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*** 73 犯罪者だらけのギルド *** 

 


「ついでにこれも頼むわ」


 大地は丈夫な袋を取り出し、中から鞘付きの地球産ナイフを出してテーブルに置いた。

 ギルド長の目がギラギラと光っている。


「おいお前! 預かり証を書いてやれ!」


「は、はい……」



「これでいいか!」


「ふんふん、『預かり証、小麦、塩、砂糖それぞれ一袋。ナイフ1本確かに預かりました。ゴンゾ准男爵領商業ギルド、ダマス』か……

 預かり証は確かに貰った」


「念のためにお前が泊まってる宿の名を聞いておこう」


「『料理自慢亭』だ。

 それじゃあ2刻後にまた来るけど、いい査定を期待しているぜ」


「ああ……」



 ギルドから外に出た大地は、すぐに自分に『隠蔽』をかけて、建物の裏手に回った。

 同時に『聴覚強化』も施す。



『ギルド長…… これぁほんとに砂糖なんですかい?』


『ああ、間違いねぇ……』


『うひょー、あの同じ重さの金貨と取引されるってぇ砂糖ですか』


『これ全部でいくらになるんですかね?』


『辺境伯爵領都の大商会に持ち込めば、塩と砂糖だけで金貨8枚にはなるだろう』


『ひぇ~』


『だがこの鉄のナイフは金貨100枚だな』


『そ、それって……』


『合わせて商業ギルドの納税ノルマ10年分以上じゃないですかい!』


『そ、それをいくらで買ってやるっていうんですか?』


『ついでに袋の底に砂入れて、安く買い叩きやすか』


『いや…… おいダマス』


『は、はい』


『お前ぇは今から家に帰ぇれ。3日ほどは外に出るんじゃねぇ』


『はい……』


『いいかお前ら、お前らはあのガキに会ったことも無ければブツを預かったことも無ぇんだ。わかったな』


『へへ、知らぬ存ぜぬで全部頂いちまおうってぇことですかい』


『とんでもねぇ大儲けでやすな』


『ああそうだ。余所者に稼がせてやる必要は無いからな』


『ははは、それにしても馬鹿なガキだぜ。

 あんな預かり証1枚を信用しやがるとは』


『よし、このナイフは俺が預かっておく。

 残りの袋は裏の納税倉庫の奥に隠しておけ』


『へい!』


『親っさん、俺たちにも分け前を弾んでくださいや』


『この品を辺境伯領都に行って売っぱらったらな。

 それから手が空いた野郎共を集めておけ。

 今晩『料理自慢亭』を襲撃しろ』


『はは、まだお宝を持ってるかもしれねぇってことですかい』


『さすがは親っさんだ!』


『よーし、襲撃が上手くいけばボロ儲けだ。

 今後10年は納税ノルマに苦労しないで済むだろう。

 農業ギルドはどうやら不作でノルマは未達になりそうだし。

 はは、これであの偉そうなジジイを追い落として、この俺が次のギルド総長だな……』




(テミス)


(はい)


(これは明白な詐欺行為だよな)


(もちろんです)


(囮捜査にはならないか?)


(囮捜査の概念も地球でのみ使われているものです。

 主に司法当局の責任逃れと弁護士たちの収入を増やす目的ですね。

 神界の法では、囮だろうがなんだろうが犯罪は犯罪です)


(なるほど。

 それで賠償金はいくらになる?)


(通常は被害金額の3倍になります。

 彼らは納税ノルマ10年分と言っていましたから30年分になりますね)


(この裏手にある建物はどうやら納税用の倉庫らしいな。

 それじゃあ後で中身を全部頂くとするか)


(それでは全く足りないでしょう)


(それは責任者の准男爵から貰うから問題ない)


(畏まりました。

 ところであの連中の罪は詐欺未遂だけではありません。

 計画殺人未遂もありますし、戦場以外の殺人数も複数件ありますので、主犯のギルド長と従犯たちは終身刑がふさわしいかと)


(了解、後で刑務所に転移させよう)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ふーん、ここが傭兵ギルドか……


 大地が扉を開けて中に入ると、大勢の怒声が聞こえて来た。


「なんだと! フザケてんのか手前ぇ!」


「ウルフ討伐の報奨金が1匹銀貨1枚なのはまだいい。

 だが、討伐証明がウルフの体全部だと!」


「しかもそれを全部ギルドに差し出せだと!」


「あのなぁ、辺境伯領都のギルドだとな、討伐証明はウルフの耳2つなんだよ。

 それで銀貨1枚の報酬なんだ。

 それでその肉や皮を売ると、だいたい銀貨1枚と銅貨50枚になるんだぞ。

 だから1匹討伐すりゃあ、銀貨2枚と銅貨50枚が俺たちの収入になるんだ」


「それをこのギルドで売ればたったの銀貨1枚だと!」



 身なりの整った男が傭兵たちを小馬鹿にするように答えた。


「ふん、文句なら准男爵閣下に言え。

 閣下が決められたことだからな。

 だがそんなことを言えば、お前たちは衛兵に痛い目に遭わされるぞ」


「なーに言ってんだよ。

 衛兵共は裸にされて門の前に吊るされてるだろうに」


「誰がやったか知らねえが、惨めな姿だったよなぁ」


「な、なにっ!」


「伯爵領都ギルドの要請ではるばるこんな田舎町に来てみればよう、仲間は痛い目に遭わされるわ、弱小ギルドは生意気なこと言い出すわ、マジで碌でもねぇ街だ」


「おい、とっとと帰ぇって、ウルフは伯爵領都で売るぞ!」


「ま、待てっ!

 そ、そうだ、1頭銀貨1枚と銅貨50枚で買ってやる!」


「この野郎……

 安く買い叩いておいて自分の懐に入れようとしてたな……」


「こんな詐欺野郎は放っておいて行くぞ!」


「あ、その前にあのチンケな商店街に報復しないとな」


「もちろんだ。仲間を襲われて黙っていたら俺たちのメンツが丸つぶれだ」


「だが殺しはするなよ。殺すと後が面倒だからな」


「「「 へい! 」」」



(あ、そういえばさっきフクロにされてた大男がいるわ……

 そうか、こんなに大勢の仲間がいたんだ)



 伯爵領都から来た男たちがどやどやと出て行くと、脇にどいていた大地はカウンターに向かおうとした。



 その前に男が出て来て行く手を塞ぐ。


「ここはガキの来るところじゃねぇ」


「ほう、お前ぇみてぇなジジイしか来ちゃいけねぇところだったんかい。

 ってぇことはここは養老院かなんかか?」


「なんだとこの野郎……

 痛い目に遭いたくなかったら、通行料銀貨1枚置いていけ!

 さもないと……」


 大地は縮地で横に動き、そのまま男の後ろに移動した。

 周囲から見ればまるで男をすり抜けたように見えたことだろう。



「なあ、ここじゃあウルフ1匹銀貨1枚と銅貨50枚で買い取ってくれるのかい?」


「なんだお前ぇは……」



「こ、こここ、このガキがぁぁぁぁ―――っ!

 な、舐めやがってぇぇぇぇ―――っ!」


 先ほどすり抜けた男が大地に後ろから殴り掛かって来た。


(よいしょっと)


 ビタ―――――ン!


 大地は後ろも見ずにその場でしゃがみ、男の腕を取って一本背負いで床に叩きつけた。


「が、がはっ……」


 男は呼吸も出来ずにその場で痙攣している。



「いいこと教えてやるよジジイ。

 人に殴り掛かったら返り討ちに遭っても文句は言えないんだぜ」


 その場の全員が凍り付いていた。



「さあ、ウルフを買い取ってくれや」


「ふん、その背中の袋に入っているということは子ウルフか。

 せいぜい飢え死にした死体を拾って来たんだろう」


「いや、成体ばかりだ。

 それもけっこうデカい奴らだぞ」


「舐めるな小僧……

 そんなウルフをどこに持ってるっていうんだ」


「俺はアイテムボックスを持っているからな。

 その中に入れてあるんだ」


「な、なんだと……」


「それじゃあウルフの死体はどこに出せばいいんだ?」


「このカウンターの上に出せ!」


「ここじゃあ狭いなぁ。

 もっと広い倉庫の方がいいんじゃね?」


「うるせぇっ!

 つべこべ言わずに出しやがれっ!」


「あーあ、知―らないっと」



 カウンターの上方3メートルからウルフの死体がぼとぼとと落ち始めた。

 みるみる積み重なって、カウンターのすぐ後ろに立っていたギルド長らしき男を埋めていく。


「「「 な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ―――っ! 」」」



 すぐに高さ3メートルほどのウルフの山が出来上がった。

 ギルド長はその中に埋もれている。



「お、おい! 親っさんを助け出せっ!」


「「「 お、おうっ! 」」」



 傭兵たちがウルフの死体をどかし始めた。

 しばらくして、ウルフの血で真っ赤になったギルド長が現れる。


(あれ?

 血抜きしてたんだけど……

 ああそうか、他の死体に押し出されて血が出て来たんか……

 ストレーの中だと死体も新鮮なままだからな……)


「さてギルド長さんよ。

 ご命令通りに出したウルフの死体を買い取ってくれるんだよなぁ。

 ちょうど50頭分あるから銀貨75枚か」


「ま、待て!

 し、死体の状態もチェックしなければならん!

 2日待て!」


「そうかい……」


「わ、わかってくれたか」


「それならこのウルフは、伯爵領都の傭兵ギルドで売ることにするよ。

『収納』)


 全てのウルフが一瞬にして消えた。


「じゃあな。邪魔したな」


「待てっ!」


「なんだい? 銀貨75枚、きっちり払ってくれるのか?」


「そ、そのアイテムボックスにはどのぐらいの量の物資が入るのか教えろ!」


「お前なぁ、教えて欲しいんならもう少し口の利き方を考えたらどうだぁ?

 そんなこともわからねぇほどアフォ~なんか?

 じゃあな」


「く、くそっ!」



 さてと、また『聴力強化』と……



『おい! 誰かあいつの後をつけろ! 見つかるんじゃねぇぞ!』


『へい!』


『親っさん、後をつけてどうするんですかい?』


『お前らアイテムボックスがいくらするか知らねぇのか?』


『い、いえ……』


『ウルフ50頭を入れられるアイテムボックスは、伝説級のお宝で王城の宝物庫クラスだ。

 安くとも金貨300枚は固いだろうな』


『そ、そんなにするんですかい……

 それじゃあ……』


『そうだ、若いもんを集めておけ。

 今晩宿で寝ているところを襲撃してあやつを殺し、アイテムボックスを奪って来い!』


『『『 へいっ! 』』』


『襲撃が上手くいけば、今後は納税ノルマに苦労することは無くなるだろう。

 そうすりゃ俺は次期ギルド総長……

 いや、いっそアイテムボックスを子爵閣下に献上して准男爵になるか……

 ふははは、この俺が准男爵閣下か!』




(ったく…… どいつもこいつも欲に目が眩みやがって……

 少しは真っ当に稼ぐことを考えたらどうだよ……)



 大地はとりあえず尾行に気づかないふりをしながら歩いていた。


 大通りには、屋台や商店の残骸が散乱し、そこら中にうめき声を上げている連中が転がっている。


(はは、傭兵たちも存分に暴れたようだな……)



 大地は『味自慢亭』に戻り、部屋をクリーンで掃除してベッドに横になった。



(テミス)


(はい)


(あの傭兵ギルドのギルドマスターは有罪でいいんだな)


(はい。

 今は詐欺未遂ですが、今晩本当に襲撃が有れば殺人教唆になります。

 それに戦場外殺人も複数ありますので、やはり終身刑が妥当ですね)


(賠償金は?)


(この世界の基準ではアイテムボックスは金貨300枚相当になりますので、賠償金は3倍の金貨900枚になります)


(シス)


(はい)


(傭兵ギルドの監督責任者である准男爵の邸にはいくらぐらいの財産があるかわかるか?)


(はい、全て合わせておおよそ金貨50枚分ほどでございますね)


(仕方ない、それじゃあそれ全部で勘弁してやるか……

 おっと、そろそろ商業ギルドに行く時間だな……)





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