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*** 69 孤児団の少女たち *** 

 


 それからまた10キロほど移動したとき。


「あ、右側10キロにウルフの群れにゃ! 街道に向かって移動中。

 数は約50!」


「やっぱり森から出て来てるんだね。

 それにしても、兎人族の村のときもそうだったけど、数が多いな。

 地球だとウルフパックは多くても8頭ぐらいなんだけど、アルスのウルフは違うのかなあ。

 あれ?」


「たいへんにゃ!

 ここから5キロ先の街道、ウルフの進行方向に2人いるにゃ!」



「助けに行こう!」


「うにゃ!」



 宙に浮いた大地が現場に急行すると、そこには13歳ぐらいに見える犬人族と兎人族の少女たちがいた。

 何故か重そうな木を引っ張って歩いている。


 2人は大地に気づいて凍り付いたように立ち止まった。



「君たちに危害を加えるつもりはない。

 だけど、今ここを目掛けてウルフの群れが近づいて来てるんだ」


「う、ウルフの群れだって……」


「だから助けてあげようと急いで来たんだよ」


「ほ、ほんとかよ……」


「ほんとかどうかはすぐにわかるさ。シス」


(はい)


「俺が今いるところから南に向かって半径50メートルの範囲で木を転移させてくれ。

 地面も均して」


(はい)


「ストレー」


(はっ!)


「森から出たところにドッグフードを」


(ははっ!)



「な、なんだよこれ……

 なんで森の木がどんどん消えて行くんだよ……」


「す、すげぇ、草も薙ぎ倒されて地面がどんどん平らになって行く……」


「あ、あんた何者だい?」


「それにさっき返事してたやつは……」



「お、もうウルフが来たか。

 タマちゃん、念のため結界をよろしく」


(うにゃん♪)




 ウルフたちは開けた場所で一旦停止した。

 その場に置かれたドッグフードの匂いを嗅いでいる。


 だが……

 アルファが大地たちに目を転じて舌なめずりをした。

 そうして、一声吼えると大地たちに向かって突進して来たのである。


 少女たちは声にならない悲鳴を上げて硬直している。



(それじゃあ、誰かを殺そうとしたときには、逆に殺されても仕方ないってことを教えてやるとするか……

 全頭の首に『ロックオン』……)


 ウルフたちはかなりの速度で接近して来た。

 口からはダラダラと涎を垂らしている。


『ウインドカッター』……


 ひゅんひゅんひゅんひゅん……



 前列から順にウルフたちの首がスパスパと落ちて行った。


 首の無い体が数歩走った後にその場に積み重なっていく。


 まもなく、即席の広場にはウルフの首と体が50個ずつ転がっていた。



「シス、体を宙に浮かせて血抜きをしておいてくれ。

 ストレー、血抜きが終わったら全部収納だ」



「「 はい! 」」




「な、なにをしたんだいあんた……」


「こ、こんな数のウルフを一瞬で……」



「ん? まあ一種の魔法だわ」


「ま、魔法……」



 大地は改めて少女たちを見た。

 兎人族の少女の体は灰色の毛に覆われている。

 犬人族の方は、やはり灰色の毛にところどころに黒いブチがある。


(灰色のダルメシアンか……

 いや違うな。

 こいつら両方とも基本色は白か。

 碌に体も洗ってないせいで灰色に見えるんだろう。


 それにやっぱり体は種族の特徴をそれなりに残しているけど、顔はヒト族に近いのか。

 なんか、大森林の中の兎人族や犬人族に比べて、よりヒト族に近いように見えるな。

 そういう種族なのか、それともヒト族との混血なのか……

 あれ?

 そもそも、こうした獣人系種族とヒト族って交配可能なのか?


 まあ今度誰かに聞いてみるか。

 それにしても随分と痩せてるなぁ……)



「ど、どうもありがとうな……」


「これだけのウルフなんかに襲われたらひとたまりもなかったよ。

 あんたは命の恩人だ」


「あたいらこんなところで死ぬわけにはいかなかったんだ。

 本当にありがとう」


「で、でもさ。あたいたちなんにも持ってないからお礼が出来ないんだよ」


「この木を少し分けてあげてもいいけど、切る物が無いし……」


「街に行ってこの木を売ったら、御礼を払うよ」



「礼は要らないから、この辺りの街について教えてくれるかな。

 なんせ随分と遠くから来たもんだから。

 そうだな、ウルフの血抜きが終わるまで、その木に座って休もうか」


「「 あ、ああ…… 」」



「なあお前たち、喉は乾いてるか?

 それから食事は?」


「朝方川の水を飲んだだけだからな」


「はは、この2日ばかりメシなんか喰ってないよ」


「ストレー、ここに水のボトルと菓子パンを2つずつ」


(はい)



「な、なぁ、今頭の中に響いた声って誰なんだ?」


「俺の仲間だ。

 離れたところに居ても、こうして念話っていうもので会話が出来るんだよ。

 ほら、水とパンだ、喰っていいぞ」


「ど、どこから出て来たんだこれ……」


「収納庫って言ってな。

 荷物は全部さっきのストレーっていう仲間が預かっていてくれるんだ。

 だから俺はなんにも持ってないけど、結構な荷物を預けてあるんでこうして旅が出来るんだよ」


「べ、便利なんだな……」


「そんな仲間がいれば薪集めも楽だろうに……」



「そのパンを食べ終わったら、その木は俺が持ってやるよ。

 お前たち街に戻ってその木を売るんだろ」


「で、でも……」


「はは、安心しろ。

 俺はさっき森の木を大量に『収納』したからな。

 お前たちの見つけた木を盗んだりしないから。

 それに、この辺りのことを詳しく教えてくれたら、さっきの木を1本ずつやってもいいぞ」


「あ、ありがとよ……」



 少女たちは菓子パンの袋が開けられずに困っていた。


「それはこうやって開けるんだ」



 袋を開くとパンの香りが広がる。

 少女たちは最初目を丸くし、その後は目を瞑って一心にパンの香りを嗅いでいた。


 やがて、菓子パンをほんの1つまみだけ取って口に入れ、残りはまた袋に仕舞い、それを腰から下げた草で編んだ袋に入れている。



「どうした? 口に合わなかったか?」



「い、いや、こんな旨いパン、もう何年も喰ってないよ……」


「父ちゃんや母ちゃんが死んでからは一度も喰って無いな」


「それならなんで喰わないんだ?」


「腹を減らしたチビ共が8人も待ってるんだ」


「みんなも2日は何も食べてないからな」


「あたいたち孤児団の掟は、食べ物は全部公平に分けるっていうことなんだよ」



「孤児団? 孤児院じゃないのか?」


「孤児院? なんだいそりゃ?」


「そうだな。

 孤児院っていうのは教会や領主が金を出して運営する組織で、親のいない子たちを育てたり飯を喰わせてやる場所のことなんだ」


「あははは、そんな天国みたいな場所があるのかい!」


「教会のメシなんか喰ったら、すぐに掴まって奴隷として売られちまうし、領主は大きくなった孤児を兵隊に取ることしか考えてないからなぁ」


「兄さんはいったいどんな天国に住んでたっていうんだい?」


「まあ俺も孤児だけどな。

 でもじいちゃんが残してくれた遺産がけっこうあるから、腹を減らすことは無いんだよ」


「えっ……」


「親が死んだときに、領主が財産全部持ってかなかったのか?」


「それともよっぽど上手く隠していたとか……」


(酷ぇクニだぜ全く……)



「それでお前たちは孤児だけで集まって暮らしているのか」


「そうなんだ。

 でも街の孤児団はまだマシだよ。

 村だと孤児もそんなにいないし、いても村奴隷としてコキ使われてるからな。

 使い物にならない小さい子はみんな教会に売られちまうし」


「そうか……

 それじゃああとでその孤児団のいる場所に連れていってくれ。

 そこでみんなにメシを振舞うから、お前たちはそのパン全部食べても大丈夫だぞ」



「なぁ兄さん、なんであたいたちにそんなに親切にしてくれるんだい……」


「はは、話し代だな。

 それに俺も孤児だけど、財産も食い物もいっぱい持ってるからだ」


「話し代って……

 あたいたちの話にそんなに価値があるのか?」


「俺はものすごく遠くの村から、この辺りのクニのことを調べるために来たんだよ。

 お前たちと話してると、ずいぶんといろいろなことがわかるからな。

 そのお礼だ」


「へへ、ほんとに8人のチビたちにもこのパンもらえるのかい?」


「もっと話してくれれば、粥も出すぞ」


「じ、じゃあこのパン食べちゃってもいいかな……」


「で、でも念のため住処すみかに持って行こうよ」


「そ、そうだな……」



(こいつら、2日も何も喰って無いのに、年下の子たちと分けるために食べるのを我慢したのか……

 それじゃあ失礼して鑑定させてもらおう。


 お、2人とも13歳で、E階梯もやっぱり3.1と3.2もあるんか。

 アルスのヒューマノイドにも、こんなやつらはいるんだな……

 それとも弱者ほどE階梯は高いのかも……)




「そうか、それじゃあそろそろ出発しようか。

 その木は俺が『収納』して持って行くぞ」


「あ、ああ……」




「やっぱり木を引きずってないとラクだなー♪」


「兄さんどうもありがとうよ」



「ところでさ、なんでお前たちはウルフが出てくるようなこんな危険な場所で薪拾いなんかしてたんだ?」


「それはあたいたちが孤児団でも一番年上だからなんだよ」


「もっと年上の男の子はいないのか?」


「それがさ、こないだ領主の徴兵部隊に連れて行かれちまったんだよ。

 それであたいたちが兄貴たちの代わりに薪拾いをして、少しでも稼ごうとしたんだ」


「あいつら酷いんだぜ。

 街の若い男を徴兵するときには、家族に半月分の給料を渡す決まりになってるんだけど、孤児には渡す相手がいないからって言って、カネも払わずに連れてっちまうんだ」


「あたいたち孤児団は家族同然なのにさ」


「そうか……」


「それに街の近くじゃもう落ちてる木の枝とか全部拾っちまってるからなぁ。

 だからこんな遠くまで来てみたんだ。

 それでこんな大きな木が倒れてたんで運がいいと思ってたら……」


「やっぱり最近森から野獣が出て来るようになったっていう噂は本当だったんだな。

 ほんっと兄さんには感謝だわ」


「こんなところであたいたちが死んじまったら、チビたちが飢え死にしちまうからなぁ……」



「なあ……

 そのチビたちはお前たちが薪を売って帰って来るのを待ってるのか?」


「いや、今日は朝から街の共同便所の汚穢の汲み取りをしているはずだ」


「あいつらだけでちゃんと出来てるかなぁ……」


「以前はあたいたちもやってたんだけどさ。

 共同便所から汚穢を土器に汲んで、川の下流に捨てに行くんだよ」


 でも兄貴たちがいなくなって、汲み取りだけじゃあ食べていけないから、こうしてあたいたちは薪拾いに回ったんだ」


「そうか……」





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