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*** 74 孤児団の子供たち *** 

 


 商業ギルドで大地を迎えたのは、予想通りニタニタと嫌らしく笑う連中だった。


「よう、商品の査定は終わったかい?」


「何の話だそりゃあ」


「なんのって、さっき預けた商品の査定だよ。

 ほら、これが預かり証だ」


「知らねぇなぁ。

 うちにゃあダマスなんて名前の野郎はいないぜ」


「お前ぇ、誰かに騙されたんじゃねぇかぁ」


「あはははは、まあ騙された方がマヌケだと思って諦めな」


 大地は全員を見渡してにっこりと微笑んだ。


「はは、これで俺も大儲けか。ありがとよ」



 すぐに建物から出て行った大地を見てギルド員たちは首を傾げた。


「親っさん、ありゃあどういう意味だったんですかね?」


「マヌケの言うことをいちいち真に受けてんじゃねぇ!

 それよりも今晩の襲撃は手ぇ抜くなよ!」


「「「 へいっ! 」」」




(ダイチさま)


(ああシスか)


(衛兵の交代時刻となり、門のところに行った衛兵が吊るされた同僚たちを発見致しました。

 現在、休暇中の全衛兵に集合がかけられております。

 間もなく街中の捜索が始まる模様です)


(そうか、善良な市民さんに迷惑がかかってもなんだから、俺の方から出向いてやるか……)



 門の前では足場が組まれ、宙に浮いている衛兵たちを下に降ろそうとする作業が始まっていた。


「なあ衛兵さん、どうしたんだい?」


「うるせえガキ! 寄って来るんじゃねぇっ!」


「あははは、あの宙に浮いてる奴らって衛兵だろ。

 なんで裸であんなところにいるんだろうなぁ」


「なんだとガキ…… 

 とっとと帰らねぇとぶちのめすぞ!」



 そのとき宙に浮いた衛兵が弱々しく叫んだ。


「た、隊長殿…… そ、そいつです……」


「あ? なんだって?」


「そ、そのガキが俺たちの腕を切り落として武器や服を奪いました……」


「なんだと……」


「あはははは。

 俺の顔を覚えている程度の頭はあったのか♪」


「み、皆の者っ! こやつを捕らえろっ!」


「「「「 は、はっ! 」」」」



「おーおー、みんなで寄ってたかって……

 でも捕まらないよん♪

 おーい、こっちだぞぉ♪」


「ええい!

 衛兵隊をコケにした罪だ! 殺せっ!」


「なあ、隊長さん。

 殺そうとして他人に武器を向けた奴は、逆に痛めつけられても文句は言えねぇって知ってるかい?」


「な、なんだと……」


 ひゅんひゅんひゅんひゅん……


「「「「 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ―――っ! 」」」」



 すぐにその場に吊るされた片腕無し裸衛兵の数は25人になったそうだ……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 大地が『料理自慢亭』に帰ると、ちょうどダンジョン村を見学に行っていたみんなが帰って来たところだった。


「お疲れさん。

 ダンジョン村はどうだったかな」


「ああ…… 驚いたよ」


「あんなにたくさんのひとたちが、あんなにたくさんのメシを喰っているなんて……」


「な、なぁ……

 ほんとにあたいたちもあの村に行っていいのかい?」


「もちろんだ」


「これでもうチビたちも腹を減らすことは無くなるんだな……」


「あ、あたいたち、一生懸命働くよ!

 薪拾いでも、汚穢の汲み取りでも!」


「いや、お前たちはチビたちと一緒に学校に行ってもらいたい」


「学校?」


「そうだ。午前中は学校で字や計算を勉強するんだ。

 昼メシを喰ったら、運動で体を動かしたり本を読んだりするんだぞ」


「そ、その学校って……

 王都にあるっていう貴族学校みたいなもんなのか?」


「そ、それにあたいたちが字を書いたりするなんて……」


「まあ貴族学校とは少し違うかもしれないけどな。

 それでも字を読んだり書けるようになって欲しいんだ」


「し、仕事は?」


「うちの村では、日に1時間ほど畑で『お手伝い』をする以外には、15歳未満の子供たちに仕事はさせないんだ」


「そ、そんな……

 そんなんで村は大丈夫なのか?」


「ははは、その分大人になったら少しは働いてもらうがな。

 だが、絶対に1日8時間以上は働かせないし、5日働いたら必ず2日は休んでもらうぞ。

 その代わり、もちろん食事は食べ放題だ」


「そ、そんな…… そんな天国みたいな村があるなんて……」



「ところで店長さん、村はどうだったかな」


「食堂の建物を見せてもらったんだが……

 その大きさと倉庫の食料の多さに驚いたよ……

 あれなら毎日100人の客が来ても余裕だろう」


「俺たちは最低でも1日2食を提供するからな。

 だから、食堂1つ当たり日に1000人の客が来ることを想定しているんだ」


「せ、1000人……」


「さらにそんな食堂を最低でも100個所、そのうちに500個所ほど作ろうと思っている。

 だから、店長さんには1000人の料理長を育てて貰いたいんだ」


「………………」


「だが無理はしなくていいぞ。

 食堂の営業時間は朝4時間と、夕方4時間だ。

 また、働くのは必ず日に8時間までにしてもらいたい」


「あ、あの、『はちじかん』というのは……」


「1日は24時間なんだ。

 だから8時間というのは1日の3分の1だ」


「たったそれだけか……」


「それだけじゃないぞ。

 5日働いたら必ず2日休んでくれ。

 もちろんマルカもだ」


「そ、それじゃあ毎日食堂は開けないんじゃ……」


「だから食堂1つにつき、料理長は最低でも2人、出来れば3人育てて欲しい。

 俺たちの村では食堂は最も大事な施設のひとつだからな。

 もし客が大勢来て営業時間を延長することになったとしても、料理長や従業員は交代で休んでもらいたい」


「………………………」


「そうだな、最初は大きな料理工場を作って、そこで料理人を養成しながら大量に料理を作ろうか。

 俺たちの村には『転移の輪』がたくさんあるから、出来た料理はそれを潜って食堂に運べばいいだろう」


「そ、それで、1人前いくらで売るんだね?」


「ぜんぶ無料だ」


「無料!」


「俺たちの村には通貨は無いんだよ。

 どうしても必要になったら作るけど、当面はカネのやりとりはしないんだ。

 だから喰いたい奴はいくらでも喰っていいんだよ」


「兄さん、それ本当かい!」


「ああ本当だ」


「そ、それじゃああたいたちも日に1時間だけでも思いっきり働かないとな」


「ああ、汚穢の汲み取りだって薪拾いだって何だってするぜ!」


「いや、さっき言ったようにお前たちには学校に行ってまず字を覚えるという仕事がある」


「そ、それじゃあ汲み取りは誰がするのさ」


「俺たちの村では、便所で出た汚穢はすべて魔法で処理されている。

 誰も汲み取りはしていないんだ。

 それから薪も十分にあるぞ。

 もし積み上げたらこの街が埋まるほどだ」


「そ、そんなに……」


「それでも学校を卒業したら、何か仕事はしてもらうけどな。

 村の様子を見て自分がどんな仕事をしたいのか考えてくれ」


「兄さんがこの仕事をしろって命令してくれるんじゃないのかい?」


「俺の村では誰かが誰かに命令することは固く禁じている。

 それに俺だって、頼むことはあっても命令はしないんだ」


「すごい村だな……」


「本当に天国みたいなところだよ……」



「それじゃあ店長さん」


「ムッシュだ。ムッシュと呼んでくれ」


「それじゃあムッシュさん。

 俺はこれからミミとピピと一緒に孤児団のところに行ってくる。

 ムッシュさんは村に引越しする準備を進めておいてくれ。

 もしまたならず者が来たら、ここで声に出せば俺に伝わるようになっているからな」


「わ、わかった」


「ダイチさま、我らが護衛をしております」


「そうか、まあお前たちなら無敵だから安心だわ。

 ありがとうな」


 族長たちが嬉しそうに微笑んだ。


「それじゃあ族長たち、よろしくたのむ。

 マルカも準備しておいてくれ」


「うん。でも荷物なんかほとんど無いからすぐ終わるよ。

 だからムッシュさんを手伝ってる」


「そうか。

 シスくん、後しばらくしたら孤児たちを連れて行くから、良子さんに連絡して待機して貰っていてくれ。

 あと、淳さんに言って受け入れ準備も。

 そうだな、最終的に20人ほどの受け入れになると思う」


「はい」


「そうだムッシュさん、この街の近くに村が2つあるそうなんだが、どの辺りかわかるかな」


「ああ、街の北側と南側にあるんだ。

 街門を出て左に少し歩くと十字路があるから、それを右に行くとアルバの村で、左に行くとエルバの村だ。

 どっちも歩いて半刻ぐらいのところにある」


「そうか。

 シスくん、道をダンジョン化して辿って、村を特定しておいてくれ。

 それから村もダンジョン化して観察し、孤児奴隷らしき子供たちを見つけておいてくれるか」


(畏まりました)


「それじゃあミミとピピ、孤児団のところへ行こうか。

 案内を頼む」


「「 うん! 」」





「さあ、ここがあたいら孤児団の住処すみかだよ」



(なんだこれは……

 河原の隅に石と粘土で作った小屋か。

 いや小屋って言うよりは、単なる巣穴だな……

 これじゃあ冬は寒いよなあ……


 あ……

 よく見れば土手の中腹には土饅頭と墓標らしき石がたくさんあるじゃねぇか……

 きっと大勢死んでいったんだろうな。

 それでも弔ってくれる仲間がいただけましだったか……)



「おーい、みんなぁ!」


「あ! ミミ姉ちゃんとピピ姉ちゃんだ!」


 小屋から8人の子供たちが飛び出して来た。

 ヒト族も入ればゴブリン族や狐人族、猫人族、猿人族もいる。

 3歳ぐらいから8歳ぐらいに見える子供たちだった。


(奴隷として攫われてきたのか……

 それとも攫われて来た奴隷の子孫か……)


「モンタ、汚穢の汲み取りはちゃんと出来たかい?」


「そ、それが……」


「も、モンタ! あんた顔が腫れてるじゃないか!」


「う、うん……」


「どうしたっていうんだ!」


 猿人族のモンタが涙目になった。


「ぐすっ……

 そ、それがさ、俺たち一生懸命働いたんだけど、汚穢を入れる土器が重くって、いっぺんにはたくさん運べなかったんだ……

 だから20ある共同トイレのうち、半分しか汲み取りが出来なかったんだよ」


「そうか……」


「そしたら町役人が、仕事が終わってないから給金は払えないって言ったんだ。

 だ、だからせめて半分の銅貨3枚だけくれって言ったら殴られちゃったんだよ……」


「ちくしょう! ガキばっかりだと思って舐めやがったな!」


「そ、それで、文句を言ったから給金は無しだって言われて……」


「よし! 今からあたいたちが文句を言いに行ってやる!」



「まあ待て。俺が行くが、その前に食事だ」


「そ、そうだな。

 もうみんな3日近くなにも食べてないもんな……」


「だが、食事の前にここでみんなの体を綺麗にしてやろう」


(汚穢運びなんかしていたせいで、こいつらけっこう匂うし……)



「か、川で体を洗うのかい?」


「でもこの川の水ってすごく冷たいんだよ……」


「いや、魔法で綺麗にしてやろう。

『クリーン』……

 それから『治癒系光魔法』……」


 その場の全員が光に包まれた。


「な、なんだこれ……」


「あ! ミミ姉ちゃんが真っ白になった!」


「ピピ姉ちゃんも灰色と黒だったのが白と黒になってる!」


「みんなだって、すっごく綺麗になってるぞ」


「あ! モンタ兄ちゃんの顔の怪我まで治ってる!」



「相変わらず兄さんはすごいな」


「ね、姉ちゃん、このひと誰?」


「ダンジョン村っていうところの村長さんなんだ。

 これからみんなをその村に連れて行ってくれて、飯もたくさん喰わせてくれるんだよ」


「ミミ姉ちゃんとピピ姉ちゃんは?」


「はは、もちろん一緒だぞ」


「「「 なら行く! 」」」



(やっぱり弱者ほどお互いを気遣うことが出来るんだな……)



「これからは毎日2回飯を食べられるようになるぞ」


「毎日!」「2回も!」



「それじゃあ料理自慢亭に行って食事をしようか」


「「「 わぁーい♪ 」」」





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