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*** 72 移住勧誘 *** 

 


 熱の魔道具の上に寸胴を置くと、しばらくしてシチューがぐつぐつと音を立て始めた。


(さて、それじゃあ調味料を加えるか。

 はは、頭の中に最適な量が出て来てるわ。

 さすがは『料理スキルLv8』だな……)


「な、なあ、その道具は……」


「ああ、『オタマ』っていう料理道具だ」


「こ、これも金属製……」


「さて、出来たかな。

 店長、味見してみてくれ」


「う、旨い…… まるで別物だ……」


「どうだい店長さん、こういった道具や調味料や食材は全部用意するから、ウチの村で料理を作ってくれないかな」



「マルカ姉ちゃんを連れて来たよっ!」


 ピピが15歳ぐらいに見える少女の手を引いて戻って来た。


(この子はヒト族だな……

 そうか、孤児団は種族を問わず仲がいいのか……)



「どうしたのさピピ、そんなに急がなくってもいいのに」


「な、なあ兄さん、さっきの話は本当かい?」


「本当だ。

 俺はある村で村長みたいなことをしている者なんだが、ここの店主にウチの村に来て料理を作ってくれないかって頼んでるところなんだ。

 それで、孤児団のみんなも来ないかって誘ってるところでもあるんだが、よかったら君も来ないか?」


「えっ……」


「なあマルカ姉ちゃん!

 この兄さん、あたいたちがウルフに襲われてるところを助けてくれたんだ!」


「それで50頭もやっつけたんだぜ!」


「すっごく強いし食べ物もいっぱい持ってるんだよ!」


「そ、そうなのかい?」


「あー、すぐに信じろっていうのも無理があるよな。

 それじゃあ俺たちの村の様子を見てみるか?」


「見るって…… いったいどうやって見るのさ……」


「シス、エフェクト無しの転移の輪を」


(畏まりました)



「ほら、この輪の向こうに見えるのが俺たちの村だ」



「な、なんだよこれ……」


「あっ! 犬人族がいるっ!」


「兎人族もだ!」


「そ、それ以外にもこんなにたくさんの種族が……」


「な、なんかすっげぇ怖そうな種族も……」


「はは、みんな優しいいいやつだぞ。

 それじゃあ何人か呼んでみようか」


 大地は転移の輪の向こう側に一歩踏み出した。


「お、ちょうどいいな。

 おーい、ラビー族長にウルフィー族長、それからラッピー族長にオークル族長、ちょっとこっちに来てくれないか。

 あ、通常形態でな」


 途端に4人が怒涛の勢いで走って来た。

 すぐに輪を潜って食堂に入り、大地の前で跪く。


「「「「 ダイチさま、お召しにより参上いたしましたっ!! 」」」」


「はは、そんなにおっかない顔しなくてもいいぞ。

 今ここにいる4人に、俺たちの村に来ないかって勧誘してるところなんだ。

 だから、ダンジョン村のことを教えてあげてくれないかな」


「「「「 ははあっ! 」」」」


「ダイチさまのご下命とあらばっ!」


「すべてにお答え申す!」


「なんなりとお聞き下されっ!」


「はははは、そんなに畏まらなくってもいいんだぞ」



 4人は完全にフリーズしていたが、ピピが恐る恐るウルフィー族長に話しかけた。


「な、なあ、あんたは狼人族なのかい?」


「まあ似たようなものだな。

 わしはダンジョン村にてフォレスト・ウルフ族を纏めている族長だ」


「そ、そんな偉い人が来てくれたのか……」



 ウルフィー族長が微笑んだ。


「こちらのダイチさまの命とあらば、我らは如何なる死地であろうとも突撃いたすぞ」


「こらこら、ここは死地じゃあないからな」


「ははっ!」


「な、なあ兄さん。あんたずいぶん偉いひとだったんだな……」


「ん? まあ偉くはないが、一応村の代表だからな」


「あ、あの…… ダイチさんとやら。

 その村には何人ぐらいの村人がいるのですかな……」


「そうだな、今はたぶん1万人ぐらいだろう」


「い、いちまん……」


「こ、この国より多いんじゃないか?」


「ってぇことは、兄さんは王様だったのか……」


「いや、俺は王ではない。ただの村の代表だ」


「それにしても、だからあんなに強かったのか……」



 ラッピー族長が微笑んだ。


「強いも何も…… 

 我ら戦士団が300人で挑んでも1分で全滅してしまうほどだの」


「そ、そこまで……」



「それじゃあみんな、この族長さんたちになんでも聞いてごらん」



 みんなが族長たちに話しかけ始めた。

 特にミミとピピは、小さい子供たちの生活もかかっているために熱心に聞いている。


 しばらくすると、彼女たちは族長たちに礼を言って、大地のところに戻って来た。



「な、なあダイチさま……」


「はは、『兄さん』のままでいいぞ」


「あ、ああ……

 そ、それでな。

 兄さんの村に行ったら、本当にチビ共も食べ物を貰えるのかい?」


「もちろんだ」


「じ、じゃあさ、チビ共だけでも兄さんの村に行かせてやってくれないかな……」


「あ、あたいたちはここに残るから……」


「理由を聞かせてくれるか?」


「あたいたちは河原に小屋を作って住んでるんだけどさ。

 兵隊に取られた兄貴たちが、もし生きてたらいつかは帰って来るはずなんだ」


「も、もし帰って来られたら、きっとあたいらの小屋に戻って来るはずだし」


「そ、それに帰って来る頃にはあたいらの胸ももう少し大きくなってるはずだからさ。

 無事帰って来てくれたら、触らせてあげるって約束してたんだ……」


(はは、そういうことか……)



「なあ、その兄貴たちって今どの辺にいるのかわかるか?」


「た、たぶん領主館の裏にある練兵場っていうところで訓練を受けてるんじゃないかな」


「シス」


(はい)


「こことその練兵場の上空を転移の輪で繋いでくれ」


(畏まりました)


「ここにその兄貴たちはいるか?」


「あっ! きっとこの隅で木剣振ってる2人がそうだよ!」


「シス、輪を近づけて」


(はい)


「間違いないね!」


(『ロックオン』、常時展開)


「そうか、それじゃあお前たちが村に来てくれるなら、この2人も必ず連れていってやろう」


「ほ、ほんとかい!」


「さ、さっすが兄さんだ!」



「な、なあダイチさま……」


「はは、店長さん、大地でいいぞ」


「そ、それならダイチさん……」


「なんだい?」


「わたしとこのマルカもあんたの村に連れて行ってくれるかな。

 こんな、客から盗んだり嫌がらせばっかりしてくる街はもう嫌なんだ……」


「歓迎するよ店長さん。マルカもこれからよろしくな」


「よ、よろしくおねがいします……」


「そうそう、村に行ったら食材も山ほどあるし、手伝ってくれる連中もいっぱいいるんだ。

 だけどほとんどみんな料理をしたことが無いんだよ。

 だから、従業員たちに手伝わせながら料理の仕方も教えてやってくれないかな」


「あ、ああ、わかった……」



(ダイチさま、銀貨1000枚が出来上がりました)


(おおシスくん。

 それじゃあ袋に入れてここに出してくれ)


(はい)



 どさっ。


「な、なんだねこの袋は……」


「この袋には銀貨が1000枚入っている。

 2人が村に来てくれる支度金だ」


「い、いくらなんでも……」


「食材や料理道具は向こうにあるし、家はもちろん家具もあるから買わなくていいけど、2人とも服は買っておいてくれ。

 あと必要なものはなんでも」


「そ、それにしても、こんなにたくさんは……」


「まだ俺の村には食堂以外には店を作っていないんだ。

 まあ、またこの街なり伯爵領都なりで買い物は出来るようにするから、そのときに使ってくれ」


「あ、ありがとう……」


「ミミとピピ。

 お前たちや孤児団の子たちの服も買ってやるからな」


「ほ、ほんとかい!」


「ありがとよ。この格好じゃあ冬は辛くってな。

 だからいつもみんなで固まって寝てるんだよ」


「それじゃあみんな、しばらく俺たちの村に行って見学して来たらどうだ?」


「い、いいのかい?」


「もちろん。

 族長たち、このひとたちの案内を頼んだぞ。

 俺はちょっと商業ギルドに行ってくるから」


「「「 御意! 」」」


「あ、兄さん、あのウルフの死体を傭兵ギルドに持って行けば、討伐報酬を貰えるよ」


「そうか、それじゃあ行ってみるか。

 ああそうそう店長さん、この店は宿屋も兼ねてるんだろ。

 今晩泊めてもらえないか」


「だ、だが、場合によっては宿屋ギルドに雇われた傭兵たちが襲って来るかもしれないぞ」


「はは、大丈夫だよ」


「そうだよ。この兄さん、無茶苦茶強いんだぜ」


「そ、そうか。それじゃあ後で部屋を掃除しておこう」


「いや、それは自分でやる。

 ところでこの宿の名はなんていうんだ?」


「ああ、『料理自慢亭』だ」


「了解」




 大地は食堂の裏手に回った。


(ストレー、俺のザックを出してくれ)


(はい)


(わたしも猫の姿に戻るわ)


 タマちゃんがまた大地の頭の上に乗って来て姿を消した。


(それじゃあ商業ギルドに行って、品物がいくらぐらいになるか聞いてみようか)


(にゃ)




 商業ギルドの建物はそこそこ大きかった。

 やはり丸太と日干し煉瓦で作られた平屋建ての建物である。



「こんちわー」


「なんだお前ぇは」


「俺は遠くの村から来た者なんだけど、村の品物を売りたいんだ。

 だからいくらで売れるのか査定してくれないかな」


「そうか。どうせ碌なもんは無いだろうが、そこのカウンターの上に出してみろ」


「ああ」



 大地はカウンターに3つの袋と木の小皿を置いた。


「なんだその袋は」


「この袋に入ってるのは小麦粉だ。

 それからこっちは塩の袋で、そっちは砂糖の入った袋だな」


「なんだと…… フカシ入れてんじゃねぇぞ……」


 ギルド職員らしき連中が集まって来ている。

 その中にはまともな服を来た男もいた。


「はは、そうかい。

 それじゃあ少しこの小皿に出すから味見してみたらどうだい?」


「…………」


「ほら、これが俺たちの村の小麦粉だ」


「な、なんだこの細かい粉は……」


「そ、それに真っ白だ……」


「おう、確かにこりゃあ小麦粉だな……」


「それじゃあ塩も味見してみてくれ」


「こ、この真っ白な粒は……」


「塩だ……」


「確かに塩だな……」


「お前の村ではこんな白い塩が採れるのか!」


「そうだ、海水を乾かして塩だけ取り出したんだ」


「それにしちゃあ苦くないぞ」


「海の塩は苦いのが当たり前だろう!」


「いや、海水を乾かすときに苦い成分を取り除く方法があるんだ」


「……それはどんな方法なんだ?」


「それは村の秘密だから教えられないんだよ」


「…………」


「それじゃあこっちの砂糖も試してみてくれ」


「どれ、俺が味見しよう。

 こいつらじゃあ砂糖なんて高級品は口にしたことが無いからな」


「そうか、それじゃあさぞかしいい値がつきそうだな」



「甘い…… 確かに砂糖だ……」


「それでこの3袋はいくらで買って貰えるんだ?」


「いや、袋の中も調べる必要がある。

 下半分には砂でも入れてあるかもしれねぇからな」


「じゃあすぐ調べてくれよ。

 そんなもんは入ってないから」


「時間がかかるな。

 お前は2刻ばかりしたらまた来い。

 それまでに調べておいてやる……」


「それなら預かり証をくれよ」


「………… ちっ …………」


(なんで舌打ちしてるんだよこいつ!)





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