリーンの魔道具』で処理してるんだよな)
(はい)
(それってさ、汚穢そのものはどこに行ってるんだ?)
(廃棄物投棄用の3.15次元空間のダンジョン部屋に溜めております。
最近飛躍的に住民が増えましたので、そのうちにどこか離れた森の中に大きな穴でも掘って埋めてしまおうかと)
(なるほどな)
(あ、ダイチさま、そちらの建物でございます)
(それじゃあまずは『聴覚強化』で中の様子を聞いてみるか)
『おい、そろそろ酒場が開く時間だぞ』
『おお、もうそんな時間か』
『それにしても、今日は儲かったな』
『はは、孤児団のあの大きなガキが兵隊に取られちまったからな。
メスガキどもは薪拾いに行ったそうだし、チビガキどもしかいなかったからなぁ』
『おかげで孤児たちに払う給金が丸々俺たちの懐に入ったわけだ』
『この分なら毎日エールが飲めそうだよな』
『はは、徴兵サマサマだぜ!』
(クズどもめ……)
大地はその建物に『遮音』の魔法をかけると、中に入って行った。
「おい悪党ども。
お前ら、働いた孤児から給金を巻き上げるたぁ、なんちゅう人でなしだ」
「な、なんだお前ぇは!」
「孤児たちに代わってお前らをぶん殴りに来た者だ」
「なんだとこら!」
「へへ、2対1だぜ。
俺たちには、この槍もあるしな。
俺たちに勝てるとでも思ってやがるのか?」
「もちろんだ」
(『エアバレット』……)
ドボッ!
「ぐわぁぁっ!」
「ど、どうしたよおい……」
ドカッ!
「ぎゃぁぁっ!」
ドカドカドカドカドカドカドカドカ……
「「 ぐぎゃぁぁぁぁぁ―――っ! 」」
大地はボコボコにされて気絶した男たちを見下ろして立っていた。
「シス」
(はっ)
「この街にトイレはいくつある」
(共同トイレに加えて、領主館と各ギルドと宿屋や家屋などの分を含めまして、60か所ほどです)
「今後3か月間、ダンジョン村から出る汚穢は、ダンジョン内の汚物層ではなく、全てこの街のトイレの汚物層に送ってやれ。
街の奴らに孤児たちの汲み取り仕事の有難味を教えてやろう」
(はい)
「それからこいつらは、共同トイレの汚物層の中に念動魔法で丸1日吊るしておくぞ。
汚物で窒息死しないように、顔だけは外に出るようにしてな。
助けを呼べないように遮音の魔法もかけよう。
1日経ったら、クリーンの魔法で綺麗にしてからダンジョン村刑務所に収監する。
罪状は傷害罪と傷害未遂罪だ。刑期はまあ3年でいいだろう」
(畏まりました)
大地は料理自慢亭に転移した。
「それじゃあ族長たち、このひとたちを連れてダンジョン村に行ってくれ。
あちらで良子さんに引き渡して面倒を見てもらうことになっている」
「「「 御意 」」」
「あ、あの……
兄さんは一緒に来ないのかい?」
「俺はもう少し仕事があるんでな。
そうそう、夜になったら2つの村の孤児たちをお前たちのところに送るから、よく説明して面倒を見てやってくれないか」
「あ、ああ、わかったよ」
「あたいたちに任せてくれ」
さてと、俺は部屋でしばらく休むとするかね。
傭兵ギルドや商業ギルドの連中が襲って来るとしても、夜遅くだろうし……
今地球に帰っても土曜日の朝だから、ジムに行くまで時間はたっぷりあるし。
しばらくして……
「にゃあダイチ、お腹減ったにゃ……」
「ああ、俺もお腹減ったよ。
しまったなあ、さっき子供たちと一緒に食べておけばよかったよ」
「仕方ないにゃあ。
ストレーくん、ネコ缶とカップラーメンを出してくれないかにゃ。
あと、ヤカンと熱の魔道具も」
(はい)
「ダイチはカップラーメンと弁当でいいかにゃ?」
「うん。
ところでタマちゃん」
「にゃ?」
「ちょっと気になってることがあるんだ」
「なんにゃ?」
「日本ではツナが入ってる缶詰を『ツナ缶』って言うだろ。
あと、サバが入ってる缶詰は『サバ缶』だし」
「そうだにゃ」
「だから『ネコ缶』って言うと……」
「にゃにゃ?」
タマちゃんは、一瞬小首を傾げて考えていたが……
ぼんっ!
タマちゃんの全身の毛が瞬時に膨らんだ。
スリムなタマちゃんが毛で出来た毬のようになっている。
しっぽも5倍ぐらいに膨らんで、タヌキかアライグマのようだ。
「う゛にゃぁぁぁぁぁぁぁ――――っ!」
「ご、ごめんごめん、へんなこと言って……」
「も、もうそんな忌まわしい缶詰は食べられにゃいにゃ!
これからはお刺身盛り合わせと最高級ササミ肉しか食べにゃいにゃよ!!」
「はい…… 畏まりました……」
(ま、まあ、今あるネコ缶は、ダンジョン村の獅子人族と豹人族と虎人族の子供たちにプレゼントするか……)