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*** 7 じいちゃんの手紙 ***

 


 食事を終えてコーヒーも飲んだワーキャット幼女は大きくあくびをした。


 ちっちゃいキバが生意気可愛い。



「あー、美味しかった。

 それじゃあ質問を受け付けるわ」



「それじゃあさ、さっき天使さまが言ってたダンジョンマスターになるための資格とか基準ってなんなんだ?」


「最初にダンジョンマスターとして地球のヒト族を送り込んだ天使さまは、そのあまりの惨状に以降は基準を持ち込まれたの。

 具体的にはE階梯が4.0以上無いとダンジョンマスター候補にもなれないのよ」


「E階梯…… それってなんなんだ?」


「特に共感能力を尺度にした知的生命体の進化段階のことね。

 近い意味では倫理心かしら」


「共感能力……」


「完全に意識が無く、本能のみで行動する生物のE階梯を0、神さまの領域を10として刻んだレベル数値なんだけど。


 例えばミミズやミジンコはゼロで、5万年前の原始クロマニョンは0.7なの。

 原始人類はほとんど本能で行動してたけど、僅かに部族の仲間を守る、共同で狩りをするっていう意識があったから0.7とされてるのよ。

 そうして今の地球人類の平均は1.0ね」


「原始人とあんまり変わらないのか……」


「そうね。

 まあ神さまから見れば原始人も今の地球人もあんまり変わらないっていうことかしら。


 特に酷いのは各国の政治指導者たちで、某大国やアフリカの部族指導者なんかにはE階梯がマイナスの連中もいるからねぇ。

 知識や権力や技術力の裏付けがあっても、自分の欲望でしか行動しないからタチが悪いのよ。


 神界の基準で地球の技術水準は1.8とされてるから、地球人は技術に精神が追い付いていない種族と見做されているわ」


「なんか納得出来る気がする……」



「おおよその目安としては、E階梯2.0は本能以外に喜怒哀楽の感情を持ち、それを自覚出来るレベルね」


「2.0以下だと自分の感情も自覚出来ないのか?」


「よく何かに腹を立てたひとが周囲に当たり散らしてるでしょ。

 あれは『今自分は怒っている』という感情を自覚出来ないからそういう行動に出るの」


「なるほど」


「E階梯3.0は他人の喜怒哀楽を理解して共感や同情心も持てるレベル。

 3.5になると、他人のために行動出来るレベルになるわね。

 中には他人を不幸にすることでしか満足感を味わえない奴もいるけど、こうした連中はE階梯がマイナス表示されることがあるかな」


「そのE階梯って、知的能力と関係あるの?」


「あるといえばあるし、無いといえば無いわ」


「どういうこと?」


「他人の感情だけじゃなくって、自分の感情すら理解出来ないひとっているわよね。

 つまりE階梯が2.0以下のひとたちだけど」


「うん、KYとかアスペルガーって言われてるひとたちだよね」


「まあその言葉は地球の研究者が勝手に作ったものなんだけど。

 それで、何故かE階梯の低い人って、非常に攻撃的な性格の人が多いのよ」


「そうなんだ……」


「そうして、その攻撃性が森羅万象の探求に対して発揮される人ほど、その知的能力が高いの。

 だから大きな業績を残す研究者になることが多いわ。

 地球ではノーベル賞受賞者の70%はアスペルガーだって言われてるでしょ」


「なるほど」


「でもその攻撃性が、他人に対してのみ発揮されるひともいるのよ。

 こういうタイプは、かなりの割合で知的能力も低いわね」


「そうなんだ」


「だからE階梯の低い人も、平均すると知的能力は標準的になっちゃうの。

 まあ、人に対する攻撃性の高い人の方が数が多いから、やっぱり平均では知的能力も少し低いけどね」


「なぁ、そのE階梯って固定なのか?

 それとも自分で努力して進化出来るもんなのか?」


「もちろん進化出来るわよ。

 意識して進化出来る人は少ないけど。


 E階梯の進化はそのまま人類の進化の歴史だけど、個人に於いても努力すれば進化出来るの。

 個体発生は系統発生を繰り返すっていうヤツね。


 コーノスケも亡くなるまで進化し続けてたわ。

『70にして心の欲する所に従えどものりえず』ってカンジかな」


「さすがはじいちゃん」


「でも残念ながらここ日本に於いてはちょっと事情が違ってるかなぁ。

 70歳以上の老人の平均E階梯は1.3しか無いから」


「えっ……」


「このレベルだと他人に共感出来ないから、寄付行為やボランティアなんかは理解出来ないでしょうねぇ。

 寄付なんか、みんながしてるからマネするけど、せいぜい1円玉数枚だわ」


「じいちゃん、いろんなところに毎年1億円ぐらい寄付してたけど……」


「さすがはコーノスケだわ」



「な、なあ、そのE階梯ってタマちゃんにはわかるのか?」


「わたしは『鑑定Lv8』だからわかるわ。

 コーノスケが天使さまにスカウトされたときには、E階梯は4.5もあって当時の日本人の中では最高峰だったのよ」


「そうだったのか……」


「それでさっきの質問の答えだけど、ダイチのお父さまはE階梯3.8だったの。

 それでも日本人の中では相当に高い方だけど、天使さまがダンジョンマスター候補の基準に定めたE階梯4.0には届いていなかったのよね」


「そうか…… 因みに俺は?」


「うふふ、知りたい?」


「ああ」


「ダイチのE階梯は驚異の5.8よ」


「えっ……」


「日本人どころか地球人最高峰ね。

 さすがはコーノスケに育ててもらっただけのことはあるわ」


「そ、そうなんだ……」


「これだけのレベルになると、他人の心の機微がかなりわかるでしょう。

『お前心を読めるのか?』って気味悪がられたことはない?」


「うん…… ある……」


「だから天使さまもあれだけ熱心に勧誘してたのよ。

 ふつー、勧誘はわたしたち眷属の仕事で、天使さまが直接来るなんてすごいことだもの」


「そ、それじゃあ俺って『心の欲するところに従っても法は犯さない』のかな?」


「法とのりは全然違うわよ。

 法なんて所詮ヒトの都合で作られたものだし、のりはもっと神の倫理に近いものだわ」


「そういうもんなのか……

 それにしてもやっぱりじいちゃんって凄かったんだな」


「そうねぇ、天使さまもずいぶん褒めてたし。

 コーノスケのアルスでの80年の活動はダンジョン史に残る大快挙だわ」


「えっ…… 80年……」


「あら、言い忘れてたかしら。

 仮にダイチがアルスでダンジョンマスターになったとしたら、向こうでの10日はこっちの世界での1日になるの。

 だからコーノスケはこの世界での88年の生涯の内、8年をアルスでのダンジョンマスターの仕事に費やしたことになるわ

 つまりコーノスケの生活年齢は160歳だったということね」


「……で、でもさ、それっていくらなんでも老化とか…………」


「もちろんアルスにいる間は老化も成長も10分の1になるのよ」


「なんと…… すごい恩恵だな」


「当然これも神界のお恵みよ。

 アルスで使徒として働いて貰うのに、こちらの世界での人生を犠牲にさせるのはいくらなんでも気の毒だからね」



「そうだったのか……

 でもさ、っていうことは、アルスと地球って時間が流れる速さが違うのかい?」


「いいえ、おんなじよ」


「?」


「アルスで10日過ごしたら、その間は地球でも10日過ぎてるの。

 でもあのゲートをくぐって地球に戻るときに、9日分過去に戻してもらってるのよ」


「えっ! で、でもそんなことしたら因果律が……」


「ふふ、別にその人が地球の未来のことを知ってから過去に戻るわけじゃないでしょ。

 だから因果律は守られるわ。

 その代わりにアルスから地球の情報は得られないけど」


「そ、そうか……

 でもだったらいっそのこと地球に戻るときは、10日前の元の時間に戻してくれればいいのに」


「そんなことをしたら、実質不老不死状態になっちゃうじゃない。

 いくら神界の恩恵でもそこまでは無理だわ」


「なるほど。よくわかったよ」



「それじゃあダイチはお風呂に入って来たら?

 ニホンジンはお風呂が好きなんでしょ?」


「風呂…… あるのか……」


「ええ、コーノスケが作ってたわ。そこの2番目の扉の向こう」


(扉に♨マークがついてる……)


「湯船の上に赤い石があるから、そこに触るとすぐにお風呂にお湯が溜まるわ。

 お湯や水の出る蛇口やシャワーもあるわよ」


「さすがはじいちゃん。あ、先にタマちゃん入っていいよ」


「……わたしは後で『クリーンの魔道具』に入るからいいわ……」


「そう……」


(やっぱり猫だからお風呂は嫌いなのかな……)



「お風呂から出たら、着替えの服はクローゼットに入ってるわ。

 確かコーノスケがダイチの分も用意してたし」


「やっぱりさすがはじいちゃんだなぁ」


「ふふ、伝説のダンジョンマスターですもの。

 それで、お風呂から上がったら、その机の上のコーノスケのお手紙と手記を読むといいわ。

 おなかいっぱいになって眠くなったからわたしは寝るんで、質問はあとでまとめてお願い」


「やっぱり神界から来たタマちゃんも寝るんだ」


「こっちは少しマナが薄くて疲れるの。

 アルスならしばらくの間は寝なくても平気だけど」


「そうか……」


「ダイチも疲れてるだろうから早めに寝るといいわね。

 ここにはいくらいてもいいから、起きたらまた読めばいいんだし」


「ああ、少し読んだらそうさせてもらうよ」




 大地は♨マークの扉を開けて中に入った。


(なんか立派な脱衣所だなぁ……)


 浴室はさらに豪華だった。

 大きな窓からは、何故か元の山小屋からの冬山風景が見えている。

 浴槽も広大で、優に5人は入れるだろう。

 洗い場には蛇口もシャワーも椅子も2つずつしか無かったが。


(じいちゃん、俺と2人で入るつもりで2人分ずつ作ってたのか……)




 極寒の冬山での入浴という最高の贅沢を堪能した大地は、クローゼットの服に着替えて部屋に戻った。


 棚に置いてあったスポドリを飲み(よく冷えていた)、それから椅子に座ってまず封筒を開いて手紙を読み始める。



(ああ、じいちゃんの字だ……

 相変わらず丁寧で読みやすい字だな。

 それにしても、これだけの量の手記を俺のために残してくれたのか……)




『大地へ。


 お前がここにいてこの手紙を読んでいるということは、わたしはお前が16歳になる前に死んでしまったということなのだろう。

 いつもエリクサーは持ち歩いていたが、就寝中の脳溢血や心筋梗塞はどうしようもないからな。

 わたしももういい歳だ』


(そうだったのか……)



『わしはお前が16歳になったら全てを明かし、アルスでダンジョンマスターになることを勧めようと思っていた。


 わたしが祠様に勧誘されてダンジョンマスターになったのも16歳のときだったからな。


 そのため、7歳で両親を失ったお前には英才教育を施して来たが、例えダンマスにならなかったとしても、その教育は無駄にはならなかっただろう。


 もちろんダンマスになるならないはお前の意志で決めるべきだが、わたしとしては是非お前にダンジョンマスターになってもらいたいものと思っている。


 あれは人々のためになる素晴らしい仕事だ』



(そうか、じいちゃんはひとつの大陸のひとびとをまるまる幸せにして人口まで増やしたんだもんな……)



『お前がアルスでダンジョンマスターになるか否かを判断するために、私のダンジョンがあった南大陸での話をまとめておいた。


 どうか参考にしてもらいたい。


 重ねて言うが、お前にダンジョンマスターとしての人生を強要する気は無い。


 ただただお前のこれからの人生が実り多いものであることを祈るのみ。


                           北斗幸之助』


(じいちゃん……)





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